2021年1月16日掲載
ワンポイント:事件の特徴は被害者のイーヴィーン・ニーシュリービヘイン(Aoibhinn Ní Shúillebháin)が歌手でニュースキャスターの有名人で、美女で、かつ、理論物理学の大学講師だということだ。メディアが大騒ぎした。ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(University College Dublin)のブラウン準教授が、2015年5月9日~2017年7月7日(当時53~55歳)の2年間余り、当時32~34歳のニーシュリービヘイン講師にストーキング行為を繰り返していた。ニーシュリービヘイン講師は大学に何度も被害を訴えたが、大学は対応しなかった。2020年9月5日(58歳)、「Irish Times」紙のウーナ・ムラーリー(Una Mullally)記者がストーキング行為を詳細に報道し、大騒ぎとなり、大学はやっと対応した。2021年1月15日現在、ブラウン準教授はユニバーシティ・カレッジ・ダブリンに在職か辞職か不明。大学は調査しているのかどうか不明。2019年(57歳)、裁判所はブラウン準教授をストーキングと裁定し、5年間の接見禁止を命じた。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ハンス=ベンジャミン・ブラウン(Hans-Benjamin Braun、写真出典)は、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(University College Dublin)・準教授で、専門は物理学である。
ブラウン準教授は、2015年5月9日~2017年7月7日(当時53~55歳)の2年間余り、当時32~34歳のイーヴィーン・ニーシュリービヘイン講師(Aoibhinn Ní Shúillebháin、写真出典)にストーキング行為を繰り返していた。
ニーシュリービヘイン講師は何度も大学に通報したが、大学は対応しなかった。
2020年9月5日(58歳)、「Irish Times」紙のウーナ・ムラーリー(Una Mullally)記者がストーキング行為を詳細に報道し、大問題となった。
2021年1月15日現在、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンはブラウン準教授にまともなペナルティを科していない。ブラウン準教授はユニバーシティ・カレッジ・ダブリンに在職か辞職か不明。大学は調査しているのかどうか不明。
なお、2019年(57歳)、裁判所はブラウン準教授のストーキングと裁定し、5年間、接見禁止を命じた。
ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン・物理学部(School of Physics, University College Dublin)。写真出典
- 国:アイルランド
- 成長国:スイス
- 研究博士号(PhD)取得:スイス連邦工科大学チューリッヒ校
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1962年1月1日生まれとする。記事に2019年末に58歳とあったので、逆算した
- 現在の年齢:62歳
- 分野:物理学
- ストーキング行為:2015年5月9日~2017年7月7日(当時53~55歳)の2年間
- 最初に訴えられた:2015(53歳)
- 社会に公表年:2020年(58歳)
- 社会に公表時地位:ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン・準教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は被害者の女性・イーヴィーン・ニーシュリービヘイン講師(Aoibhinn Ní Shúillebháin)で大学に公益通報
- ステップ2(メディア):ウーナ・ムラーリー(Una Mullally)記者の「Irish Times」記事が契機。その後、多数の追従メディア
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①裁判所
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない?
- 大学・処分のウェブ上での公表:なし。処分していない?
- 大学の透明性:機関以外が詳細をウェブ公表(⦿)
- 不正:ストーキング
- 被害者数:1人の女性教員
- 時期:研究キャリアの後期
- 職:研究職(または発覚時の地位)を続けた(推定)(〇)
- 処分:5年間の接見禁止(裁判所)
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
出典:Hans-Benjamin Braun、(保存版)
- 生年月日:不明。仮に1962年1月1日生まれとする。記事に2019年末に58歳とあったので、逆算した
- 19xx年(xx歳):スイスのバーゼル大学(Unversity of Basel)で学士号取得:物理学と数学
- 1991年(29歳):スイスのスイス連邦工科大学チューリッヒ校(Eidgenossische Technische Hochschule Zurich、英語:ETH Zurich)で研究博士号(PhD)を取得:理論物理学
- 199x年(xx歳):カリフォルニア大学サンディエゴ校(University of California at San Diego)・ポスドク
- 2004年(42歳):ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(University College Dublin)・物理学部・教員
- 2007年12月(45歳):同・準教授:UCD President’s Office: Academic promotions announced
- 2015年5月9日~2017年7月7日(53~55歳):ストーキング
- 2020年9月5日(58歳):「Irish Times」紙がストーキングを詳細に報道した
- 2021年1月15日(59歳)現在:ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンの教員かどうか不明。サイトに名前がない。UCD School of Physics | Theoretical/Computational Physics。2019年4月3日保存版には名前があるが、2019年4月29日保存版には名前がない
