2023年5月15日掲載
ワンポイント:ロスはジョージア大学(University of Georgia)・助教授だった2020年3月(34歳?)、盗修・盗博と性不正で告発された。告発者はカリフォルニア大学ロサンゼルス校・院生時代のクラスメイトでユニオン大学(Union College in New York)・助教授の女性R(仮名)だった。ジョージア大学が調査しシロと結論したが、実は、女性Rの告発は虚偽の告発だった。動機は不明である。女性Rはロスとは別に、少なくとも16人に虚偽の告発をしていた。女性Rはユニオン大学を退職した。警察やFBIはまともに対応せず、刑事事件にならなかった。国民の損害額(推定)は5千万円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
カッシ―・ロス(カシア・ロス、Cassia Roth、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のジョージア大学(University of Georgia)・助教授(事件当時)で、専門は歴史学(ラテンアメリカ史)である。
2020年3月(34歳?)、盗修・盗博、性不正で告発された。
告発者はカリフォルニア大学ロサンゼルス校・院生時代のクラスメイトでユニオン大学(Union College in New York)・助教授の女性R(仮名)だった。
ジョージア大学が調査しシロと結論した。
実は、女性Rの告発は虚偽の告発で、ロスは被害者だった。
女性R(仮名)の動機は不明だが、ロスとは別に、少なくとも16人に虚偽の告発をしていた。
警察やFBIはまともに対応せず、刑事事件にならなかったが、女性R(仮名)は、ユニオン大学を退職した。
ジョージア大学(University of Georgia)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:カリフォルニア大学ロサンゼルス校
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1986年3月9日生まれとする。2008年に学士号を取得した時を22歳とした
- 現在の年齢:38 歳?
- 分野:歴史学
- 不正論文発表:なし(虚偽の告発だったので、実際は、不正論文はない)
- 被告発時の地位:ジョージア大学・助教授
- 被告発発覚年:2020年(34歳?)
- 発覚時地位:ジョージア大学・助教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は院生時代のクラスメイトの女性Rで、ニューヨークのユニオン大学(Union College in New York)の歴史学の助教授。ロスとジョージア大学に通報
- ステップ2(メディア):「Chronicle of Higher Education」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ジョージア大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
- 不正:盗修・盗博、性不正 → 冤罪
- 時期:研究キャリアの初期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5千万円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Cassia Roth Curriculum Vitae
- 生年月日:不明。仮に1986年3月9日生まれとする。2008年に学士号を取得した時を22歳とした
- 2008年(22歳?):ボウディン大学(Bowdoin College)で学士号取得:スペイン語学
- 2011年(25歳?):カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles)で修士号取得:歴史学
- 2016年(30歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得:ラテンアメリカ史
- 2017~2018年(31~32歳?):英国のエディンバラ大学(University of Edinburgh)・ポスドク
- 2018~2022年(32~36歳?):米国のジョージア大学(University of Georgia)・助教授
- 2020年3月9日(34歳?):盗修・盗博、性不正と告発された
- 2020年(34歳?):告発は冤罪だった
- 2022年(36歳?):ジョージア大学(University of Georgia)・準教授
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
「カッシ―・ロス」と自己紹介。ウーン、英語の発音がきれい。
研究紹介動画:「Where Am I? – Cassia Roth – YouTube」(英語)3分7秒。
Willson Center for Humanities and Arts(チャンネル登録者数 109人)が2021/01/12に公開
【動画2】
「カッシ―・ロス」と自己紹介。6分35秒頃に始まる。それまで音楽のみ。
研究紹介動画:「MSP Lecture Series: Dr. Cassia Roth – YouTube」(英語)47分20秒。
