ヴェンカタ・レディ(Venkata J. Reddy)(米)

2018年3月11日掲載。

ワンポイント: 2015年4月(33歳?)、ボスが申請したNIH研究費申請書にねつ造・改ざんデータを提供したことで、研究公正局がネカトと発表した。専門は有機化学だが、研究公正局が事件を処理したので本ブログでは生命科学に分類した。インドで修士号を取得後、米国のミネソタ大学(University of Minnesota)・化学専攻の院生になった男性で、医師ではない。科学庁(NSF)への研究費申請書にも同様な行為をしたため、2013年11月に科学庁もネカトを認定し、締め出し期間の終了を2018年8月26日に設定していた。研究公正局もかなり厳しい5年間という締め出し期間を科したが、科学庁がすで科した5年間の締め出し期間の終了日に合わせたためで、実質は3年4か月である。2011年初頭(29歳?)、ボスのクリストファー・ダグラス準教授(Christopher J. Douglas)がデータねつ造・改ざんに気が付いて大学に通報したことが発端である。損害額の総額(推定)は1億3700万円。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ヴェンカタ・レディ(Venkata Jaganmohan Reddy、顔写真見つからない)は、インドで修士号を取得後、米国のミネソタ大学(University of Minnesota)・化学専攻の院生になった男性で、医師ではない。専門は有機化学だが、研究公正局が事件を処理したので本ブログでは生命科学に分類した。

2011年初頭(29歳?)、ボスのクリストファー・ダグラス準教授(Christopher J. Douglas)がNIH/NIGMSへ申請した研究費申請書R01 GM095559-01A1に院生のヴェンカタ・レディから入手したデータを記載した。ところが、そのデータがねつ造・改ざんだと気が付いて大学に通報した。

2013年11月(31歳?)、科学庁(NSF)への研究費申請書にも同様な行為をしたため、科学庁はネカトを認定し、5年間の締め出し期間を科していた。

2015年4月(33歳?)、研究公正局がネカトと発表した。研究公正局はかなり厳しい5年間という締め出し期間を科した。但し、締め出し期間の終了は2018年8月26日だから、実質3年4か月で、科学庁の締め出し期間と終了日を一緒にした。

【動画】ミネソタ大学(University of Minnesota)・化学科(UMN Department of Chemistry Grad Student Video – HD)
College of Science and Engineering, UMN 2016/06/23 に公開

  • 国:米国
  • 成長国:インド
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1982年1月1日生まれとする。2007年の大学院入学時を25歳とした
  • 現在の年齢:42 歳?
  • 分野:有機化学
  • 最初の不正論文発表:2010年(28歳?)
  • 発覚年2011年(29歳?)
  • 発覚時地位:ミネソタ大学(University of Minnesota)・化学専攻の院生
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は、推定だが、ボスのクリストファー・ダグラス準教授(Christopher J. Douglas)である。NIH/NIGMSへ申請した研究費申請書R01 GM095559-01A1に院生のヴェンカタ・レディから入手したデータを記載した。ところが、そのデータがねつ造・改ざんだと気が付いて大学に通報した。
  • ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ミネソタ大学・調査委員会。②科学庁。③研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)。
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:論文ではなく、ボスが申請した研究費申請書
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 損害額:総額(推定)は1億3700万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円だが、研究になる直前なので損害額は4500万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が、研究者になっていないので損害額はゼロ円。④外部研究費の額は不明で、額は①に含めた。⑤調査経費(大学と学術誌出版局と研究公正局)が5千万円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。1報撤回=200万円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分: NIHから 5年間の締め出し処分

●2.【経歴と経過】

ほとんど不明。

  • 生年月日:不明。仮に1982年1月1日生まれとする。2007年の大学院入学時を25歳とした
  • xxxx年(xx歳):インドのナショナル工科大学(National Institute of Technology, Warangal)で修士号取得
  • 2007年(25歳?):ミネソタ大学(University of Minnesota)・化学専攻で研究博士号(PhD)コースの院生
  • 2011年(29歳?):ネカトが発覚
  • 2011年(29歳?):ミネソタ大学を退学(推定)
  • 2015年4月(33歳?):研究公正局がネカトと発表した

●5.【不正発覚の経緯と内容】

2007年(25歳?)、ヴェンカタ・レディ(Venkata J. Reddy)はミネソタ大学(University of Minnesota)・化学専攻・大学院に入学した。

研究室のボスはクリストファー・ダグラス準教授(Christopher J. Douglas、写真
https://chem.umn.edu/profiles/christopher-douglas)で、アルケンシアノアミド化を研究していた。

撤回監視の質問にダグラス準教授は以下のように答えている。

2011年初頭、私(ダグラス準教授)はヴェンカタ・レディの未発表の実験データの異常に気が付きました。その事を、ミネソタ大学の研究公正官に伝えると、ミネソタ大学は調査を開始しました。

