ドンメイ・ウー(Dong Mei Wu、吴冬梅)(中国)

2022年12月15日掲載 

ワンポイント:ドンメイ・ウーは、江蘇師範大学(こうそしはん だいがく、Jiangsu Normal University)・講師(準教授?)で、多数論文撤回者。データ改ざん、ねつ造、無断で他の研究者を共著者に加えた著者在順で、2017~2019 年(32~34歳?)の36論文が2021~2022年に撤回された。2022年11月12日(37歳?)、35報の撤回論文数で、「撤回論文数」世界ランキングの第16位(番号は17番)にランク入りしたが、1か月後の 2022年12月14日現在、撤回論文数は1報増えた36報になっている。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ドンメイ・ウー(Dong Mei Wu、*吴冬梅、ORCID iD:?、、顔写真は見つからなかったが、中国人女性らしい)は、中国の江蘇師範大学(こうそしはん だいがく、江苏师范大学、Jiangsu Normal University)・講師(準教授?)で、医師免許は持っていない(推定)。専門は細胞生物学である。

登場人物が中国人なので、以下、本記事では、通常使う名・姓のカタカナではなく、吴冬梅(ウー・ドンメイ)など日本人になじみやすい姓・名の漢字版を使用する。

2017~2019年(32~34歳?)に出版した吴冬梅(ウー・ドンメイ)の36論文がデータ改ざん、ねつ造、無断で他の研究者を共著者に加えた著者在順で2021~2022年(36~37歳?)に撤回された。

江蘇師範大学から解雇された(推定)。

中国国家自然科学基金への研究費申請資格は永久に取り消された。

2022年11月12日(37歳?)時点では35報の撤回論文数で、「撤回論文数」世界ランキングの第16位(番号は17番)にランク入りしたが、2022年12月14日現在の撤回論文数は36報である。

江蘇師範大学(こうそしはん だいがく、江苏师范大学、Jiangsu Normal University)。写真出典

  • 国:中国
  • 成長国:中国
  • 医師免許(MD)取得:なし(推定)
  • 研究博士号(PhD)取得:あり(推定)
  • 男女:女性
  • 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。この人かなと思える顔写真からの推察なので、かなりいい加減
  • 現在の年齢:39歳?
  • 分野:細胞生物学
  • 不正論文発表:2017~2019年(32~34歳?)の3年間
  • 発覚年:2019年(34歳?)
  • 発覚時地位:江蘇師範大学(こうそしはん だいがく)・講師(準教授?)
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「国家自然科学基金委员会」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①国家自然科学基金委员会・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:国家自然科学基金委员会が実名でウェブ公表(米国の研究公正局のクロ判定と同等とした)(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:36論文が撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった解雇(推定)(Ⅹ)
  • 処分:中国国家自然科学基金への研究費申請資格の永久取り消し
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

ほぼ全く不明。

  • 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。この人かなと思える顔写真からの推察なので、かなりいい加減
  • xxxx年(xx歳):xx大学(xx)で学士号取得
  • xxxx年(xx歳):xx大学(xx)で研究博士号(PhD)を取得(推定)
  • xxxx年(xx歳):江蘇師範大学(こうそしはん だいがく、江苏师范大学、Jiangsu Normal University)・講師(準教授?)
  • 2017~2019年(32~34歳?):後で撤回される36論文を出版
  • xxxx年(xx歳):不正研究が発覚する
  • 2021~2022年(36~37歳?):36論文が撤回された
  • xxxx年(xx歳):江蘇師範大学・講師(準教授?)から解雇(推定)
  • 2022年5月13日(37歳?):中国国家自然科学基金から処分

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★ネカト行為の処分第1弾

中国のネカトの定義、告発、調査、処分は基本的に米国や日本と同じようである。 → 2019年9月25日制定の「科学研究不正事案の調査及び取扱いに関する規程(試行)」:关于印发《科研诚信案件调查处理规则(试行)》的通知-中华人民共和国科学技术部