Multicultural Services & Programs(チャンネル登録者数 65人)が2021/03/04
https://www.youtube.com/watch?v=KujfuINeilY
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★被告発の経緯
2020年3月9日(34歳?)、この日が誕生日のカッシ―・ロス(Cassia Roth)は、学術界で起きうる最も深刻な不正告発に直面した。
若い女性の研究者(姓名の頭文字を取って「女性R」と呼ぶ)が、「カッシ―・ロスが修士論文と博士論文の一部を盗用した」と、カッシ―・ロスの所属するジョージア大学の同僚約12人にメールを送信したのだ。
さらに、「カッシ―・ロスは、女性Rのシラバスを盗んで自分のシラバスに使った。また、女性Rの写真をポルノのウェブサイトに投稿した(性不正)」ということも送信したのだ。
「ロスは詐欺師で、盗用を繰り返しています。ロスは自分の犯した不正行為の責任を負うべきです」と告発した。
カッシ―・ロスは盗修・盗博との指摘に何も思い当たることはなかった。
それに「女性Rの写真をポルノサイトに投稿した」ことも身に覚えがなかった。
メール送信者(女性R)の名前は、カッシ―・ロスのカリフォルニア大学ロサンゼルス校・院生時代に一緒に歴史学を勉強した同級生の名前だった。
女性Rは、2020年2月下旬から、ニューヨークのユニオン大学(Union College in New York)・歴史学の助教授に就任していた。なお、この騒動で、3か月後の2020年5月、辞職(解雇?)した。
★被害者は複数
女性Rの虚偽告発のターゲットは、実は、カッシ―・ロスだけではなかった。
同じころ、女性Rは、少なくとも 16人に虚偽告発をしていた。
被害者の大多数はカリフォルニア大学ロサンゼルス校の歴史学の元院生で、大学・教員になっている女性だった。
例えば、ペンシルバニア州立大学(Pennsylvania State University)の歴史学・助教授であるジョティ・グラティ・バラチャンドラン(Jyoti Gulati Balachandran、写真出典)も同様な告発を受けた。
バラチャンドランは、カッシ―・ロスの名前をかたる人物から以下の告発を受けた。告発文の意訳を先に、メールをその後に示す(出典は主要情報源②)。
ペンシルバニア州立大学・歴史学科のジョティ・バラチャンドランを告発します。
バラチャンドランは私に性的暴行を加え、重傷を負わせました。彼女は連続ストーカーで、多量のメールを私に送ってきただけでなく、露骨なわいせつ写真を送ってきたり、プレゼントを郵送してきました。私はバラチャンドランからのメールをブロックし、警察に通報しました。
私はペンシルベニア州立大学にバラチャンドランの性不正行為を告発します。バラチャンドランは学術機関で雇用される人物にふさわしくありません。彼女はサイコであり、周囲のすべての人々に恐怖を与えます。
カッシ―・ロス(Cassia Roth)
ジョージア大学(University of Georgia)・歴史学科
なんと、バラチャンドランの性不正行為の告発では、女性Rは、カッシ―・ロス(Cassia Roth)の名前をかたって告発していた。
上記の「英文メール」でわかるようにメール・アカウントはロスの大学のアドレスではなく、虚偽メールの常套手段だが、誰でも取得できるメールアドレス「yahoo.com」を使っていた。
告発された人は、パニックになり、虚偽メールかどうか、冷静に判断できなくなることが多い。もちろん、メールアドレスの「yahoo.com」だけで、虚偽メールだとは判定できない。
バラチャンドランの所属するペンシルベニア州立大学を含め、ネカト告発・性不正告発を受けた各大学は数週間にわたる調査をし、告発が虚偽であると結論した。
カッシ―・ロスら被害者は地元の警察とFBIに助けを求めた。
しかし、彼らは親身に対応してくれず、検察は刑事告発をしなかった。
カッシ―・ロスら被害者は、この告発は、自分たちのキャリアを狂わせ、学術界からの信頼を永久に損なうと、現在も、不安に思っている。
虚偽の告発なのに、「火のない所に煙は立たぬ」で、過去に不正行為をした人物というレッテルを永久に貼られてしまうのではないかと心配している。
この被害・混乱を取り除く方法と責任は誰にあるのか?
★女性R
女性Rが虚偽の告発をした動機は不明である。
2020年3月、カッシ―・ロスに虚偽告発をする数日前、女性Rは自分の所属しているユニオン大学(Union College in New York)の従業員に対して、不正行為があるとユニオン大学に告発していた。これが最初の告発だった。
2020年3月、ユニオン大学は女性Rを休職にした。
2か月後の2020年5月、ユニオン大学は女性Rを解雇(辞職?)した。この頃から告発の電子メールは停止した。
ただ、2020年6月、女性Rは、自分のブログで、「自分は告発メールを送信していない」と、虚偽告発を否定した。
他人が女性Rの名前を使って偽のメール・アカウントを作成し、カッシ―・ロスを含めた約16人の中傷的な告発メッセージを、各所属大学やその同僚たちに送信した、と女性Rは書いた。
つまり、女性Rは被害者である。真犯人が別にいる。という主張である。
真相はどうなんでしょう?
