2020年10月27日掲載
ワンポイント:マックマスター大学(McMaster University)・助教授。状況証拠から、マックマスター大学はサボのネカト調査をし、2019年春(42歳?)には、サボをネカト者と結論していたと思われる。2019年6月(42歳?)、サボはマックマスター大学を辞職(解雇?)した。ねつ造・改ざん、重複出版で院生時代の2008年と2009年の2論文が撤回された。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
エヴァ・サボ(Eva Szabo、ORCID iD:?、写真出典)は、カナダのマックマスター大学(McMaster University)・助教授で医師ではない。専門は幹細胞学である。
状況証拠から、マックマスター大学(McMaster University)はサボのネカト調査をし、2019年春には、サボをネカト者と結論していたと思われる。
2019年6月(42歳?)、サボはマックマスター大学を辞職(解雇?)した。
ねつ造・改ざん、重複出版で院生時代の2008年と2009年の2論文が撤回された。
この事件、マックマスター大学は調査結果を発表していない。調査したとも言わない。「撤回監視(Retraction Watch)」以外のメディアも報道しない。困った事件である。
マックマスター大学(McMaster University)の動画。
https://www.youtube.com/watch?v=c5CaIOgNjnU
- 国:カナダ
- 成長国:カナダ
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:トロント大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1977年1月1日生まれとする。1995年に大学に入学した時を18歳とした
- 現在の年齢:47 歳?
- 分野:幹細胞学
- 最初の不正論文発表:2008年(31歳?)
- 不正論文発表:2008-2010年(31-33歳?)
- 発覚年:2019年(42歳?)?
- 発覚時地位:マックマスター大学・助教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はパブピア(PubPeer)
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②マックマスター大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:発表なし・メディア取材に非協力・隠蔽(✖)
- 不正:ねつ造・改ざん、重複出版
- 不正論文数:2報撤回
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
- 処分: 辞職(解雇?)
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典。①:McMaster University > SCC-RI > Eva Szabo、② Eva Szabo | LinkedIn
- 生年月日:不明。仮に1977年1月1日生まれとする。1995年に大学に入学した時を18歳とした
- 1995 – 1999年(18 – 22歳?):ヨーク大学(York University)で学士号取得
- 1999 – 2003年(22 – 26歳?):同大学で修士号取得:生物学
- 2003 – 2007年(26 – 30歳?):トロント大学・医学研究所(Institute of Medical Sciences, University of Toronto)で研究博士号(PhD)を取得
- 2008 – 2012年(31 – 35歳?):マックマスター大学(McMaster University)・ポスドク
- 2013 – 2019年6月(36 – 42歳?):同大学・助教授
- 2019年(42歳?)?:不正研究が発覚
- 2020年10月26日現在(43歳?):医学研究開発コンサルタント
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★優秀な助教授
エヴァ・サボ(Eva Szabo)は、カナダのマックマスター大学(McMaster University、写真出典)・助教授である。
2017年3月8日、国際女性の日(International Women’s Day)にちなんで、マックマスター大学(McMaster University)は国選研究教授(Canada Research Chair)の22人を表彰した。
サボも選べれた。写真下段右から3番目である。出典:Meet the 22 women who hold Canada Research Chairs at McMaster ? Daily News
なお、国選研究教授(Canada Research Chair)は由井典子(カナダのクイーンズ大学・教授)によると以下のようだ(後藤泰宏訳)。
2000年にカナダ政府は9億(カナダ)ドル(2005年8月現在,1 カナダドル=約 90円)を投じて,“Canada Research Chair”と呼ばれる研究専門の教授ポストを 2000個作りました.これは各大学が有する通常の教授ポストとは異なり,カナダ政府直属のポストでtenureの職です.このポストにはカナダ全土の大学,及び全ての研究分野から応募できます.Canada Research ChairのポストはⅠ種とⅡ種の2種類あり,Ⅰ種のポストは中堅以上の研究者を対象とし,その研究分野におけるリーダーと認められた人の中から選ばれます.(出典:http://mathsoc.jp/publication/tushin/1003/yui.pdf)保存版
★前のネカト事件
エヴァ・サボ(Eva Szabo)は、トロント大学・院生の時に出版した「2008年のJ Cell Biol.」論文が、ねつ造・改ざんで、2015年1月に撤回されていた。
この時、ネカト者は特定されなかったが、白楽は、トロント大学・教授で責任者のミカル・オパス(Michal Opas、写真出典)をネカト者として記事を書いた。
→ ミカル・オパス(Michal Opas)(カナダ) | 白楽の研究者倫理
但し、次のように書いている。
論文には著者が5人いるが、これら図の間違いの責任は第一著者のエヴァ・サボ(Eva Szabo)、あるいは最終著者である自分(オパス)にあり、他の3人にはないとオパスは答えた。
オパスは、学術界を混乱させて申しわけないと謝罪している。
白楽の印象としては、実行者はエヴァ・サボ(Eva Szabo)だろう。しかし、オパスは、サボだけに罪をなすりつけず、研究室主宰者の自分に監督責任があったとしたのだろう。
繰り返すが、「2008年のJ Cell Biol.」論文のネカト犯はオパスではなくサボだったと思える。
★今回のネカト事件
今回のネカト事件の端緒は、2016 年1月14日(39歳?)、パブピア(PubPeer)が以下の「2010年のNature」論文を問題視したことである。(#3 Peer 2 commented January 14th, 2016 8:16 AM and accepted January 14th, 2016 8:16 AM)。
- Direct conversion of human fibroblasts to multilineage blood progenitors.
