2022年2月17日掲載
ワンポイント:パラはアビエルタ・インテルアメリカーナ大学 (Universidad Abierta Interamericana)・教授で、12冊の著書を出版し、超心理学の分野では世界的に著名な研究者である。2020年(60歳?)、著書の1つが盗用で絶版になった。2021年(61歳?)、「2017年3月のJournal of Scientific Exploration」論文が盗用で撤回された。結局、22件の著書・論文に盗用が見つかっているが、盗用の全貌は掴めていない。大学はネカト調査をしておらず、パラは処分されていない。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
アレハンドロ・パラ(Alejandro Parra、ORCID iD:?、写真出典)は、アルゼンチンのアビエルタ・インテルアメリカーナ大学 (Universidad Abierta Interamericana)・教授である。個人で診療所を開業している心理療法士で、専門は超心理学(超常現象学)である。
超心理学の分野では世界的に著名な研究者で、国内外のさまざまな報道機関、ラジオ、テレビなどから定期的に相談を受けている。
白楽は、超常現象学(念力、テレパシーなど)ときいただけで、怪しげなニセ科学と思う。この記事はその偏見のバイアスがかかっていると想定して読んでください。
アレハンドロ・パラは、『心の力(Los poderes de la mente)』(2013年)など12冊の著書を出版している。日本語訳はない。(本の表紙出典はアマゾン)。
2020年の年末(60歳?)、マイケル・ナム(Michael Nahm)たちがパラの著書『最後の別れの抱擁(The Last Farewell Embrace)』(2019年)の盗用を指摘した。著書は絶版になった。
そのことを知った、学術誌「Journal of Scientific Exploration」編集長のスティーブン・ブロード(Stephen Braude)が自分の学術誌に掲載されたパラの論文を調べ、パラの「2017年3月のJournal of Scientific Exploration」論文に盗用を見つけた。
2021年3月8日(61歳?)、その「2017年3月のJournal of Scientific Exploration」論文が盗用で撤回された。
2022年2月16日(62歳?)現在、アビエルタ・インテルアメリカーナ大学はパラのネカト調査をしていない。それで、パラは解雇などの処分をされていない。
パラのどの著書・論文が盗用なのか、全貌は掴めていないが、22件の著書・論文に盗用が見つかっている。そして、少なくとも1論文は撤回、1著書は絶版になった。
アビエルタ・インテルアメリカーナ大学 (Universidad Abierta Interamericana)。写真Pablo D. Flores, CC BY-SA 2.5 <https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.5>, via Wikimedia Commons。出典
- 国:アルゼンチン
- 成長国:アルゼンチン
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:シエンシアス・エンプレサリアレス・イ・ソシアレス大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1960年1月1日生まれとする。見た目だけで、他の根拠なし
- 現在の年齢:64 歳?
- 分野:超心理学
- 不正論文発表:2006~2013年(46〜53歳?)の7年間
- 発覚年:2020年(60歳?)
- 発覚時地位:アビエルタ・インテルアメリカーナ大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はマイケル・ナム(Michael Nahm)、出版社に公益通報
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②大学は調査していない(推察)
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。大学は調査していない(推察)
- 大学の透明性:調査していない(推察)(✖)
- 不正:盗用
- 不正論文数:22件の著書・論文。少なくとも1論文は撤回、1著書は絶版
- 盗用ページ率:不明%
- 盗用文字率:不明%
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
出典:(1) Professor Alejandro Parra: Humanistic group therapy, mental health and anomalous/paranormal experiences | Goldsmiths, University of London、(2) Fundación Columbia
- 生年月日:不明。仮に1960年1月1日生まれとする。見た目だけで、他の根拠なし
- xxxx年(xx歳):xx大学(xxxx)で学士号取得
- xxxx年(xx歳):アルゼンチンのシエンシアス・エンプレサリアレス・イ・ソシアレス大学(Universidad de Ciencias Empresariales y Sociales)で研究博士号(PhD)を取得:心理学
- xxxx年(xx歳):アビエルタ・インテルアメリカーナ大学 (Universidad Abierta Interamericana)・教授
- 1993年(33歳?):市民協会「超常現象心理学研究所」(www.alipsi.com.ar)の会長
- 1990〜2004年(30〜44歳?):アルゼンチンの超常現象心理学ジャーナルの編集者
- 2020年(60歳?):盗用が発覚
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
テレビの討論番組の動画:「超心理学者のアレハンドロ・パラとテレパシーについて話す(Conversamos con el parapsicólogo Alejandro Parra sobre la telepatía) – YouTube」(スペイン語)8分40秒。
Qué Mañana!が2014/08/01 に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★世界的に著名な研究者
アレハンドロ・パラ(Alejandro Parra)は超心理学(超常現象学)の分野では世界的に著名な研究者である。
著書を12冊も出版している。
★経緯
2021年3月8日(61歳?)、アレハンドロ・パラの「2017年3月のJournal of Scientific Exploration」論文が盗用という理由で撤回された。
- Anomalous/Paranormal Experiences Reported by Nurses in Relation to Their Patients in Hospitals
Parra, A., & Giménez Amarilla, P.