2022年5月13日(37歳?)、中国国家自然科学基金(National Natural Science Foundation of China:NSFC)は、「2022年に調査したネカト行為の処分に関する決定(第1弾)」で、10件のネカト者の処分を発表した。 → 2022年5月13日の「国家自然科学基金委员会」記事:2022年查处的科研不端案件处理决定(第一批次)

10件のネカト者の所属は、天津医科大学、浙江大学、天津大学、西安交通大学、上海交通大学、大連理工大学などだった。ネカト者10人のうち6人は生命系だった。

この中に、本記事で解説する中国の江蘇師範大学(こうそしはん だいがく、江苏师范大学、Jiangsu Normal University)の吴冬梅・講師(準教授?)(ウー・ドンメイ)が含まれていた。

なお、吴冬梅(ウー・ドンメイ)の上司で論文共著者の2人も同時に処分された。

1人目は、陆军・教授(ジュン・ルー、Jun Lu 、写真左出典陆军(江苏师范大学生命科学院副院长)_百度百科)。

2人目は、郑元林・特任教授(元副学長、ジェン・イェンリン、Zheng Yuanlin、写真右出典Zheng Yuanlin (元江蘇師範大学副学長)_Wikipedia)だった。

★発覚の経緯と調査結果

発覚の経緯は不明だが、江蘇師範大学の吴冬梅(ウー・ドンメイ)、陆军・教授(ジュン・ルー、Jun Lu)、郑元林・特任教授(元副学長、ジェン・イェンリン、Zheng Yuanlin)の3人ネカト行為が摘発された。

不正行為は以下の4点である。

  1. 写真の不適切な使用またはデータ改ざんをした
  2. 同意なしに他人の署名を使用した
  3. 研究プロセスをねつ造した
  4. 中国国立自然科学基金会の最終報告書に含まれる論文の一部を含む(全35件の関連論文)

不正行為は2017~2019年出版した35論文で、すべて3人が著者に入っていて、2021~2022年に撤回された。

参考のため、中国国家自然科学基金の2022年5月13日記事から最初の3報を以下に示す(そのままコピペし、改行した。太字と下線は白楽)。 

  论文1:“Lu, Hong-Jie#; Yan, Jing#; Jin, Pei-Ying#; Zheng, Gui-Hong; Qin, Su-Ming; Wu, Dong-Mei*; Lu, Jun*; Zheng, Yuan-Lin*.
MicroRNA-152 inhibits tumor cell growth while inducing apoptosis via the transcriptional repression of cathepsin L in gastrointestinal stromal tumor.
Cancer Biomarkers, 2018, 21(3):711-722.”(标注基金号81271225、31201039、81171012、30950031、81571055、81400902)

  论文2:“Dong-Mei Wu, Xin Wen, Xin-Rui Han, Shan Wang, Yong-Jian Wang, Min Shen, Shao-Hua Fan, Zi-Feng Zhang, Qun Shan, Meng-Qiu Li, Bin Hu, Jun Lu*, Yuan-Lin Zheng*, Gui-Quan Chen*.
Reduced LINC00540 Expression Inhibits Human Hepatocellular Carcinoma Progression and Metastasis via the NKD2-Dependent Wnt/β-Catenin Pathway.
SSRN Electronic Journal, 2019.”(标注基金号81271225、31201039、81171012、30950031、81571055、81400902)

  论文3:“Xin Wen#, Jing Yan#, Xin-Rui Han#, Gui-Hong Zheng, Ran Tang, Li-Fang Liu, Dong-Mei Wu, Jun Lu*, Yuan-Lin Zheng*.
PTEN gene silencing contributes to airway remodeling and induces airway smooth muscle cell proliferation in mice with allergic asthma.
Journal of Thoracic Disease,2018, 10(1):202-211.”(标注基金号81271225、31201039、81171012、30950031、81571055、81400902)

江蘇師範大学のネカト調査の結果、35論文はいずれも画像の不正使用やデータ改ざんがあった。34論文は、同意なしに他人の署名を書き共著者にしていた。6論文では、研究プロセスにねつ造があった。

