7-124 書いていないのに単著論文の著者

2023年9月18日掲載

白楽の意図:「偽造著者(forged authorship)」シリーズ。米国のセントラルフロリダ大学のアンカ・トゥルク講師(Anca Turc)は自分が書いていないのに、単著で「2022年2月のAfrican Journal of Political Science」論文を出版した。誰が、なんで、投稿、出版したのか? 「なりすまし著者」事件を説明したエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)の「2023年4月の撤回監視」論文を読んだので、紹介しよう。2023年ネカト世界ランキングの「2」の「6」である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説 2.キンケイドの「2023年4月の撤回監視」論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●1.【日本語の予備解説】

★「偽造著者(forged authorship)」シリーズ共通の文書

「撤回監視(Retraction Watch)」の記事のカテゴリーの1つに「forged authorship」がある。

この「forged authorship」を白楽ブログでは「偽造著者」と訳した。

従来の「著者(オーサーシップ)」問題は、以下の3点である。

  1. 研究に貢献していないのに共著者になる。共著者になった人はこのことを知っている
  2. 研究に貢献したのに共著者にされない
  3. 論文の著者欄に記載された共著者の順序が不適切

それで、白楽は「著者(オーサーシップ)」問題を「著者在順」問題と命名し明確化していた。

4‐3.著者在順(オーサーシップ、authorship)・代筆(ゴーストライター、ghost writing)・論文代行(contract cheating)

つまり、「著者在順」問題は数十年前からの古い問題で、基本的には、論文の共著者を不適切に示す(示さない)行為で、忖度、アカハラがベースで、著作権・名誉・金銭的損得などの問題になる。

「偽造著者(forged authorship)」は、次元が異なる著者問題に視点を合わせている。しかし、著者在順も含めた著者に関する全問題と捉えることもできる。

後で修正するかもしれないが、一応、以下のように考える。

「偽造著者(forged authorship)」は、特に、インターネット普及後に登場した問題で、著者在順での思考とは異なる手法・動機がある。

実行する人は金銭を得るのが動機と思えるが、白楽には動機がつかめないケースもある。

著者在順での思考とは異なる手法・動機は、以下のどれかだろう。

①論文工場で作った論文を売る(ビジネス)。買った人と執筆者は異なる。執筆者名は論文に載らないか、共著者になっている。
②乗取学術誌、捕食学術誌の質を上昇・維持するために実在の研究者を著者にした論文を出版する(ビジネス)。執筆者と論文の著者欄の人は異なる。
③出版論文数を高めるため論文を買い、自分が執筆していない論文を学術誌に掲載する(研究者)。
④被引用数を高めるために同上(研究者)。
⑤世界大学ランキングを上げるため、無断で高被引用者を共著者にした論文を出版する(大学)。
⑥愉快、イタズラ。狂気(金銭的な得はない)。

白楽は動機を十分掴めていないが、現在、以下の異常事態が発生している。

  1. 無許可共著・・・研究に貢献していない人を無許可で共著者にする。共著者にされた人はこのことを知らない
  2. なりすまし著者・・・実在する他人を単著者にした論文を出版する← 今回の事件
  3. 架空著者・・・実在していない人を著者(単著・共著)にした論文を出版する 

では、従来の「著者在順」と新手の「偽造著者(forged authorship)」は何が大きく異なるか?

著者の素性である。

前者は素性がわかる。

後者は素性が不明である。つまり、実際に執筆した人の「本当の氏名」「有効な連絡方法(電子メールなど)」「所属」が不明(含・虚偽)である。なお、素性がバレる場合もある。

●2.【キンケイドの「2023年4月の撤回監視」論文】

★読んだ論文

2023年4月18日のエリー・キンケイド(Ellie Kincaid、写真出典)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:A professor found her name on an article she didn’t write. Then it got worse – Retraction Watch

本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

方法論の記述はなく、いきなり、本文から入る。

●【論文内容】

★書いていない論文が出版

アンカ・トゥルク(Anca Turcu、写真出典)は、米国のセントラルフロリダ大学(University of Central Florida)・政治・安全保障・国際問題校(School of Politics, Security, and International Affairs)の上級講師で、専門は政治学(Political Science)である。

2022年2月、トゥルクは、学術誌「アフリカ政治学ジャーナル(African Journal of Political Science)」に「中国における廃棄機器のリサイクルに対する政府介入措置の影響(Impact of government intervention measures on recycling of waste equipment in China)」というタイトルの単著論文を発表した。

しかし、ヒジョ~ニ、おかしい。

トゥルクはこの論文を書いていない。もちろん、投稿もしていない。

なお、論文はココで閲覧できたのだが、「撤回監視(Retraction Watch)」が問題点を記事にしたので、学術誌「African Journal of Political Science」は論文を削除してしまった。