しかし、ユニオン大学はさらなる調査をしない。女性Rはユニオン大学を去ってしまった。
刑事事件になっていない。検察・警察は捜査しない。
真相は闇の中。
なお、ロス事件を報じた「Chronicle of Higher Education」紙は、カッシ―・ロスら被害者らの希望を汲んで、女性Rの実名を報じず、仮名を使用した。白楽はいろいろ調べ、女性Rの個人名を特定できたが、本記事では、仮名使用に従った。
●【ネカトの具体例】
論文のねつ造・改ざん・盗用ではないので、省略。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★論文数
省略
★撤回監視データベース
2023年5月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでカッシ―・ロス(Cassia Roth)を「Cassia Roth」で検索すると、0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2023年5月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、カッシ―・ロス(Cassia Roth)の論文のコメントを「Cassia Roth」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》冤罪
していないネカト、していない性不正で、ある日突然、告発される研究者がいるだろうと、白楽はだいぶ前から思っていた。
もちろん、しているネカト、している性不正で、ある日突然、告発される研究者は大勢いる。
どちらも、告発されれば、通常、大学は被告発者のネカト調査・性不正調査をする。その時、研究室のパソコンを押収するかもしれないし、研究室を閉鎖するかもしれない。被告発者を解雇するかもしれない。
この時往々にして、近代法の基本原則である「無罪推定の原則」は守られない。 → 無罪推定の原則(むざいすいていのげんそく)とは、「何人(なんびと)も有罪と宣告されるまでは無罪と推定される」という、近代法の基本原則である。(無罪推定の原則 – Wikipedia)
被告発者は、研究を大きく妨害される。生活も人生も大きく損傷される。
その後、大学が無罪だと発表しても、告発された研究者は長いこと白い目で見られ、冷遇される(推定)。
理不尽である。
《2》悪意の告発
日本の文部科学省には「悪意のネカト告発」をした人に対して「適切な処置」をするように規定している。
告発が悪意に基づくものと認定された場合、告発者の所属する機関は、当該者に対し、内部規程に基づき適切な処置を行う。出典:研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン(平成26年8月26日文部科学大臣決定)
しかし、この「適切な処置」がどんな処置なのか、大学に丸投げしているのでハッキリしない。
今回のカッシ―・ロス事件では、助教授・女性Rが大学から解雇されたか、辞職したか不確かだが、大学・助教授の職を失った。
ところで、日本では、「悪意の告発」者と認定され、処置された事件をきかない。
今まで、1人もいないということなのだろうか?
そんなことは、あり得ないと、白楽は思うのだけど、どうなっているのだろう。
現実には「悪意の告発」者はいる(いた)と思う。
しかし、「悪意の告発」者と認定する基準が不明確である。「悪意」という言葉の意味は理解できるが、「悪意」を判定するのは難しい。判定基準を示さないと、規則が空虚になる。
《3》告発いろいろ
していないネカト、していない性不正で、ある日突然、告発されるという理不尽な告発がどの程度の頻度で起こっているのか、米国にも日本にも公式データがない。
「悪意の告発で、内容は虚偽」、「悪意の告発だが、内容は正しい」、「悪意はないけど、情報不足や間違った告発」が、それぞれ、毎年、何件あるのか、その告発をどう処理したのか、日本も世界も公表していない。
他人の名前をかたって告発する場合もある。この場合、「悪意」とは次元が異なる。そして、他人の名前をかたった告発でも、告発内容が正しい場合、どうなるのだろう?
告発内容は正しいけど指摘の仕方、告発書の形式・書式が悪い場合、あるいは、情報が不足している場合がある。この場合、大学は調査しないが、それでいいのだろうか? 大学の担当者や調査員が協力すれば、ネカト・性不正が見つかり是正される可能性はある。
ネカト・性不正のこのような多様な告発の実態を調査した報告書や論文を白楽は読んだことがない。
調査し、告発のあり方を改善すべきだと思う。
といっても、ネカト・性不正の告発の生データを一元的に集めるシステムは日本にはない。従って、日本の全データをもっている組織はない。
可能性として、日本では文部科学省の担当窓口が「それなり」のデータを持っていると思う。文部科学省はそのデータを公表して欲しい。
しかし、文部科学省の公表は期待しにくい。別の方法・情報源で調査できないものだろうか?
ネカト調査・性不正調査の入口である告発とその対処の実態は闇である。改善の余地がとても大きい。
カッシ―・ロス(Cassia Roth)。https://archive.md/wip/m8XCN
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日本の人口は、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。
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●9.【主要情報源】
① 画像:Cassia Roth – Google Search
② 2021年4月15日のサラ・ブラウンとミーガン・ザニース(Sarah Brown and Megan Zahneis)記者の「Chronicle of Higher Education」記事:The Damage Campaign、保存版、2021年5月14日 Chronicle of Higher Education, p23-p30
③ 2021年4月16日のユージーン・ヴォロック(Eugene Volokh)記者の「Reason」記事:“Caught up in a Storm of False Accusations, Professors Found Themselves Fighting to Clear Their Names”
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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