2022年1月17日掲載
ワンポイント:自社製品に都合の良い論文を発表したペスキンの2013~2014年(56~57歳?)の3論文が、2014~2015年(57~58歳?)に撤回された。クアックウォッチ(Quackwatch)のスティーブン・バレット(Stephen Barrett)に、ペスキンの論文は利益相反を開示していない、と指摘されたからである。なお、その約10年前の2003年1月(46歳?)、テキサス州の裁判所は、ペスキンが博士号を取得したと嘘をついたことと、彼の栄養補助食品が健康に良いと根拠のない主張をしたことで、ペスキンと彼の会社に10万ドル(約1千万円)の罰金と裁判費用を支払うよう命じ、販売を禁止する恒久的な差し止め命令を出していた。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ブライアン・ペスキン(Brian Peskin、Brian Scott Peski、ORCID iD:?、写真出典)は、米国・テキサス州で栄養補助食品の会社を経営し、国際PEO協会(International PEO Society)・会長である。医師免許は取得していない。専門は栄養学である。なお、国際PEO協会はペスキンが設立した個人組織である。
2003年1月(46歳?)、テキサス州の裁判所は、ペスキンが博士号を取得したと嘘をついたこと、彼の栄養補助食品が健康に良いと根拠のない主張をしたことで、ペスキンと彼の会社に10万ドル(約1千万円)の罰金と裁判費用を支払うよう命じ、販売を禁止する恒久的な差し止め命令を出した。
それから約10年が経過した。
そして、2013~2014年(56~57歳?)の3論文が、2014~2015年(57~58歳?)に撤回された。
撤回の理由は、その製品でペスキンが金銭的利益を得ていることを論文で開示していなかった。つまり、利益相反の違反である。
ペスキンは、大学・研究機関に所属していないので、処分なし。研究公正局もこのような事件では管轄外なので、処分なし。
国際PEO協会(International PEO Society)の建物の写真は見つからない。論文著者で住所を探るが、私書箱しか明示されない。それで、ブライアン・ペスキン(Brian Peskin)の著書を並べた。出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1957月1日生まれとする。1979年に大学・学部を卒業した時を22歳とした
- 現在の年齢:67 歳?
- 分野:栄養学
- 不正論文発表:2013~2014年(56~57歳?)の2年間
- 発覚年:2014年(57歳?)
- 発覚時地位:個人組織の国際PEO協会(International PEO Society)・会長
- ステップ1(発覚):第一次追及者はスティーブン・バレット(Stephen Barrett)の研究公正局への公益通報
- ステップ2(メディア):「クアックウォッチ(Quackwatch)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②テキサス州保健局長(Texas Commissioner of Health)。③裁判所
- 組織・調査報告書のウェブ上での公表:なし。個人組織なので調査する意思なし
- 組織の透明性:発表なし(✖)。
- 不正:利益相反の違反
- 不正論文数:2013~2014年の3論文が、2014~2015年に撤回された
- 時期:研究キャリアの後期
- 職:事件後に発覚時の地位を続けた(〇)
- 処分:2003年の事件では、製品の販売禁止。罰金約1千万円。2014年に発覚した論文不正では処分なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1957月1日生まれとする。1979年に大学・学部を卒業した時を22歳とした
- 1979年(22歳?):マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)で学士号取得:電気工学
- 1985年1月~1999年7月(28~42歳?):マキシマム・エフィシエンシー・プロダクツ社(Maximum Efficiency Products)を設立、社長
- 1998~1999年(41~42歳?):テキサス・サザン大学(Texas Southern University)・非常勤教授
- xxxx年(xx歳):個人組織の国際PEO協会(International PEO Society)・会長
- 2013~2014年(56~57歳?):後で問題視される3論文を出版
- 2014~2015年(57~58歳?):上記3論文が撤回
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
講演動画:「2019 Boston Lyme Disease Conference – YouTube」(英語)43分18秒。
Brian Peskinが2019/11/13 に公開
https://www.youtube.com/watch?v=_5Yx548KS98
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★怪しげな科学者という印象
ブライアン・ペスキン(Brian Peskin、写真出典)はマサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)で電気工学を学んだが、その後、健康食品の製法を広め・販売する別の道に進んだ。
医師免許(MD)もなく、研究博士号(PhD)もなく、大学・研究機関に所属していない。それなのに学術論文を出版した。つまり、学術研究という点で見ると、怪しげな人物に思える。
ペスキンは、米国・テキサス州に国際PEO協会(International PEO Society)という個人的組織を設立し、自らその会長を務めている。
