2020年1月10日掲載
ワンポイント:多数論文撤回者。撤回論文世界ランキングの第22位(リストで24番目、26撤回論文)に登場したので記事にした。2014年(32歳?)、イラン人だが、マレーシアのマラヤ大学で研究博士号(PhD)を取得し、イランのイスラーム・アーザード大学(Islamic Azad University)・助教授(推定)になった。2017年(35歳?)、学術誌が論文を精査し、不正を見つけ、5報を撤回した。この時点をネカト発覚とした。撤回理由は、盗用、自己盗用、査読偽装である。その後、全部で28論文が撤回された。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
シャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband、Shahab Shamshirband、ORCID iD:https://orcid.org/0000-0002-6605-498X、写真出典)は、事件が発覚した2017年2月時点で、イランのイスラーム・アーザード大学(Islamic Azad University)・従業員(助教授?)、イラン科学技術大学(Iran University of Science and Technology)・非常勤助教授という履歴書と、マレーシアのマラヤ大学(University of Malaya)・講師という履歴書がある。ここではORCID情報のイスラーム・アーザード大学を採用した。職位は助教授とした。専門はコンピュータ学である。
学術誌の撤回公告では、盗用、自己盗用、査読偽装の不正を行なったとある。査読偽装が見つかっているので、学術誌が論文を精査し、不正を見つけたものと思われる。
シャムシャーバンドは多数論文撤回者である。撤回論文ランキングでは世界第22位(リストで24番目)で、撤回論文数は26報となっているが、撤回論文データベースでは撤回論文数が28報ある。撤回論文ランキングに登場したので記事にした。 → 2020年1月8日更新:「撤回論文数」世界ランキング | 研究倫理(ネカト、研究規範) → 2019年12月11日保存: The Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch
28撤回論文の内訳は、2014-2016年に出版した論文が、2014年に1報、2016年に1報、2017年に5報、2018年に11報、2019年に10報、撤回された。計28報の撤回である。
2017年(35歳?)に5報が撤回された時点をネカト発覚とした。
イスラーム・アーザード大学マシュハド校(Islamic Azad University Mashhad Branch)。写真出典
- 国:イラン
- 成長国:イラン
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:マレーシアのマラヤ大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2006年に学士号を取得した時を22歳とした
- 現在の年齢:40 歳?
- 分野:コンピューター学
- 最初の不正論文発表:2014年(32歳?)
- 不正論文発表:2014-2016年(32-34歳?)の3年間
- 発覚年:2017年(35歳?)
- 発覚時地位:イスラーム・アーザード大学・助教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は学術誌・編集部
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない
- 大学の透明性:調査していない(Ⅹ)
- 不正:盗用、自己盗用、査読偽装
- 不正論文数:28撤回論文
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
参考:① ORCID履歴書、② S Sham | ChronicleVitae、③ Shahab Shamshirband – Short Bio
- 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2006年に学士号を取得した時を22歳とした
- 2006年(22歳?):イランのイスラーム・アーザード大学マシュハド校(Islamic Azad University Mashhad Branch)で学士号取得:ソフトウェア工学
- 2006年11月1日-2008年9月1日(22-24歳?):同大学で修士号取得:コンピュータ学
- 2008年1月1日-2018年1月1日(24-34歳?):イランのイスラーム・アーザード大学(Islamic Azad University)・従業員(のちに、助教授?)