国家自然科学基金委员会は、これらの不正行為は吴冬梅(ウー・ドンメイ)が単独で行なった、とした。

「同意なしに他人の署名を書き共著者にしていた」件は、陆军・教授(ジュン・ルー、Jun Lu)、郑元林・特別教授(ジェン・イェンリン、Zheng Yuanlin)の2人は、自分たちが知らないうちに吴冬梅(ウー・ドンメイ)に共著者にされていたと訴えている。つまり、自分たちは被害者だと主張している。

しかし、国家自然科学基金委员会は、問題の35論文の共著者である陆军・教授(ジュン・ルー、Jun Lu)、郑元林・特別教授(ジェン・イェンリン、Zheng Yuanlin)は、論文を適切にチェックすることを怠っていた二次的な責任がある、とした。

さらに、吴冬梅(ウー・ドンメイ)、陆军・教授(ジュン・ルー、Jun Lu)、郑元林・特別教授(元副学長、ジェン・イェンリン、Zheng Yuanlin)は、中国国家自然科学基金への最終報告書 (承認番号 81400902、承認番号 81571055) に上記の不正論文の内容を記載し、最終報告書に誤った情報を記載した結果についての責任を負わなければならない、とされた。

★処分

中国国家自然科学基金は、江蘇師範大学(こうそしはん だいがく)の吴冬梅(ウー・ドンメイ)、陆军・教授(ジュン・ルー、Jun Lu)、郑元林・特別教授(元副学長、ジェン・イェンリン、Zheng Yuanlin)の3人に次の処分を科した。

【吴冬梅(ウー・ドンメイ)】

1.吴冬梅(ウー・ドンメイ)の中国国家自然科学基金プロジェクト「TRPV4 は、マウスにおけるドウモイ酸治療誘発性認知障害の分子メカニズムを媒介する」を取り下げる
2. 助成した研究費の返納
3. 中国国家自然科学基金への申請資格を永久に取り消す
4 . 吴冬梅(ウー・ドンメイ)への批判の通告

【郑元林・特任教授(元副学長、ジェン・イェンリン、Zheng Yuanlin)】

1. 郑元林の中国国家自然科学基金プロジェクト「2 型糖尿病マウスの認知障害を媒介するための HMGB1/RAGE シグナル伝達軸を活性化する HDAC6 のメカニズムに関する研究」の撤回
2. 助成した研究費の返納
3. 中国国家自然科学基金への申請資格を5年間停止
4. 郑元林への批判の通告

【陆军・教授(ジュン・ルー、Jun Lu)】

1. 中国国家自然科学基金への申請資格を5年間停止
2. 陆军への批判の通告

【ねつ造・改ざんの具体例】

撤回されたネカト論文が36報ある。

撤回論文を5報選んで、そのネカト部分を以下に示す。論文の書誌情報は略記した。

―――――1報目:以下は「Molecular Therapy – Nucleic Acids (2019)」論文―――
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/00DC0E3EE81793F83AC0EC80ACD256

―――――2報目:以下は「Journal of Cellular Physiology (2018) 」論文―――
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/88D5224B8F58E6DB67A00D0E7C304E

―――――3報目:以下は「Journal of Cellular and Molecular Medicine (2018)」論文―――
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/4CCE087F6ACA7B13421DAC2E684A85

―――――4報目:以下は「Journal of Cellular Physiology (2018)」論文―――
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/25D52100C6F47B69927A090018B91D

―――――5報目:以下は「Journal of Cellular Physiology (2018)」論文―――
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/44B414214A52AF6F8FE447B4E57F29

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2022年12月14日現在、パブメド(PubMed)で、ドンメイ・ウー(Dong Mei Wu、吴冬梅)の論文を「Dong Mei Wu [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2022年の21年間の161論文がヒットした。

2022年12月14日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、33論文が撤回されていた。陆军・教授(Jun Lu)、郑元林・特別教授(元副学長、Zheng Yuanlin)の2人が33撤回論文の共著者になっていた。

★撤回監視データベース

2022年12月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでドンメイ・ウー(Dong Mei Wu、吴冬梅)を「Dong Mei Wu」で検索すると、 0論文が訂正、3論文が懸念表明、36論文が撤回されていた。

