2017年3月4日掲載。
ワンポイント:2012年(39歳?)、アマースト大学・女性助教授のテニュア審査でいくつかの論文に盗用がみつかった。調べていくと、その約10年前のイェール大学での博士論文にも盗用が見つかった。アマースト大学を辞職した。「全期間ランキング」に記載した「「高等教育界を震撼させた著名人の10大盗用スキャンダル」:2013年1月10日」の第7位である。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
カーリーン・バスラー(Carleen Basler、写真出典)は、メキシコ系アメリカ人でイェール大学(Yale University)で研究博士号(PhD)を取得し、米国・マサチューセッツ州のアマースト大学(Amherst College)・助教授になった。専門は社会学だった。
2012年(39歳?)、アマースト大学は、バスラーの論文に盗用が見つかったと発表した。バスラーのテニュア審査で論文を精査し、見つかったのだ。
調べていくと、その約10年前のイェール大学での博士論文にも盗用が見つかった。
2012年(39歳?)、多くの学生に人気があったが、バスラーは、盗用発覚後、間もなく、アマースト大学を辞職した。
バスラー事件は、「全期間ランキング」に記載した「「高等教育界を震撼させた著名人の10大盗用スキャンダル」:2013年1月10日」の第7位である。
なお、アマースト大学は、「最も美しいキャンパスの米国大学100位」のランキングで第10位の大学である。The 100 Most Beautiful College Campuses In America – Best College Reviews(保存版)
米国・マサチューセッツ州のアマースト大学(Amherst College)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 研究博士号(PhD)取得:イェール大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1973年1月1日とする。写真から判断した
- 現在の年齢:50 歳?
- 分野:社会学
- 最初の不正論文発表:19xx年(xx歳)。博士論文
- 発覚年:2012年(39歳?)
- 発覚時地位:アマースト大学・助教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)はアマースト大学の米国研究・社会学科の教員。大学に公益通報
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①アマースト大学・調査委員会
- 不正:盗用
- 不正論文数:複数。博士論文
- 時期:研究キャリアの初期から
- 結末:辞職
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1973年1月1日とする。写真から判断した
- 19xx年(xx歳):カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)を卒業。学士号:社会学
- 19xx年(xx歳):イェール大学(Yale University)で研究博士号(PhD)を取得した。社会学
- 2003年(30歳?):アマースト大学(Amherst College)・助教授
- 2012年(39歳?):盗用が発覚
- 2012年9月17日(39歳?):アマースト大学・助教授を辞職
●5.【不正発覚の経緯と内容】
2012年、アマースト大学(Amherst College)の米国研究・社会学科(Department of American Studies and Sociology)は、カーリーン・バスラー・助教授(Carleen Basler)にテニュアを授与するため、バスラーの研究業績を審査した。
テニュアを授与するための審査では、所属学科の教員と学外の研究者がバスラーの研究論文を精査することが一般的に行なわれる。
グレゴリー・コール学部長(Gregory S. Call、写真出典)は、「審査員である教員が、この審査の過程で、バスラーの研究論文のいくつかに盗用を見つけ、私に相談に来た」と述べている。
「教員たちは、数日のうちに、引用していない被盗用文献を収集し、私のオフィスに届けてくれた」。
「学部長室のスタッフも、それらの資料を独自に調べ、教員たちの申し立てが正しいことを確認した」。
コール学部長はバスラーを学部長室に呼んで、それまでの経緯、そして、証拠を1つ1つ示しながら盗用疑惑を伝えた。
バスラーは、研究論文に適切な引用をしていなかった点をすぐに認めた。そして、大変申し訳ないと陳謝した。
コール学部長は、その後、どうするかバスラーと話し合った。
大学としては決まった処理をすることになる。ネカト者であるバスラーとコール学部長は数回の会議を持った。結局、バスラーは自主的に辞任することを決断した。
★バスラーのアマースト大学への手紙
「辞任理由はシンプルです。私の学者としての研究成果の一部で、私は、意図的ではなかったのですが、引用することなく、過去に出版された論文を不適切に使用していました。学術界では、そのような誤りは非常に重大です」と述べて、辞任した。
「アマースト大学を辞任するかどうかは私にとって容易な決断ではありませんでした。しかし、私の家族、私の学生たち、そして偉大なアマースト大学の私の仲間たちのほうがもっと重要だと思いました」。