学生プライバシー法(student privacy laws)があるので、調査結果の詳細をお伝え出来ませんが、研究公正局の結果の通りです。

ミネソタ大学の研究公正官に相談したあと、ヴェンカタ・レディの行なった実験結果の再現性をチェックしました。その時すでに2つの論文を投稿していました。論文は出版されていたのですが、再現性が得られませんでしたので、それらを撤回しました。撤回公告は「Tetrahedron 2011, 67, 5360」と「Organic Letters2011, 13, 3288」です。

その後、ヴェンカタ・レディの実験結果を記載した科学庁(NSF)への研究費申請書を取り下げました。また、NIHの科学運営官(プログラム・オフィサー)にも状況を伝えました。

論文投稿前そして、研究費申請前に研究データの異常を感知できなかったことをとても後悔しています。

「2010年のOrg Lett.」論文が2011年6月に撤回された。ボスのダグラス準教授は2011年初頭に実験データの異常に気が付いたと述べているので、時系列は符合する。

この論文撤回では、撤回理由が記載されていない。

2011年頃、同じようにねつ造・改ざんしたデータをボスに提出し、ボスがネカトとは知らずに、研究費申請書に記載したのだろう。2012年以降、ヴェンカタ・レディがダグラス準教授と共著で発表した論文はない。

なお、研究公正局が問題視したのは論文ではない。ボスがNIH/NIGMSへ申請した研究費申請書R01 GM095559-01A1である。

2015年4月(33歳?)、ボスが申請したNIH研究費申請書にねつ造・改ざんデータを提供したことで、研究公正局がネカトと発表した。科学庁への研究費申請書にも同様な行為をしたため、それ以前(年月日不明)に科学庁もヴェンカタ・レディのネカトを認定していた。

DOC043015

 

研究公正局はかなり厳しい5年間という締め出し期間を科した。但し、締め出し期間の終了は2018年8月26日だから、実質3年4か月で、科学庁と調整した。

【ねつ造・改ざんの具体例】

研究公正局が問題視したのは論文ではない。ボスがNIH/NIGMSへ申請した研究費申請書R01 GM095559-01A1である。

研究公正局がねつ造・改ざんを次のように指摘した。

データのカット・アンド・ペーストと装置の操作で、1つのエナンチオマー(enantiomer)が他のエナンチオマーよりも高い選択性を持っていることを示した(ねつ造・改ざん)。また、都合の良い結果を得るために、研究費申請書R01 GM095559-01A1の図15で、化合物22の基礎核磁気共鳴分光法(NMR)データをカット・アンド・ペーストで改ざんした。

しかし、具体的な図表をここに示すことはできない。研究費申請書なので、第三者はこれ以上知ることができないからだ。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

2018年3月10日現在、パブメド(PubMed)で、ヴェンカタ・レディ(Venkata J. Reddy)の論文を「Venkata J. Reddy [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、0論文がヒットした。パブメドは生命科学の論文データベースなので、有機化学は十分カバーしていないだろう。

「Reddy VJ[Author]」で検索すると、1981- 2017年の13論文がヒットした。

ボスのクリストファー・ダグラス準教授(Christopher J. Douglas,)との共著論文を「Reddy VJ[Author] AND Douglas CJ [Author]」で検索すると、2009- 2011年の3論文がヒットした。

2018年3月10日現在、「Reddy VJ[Author] AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、1論文が撤回されていた。つまり、「2010年のOrg Lett.」論文が2011年6月に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2018年3月10日現在、「パブピア(PubPeer)」はヴェンカタ・レディ(Venkata J. Reddy)の論文にコメントしていない:PubPeer – Search publications and join the conversation.

●7.【白楽の感想】

《1》詳細は不明

この事件の詳細は不明です。

ヴェンカタ・レディ(Venkata J. Reddy)はインドで修士号を取得後、米国の大学院に進学したインド系・院生である。

一般的に、米国のインド系・院生・研究者にネカト事件が多い。インドの研究文化・価値観がしみ込んでいているためだろう。

しかし、事件は百人百様である。一般論で済ますのは事実誤認する可能性がある。だから、ヴェンカタ・レディ事件もヴェンカタ・レディの事情を探りたい。しかし、ヴェンカタ・レディがどうしてネカトをする状況になったのか不明である。

ネカト防止策は次の《2》で述べる一般論以外、この事件からは学べない。

《2》大学院・研究初期のネカト

白楽は、院生の論文を研究公正局レベルの事件にしてしまうのは、指導教員がおかしいと思う。ヘレン・フリーマン(Helen C. Freeman)(米)の記事の【白楽の感想】にその思いを具体的に書いた。そちらを読んでほしい。

一方、院生の時にネカト行為を見つけて、早々と研究界から排除するシステムは優れていると思う。グズグズしていると、知識・スキル・経験が積まれ、なかなか発覚しにくくなるし、ネカト行為の影響が大きくなる。被害が大きくなる。

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●8.【主要情報源】

① 2015年5月7日の研究公正局の報告:(1)NOT-OD-15-100: Findings of Research Misconduct、(2)2015年5月7日:Findings of Research Misconduct | NCCIH
② 2015年4月30日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Misconduct earns researcher a five-year ban on federal funding | Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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