●3.【動画】
【動画1】
Aoibhinn Ní Shúillebháinを「イーヴィーン・ニーシュリービヘイン」と紹介した。
ストーキング事件の動画ではない。「トラリーのばら」受賞記念の動画。歌も披露している:「Aoibhinn Ní Shúilleabháin – Rose of Tralee winner 2005 – YouTube」(英語)10分45秒。
KillianM2 TV Archiveが2016/08/21に公開
●4.【日本語の解説】
ストーキング事件の日本語解説ではない。
★2014年6月11日:著者不記載:「2014 IEEE Mag. Soc. DL Hans-Benjamin Braun氏を迎えた講演会 日本磁気学会 第59回ナノマグネティクス専門研究会」
IEEE Magnetics Society では、毎年、優れた業績を残している研究者(Distinguished Lecturer;DL)を4名選出し、(http://www.ieeemagnetics.org/)、世界各国での1年間の講演活動を支援しています。今回は、2014年度DLのUniversity College DublinのHans-Benjamin Braun教授に「Topological Effects in Nanomagnetism: From Perpendicular Recording to Monopoles」と題して講演をしていただきます。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★被害者のイーヴィーン・ニーシュリービヘイン(Aoibhinn Ní Shúillebháin)
この事件を理解するのに、まず、被害者のイーヴィーン・ニーシュリービヘイン(Aoibhinn Ní Shúillebháin)を理解すべきだろう。
ニーシュリービヘインは、歌手でニュースキャスターの有名人である。しかも美女で、かつ、理論物理学の大学講師だということだ。アイルランドの国民的アイドルで、理系を目指す若い女性のロールモデルである。
日本でこういう女性がいない。あえて例示すると、事件発覚直前の小保方晴子さんだろうか。
有名美女が理系の大学講師になったと想定してください。
研究者としての経歴は、2014年頃、ニーシュリービヘインは研究博士号(PhD)を取得し、2014年秋、31歳の時、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(University College Dublin)の講師(assistant lecturer)になった。
但し、1983生まれなので、事件が報道された2020年での年齢は37歳である。結婚し、2児のママである。2人目は2020年10月下旬出産:Dr Aoibhinn Ni Shuilleabhain welcomes second baby boy and says having newborn during pandemic ‘is a lot trickier’
歌手でニュースキャスターだったので、たくさんの写真がウェブ上にアップされている。アイドル的な写真を2点を示す(写真出典)。
★ハンス=ベンジャミン・ブラウン(Hans-Benjamin Braun)の人生
加害者のハンス=ベンジャミン・ブラウン(Hans-Benjamin Braun、写真出典)はユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(Department of Government University College Dublin)の準教授である。
研究者としてのキャリア形成は順調である。
ただ、ブラウンの結婚・離婚、さらに、子供の情報は見つからなかった。ストーキング事件を起こした時、独身だったのか結婚していたのか不明である。
ストーキング行為をしていた時は53~55歳で、印象としては、独身だったと思う。
★ハンス=ベンジャミン・ブラウン(Hans-Benjamin Braun)のストーキング事件概略
ブラウン準教授は、被害者のニーシュリービヘイン講師のボスでも院生時代の指導教授でもない。ただ、同じ物理学科の準教授なので、同僚教員というか先輩教員である。専門は同じ物理学ではあるが、学問的なつながりはない。
ニーシュリービヘインはブラウン準教授から繰り返しストーキング言動を受け、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリン(University College Dublin)の人事部に繰り返し報告していた。
ストーキング被害の詳細なメモを取り、最終的には大学の勧めで、警察(ガルダGarda)に訴えた。
2019年(57歳)、裁判所は2015年5月9日~2017年7月7日はブラウン準教授がストーキングしていたと認め、今後、5年間、接見禁止を命じた。
ニーシュリービヘイン講師は何度もストーキング被害をユニバーシティ・カレッジ・ダブリンに訴えていたが、大学はまともに対応しなかった。
ニーシュリービヘイン講師は「Irish Times」新聞のウーナ・ムラーリー記者(Una Mullally)に訴え、2020年9月5日、上記裁判所の命令を含め、ムラーリー記者が「Irish Times」記事に掲載した。 → Aoibhinn Ní Shúilleabháin: Two years of harassment at UCD
2020年9月5日、ニーシュリービヘイン講師自身が性不正(ストーキング)被害のことを「Irish Times」新聞に発表したと、ツイッターした(以下)。
1.Sexual harassment in academia is a serious and systemic issue that is too often left unchecked. I spoke with @IrishTimes about my experience of sexual harassment by a colleague @ucddublin
1/n https://t.co/SOryHh47sY— Aoibhinn Ní Shúilleabháin (@aoibhinn_ni_s) September 5, 2020