Szabo E, Rampalli S, Risueno RM, Schnerch A, Mitchell R, Fiebig-Comyn A, Levadoux-Martin M, Bhatia M.Nature. 2010 Nov 25;468(7323):521-6. doi: 10.1038/nature09591. Epub 2010 Nov 7.
補足図3bのバンドが存在しないレーンのゲル画像を重複使用していると指摘した。
以下のパブピアの図の出典。赤枠の部分が同じ:https://pubpeer.com/publications/0BD23FCF6D985683F09CF44D22314B#3
論文の最後著者でエヴァ・サボ(Eva Szabo)のボスだったマックマスター大学のミッキー・バーティア教授(Mickie Bhatia、写真出典)が次のように対応した。
「結局、補足図3bの生データが見つからなかったので、実験を繰り返し、生データを提供しました。もとの論文は変更していません」。
→ 2018年7月24日、訂正公告 → Author Correction: Direct conversion of human fibroblasts to multilineage blood progenitors | Nature
★「2009年のStem Cells.」論文
そして、「2009年のStem Cells.」論文が2020年2月6日に撤回された。
- Cell adhesion and spreading affect adipogenesis from embryonic stem cells: the role of calreticulin.
Szabo E, Feng T, Dziak E, Opas M.
Stem Cells. 2009 Sep;27(9):2092-102. doi: 10.1002/stem.137.
撤回理由は、マックマスター大学の調査の結果、内容が前の論文と大きく重複していた、つまり、重複出版である。 → 2020年2月6日撤回告知:Notice of retraction – 2020 – STEM CELLS – Wiley Online Library
このような状況証拠から、マックマスター大学(McMaster University)はサボのネカト調査をし、2019年春には、サボをネカト者と結論していたと思われる。
★辞職(解雇?)
マックマスター大学(McMaster University)がサボをネカト者と結論していたと思われるのは、2019年6月(42歳?)、サボはマックマスター大学を辞職(解雇?)したからである。
マックマスター大学のネカト調査が終わり、ネカトと結論したので、辞職(解雇?)させられたのだと、白楽は推察した。
回りくどく書いたが、この事件、マックマスター大学は調査結果を発表していない。調査したとも言わない。「撤回監視(Retraction Watch)」以外のメディアも報道しない。それで、推察になってしまう。
「撤回監視(Retraction Watch)」が問い合わせても、マックマスター大学(McMaster University)の広報官であるミシェル・ドノバン(Michelle Donovan、写真出典)は、規則を盾に口をつぐんでいる。
しかし、マックマスター大学を辞職(解雇?)したサボは他大学に移籍することもなく、民間企業に雇われることもなく、医学研究開発コンサルタントと称している。
この状況がサボのクロを補強している。ネカト者を雇う大学や企業はないからだ。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
上記したのと、公式なネカト発表がないので、省略。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2020年10月26日現在、パブメド( PubMed )で、エヴァ・サボ(Eva Szabo)の論文を「Eva Szabo[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2020年の19年間の248論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。
所属の「McMaster University」を加えた「Eva Szabo[Author] AND McMaster University」で検索すると、2009~2018年の10年間の8論文がヒットした。
少ない感じがしたのでカナダを加えた「Szabo E[Author] AND Canada」で検索すると、1991~2020年の30年間の48論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者以外の論文が少し含まれていると思われるが、これがほぼ正しそうだ。
2020年10月26日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。
「2008年のJ Cell Biol.」論文が2015年1月に、「2009年のStem Cells.」論文が2020年2月に撤回されていた。両論文ともエヴァ・サボ(Eva Szabo)が第一著者で、オパスが最後著者だった。
★撤回監視データベース
2020年10月26日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでエヴァ・サボ(Eva Szabo)を「Szabo, Eva」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、2論文が撤回されていた。
「2008年のJ Cell Biol.」論文が2015年1月に、「2009年のStem Cells.」論文が2020年2月に撤回されていた。両論文ともエヴァ・サボ(Eva Szabo)が第一著者で、オパスが最後著者だった。
★パブピア(PubPeer)
2020年10月26日現在、「パブピア(PubPeer)」では、エヴァ・サボ(Eva Szabo)の論文のコメントを「Eva Szabo」で検索すると、8論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》ネカト者を処分しないと
「2008年のJ Cell Biol.」論文が、ねつ造・改ざんで、2015年1月に撤回された。
この時、指導教授のミカル・オパス(Michal Opas)は院生・サボのネカトを糾弾せず、自分が不正の罪を被る形で処理した。このように甘く対処したのが仇になって、その後、研究者を続けたサボはネカトを繰り返した。
ネカトの法則:「強い衝撃がなければ、研究者はネカトを止めない」
標語:「学術界からネカト者を追放!」
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 2015年1月16日のキャット・ファーガソン(Cat Ferguson)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Fat cell paper earns unusually detailed retraction ? Retraction Watch
② 2020年2月10日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:‘Those unfortunate events:’ Second retraction for stem cell scientist in Canada accused of misconduct ? Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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