2023年6月15日掲載
ワンポイント:イーノスはハーバード大学・教授で、米国の政治に影響力を持つ有力な学者である。2018年8月(39歳?)、イーノス 単著の2014年論文と2015年論文にデータねつ造・改ざんがあると元学生(メディアは匿名報道)から指摘された。学術誌は調査の結果、シロと判定した。ハーバード大学・専門家行動委員会は告発内容が権限外として却下。それらに不満な元学生は、4年後の2022年3月(43歳?)、ねつ造・改ざん内容を公開した。白楽は、イーノスがクロのようにも思えるが、判断できない。「大学のネカト対応怠慢・不作為」事件である。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ライアン・イーノス(Ryan Enos、Ryan D. Enos、写真出典)は、米国のハーバード大学(Harvard University)・文理学部(Faculty of Arts and Sciences)・政府学科(Department of Government)・教授で、専門は政治学(社会地理学)である。
日本語に翻訳されていないが、著者は『私たちの間の空間: 社会地理学と政治(The Space between Us: Social Geography and Politics)』(2019年)がある(本の表紙出典はアマゾン)。
2018年8月(39歳?)、イーノスの2014年論文と2015年論文にデータねつ造・改ざんがあると元学生(メディアは匿名で報道)から指摘された。
学術誌は調査の結果、シロと判定した。
ハーバード大学・専門家行動委員会は告発内容が権限外として却下した。
それから4年後の2022年3月(43歳?)、学術誌とハーバード大学の対応に不満な元学生は、データねつ造・改ざんと指摘した内容をブログで公開した。
白楽は、イーノスの論文はクロのように思えるが、判断できない。
ハーバード大学(Harvard University)・文理学部(Faculty of Arts and Sciences)・政府学科(Department of Government)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 研究博士号(PhD)取得:カリフォルニア大学ロサンゼルス校
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1979年1月1日生まれとする。1997年に大学・学部に入学した時を18歳とした
- 現在の年齢:45 歳?
- 分野:政治学
- 不正疑念論文発表:2014~2015年(35~36歳?)の2年間
- ネカト疑念行為時の地位:ハーバード大学・助教授
- 発覚年:2018年(39歳?)
- 発覚時地位:ハーバード大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)はハーバード大学・元学生。大学と学術誌に公益通報
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」、「Karlstack」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ハーバード大学・専門家行動委員会(Harvard Committee on Professional Conduct)は告発を受けたが権限外として却下。②学術誌・編集部
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
- 不正疑念:ねつ造・改ざん
- 不正疑念論文数:2報。1報は訂正
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし。シロ判定なので
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:(1):Curriculum Vitae, Ryan D. Enos 、(2):Ryan Enos | LinkedIn
- 生年月日:不明。仮に1979年1月1日生まれとする。1997年に大学・学部に入学した時を18歳とした
- 1997~2001年(18~22歳?):カリフォルニア大学バークレー校(University of California, Berkeley)で学士号取得:政治学
- 2001~2002年(22~23歳?):シカゴのナショナル・ルイス大学(National-Louis University)で教員免許取得
- 2004~2010年(25~31歳?):カリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles)で研究博士号(PhD)を取得:政治学
- 2010年7月(31歳?):ハーバード大学(Harvard University)・文理学部(Faculty of Arts and Sciences)・政府学科(Department of Government)・助教授
- 2014~2015年(35~36歳?):後で問題視される2論文「2014年3月のProc Natl Acad Sci U S A」論文と「2015年2月のAmerican Journal of Political Science (AJPS)」論文を出版した
- 2015年(36歳?):同・準教授
- 2018年(39歳?):同・正教授
- 2018年8月(39歳?):匿名Aにデータ改ざん疑念の文書が作成され、ハーバード大学・専門家行動委員会に告発された
- 2018年10月(39歳?):ハーバード大学・専門家行動委員会は調査の権限外として告発を却下
- 2022年3月(43歳?):匿名Aに学術誌「Proc Natl Acad Sci U S A」にデータ改ざんがあると告発された。学術誌は調査後、問題なしと判定した