ニーシュリービヘイン講師の何度もにもわたる訴えにもかかわらず、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのアンドリュー・ディークス学長(Andrew Deeks – Wikipedia、写真出典)はこの件で一度もニーシュリービヘイン講師に対応していなかった。
ディークス学長は不適切な対応だったことを陳謝した。
新聞報道とニーシュリービヘイン講師のツイッターで非難され、ディークス学長はようやく、性不正・アカハラへの対処方法が不十分だったことをニーシュリービヘイン講師及び大学の教員・学生に謝罪し、大学のシステムを変えることを約束した。
●【ストーキングの具体例】
ストーキングの具体例は、以下の記事が主な出典である。
→ 2020年9月5日のウーナ・ムラーリー(Una Mullally)記者の「Irish Times」記事:Aoibhinn Ní Shúilleabháin: Two years of harassment at UCD
★イーヴィーン・ニーシュリービヘイン(Aoibhinn Ní Shúillebháin)(当時32~34歳):2015年5月9日~2017年7月7日:ブラウン(当時53~55歳)
2015年、ハンス=ベンジャミン・ブラウン準教授(Hans-Benjamin Braun)は、イーヴィーン・ニーシュリービヘイン(Aoibhinn Ní Shúillebháin、写真出典)が昼食を取りながらの一般向け科学講演会を開催している時、彼女をみそめた。これが2人の出会いの最初である。その後、一緒に研究したいと申し出て、電子メールをするようになった。
ニーシュリービヘイン講師は、「私はこれには本当に困惑しました、その後、一緒に研究することについてブラウン準教授と話したことは一度もありません。しかし、彼はしつこく話し合うことを望んでいたようです。ある日、彼は私のオフィスにきて、どこか、一緒にコーヒーを飲みに行こうと説得しはじめました。しつこく説得するので、私は立ち往生してしまいました。最終的には、今すぐオフィスを出てほしいと言いました。それで、彼は去りました」と述べている。
ニーシュリービヘイン講師は同僚に電話で相談した。すると、その出来事を大学の人事部に報告するように言われた。ニーシュリービヘイン講師は、明日、報告すると相談者に伝えた。
翌日は雨天だった。ブラウン準教授は再び彼女のオフィスに現れた。
彼は傘を無くしたと言い、びしょ濡れだったので、上着を脱いだ。そして彼は前に歩いたり後に歩いたりしながら、取り乱した様子で、「私は自分の気持ちに非常に正直だったのに、あなたは私に対して正直ではありませんでした。このようなことを他人に言うことは珍しいんですが・・・」のようなことを言い始めた。
結局、ブラウン準教授は彼女のオフィスを去ったのだが、ニーシュリービヘイン講師は動揺した。その日、週末はコーク(Cork)での研究会に出席し、次の月曜日に昨日と今日の事件を大学の人事部に報告することにした。
しかし、その週末、彼女がコークのホテルに滞在していたとき、ホテルの受付係から、ニーシュリービヘイン講師に会いたいと、たくさんの花束を持った男性がロビーにいると伝えてきた。ニーシュリービヘイン講師はこの男性はブラウン準教授だと察し、受付係に「彼女は外出しています」と伝えてくれと言った。しかし、受付係は、「あなたの車が外にあるので彼は私を信じていません」と言った。
その後も、ブラウン準教授は、用もないのにニーシュリービヘイン講師のオフィスに何度も立ち寄り、一方的なメールをニーシュリービヘイン講師に送り、しつこく電話をかけてきた。
ニーシュリービヘイン講師はブラウン準教授の言動に恐怖を感じ、個人生活と職業生活の両方に悪い影響が出てくるようになった。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
省略
●7.【白楽の感想】
《1》3度目の正直
ブラウン事件のストーキング行為を見ると、男女の関係は難しい。
ブラウン準教授はニーシュリービヘイン講師に一方的に恋に落ち、夢中になって、他のことがわからなくなってしまったのだろう。
ただ、相手が恐怖を感じるほど嫌がっていることはわかっていたのか、わからなかったのか、白楽にはわからない。
どの時点でストーキング行為になるのかは、セクハラと同じで、相手が嫌がるかどうかである。しかし、2年間も続けたとある。ブラウン準教授は初期の段階で状況を把握し、止めるべきだった。
白楽が研究費配分の研究で米国 ・NIHに出勤した初日、 NIHのボスは、秘書に2度ランチを誘って2度とも「ノー」と言われたら、3度目に誘ってはいけないと、言われたことを、白楽は思い出した。相手が嫌がるかどうかはわかりにくいが、「3度目に誘ってはいけない」基準はわかりやすい。
《2》メディアの威力
ニーシュリービヘイン講師はユニバーシティ・カレッジ・ダブリンに2年間、何度も訴えたがなしのつぶてだった。それが、新聞で訴えて初めて大学が動いた。
こういう大学の「不作為の罪」に処罰を与える規則を設けるといい。
一方、メディアの威力に敬服した。
日本の産業メディア(新聞・テレビ・週刊誌など)にもこのような役割を果たしてもらいたい。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●8.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Aoibhinn Ní Shúilleabháin – Wikipedia
② 2020年9月5日のウーナ・ムラーリー(Una Mullally)記者の「Irish Times」記事:Aoibhinn Ní Shúilleabháin: Two years of harassment at UCD
③ 2020年9月7日のエレーヌ・バーク(Elaine Burke)記者の「Silicon Republic」記事:In a culture of silence, Aoibhinn Ní Shúillebháin’s harassment speaks volumes
④ 2020年9月12日のルイーズ・バーン(Louise Burne)記者の「extra.ie」記事:Who Dissuaded Aoibhinn From Reporting Her Harassment?
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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