- 2011年6月5日-2014年8月31日(27-30歳?):マレーシアのマラヤ大学(University of Malaya)で研究博士号(PhD)を取得
- 2014年11月1日-2015年12月30日(30-31歳?):同大学・ポスドク
- 2015年10月1日-2016年12月31日(31-32歳?):同大学・上級講師
- 2016年4月12日(34歳?)-現:イラン科学技術大学(Iran University of Science and Technology)・非常勤助教授
- 2017年11月1日(35歳?)-現:ノルウェー科学技術大学(Norwegian University of Science and Technology)・ポスドク
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★多数論文出版者
シャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)は、2014年8月にマレーシアのマラヤ大学(University of Malaya)で研究博士号(PhD)を取得したのだが、2017年2月の「撤回監視(Retraction Watch)」記事では、すでに200報以上の論文を出版していたとある。驚くほど多数の論文を出版した多数論文出版者である。その記述は → ココ
★発覚の経緯
学術誌の撤回公告では、シャムシャーバンドが盗用、自己盗用、査読偽装の不正を行なったとある。査読偽装を見つけているので、学術誌が論文を精査して不正を見つけたものと思われる。
★多数論文撤回者
撤回論文ランキングでは世界第22位(リストで24番目)で、撤回論文数は26報となっている。→ 2020年1月8日更新:「撤回論文数」世界ランキング | 研究倫理(ネカト、研究規範) → 2019年12月11日保存: The Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch
しかし、後述するように、撤回論文データベースで調べると撤回論文数は28報ある。
28撤回論文の内訳は、2014-2016年に出版した論文が、2014年に1報、2016年に1報、2017年に5報、2018年に11報、2019年に10報、の28報である。
●【ネカトの具体例】
★「2014年のPhysica E」論文
- Investigation of plasmonic studies on morphology of deposited silver thin films having different thicknesses by soft computing methodologies—A comparative study
Rozalina Zakaria, Siti Munirah Che Noh, Dalibor Petković, Shahaboddin Shamshirband, Richard Penny
Physica E: Low-dimensional Systems and Nanostructures
Volume 63, September 2014, Pages 317-323
シャムシャーバンドは第4著者で、2019年7月に撤回された。
→ 2019年7月の撤回公告:Retraction notice to: “Investigation of plasmonic studies on morphology of deposited silver thin films having different thicknesses by soft computing methodologies – a comparative study” [Phys. E Low-dimens. Syst. Nanostruct. 63 (2014) 317–323] – ScienceDirect
撤回理由は、査読者の1人は著者から推薦された人だが、メールアドレスが不適切で査読偽装と判定したとのことだ。また、他の研究者の「2009年のHydrological Processes」論文からの盗用と自分たちの過去の3つの論文からの自己盗用が見つかった。
★「2016年のCATENA」論文
- Application of adaptive neuro-fuzzy technique to determine the most relevant variables for daily soil temperature prediction at different depths
Kasra Mohammadi, Shahaboddin Shamshirband, Amirrudin Kamsin, Raja Jamilah Raja Yusof
CATENA Volume 145, October 2016, Pages 204-213
シャムシャーバンドは第2著者で、2017年2月に撤回された。
→ 2016年10月の撤回公告:RETRACTED: Application of adaptive neuro-fuzzy technique to determine the most relevant variables for daily soil temperature prediction at different depths – ScienceDirect
撤回理由は、自分たちの「2016年のApplied Thermal Engineering」論文(以下)と主要部分が同じ、つまり、自己盗用だった。
- Using ANFIS for selection of more relevant parameters to predict dew point temperature
Kasra Mohammadi, Shahaboddin Shamshirband, Dalibor Petković, Por LipYeed, Zulkefli Mansore
Applied Thermal Engineering Volume 96, 5 March 2016, Pages 311-319
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★論文数
論文総数は388 報出版と、とても多い。特に、2014-2019年の6年間に多く出版している。 → Shahaboddin Shamshirband – AMiner