「策を弄すれば、私は大学の処分をかわせたかもしれません。しかし、誤りを犯したのは私自身です。辞任が私にとって最善の行為で最も倫理的だと思いました」と述べている。
→ 2012年9月25日、カーリーン・バスラー(Carleen Basler): Letter to the Editor | The Amherst Student(保存版)
★イェール大学(Yale University)の博士論文
盗用論文を探っていくと、イェール大学(Yale University)で研究博士号(PhD)を取得した博士論文の盗用にたどり着いた。
アマースト大学のコール学部長は、イェール大学・社会学科長のジュリア・アダムス(Julia Adams)にそのことを伝えると、アダムス学科長は「調査する」と述べた。
しかし、その後のことがウェブ上に見つからない。
イェール大学は、調査したのだろうか? 博士号をはく奪したのだろうか? 白楽は、把握できていない。
★盗用の理由
盗用の理由を書くのもヘンだが、アマースト大学の教員たちは、「バスラーは執筆に苦労し文章を書くことに自信を喪失していた」と述べている。
米国研究グループ長のカレン・サンチェス=エプラー教授(Karen Sánchez-Eppler、写真出典)は、「彼女は私にはズバズバいう人だったのです。でも、バスラーは、執筆に苦労していると言わなかったので、知ったのは、彼女の盗用が発覚した後でした。私は、彼女の昇進が遅めだったので、研究キャリアがうまく達成できるように、非常に気にかけていました」と述べている。
別の教授は、「盗用は個人の責任ではあるけども、うまく執筆できないときは、他の人に助力を求められる研究環境も必要です。それが欠けていました」、と述べた。
●7.【白楽の感想】
《1》ランキング入り?
バスラー事件は、「全期間ランキング」に記載した「高等教育界を震撼させた著名人の10大盗用スキャンダル」:2013年1月10日の第7位にランクされた。
それで、白楽は、記事にしようと取り掛かった。しかし、資料を調べ記事にしてみると、単純な盗用である。
しかも、盗用を指摘され、本人は盗用を素直に認めている。アッパレと思うほど誠実である。盗用には政治的背景・社会的背景もない。メディアが大騒ぎしたわけでもない。
「高等教育界を震撼させた著名人の10大盗用スキャンダル」の第7位だが、「高等教育界を震撼させ」ていない。バスラーは助教授で「著名人」でもない。
どうして、「高等教育界を震撼させた著名人の10大盗用スキャンダル」の第7位にランクされたのだろうか?
《2》盗博
2012年、アマースト大学の助教授のテニュア審査で盗用が発覚したが、調べると、約10年前の博士論文でも、バスラーは盗用していた。
博士論文の審査で盗用を発見すべきだった。これが、1回目のチャンスだ。ここで盗用を見つけ、指導あるいは学術界から排除しておくべきだった。
アマースト大学はイェール大学の博士号を信用してバスラーを助教授に採用したに違いない。そういう意味では、イェール大学に根源的な責任がある。
2003年、アマースト大学はバスラーを助教授に採用した。この時、盗用を発見すべき2回目のチャンスだったかもしれない。しかし、イェール大学の博士号を信用するし、採用時での論文の精査は軽いから、盗用を発見できなくても仕方ない。
3回目のチャンスは、助教授に採用した後の約10年間である。いくつもの論文に盗用が見つかったのだから、その間の盗用をもっと早く検出すべきだった。それができなかった責任はアマースト大学にある。
明るい面を見ると、アマースト大学がテニュア審査で盗用を発見した功績は大きい。バスラーは常習的に盗用していたので、ここを通過してしまうと、準教授・正教授まで昇進し、もっと大きな盗用事件になっただろう。
《3》人気の教員
カーリーン・バスラー(Carleen Basler)はアマースト大学の学生・卒業生にとても人気があったようだ。ウェブでの「処分しないで」嘆願サイトに102人が書き込んでいる。
→ petition: Grant Professor Carleen Basler Tenure
盗用したのだから辞職は致し方ないが、アマースト大学は、学生・卒業生に人気のある教員を失うのは痛手だろう。
たくさんのネカト事件を見てきたが、多くの学生・卒業生に人気があるネカト者は珍しい。
写真出典不明
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●8.【主要情報源】
① 2012年9月25日のブリアンダ・レイエス(Brianda Reyes)記者の「Amherst Student」記事:Carleen Basler Resigns After Admitting to Plagiarism | The Amherst Student(保存版)
② 2012年9月28日のダイアン・レーダーマン(Diane Lederman)記者の「Mass Live」記事:Amherst College professor Carleen Basler resigns over accusations of plagiarism | masslive.com(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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