7-87 臨床試験での研究不正

2021年12月28日掲載 

白楽の意図:臨床試験での研究不正を解説したアレサンドラ・バッファ(Alessandra Baffa)らの「2021年10月のClinical Leader」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.書誌情報と著者
2.日本語の予備解説
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説など加え、色々加工している。

研究者レベルの人で、元論文を引用するなら、自分で原著論文を読むべし。

●1.【書誌情報と著者】

★書誌情報

★著者

  • 第1著者:アレサンドラ・バッファ(Alessandra Baffa)
  • 紹介:本論文
  • 写真:本論文
  • ORCID iD:
  • 履歴:Alessandra Baffa | LinkedIn
  • 国:米国
  • 生年月日:米国。現在の年齢:32 歳?
  • 学歴:2014年に米国のマウント・ホリオーク大学(Mount Holyoke College)で学士号(国際関係学)、2016年にボストンカレッジ(Boston College)で修士号(政治学・政府)、研究博士号(PhD)なし
  • 分野:GxP品質コンサルタント。
    GxP:「GxPはGood x practice(適正 x 基準、優良 x 規範)の略で、安全性や信頼性を確保することを目的に政府等の公的機関で制定する基準を表す言葉の略称である。特に製薬産業関係のものが多い」(GxP – Wikipedia
  • 論文出版時の所属・地位:2020年3月から、ハロラン・コンサルティング・グループ社のGxP品質コンサルタント(GxP quality consultant at Halloran Consulting Group)。

ハロラン・コンサルティング・グループ社(Halloran Consulting Group)。East Office, Halloran Headquarters, 22 Thomson Place, Boston, MA 02210, USA。写真出典

●2.【日本語の予備解説】

省略

●3.【論文内容】

本論文は学術論文ではなくウェブ記事である。本ブログでは統一的な名称にするため論文と書いた。

方法論の記述はなく、いきなり、本文から入る。

ーーー論文の本文は以下から開始

《1》序論 

臨床試験における研究不正は、患者、規制当局、業界の専門家に大きな警鐘を鳴らす。

しかし、研究不正とは何を意味しているのか?

そして、研究不正で生じる悪影響とは何なのだろうか? 

研究公正局(ORI)は、研究不正を、「研究の提案、実行、評価、報告におけるねつ造、改ざん、盗用」と定義している。

臨床試験における研究不正には、①被験者、評価、標本などのねつ造、②虚偽・誤解を招く情報の意図的な記録・報告、③取得していないデータの報告、④通常は報告するデータの削除、などがある。

図出典:本論文

研究不正は、広範囲にわたる行為を対象としているが、その悪影響は明らかである。

即時の対応として、依頼主である製薬会社は、被験者の登録停止、治験薬の保留、研究サイトの閉鎖、スタッフの再訓練、一部またはすべてのデータ・分析の無効化などとなる。

重大な問題としては、患者に健康被害の可能性があるかもしれないことだ。

また、食品医薬品局(FDA)の医薬品承認申請のために準備したデータ全部に研究公正の疑念を抱かせることだ。

《2》臨床試験での研究不正 

どのような状況で臨床試験での研究不正が生じるのか? 

そして連邦法とその執行機関は、これらの研究不正にどう対処するのか?

これらを知ることは、研究不正のインパクトを理解する上で重要である。

がんの臨床試験で発覚したデューク大学(Duke University)のネカトでは、研究者のアニル・ポティ(Anil Potti)は、「発表論文、投稿原稿、助成金申請書に虚偽の研究データを記載するという研究不正を行なった」。 → アニル・ポティ(Anil Potti)(米)改訂 | 白楽の研究者倫理

ネカト発覚の結果、研究公正局(ORI)は、データがねつ造・改ざんされ、誤ったデータが報告されたとする調査結果を発表し、臨床試験は中断された。

司法省(DOJ)は、臨床試験の違法行為を行なった者に対する複数の訴訟を明らかにした。

注目すべき例の1つは、2020年11月に司法省(DOJ)がリリースした「米国対ラベントスら(U.S. vs. Raventos et al.)」の事件である。 → リセット・ラベントスはこの記事中に登場する:イヴェリス・ヴィラマン=ベンコスメ(Yvelice Villaman-Bencosme)(米) | 白楽の研究者倫理

この事件では、主任研究員のヴィラマン=ベンコスメ医師が臨床試験の医療データをねつ造しただけでなく、治験参加者をねつ造して記載し、最終的には通信詐欺(Wire Fraud)で有罪となった。

臨床試験は、4歳から11歳までの子供を対象とした喘息治療薬の安全性と有効性を試験するものだった。

依頼主である製薬会社(匿名)とヴィラマン=ベンコスメ医師の仲介をするアンリミテッド医学研究社(Unlimited Medical Research)の臨床試験コーディネーターだったラベントスも有罪となった。