Journal of Scientific Exploration, 31(1), 11–28. (2017).
論文撤回に関して、学術誌「Journal of Scientific Exploration」編集長のスティーブン・ブロード(Stephen Braude、メリーランド大学・教授、写真出典)は、次のように書いている。 → JSE’s First Retraction_Editorial.pdf
2017年に出版したアレハンドロ・パラの論文の撤回は、私が知る限り、学術誌「Journal of Scientific Exploration」の最初の公式な論文撤回です。撤回の理由は、著者の広範な盗用です。
そして、ブロード編集長は「撤回監視(Retraction Watch)」に次のように答えた。
盗用に気がついたのは、2020年の年末で、マイケル・ナム(Michael Nahm、写真出典)たちがパラの著書『最後の別れの抱擁(The Last Farewell Embrace)』(2019年、本の表紙出典はアマゾン)に広範な盗用を見つけ、出版社がその著書を絶版にしたことを知ったからです。
パラの盗用事件を知り、彼の他の出版物にも盗用があるのではないかと思い、彼の論文を調査しました。
そして、私たちは、彼が単著で発表した論文の盗用を見つけました。パラ自身がアルゼンチンで編集した学術誌のアンナ・コノフォルテ(Anna Conoforte)の論文をスペイン語から英語に機械翻訳した翻訳盗用の論文でした。現在、少なくとももう1つの出版社が、パラの別の著書に盗用があるかどうかを調べています。
2022年2月16日現在(62歳?)、アレハンドロ・パラの盗用の全貌はつかめていない。
そして、アビエルタ・インテルアメリカーナ大学 (Universidad Abierta Interamericana)はネカト調査をしていない(推定)。
教員のネカトを所属大学が調査しないのはアルゼンチンでは普通のことなのか、白楽は把握できていない。
調査していないのだから、アレハンドロ・パラは解雇などの処分がされていない。
なお、「撤回監視(Retraction Watch)」の問い合わせに、アレハンドロ・パラは盗用を認め、次のように答えている。
論文の「はじめに」のセクションに、帰属を示していない(引用符の使用やテキストの引用がない)盗用の事例が複数あるのは事実です…。
しかし、編集者に、方法論、データベース、統計分析、結論は盗用ではないことを「編集者への手紙」で伝えたいとお願いしましたが、許可してくれませんでした。
★22件の著書・論文
2022年2月16日現在(62歳?)、アレハンドロ・パラの著書と論文での盗用の全貌がつかめていない、と書いたが、ブロード編集長は自分の学術誌「Journal of Scientific Exploration」の2021年秋季号でパラの盗用について以下の3解説論文を掲載した。3つ目は自分で書いた論文である。
- Michael Nahm pp.623-638
A New Case of Scientific Dishonesty in the Field of Parapsychology PDF - Etzel Cardeña pp.639-641
Alejandro Parra and Dante’s Eighth Circle of Hell PDF - Stephen Braude pp.642-645
Parra and the Journal of Scientific Exploration PDF
最初の解説論文の著者はスウェーデンのルンド大学のエツェル・カルデーニャ教授(Etzel Cardeña 、写真出典)である。
カルデーニャ教授は、パラの著書・論文の盗用の範囲を調べた。論文の概要は以下のようだ。
→ 2021年9月26日のエツェル・カルデーニャ(Etzel Cardeña)の論文(PDF):Journal of Scientific Exploration, Vol. 35, No. 3, pp. 639–641, 2021 : Alejandro Parra and Dante’s Eighth Circle of Hell
この論文で、超心理学の分野におけるアレハンドロ・パラ(Alejandro Parra)の長期にわたる科学的不正について説明します。パラは、約30年間、超心理学コミュニティの活発なメンバーでした。最近、出版した彼の本や論文が盗用だったことが、明らかになりました。
現在、少なくとも2006年以来、部分的に盗用したケースからほぼ全部盗用したケースまで、22件の盗用著書・盗用論文が見つかりました。
パラは、他の人が得た研究結果を彼自身の研究結果として発表していたので、これはデータねつ造にも相当します。
パラの著書・論文はどれも信用できないと私は結論づけます。調査や実験的研究で得られたデータを含むパラの出版物も、無視すべきです。
●【盗用の具体例】
★「2017年3月のJournal of Scientific Exploration」論文
「2017年3月のJournal of Scientific Exploration」論文の書誌情報を以下に示す。2021年3月8日に撤回された。
- Anomalous/Paranormal Experiences Reported by Nurses in Relation to Their Patients in Hospitals
Parra, A., & Giménez Amarilla, P.
Journal of Scientific Exploration, 31(1), 11–28. (2017).