- 2022年3月(43歳?):匿名Aのデータ改ざん疑念文書が公表された
- 2023年6月14日(44歳?)現在:ハーバード大学(Harvard University)・文理学部(Faculty of Arts and Sciences)・政府学科(Department of Government)・正教授職を維持
●3.【動画】
【動画1】
「Ryan Enos」を:「ライアン・イーノス」と紹介した。
インタビュー動画:「The neighborhood you lived in affects your politics, study says」(英語)4分31秒。
CNN ・が2021/06/19に公開:https://m.facebook.com/cnn/videos/987900365292504/?locale2=fo_FO
【動画2】
以下は事件の動画ではない。
研究紹介動画:「Ryan Enos: The Measurement of Partisan Sorting for 180 Million Voters – YouTube」(英語)57分35秒。
Columbia Data Science Institute(チャンネル登録者数 1880人) が2021/04/28に公開
【動画3】
以下は事件の動画ではない。
4分8秒ごろからコメンテイターとして出演している動画:「Institutions In Boston & Beyond Move To Cut Ties With Top Trump Loyalists In Congress – YouTube」(英語)12分06秒。
GBH News(チャンネル登録者数 7.57万人) が2021/01/13に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★スター研究者
ライアン・イーノス(Ryan Enos)はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(University of California, Los Angeles)で研究博士号(PhD)を取得し、2010年7月(31歳?)に、ハーバード大学(Harvard University)・文理学部(Faculty of Arts and Sciences)・政府学科(Department of Government)・助教授に着任した。
その後、ハーバード大学の正教授に昇進し、イーノスは「社会地理学(social geography)」、つまり、さまざまな人種または民族グループがどのように組織化され(混合、分離、完全に分離)、それが政治にどのような影響を及ぼすのかを研究する米国の一流の政治学者になった。
以下、主な出典(含・写真) → 2019年12月の記事:Social geographer Ryan Enos | Harvard Magazine
2001年(22歳?)にカリフォルニア大学バークレー校の学部を卒業した後、イーノスはシカゴのサウス・サイド(South Side)のナショナル・ルイス大学(National-Louis University)で教員免許を取得した。
シカゴのサウス・サイドは、東南アジアやラテンアメリカから、大量の移民が流入している地域だった。
イーノスの故郷であるカリフォルニア州マーセドも裕福な街ではなく、貧困家庭が2割もあり、犯罪も多い街だが、シカゴのサウス・サイドとは大きく異なると感じた。
アメリカ・イリノイ州シカゴ。この大都市の中で、犯罪による死亡人数がイラクとアフガニスタンで死亡したアメリカ人より多いことから“Chiraq”(シラク)と称され、全米でも有数の犯罪多発地帯として知られるのが、南部のサウスサイドと呼ばれる地域だ。(2015年9月4日記事:GTAが裸足で逃げ出す街、シカゴ・サウスサイド)
イーノスは、サウス・サイドでの圧倒的に悲惨な世界を生身で経験し、地球上の異なる社会はどのようにして生まれ、人々は自分自身やお互いについての捉え方をどう形成するのかに、強い興味を抱いた。
2004年(25歳?)、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の大学院に入学したとき、最初は制度政治(institutional politics)を勉強しようと考えていた。
しかし、本格的な研究を始めようとした時、イーノスは、本当の関心は、シカゴのサウス・サイドで強い興味を抱いた「地理と人種の交差点」であることに気が付いた。
それで、地球上のさまざまな人種または民族グループがどのように組織化され(混合、分離、完全に分離)、それが政治にどのような影響を及ぼすのかを研究することにした。
★獲得研究費
獲得研究費を探ると、2016年、科学庁から143万ドル(約1億4300万円)のグラント1件を、共同で受領していた。 → Grantome: @author Ryan Enos(2023年6月14日、サイトがヘン。以下はその前に得たデータ)
NSF 2016 | From knowledge consumers to knowledge producers: A scalable experiential learning approach for psychology and related disciplines | $1,430,698 |
★発覚
2018年8月(39歳?)、匿名(ここでは匿名Aと呼ぶ)は、ライアン・イーノス教授(Ryan Enos)の論文にネカトがあると、イーノス教授に文書で告発した。
白楽ブログでは匿名Aと呼ぶが、告発文書では実名で告発している。
イーノス教授は匿名Aに心当たりがあった。
匿名Aはイーノス教授に個人的な不満を持っているハーバード大学の元学生だとのことだ。