ラベントスは、2013年から2016年頃まで、治験者リストをねつ造し、依頼主である製薬会社を欺いていた。

ラベントスは、架空の治験者がアンリミテッド医学研究社(Unlimited Medical Research)に定期的に来て、必要に応じて治験薬を受けとり、料金を支払ったかのように見せかけるために、医療記録を改ざんしたことを認めた(米国対ラベントスら(U.S. vs. Raventos et al.))。

ここで重要なのは、製薬会社(匿名)が依頼した臨床試験は、ヴィラマン=ベンコスメ医師らに間違った方向に誘導されただけでなく、ヴィラマン=ベンコスメ医師らが作成したすべてのデータの信頼性が損なわれたことである。

《3》司法省(DOJ)と食品医薬品局(FDA)で見つかる不正の一般的な共通項 

司法省(DOJ)だけでなく食品医薬品局(FDA)もネカトに対処している。

食品医薬品局(FDA)の犯罪捜査室(Office of Criminal Investigations)はネカト調査をし、調査の結果、連邦食品医薬品化粧品法(Food, Drug, and Cosmetic Act)および関連法の違反となる場合、「FDA Form 483」を発行して行政措置をする。 → Form FDA 483とは – お役立ち情報

この結果、食品医薬品局(FDA)は、製薬会社からのデータ受け取り拒否、医薬品の承認取り消し、ライセンス取り消し、などの処分を科す場合もある。

コロナのパンデミックで、一時停止されたにもかかわらず、食品医薬品局(FDA)の医薬品評価研究センター(CDER:Center for Drug Evaluation and Research)は、2020年(会計年度)の1年間に、372件の臨床研究査察を実施した。

これら査察で見つかる不正の一般的な共通項は次のとおりである。

1. 臨床研究者や委託研究機関(CRO)担当者など現場の人の関与
2. 連邦犯罪と論文撤回

《4》研究不正行為の背後にあるもの 

研究不正行為は、次のようなさまざまな理由で発生する。

  • 現場レベルでのリソース不足
  • スタッフの離職または訓練不足のスタッフ
  • 出版プレッシャー
  • 功績が認めることへの欲求またはお金への欲求

臨床試験を行なっている現場では、臨床試験をサポートし監視するための十分なリソースがないことが多い。そのことが、ズサンで怠慢な臨床試験を引き起こすと考えられる。

依頼主である製薬会社の代表として監視人が雇われ、監視人が依頼主である製薬会社に代わって不正行為をチェックすることになる。

依頼主である製薬会社は監視人の日常作業に関与していない。

そして、残念ながら、定期的な監査をしても、また、規制当局が査察しても、臨床試験での研究不正が検出されないことがよくある。

《5》依頼主である製薬会社の責任 

人に投与する医薬品や生物学的製品、および人に使用する医療機器に関する臨床試験では、依頼主である製薬会社・医療機器会社は、被験者の保護及びそのデータの品質と公正に責任がある。

これには、インフォームドコンセントの適正さ、安全性の評価、最終データの評価、および研究プロトコルに従っていることの確認が含まれる。

さらに、問題を検知した時、依頼主である製薬会社・医療機器会社は食品医薬品局(FDA)の規則(21 CFR 213.56(b))および医薬品規制調和国際会議(ICH)の求める「良き臨床上の基準(International Council on Harmonization Good Clinical Practices:ICH GCP 5.20)」の法令を遵守するための行動を、迅速に起こす必要がある。

依頼主である製薬会社・医療機器会社にとって、研究不正を検出することは重要な課題である。その監視の設計・実行に効果的な手順がある。

[数週間以内にリリースされるこの2部構成のシリーズのパート2では、偶発的な研究不正行為を回避するため、製薬会社・医療機器会社の監視の重要な要素を探る、をお送りします]。

●4.【関連情報】

本論文は2021年10月5日出版の論文で、その末尾に、次の記述がある。

「数週間以内にリリースされるこの2部構成のシリーズのパート2では、偶発的な研究不正行為を回避するため、製薬会社・医療機器会社の監視の重要な要素を探る、をお送りします」。

出版から12週間経過したが、パート2は出版されていない。

●5.【白楽の感想】

《1》「唸らせる」切り口 

臨床試験での研究不正のポイントを上手にまとめてあるが、新しい視点や著者独特の切り口はない。

GxP品質コンサルタントとしては、「臨床試験での研究不正」を正面から把握する正攻法のアプローチを示している。それは、まあ、妥当である。

ただ、白楽のようなクセのある研究者はこのレベルの解説では物足りない。するめのように噛みごたえのある論文が“美味しい”。コマッタ味覚である。

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●6.【コメント】

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