★撤回論文データベース
2020年1月9日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでシャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)を「Shamshirband, Shahaboddin」で検索すると、36論文がヒットし、28論文が撤回されていた。
28撤回論文の内訳は、2014-2016年に出版した論文が、2014年に1報、2016年に1報、2017年に5報、2018年に11報、2019年に10報、の28報である。
★パブピア(PubPeer)
2020年1月9日現在、「パブピア(PubPeer)」では、シャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)の論文のコメントを「Shahaboddin Shamshirband」で検索すると4論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》手段を選ばず
シャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband、写真出典)は、盗用、自己盗用、査読偽装の不正をしたとされた。
不正の内容を調べていると、論文数を増やすためにシャムシャーバンドは「手段を選ばず」、という印象がある。
学術誌が調査したので、見つけた不正は「盗用、自己盗用、査読偽装」になっただけで、多分、ねつ造・改ざんもしているに違いない。
また、2014年にマレーシアのマラヤ大学(University of Malaya)で研究博士号(PhD)を取得しているが、この博士論文もネカトの可能性が大きい。マラヤ大学は調査すべきだろう。
《2》多数論文撤回者
多数論文撤回者の事件では、国家によるネカト行為の告発・処理の強化が必須だと、つくづく思う。
1件のネカトをした研究者は、ネカトが直ぐに告発され処分されれば、ネカト1件で済む。告発されなければ、そのまま年月に比例して、ネカトをし続け、5年後に発覚した時点で30件、20年後には100件となる(数値は適当)。
多数のネカト論文を発表した研究者を悪質と批判する人がいるが、そうではない。ネカト行為の悪質度は同じなのに、告発し処分されなかったので、そのままネカト論文を発表し続けただけだ。迅速な告発と適切な処分をしない学術界および国家の責任が大きい。その結果、1件と100件の差が出る。国民の損害も比例して100倍になる(数値は適当)。
ネカトの法則:「ネカトでは早期発見・適切処分が重要である」
《3》撤回論文オリンピックの金と銅
以下、「材料工学:アリ・ナザリ(Ali Nazari)(イラン) | 研究者倫理」の「《2》撤回論文オリンピックの金と銅」の修正再掲です。
日本にはネカト常習者がたくさんいた(今も、いる?)。
2020年1月9日現在、日本は今夏のオリンピックで浮かれていますが。もし、撤回論文オリンピックをすれば、日本の金獲得は確実でしょう。
現在、日本は世界大会で金と銅を保持している。撤回論文ランキング第11位中に6人もいて、有力な選手層も厚い。下部の選手層も厚い(に違いない)。世界最強である。→ 2020年1月8日更新:「撤回論文数」世界ランキング | 研究倫理(ネカト、研究規範) → 2019年12月11日保存: The Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch
「日本はネカト天国」である。
それなのに、日本の政府と学術界は抜本的な施策をしない。「人の噂も七十五日」。
例えば、ネカト議論に熱心だった日本分子生物学会は、2019年1月の阿形清和・理事長の挨拶で、データねつ造問題は終ったと述べている(出典:第21期理事長挨拶 – 日本分子生物学会)。何か抜本的な改革をしたんでしょうかね?
そして、日本は日本人のネカト事件でも、日本人研究者がしっかり研究していない・できていない・させていない。外国人研究者が研究し発表している。これじゃ、日本は自力でネカト防止策を立案できない。 → 2018年8月17日の「Science」記事: ‘Researcher at the center of an epic fraud remains an enigma to those who exposed him | Science | AAAS
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① シャハボディン・シャムシャーバンド(Shahaboddin Shamshirband)に関する「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:Search Results for “Shahaboddin Shamshirband” – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント
注意:お名前は記載されたまま表示されます。誹謗中傷的なコメントは削除します
学術出版におけるこの問題は、拡大しつつある深刻で憂慮すべき現象です。残念ながら、私自身も彼と一緒に仕事をした経験があります。
特にオープンアクセス誌の掲載料を支払う余裕のない若手研究者は、こうした搾取の標的にされやすい状況にあります。不正を働く者は大学からの助成金や人脈を利用し、真摯な研究者に対して、自分の名前を論文に含めるよう圧力をかけることがあります。時には第一著者として名前を掲載させることさえあります。さらに深刻な場合、著者枠を金銭と引き換えに他の同僚に提供し、商業化することで自らの論文数や引用数を不正に水増しします。一方で、真の著者や貢献者たちは正当な評価を受けられず、将来の学術的なキャリアが危うくなるという状況に追い込まれます。
この問題は単に個人の不正行為にとどまらず、学術出版のシステム自体に潜む深い欠陥を示しています。厳格な著者資格のガイドラインや、より強固な査読プロセス、そして倫理的な出版フレームワークの導入が早急に求められています。若手研究者が透明性を持って、経済的負担なしに自身の研究を発表できるよう支援体制を整えることも不可欠です。こうした改革が行われない限り、不正な行為は学術の信頼性や公正性を根底から揺るがし続けるでしょう。真の貢献者たちの声と努力は、正当に評価され、保護されるべきです。