「PEO」はペスキンの造語である「親エッセンシャル・オイル(Parent Essential Oils)」の略で、オメガ-6(ω-6脂肪酸 – Wikipedia)とオメガ-3(ω-3脂肪酸 – Wikipedia)の2つの必須脂肪酸(essential fatty acids)のことを示す。「Parent」、つまり、「親」という用語は「完全な、混じりけのない形を示す」ためにつけたそうだ。
そして、ペスキンの学術論文を検索すると、論文は3~4論文しかヒットしない。そして、3論文が撤回されている。
★オメガ-6とオメガ-3
以下の図の出典:【油博士コラム⑦】脂肪酸の種類(多価不飽和脂肪酸) – マルタのえごま
【オメガ-6】
リノール酸は同じω-6系のγ-リノレン酸やアラキドン酸などへ代謝され、プロスタグランジンE2のような生理物質の材料となる。リノール酸は、ヒトが体内で合成できないため必須脂肪酸であるが、通常の食生活で欠乏することはなく、むしろ摂取しすぎることがある。
ω-6脂肪酸は、ベニバナ油、グレープシードオイル、ヒマワリ油、コーン油、大豆油、ゴマ油などの食品に多く含まれている。
概してω-6脂肪酸は多くの食品に豊富に含まれ、一部のバランスの悪い植物油や、現代的な畜産動物にω-3脂肪酸が少ないということが問題になる。(ω-6脂肪酸 – Wikipedia)
【オメガ-3】
人間の栄養学でω-3脂肪酸の必要性について注目されてきたのは1970年代から1980年代からであり[1]、摂取基準が示されるのは2000年以降となる。栄養素の研究の中でも比較的新しいものである。αリノレン酸はヒトの体内で合成できない必須脂肪酸であり、そこから合成されるドコサヘキサエン酸(DHA)は神経系の機能に関わっている。
魚油食品、肝油、ニシン、サバ、サケ、イワシ、タラ、ナンキョクオキアミ等の魚介類は、エイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)のようなω-3脂肪酸に富んでいる。
植物油では、菜種油にはω-3脂肪酸のα-リノレン酸(ALA)が豊富に含まれているものも一部にあり、アブラナ(キャノーラ)、ダイズ、特にエゴマ、アマ、アサなどに含まれている。(ω-3脂肪酸 – Wikipedia)
なお、白楽ブログの趣旨と無関係だが、オメガ3のサプリは無駄そうだ。理由はココ → 2021年、ハーバード大学医学部は、オメガ3脂肪酸サプリメントが人々の貴重なお金を浪費したと主張した。 → 2021年6月1日記事:Are you wasting money on supplements? – Harvard Health
★ぺスキンのデタラメ商法
2003年12月4日(46歳?)、医師でクアックウォッチ(Quackwatch)の創設者でネカトハンターの米国のスティーブン・バレット(Stephen Barrett 、写真出典同)が、ブライアン・ペスキン(Brian Peskin)の論文は利益相反を開示していない、と指摘した。 → Brian Peskin Charged with Deception | Quackwatch
ペスキンの「放射健康計画(Radiant Health Program)」は、オーディオテープ、ビデオテープ、著書、1か月分の「親エッセンシャル・オイル(Parent Essential Oils)」製品が入っていて、約150ドル(約1万5千円)で販売していた。 「親エッセンシャル・オイル(Parent Essential Oils)」製品だけだと、1か月分は77ドル(約8千円)、1年分は780ドル(約7万8千円)だった。
ペスキンの販売戦略の1つは、利用者に「サクセスストーリー」を提出してもらうことだった。 「サクセスストーリー」が宣伝に使われた場合、彼の製品をプレゼントした。
ただし、利用者の「サクセスストーリー」は、信頼できる話ではない。話を提供すると報酬が得られるので、「サクセスストーリー」の信頼性はとても低い。
2002年3月(45歳?)、テキサス州保健局長(Texas Commissioner of Health)は、製造プロセスに関して安全上の懸念があるという理由で、「放射健康計画(Radiant Health Program)」で販売している「ハーバル・エッセンス(“Herbal Essence”)」製品を回収するようペスキンに命じた。
2002年4月(45歳?)、テキサス州の司法長官は、製品の安全性だけでなく、ぺスキンが経歴・資格を詐称したとして、ペスキンと彼の会社「Maximum Efficiency」、さらに親会社「Perkins Management Company」を裁判所に訴えた。
ぺスキンは博士号を取得していないのに所得したと称し、教授でもないのに、テキサスサザン大学・教授だと称していた。
訴状では、ぺスキンは彼の会社を米国・食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)に登録していなかったこと、また、法律で義務付けられたテキサス州の製造ライセンスを取得していないことにも言及した。
ペスキンは、彼らの製品が、「心臓病、乳がん、前立腺がん、その他のがんのリスクを軽減する。静脈瘤を除く。糖尿病を予防する。ADD、ADHD、多動性障害のある子供を治療する。子供を賢くする。便秘を治す」など、多くの疾患から守るという科学的に根拠のない宣伝をしていた。
ペスキンは、この宣伝を禁じる一時的な差し止め命令にすぐに従った。
2003年1月(46歳?)、テキサス州の裁判所は、ペスキンが博士号を取得したと嘘をつき、彼の栄養補助食品が健康に良いと根拠のない宣伝をしたことで、ペスキンと彼の会社に10万ドル(約1千万円)の罰金と裁判費用を支払うよう命じ、販売を禁止する恒久的な差し止め命令を出した。
★論文撤回
それから約11年が経過した。
2014年11月5日(57歳?)、ペスキンの「2014年1月のJournal of Lipids」論文が撤回された。最初の論文撤回である。 → 2014年11月11日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:“Undeclared competing interest” sinks fish oil takedown by author fined for deceptive claims – Retraction Watch