2017~2019年出版された36論文が2021~2022年に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2022年12月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ドンメイ・ウー(Dong Mei Wu、吴冬梅)の論文のコメントを「authors:”Dong Mei Wu”」で検索すると、48論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》始動 

2022年5月13日、中国国家自然科学基金(National Natural Science Foundation of China:NSFC)は、「2022年に調査したネカト行為の処分に関する決定(第1弾)」を発表し、10件のネカト者を処分した。

中国もいよいよ、ネカト撲滅と防止に本格的に動き始めたようだ。

ただ、白楽の能力の問題かもしれないが、江蘇師範大学のネカト調査報告書は公表されていない。ネカトの状況を解説する報道が見当たらない。

《2》中国のネカト事件は説明不足

上記したように、江蘇師範大学のネカト調査報告書は公表されていない。ネカトの状況を解説する報道が見当たらない。

それで、吴冬梅(ウー・ドンメイ)のネカト事件もそうだが、中国のネカト事件の多くは、事情が見えてこない。

吴冬梅(ウー・ドンメイ)の人間や研究生活が見えてこない。上司との関係も見えてこない。

ネカトをした状況は説明されずに、処罰だけ発表されると、ネカト防止策の参考にならない。中国のネカト防止は処罰だけ発表し、「ネカトしたら処罰するから、ネカトするなよ!」の恐怖政治なのかと思ってしまうが、今まで調べ限り、処罰は「甘い」。

中国はネカト対処発展途上国で、これから、発展していくのだろう。

《3》知らないうちに共著者

陆军・教授(ジュン・ルー、Jun Lu)、郑元林・特別教授(ジェン・イェンリン、Zheng Yuanlin)の2人は、自分たちが知らないうちに吴冬梅(ウー・ドンメイ)に共著者にされていたと訴えている。つまり、自分たちは被害者だと主張している。

この点を国家自然科学基金委员会がどう受け止めたか、白楽は掴めなかった。

ただ、2017~2019年出版された36論文が撤回された。その全論文の共著者になっている。

1~2報なら自分たちが知らないうちに吴冬梅(ウー・ドンメイ)に共著者にされていたかもしれないが、3年間の36論文となると、自分の名前が入った論文を3年間、全く気がつかないなんてありえない。

自分で自分の領域の論文を探るうちにヒットするだろうし、周囲の人から「先生の新しい論文が出版されましたね」などと話題になるハズだ。

白楽は、国家自然科学基金委员会の判断だどうだったのか、文書からは判別できなかった。

しかし、「自分たちが知らないうちに吴冬梅(ウー・ドンメイ)に共著者にされていた」という2人の教授の主張を認めなかったのだと、解釈した。

《4》日本は「不正大国で成果小国」

2022年11月15日にクラリベイトが公表した「2022年の最被引数研究者リスト」では、中国は世界第2位で、2018年からの上昇率はとても高い。それほど、世界の研究界で影響力を持ってきたのだから、研究公正をシッカリやらないと、悪影響も大きくなる。

以下は、ツイッターに書いたが、再掲する。

日本は「2022年の最被引数研究者リスト」の第10位以内に入っていない。シンガポールにも負けている。日本の研究は「不正大国で成果小国」という情けない状況になってしまった。

表出典:Clarivate Names World’s Influential Researchers with Highly Cited Researchers 2022 List – Clarivate
日本語表出典:2022年11月16日の日本語訳記事:世界最高峰の研究者を選出した 高被引用論文著者リスト2022年版を発表 – Clarivate – Japan

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●9.【主要情報源】

①  2022年5月13日の「国家自然科学基金委员会」記事:2022年查处的科研不端案件处理决定(第一批次) 、保存版
② 2022年6月21日の「深圳湾实验室」記事:保障高水平科技自立自强,发扬以爱国主义为底色的科学家精神
③  2022年10月9日の「今日头条」記事:江苏师范大学吴冬梅团队被通报的35篇造假论文中,又一篇被撤回-今日头条

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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