どっこい、現在はココで保存版を閲覧できる。

★盗用

しかし、さらに悪いことが起こった。

トゥルクの「2022年2月のAfrican Journal of Political Science」論文は、数か月前に別の学術誌に掲載された論文の盗用だった。

被盗用論文は、以下である。

トゥルクは、勝手に論文の著者にされ、さらに、その論文が盗用論文だったことに、「非常に腹立たしい」「これはまったくひどい」「この人たちは一体何なんですか?」と怒り心頭である。

「撤回監視(Retraction Watch)」は上海の同済大学(Tongji University)に所属する被盗用論文の著者に電子メールで、盗用されたことを知っているかと問い合わせたが、返答はなかった。

また、学術誌「Energy Policy」の上級編集者兼調整編集者で、ロンドンのグリニッジ大学(University of Greenwich)・教授のスティーブン・トーマス教授Stephen D. Thomas、写真出典)にメールで問い合わせたが、不在との返答だった。

★学術誌「African Journal of Political Science」

学術誌「African Journal of Political Science」は、学術誌「International Scholars Journals (ISJ)」が発行している。

学術誌「International Scholars Journals (ISJ)」のウェブサイトには、盗用に関するポリシーを次のように述べている。

ISJの編集者は、投稿原稿の盗用(含・自己盗用)に対して非常に厳格な対応をしています。盗用の申し立てや査読プロセス中に見つかった盗用を調査するのにあらゆる合理的な努力をしています。

ところが、International Scholars Journals (ISJ)の編集長でジンバブエのビンドゥラ科学教育大学(Bindura University of Science Education)のジェフィアス・マプヴァ教授(Jephias Mapuva)に、今回の事件を「撤回監視(Retraction Watch)」が通知したが、マプヴァ編集長は返答してこなかった。

ISJのウェブサイトは、「出版規範委員会(COPE)の会員であり、その行動規範を遵守し、善行ガイドラインを遵守することを目指している」と述べている。

しかし、出版規範委員会(COPE)のサイトで会員かどうか調べると、ISJは会員ではなかった。

★なぜ?

誰が、なんで、他人の名前で投稿、出版したのか? 

なぜ、アンカ・トゥルク(Anca Turcu)が選ばれたのか?

トゥルクの研究は論文の中身と何の関係もない。

トゥルクは、正規の論文の著者たちの誰とも交流したことがない。

●7.【白楽の感想】

《1》謎解き

学術誌「African Journal of Political Science」のサイトは以下の会員になっていると書いてあり、かなりまともな学術誌のように見える。

しかし、学術誌「African Journal of Political Science」は、2004頃、「乗っ取られた」乗取学術誌らしい。 → 2021年8月13日記事:A scam journal pretending to be the real thing | LinkedIn

また、学術誌「International Scholars Journals (ISJ)」は捕食学術誌だと、スマット・クライド(Smut Clyde)が指摘している。

だから、これで謎が解けましたね。

ウン? 謎は解けていない? 

現在、デタラメな学術誌はゴマンとある。

そして、論文と学術誌にイタズラして遊ぶ狂人がゴマンと、ゴマンはいないけど、ソコソコいる。例えば、以下のようなことがありました。

7-117 有名な文学者名の科学論文

 

前代未聞のねつ造論文 学会発表したデータを基に第三者が論文を発表

常軌を逸脱した狂気の言動を理解するの難しい、というのが白楽の回答です。「謎解き」になっていません?

《2》論文と学術誌は激変

学術誌「African Journal of Political Science」を乗取学術誌としよう。

白楽が推察するに、実在のまともな研究者の論文を掲載することで、乗取学術誌をまともな学術誌に偽装したいのだろう。

だから、あまり有名ではないけど堅実な研究者であるアンカ・トゥルク(Anca Turcu)を選び著者にしたのだ。

そういう観点では、日本人名も勝手に使われる可能性がある。

堅実な研究者であるアナタ、知らない論文の著者になっていますよ、キット。

自分が書いていないのに論文著者になっている日本人研究者がどれだけいるのか、調べてみたいけど、どうやって調べると一網打尽できるのか、白楽はワカリマセン。

優秀なアナタ、調べてくれませんかね?

昔、白楽が現役の研究者だった頃、論文と学術誌は崇高だった。

それが、インターネットの登場で、論文と学術誌の役割・機能が大きく変わってしまったようだ。

論文出版はもはや研究者の研究上のコミュニケーションのためのものではなく、論文出版数と被引用数を高め、金を稼ぐためのものです・・・デボラ・ヴィーバー=ヴルフ(Debora Weber-Wulff)

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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●8.【主要情報源】

① 2023年4月18日のエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:A professor found her name on an article she didn’t write. Then it got worse – Retraction Watch

★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●9.【コメント】

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