4ページに渡る撤回告知に盗用箇所が具体的に示してある→ 撤回告知:RETRACTION_Parra.pdf
盗用の一部分を以下に示す。盗用比較図は横ではなく縦に並べている。白楽が、逐語盗用を黄色で、言い換え盗用を桃色で示した。
【盗用①】
盗用部分p. 13 of Parra & Giménez Amarilla, 2017
Stress is usually defined from a ‘demand-perception-response’perspective (see Bartlett, 1998; Lazarus & Folkman, 1984; Lehrer & Woolfolk, 1993; Crandall & Perrewe, 1995). The transition to severe distress is likely to be most detrimental for nurses, closely linked to staff absenteeism, poor staff retention, and illhealth (Healy & McKay, 2000; McGowan, 2001; Shader, Broom, West, & Nash, 2001).. In fact, nursing provides a wide range of potential workplace stressors, as it is a profession requiring a high level of skill, teamwork in a variety of situations, provision of 24-hour delivery of care, and input of what is often referred to as ‘emotional labour’ (Phillips, 1996).
被盗用部分p. xxvii of Qaid, 2011
Stress is usually defined from a ‘demand-perception-response’perspective (Bartlett, 1998). Lazarus and Folkman (1984) integrated this view into a cognitive theory of stress, that has become the most widely applied theory in the study of occupational stress and stress management (Lehrer & Woolfolk 1993; Rick & Perrewe 1995). It is the transition to severe distress that is likely to be most detrimental for nurses, and is closely linked to staff absenteeism, poor staff retention, and ill-health (Healy & McKay, 1999; McGowan, 2001; Shader et al., 2001). Nursing provides a wide range of potential workplace stressors, as it is a profession that requires a high level of skill, team working in a variety of situations, provision of 24-hour delivery of patient care, and input of what is often referred to as ‘emotional labour’ (Phillips and Pearson, 1996).
上記を白楽が、盗用比較図作成ソフトで盗用比較図にし、以下に示す。 → 盗用比較図作成ソフト: https://people.f4.htw-berlin.de/~weberwu/simtexter/app.html
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2022年2月16日現在、パブメド(PubMed)で、アレハンドロ・パラ(Alejandro Parra)の論文を「Alejandro Parra[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の46論文がヒットした。
同姓同名の別人の論文があるようなので、所属大学であるアビエルタ・インテルアメリカーナ大学 (Universidad Abierta Interamericana)と限定して「(Alejandro Parra[Author] ) AND (Universidad Abierta Interamericana[Affiliation])で」検索した。この検索方法だと、2017年と2019年の2論文がヒットした。
2022年2月16日現在、「Alejandro Parra[Author]」で検索した46論文を「Retracted Publication」のフィルターをかけ、パブメドの論文撤回リストを検索した。すると、0論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2022年2月16日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでアレハンドロ・パラ(Alejandro Parra)を「Alejandro Parra」で検索すると、本記事で問題にした「2017年3月のJournal of Scientific Exploration」論文・1論文が2021年3月8日に撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2022年2月16日現在、「パブピア(PubPeer)」では、アレハンドロ・パラ(Alejandro Parra)の論文のコメントを「Alejandro Parra」で検索すると、3論文にコメントがあった。ただし、本記事で問題にした「2017年3月のJournal of Scientific Exploration」論文にはコメントがなかった。
●7.【白楽の感想】
《1》エセ科学
白楽は、超心理学(超常現象学)はエセ科学という先入観が強く、この分野の研究者には悪いけど、アレハンドロ・パラ(Alejandro Parra)が世界的に著名な研究者と言われても、信用できない。
盗用に驚かない。
データねつ造・改ざんにも驚かない。
例えば、念力で物体を動かそうと思いを込めても、動くわけはない。フィクションの物語なら面白い場合もあるけど、ガチ科学で扱うのは勘弁してほしい。
《2》盗用比較図作成ソフト
最近知ったのだけれど、盗用比較図作成ソフト、なかなか優れものです。 → https://people.f4.htw-berlin.de/~weberwu/simtexter/app.html
盗用箇所数を示してくれる。日本語文章も解析してくれる。
PDFにプリントアウトする時、着色部分が消えたので、別の方法で保存した。白楽がまだ使い方を把握できていないのか、そういうソフトなのかわからない。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】
① 2021年3月26日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Journal of the paranormal has its first retraction – Retraction Watch
② 2021年6月1日の「Australian Journal of Parapsychology」記事:Plagiarism in articles by Alejandro Parra | Australian Journal of Parapsychology
③ 2021年9月26日のマイケル・ナム(Michael Nahm)の論文(PDF):Journal of Scientific Exploration, Vol. 35, No. 3, pp. 623–638, 2021 :A New Case of Scientific Dishonesty in the Field of Parapsychology | Journal of Scientific Exploration
④ 2021年9月26日のエツェル・カルデーニャ(Etzel Cardeña)の論文(PDF):Journal of Scientific Exploration, Vol. 35, No. 3, pp. 639–641, 2021 : Alejandro Parra and Dante’s Eighth Circle of Hell
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