撤回の理由は、その製品でペスキンが金銭的利益を得ていることを論文で開示していなかった。つまり、利益相反の違反である。
つまり、ペスキンは論文に記載した製品に関する多数の特許、また、必須脂肪酸を製造販売する会社・ぺスキン・ファーマ社(http://www.peskinpharma.com/、保存版)を所有していて、そのことを論文に記載していなかった。それが、利益相反違反に該当した。
そして、2022年1月16日現在、上記論文を含め、ペスキンの2013~2014年(56~57歳?)の3論文が、2014~2015年57~58歳?)に撤回されている。
●【不正の具体例】
ブライアン・ペスキン(Brian Peskin)は、自分の健康食品の製法を広め売るために、自分の製品に都合のよいデータを学術論文として出版した。
データの信頼性が問題ということは、データねつ造・改ざん、あるいは、解釈の改ざんと思われる。
しかし、ペスキンは大学に所属する研究者ではないので、大学はネカト調査しない。となると、論文を掲載した学術誌がネカト調査ことになるが、それは学術誌にとって大きな負担であるし、面倒である。
それで学術誌は、撤回の理由として、論文に記載の製品で金銭的利益を得ていることをペスキンが開示していなかったという理由にした。つまり、利益相反違反である。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2022年1月16日現在、パブメド(PubMed)で、ブライアン・ペスキン(Brian Peskin)の論文を「Brian Peskin[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2008年の1論文がヒットした。
2022年1月16日現在、この論文は撤回されてない。
「Peskin BS」で検索すると、2論文がヒットした。
2報の内の1報・「2014年のJ Lipids.」論文は撤回された。
★撤回監視データベース
2022年1月16日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでブライアン・ペスキン(Brian Peskin)を「Peskin」で検索すると、3論文が撤回されていた。
2013~2014年の3論文が、2014~2015年に撤回された。
★パブピア(PubPeer)
2022年1月16日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ブライアン・ペスキン(Brian Peskin)の論文のコメントを「Brian Peskin」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》防ぐ方法
ブライアン・ペスキン(Brian Peskin、写真出典)は自分の金銭的欲望のために、学術論文を自分の製品の宣伝と信用媒体として利用した。
博士号を取得したとウソもついていた。
性根が腐った人物のようだ。
こういう人物の論文ネカトを防止するにはどうすると良いか?
白楽が推奨するように刑事事件にして処罰すれば減ると思う。しかし、米国でも、ネカト者のほとんどを刑事事件にしない。となると、名案はなく、防止は意外と難しい。従って、今後も似たようなネカト事件は続くだろう。
《2》民間のネカト者の処分
以下は、マーティ・ハインズ(Marty Hinz)の記事を修正して再利用した。 → マーティ・ハインズ(Marty Hinz)(米) | 白楽の研究者倫理
ブライアン・ペスキン(Brian Peskin)のように、大学や研究所で雇われていない人は、ネカト論文を出版しても失職しない・解雇されない。解雇する主体がないからだ。
食品医薬品局(FDA)は未承認薬を販売していることでペスキンに罰金を科しているが、ペスキンはそれほどこたえていない。
ペスキン事件では、スティーブン・バレットの指摘を受けて、学術誌は調べ、出版論文を撤回した。
しかし、一般論としては、学術誌はこんな徹底的な対応しない。他の事件では、ネカト論文が長年撤回されないままである。
それで、国民と社会はだまされ続ける。
一般消費者は学術論文が出版されていれば信用する。学術論文を使って製品の宣伝をしているとはツユにも疑わない。
そもそも学術論文の存在そのものがほとんど検証されないので、論文が撤回されても、学術誌に論文が掲載されて「いた」ことでそれなりの宣伝効果は維持される。
そして、大学・研究所が雇用していないネカト者は処分できない。論文撤回がセイゼイである。
この点は、現行のネカト処分システムの盲点で、他にも、同様のケースはそこそこある。
だから、警察がネカト調査し、裁判で処罰できる刑法事件にすべきなのである。
この点、米国は一向に改善できない。もちろん、日本も改善できない。改善しようという気配もない。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】
① 2015年9月14日のシャノン・パラス(Shannon Palus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Anti-fish oil researcher netted two more retractions – Retraction Watch
② 2003年12月4日、スティーブン・バレット(Stephen Barrett)記者の「Quackwatch」記事:Brian Peskin Charged with Deception | Quackwatch
③ ブライアン・ペスキン(Brian Peskin)自身のウェブサイト:Prof. Peskin’s Insights & Ideas
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