2016年11月26日掲載。
ワンポイント:2016年10月にクロアチアの科学大臣に就任したスプリット大学・元教授(男性、57歳)の盗用事件。公式には盗用でないとされ、2016年11月25日現在、現職の科学大臣である。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】
パーヴォ・バリシック(Pavo Barišić、写真出典)は、クロアチアのスプリット大学(University of Split)・教授で、専門は政治哲学だった。
2016年9月(57歳)、クロアチアの国会議員の選挙があり、クロアチア民主同盟(HDZ)を主軸とする連立政権が誕生し、2016年10月、クロアチア民主同盟のアンドレイ・プレンコビッチ(Andrej Plenković)が首相に就任した。
2016年10月19日(57歳)、プレンコビッチ首相がバリシック教授を科学大臣に任命した。ところが、バリシック科学大臣の盗用が指摘され、学術界からの反発を受けた。とはいえ、公式には盗用ではないとされ、2016年11月25日現在は、現職の科学大臣である。
クロアチア議会(Croatian Parliament )。写真出典
- 国:クロアチア
- 成長国:クロアチア
- 研究博士号(PhD)取得:ドイツのアウクスブルク大学
- 男女:男性
- 生年月日:1959年9月9日
- 現在の年齢:65 歳?
- 分野:政治哲学
- 最初の不正論文発表:2008年年(49歳)
- 発覚年:2016年(57歳)
- 発覚時地位:クロアチアの科学大臣
- ステップ1(発覚):第一次追及者は被盗用者で、米国の政治評論家で国際関係の専門家であるスティーブン・シュレジンガー(Stephen Schlesinger)と思われる。スプリット大学に公益通報?
- ステップ2(メディア):クロアチアの新聞「ノーボスチ(Novosti)」、「Chemistry World」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①クロアチアの高等教育倫理委員会(higher education ethics committee)。国家機関? ②スプリット大学? ③ 裁判所
- 不正:盗用。公式には盗用ではないとされた
- 不正論文数:1報
- 時期:研究キャリアの中期から
- 結末:辞職なし
主な出典:http://pavobarisic.eu/en/curriculum-vitae(保存版)
- 1959年9月9日:生まれる
- 1982年(22歳):クロアチアのザグレブ大学(University of Zagreb)・法学部を卒業
- 1983年(23歳):クロアチアのザグレブ大学(University of Zagreb)・哲学部を卒業
- 1985年(25歳):クロアチアのザグレブ大学(University of Zagreb)で哲学修士号(PhD)を取得。修士論文タイトル:「Hegel’s Practical Philosophy」
- 1986年(26歳):クロアチアのザグレブ大学付属・哲学研究所(Institute of Philosophy in Zagreb)の上級研究員
- 1989年(29歳):ドイツのアウクスブルク大学(University in Augsburg)で研究博士号(PhD)を取得。博士論文タイトル:「Welt und Ethos. Hegels Stellung zum Untergang des Abendlandes」
- 1991 – 2001年(31-41歳):クロアチアのザグレブ大学付属・哲学研究所(Institute of Philosophy in Zagreb)の所長
- 2005年(45歳):クロアチアのスプリット大学(Full professor at the Faculty of Philosophy of the University of Split)・正教授。哲学科学科長(2005-2013年)
- 2016年10月19日(57歳):クロアチアの科学大臣に就任
- 2016年10月19日(57歳):盗用が指摘された。公式には盗用ではないとされた
- 2016年11月25日現在(57歳):現職の科学大臣
●3.【動画】
【動画1】
バリシック科学大臣の盗用(博士論文の盗用)ニュース。
ニュース動画:「Pavo Barišić, kandidat za ministra znanosti i obrazovanja – YouTube」(クロアチア語)46秒。
Sens Servis が2016/10/19 に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★経緯
2016年10月19日(57歳)、バリシックは、クロアチアのスプリット大学・正教授からクロアチアの科学大臣に就任した。
2016年10月19日(57歳)、クロアチアの新聞「ノーボスチ(Novosti)」が、クロアチアのスプリット大学・正教授の時に出版したバリシックの論文は他人の文章を盗用していると指摘した。
盗用と指摘されたバリシックの論文は、クロアチアの学術誌「2008年のSynthesis philosophica」論文で論文タイトルは「Does globalization threaten democracy?」だった。2008年当時、バリシックは、この学術誌の編集委員だった。.
バリシックは、米国の政治評論家で国際関係の専門家であるスティーブン・シュレジンガー(Stephen Schlesinger)の文章を盗用したと指摘された。他にも2つの論文から盗用したと指摘された。
シュレジンガーは、「バリシックの文章は私の論文「Can democracies be organized?」中の文章と酷似した部分がある。彼は、引用符で囲み脚注に出典を記載すべきだった。つまり、手短に言えば、これは、盗用と定義される」と述べている。
ところが、パーヴォ・バリシックは、盗用のすべてを否定した。すでに、3つの大学の倫理委員会が、「盗用ではない」と結論していた。法廷では誰も盗用と証明しなかった。10年前、副科学大臣に就任していた時に経理乱用で告発されたが、個人的な理由で副科学大臣を辞任したことも付け加えた。
パーヴォ・バリシックは、「論文は初版・2版・3版と3回出版していて、初版には間違いがあった。2版・3版の2つ論文では、スティーブン・シュレジンガー(Stephen Schlesinger)の文章を引用符で囲み脚注に出典を記載している。初版で間違えたことは、著者に陳謝する」と述べた。
一方、ネカトと指摘された者が科学大臣に就任していることに、学術界の多くはがっかりしている。
前クロアチア科学大臣で数学者のフルヴォイェ・クラリェヴィチ(Hrvoje Kraljević)は、「バリシックは、今まで何度も大きな事件を起こしていて、いつも責任がウヤムヤである。そのどの事件1つでも、彼が大臣にふさわしくないことは明白だ。科学大臣のような重要なポジションにバリシックのような人が選ばれるのは、受け入れられない」と述べている。
★盗用内容
盗用論文と被盗用論文の文章を比較したデータを探した。2016年10月21日のクロアチアの新聞「ノーボスチ(Novosti)」が盗用部分を示していた(【主要情報源】③)。
以下に3か所示すが、盗用論文は上記の「2008年のSynthesis philosophica」論文である。3つの論文から盗用した。
【1番目】
下図の下半分の左がバリシックの盗用文章で、右がシュレジンガーの被盗用論文である。
太字が盗用したとされる文章で、量的には盗用と思われる。ただ、盗用部分の質(論文の中での重要性)は論文全体を読んでいない白楽には判定できない。
【2番目】
1993年の「The third wave: democratization in the late twentieth century」からも盗用した。左がバリシックの盗用文章で、右が被盗用論文である。
太字が盗用したとされる文章で、文章は確かに盗用と思われる。盗用と言われれば盗用だが、量は多くない。質はどうでしょう?
【3番目】
2001年の「The end of politics」からも盗用した。下図の下半分の左がバリシックの盗用文章で、右が被盗用文章である。
太字が盗用したとされる文章だが、量は少ない。この程度だと、盗用とハッキリ判定しにくい。質はどうでしょう?
●7.【白楽の感想】
《1》汚れた過去
パーヴォ・バリシックは何回か事件を起こしている。事件になるほどの不正をしないと、教授や大臣になれないのだろうか?
また、どうして過去が汚れた人を、国会議員、国の委員、重要な役職に選任するのだろう。
白楽は、この手の事件が起こるたびに思うのだが、候補者を選ぶ過程で(公表する前に)、どうして与党側は、自分たちで候補者を十分に調査をしなかったのだろう?
→ 教育学:「著者在順」:ミョンス・キム、金明洙、김명수(Myung Soo Kim)(韓国) | 研究倫理(研究ネカト)
また、問題が発覚し、職務に必要なリーダーシップが発揮できないのは明白なのに、役職を辞任しない・させないのは、どうしてなのだろう?
《2》訂正すれば盗用は無罪?
パーヴォ・バリシックの「2008年のSynthesis philosophica」論文は初版・2版・3版と3回出版していて、初版には盗用があったが、2版・3版は訂正したとバリシックが述べている。だから、盗用ではないと主張した。
この場合、盗用はあったとするのか、ないとするのか?
物を盗んでおいて、盗みを指摘されたら返した。だから、盗みはない、という理屈は、かなりヘンだ。
日本の政治家も同じで、不正なお金を貰っても、返せばいいという振舞だ。返しても済まないでしょう。それを済ませてしまう日本社会も腐っている。
クロアチアの国家機関らしい高等教育倫理委員会(higher education ethics committee)、裁判所、3つの大学の倫理委員会は「盗用ナシ」と結論した。かなりヘンだ。
●8.【主要情報源】
① ウィキペディア・クロアチア語版:Pavo Barišić – Wikipedija
② 2016年10月19日のPiše Novosti記者の「ノーボスチ(Novosti)」記事:Novosti :: Upravo izabranog ministra Barišića kolege prijavile za plagijat(保存版)
③ 2016年10月21日のPiše Ana Brakus記者の「ノーボスチ(Novosti)」記事:Novosti :: Objavljujemo sadržaj prijave protiv Barišića skrivane pet godina (保存版)
④ 2016年11月3日のNenad Jarić Dauenhauer記者の「Chemistry World」記事:Plagiarism probe opened into Croatia’s new science minister | News | Chemistry World(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。