告発は、イーノスの「2015年2月のAmerican Journal of Political Science (AJPS)」論文(以下)にデータ改ざんがあると指摘した。
- What the Demolition of Public Housing Teaches Us about the Impact of Racial Threat on Political Behavior
Ryan D. Enos
American Journal of Political Science
First published: 24 February 2015 https://doi.org/10.1111/ajps.12156
論文タイトルを日本語にすると、「公営住宅の解体が人種的脅威の政治的行動への影響について私たちに教えてくれること」である。
この論文の結論を端的に言えば、住んでいる家の近所の人たちが選挙での投票、つまり、政治的な行動に影響するという結論である。
実際の研究結果は、シカゴの公営住宅が2000年から2004年に取り壊され、25,000人以上のアフリカ系アメリカ人が立ち退きを余儀なくされた。その前後の近隣の白人有権者の投票率を調査した。その結果、アフリカ系アメリカ人が立ち退く前に比べ、立ち退いた後、近隣の白人有権者の投票率は10ポイント落ちた。つまり、人種的な脅威が減った影響で、白人有権者の投票率が落ちた。
匿名Aは、この論文の投票率データは改ざんされている。その結果、論文中のすべての分析が恣意的であると主張した。
イーノスはデータ改ざんを否定している。
イーノスは「撤回監視(Retraction Watch)」に、「告発は真実ではなく、悪意で行なわれた」と語っている。
★大学に告発
2018年8月(39歳?)、イーノス教授に告発文書を送付した同じ月、匿名Aはハーバード大学・専門家行動委員会(Harvard Committee on Professional Conduct)にイーノスのデータ改ざんを告発した。
2018年10月、ハーバード大学・専門家行動委員会(Harvard Committee on Professional Conduct)のピーター・マースデン委員長(Peter Marsden、写真出典)は、ハーバード大学の研究不正行為の規則に従って告発を検討したが、告発内容が専門家行動常任委員会の権限の範囲外なので、告発を却下した。
「撤回監視(Retraction Watch)」が匿名Aの身元を照会すると、ハーバード大学・広報官のレイチェル・デーン(Rachael Dane)は、学生の教育記録のプライバシーを保護する法律である米国「家族教育の権利とプライバシー法」(U.S. Family Educational Rights and Privacy Act)に基づく制限を理由に、身元を明かさなかった。
★告発内容が2022年に公表
それから4年後。
2022年3月(43歳?)、匿名Aの告発文書が以下の2つのサイトで公表された。匿名Aが情報を渡し、記事掲載を依頼したと思われる。
- 2022年3月14日のクリストファー・ブリュネ(Christopher Brunet)記者の「Karlstack」記事:EXCLUSIVE: Leaked Report Shows Harvard Professor Fabricated Data
- 2022年3月16日のジェシー・シンガル(Jesse Singal)記者の「Singal-Minded」記事:How Not To Cover A Social Science Controversy (Updated)
以下は「撤回監視(Retraction Watch)」記事が公表した「匿名Aの告発文書」の冒頭部分(出典:同)。全文(33ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2023/03/Enos-allegations.pdf
★学術誌の調査
学術誌へのネカト告発は2018年ではなく、2022年3月に最初に知らされた。
実際の告発は2022年6月に政治科学界の研究者(氏名は非公表)からの告発だった。
告発はイーノスの「2015年2月のAmerican Journal of Political Science (AJPS)」論文のデータは公式の選挙結果と一致していないというものだった。
学術誌「American Journal of Political Science (AJPS)」のキャスリーン・ドーラン(Kathleen Dolan、写真左出典)とジェニファー・ローレス(Jennifer Lawless、写真右)共同編集長が調査し、調査の結果、データねつ造・改ざんを裏付ける証拠はなかったと結論した。
2人の共同編集長は「有権者ファイルが公式の選挙結果と一致していない」ことに対するイーノスの論文での説明は十分だと考えたが、イーノスに別途、説明する文書の作成を依頼した。
イーノスは、シカゴの公式記録よりも登録有権者が少なく、投票率が低いという批判に応えた4頁の文書を提出した。その文書は学術誌に掲載された。
なお、その文書で、イーノスはデータには測定誤差が含まれていると書いている。
ただ、「撤回監視(Retraction Watch)」との電話で、イーノスは、測定誤差で記事の結論は偏らないと付け加えた.
「有権者ファイルが公式の選挙結果と一致していない」ことが、データねつ造・改ざんの証拠になると、イーノスはとても思えないと主張している。「データに詳しい人なら誰でも、有権者ファイルと公式結果の間に不一致があることを知っているでしょう」と付け加えた。[白楽注:なんかヘン]
★「2014年3月のProc Natl Acad Sci U S A」論文
匿名Aはイーノスの「2014年3月のProc Natl Acad Sci U S A」論文(以下)についても、ネカト疑念を表明していた。
- Causal?effect?of?intergroup?contact?on?exclusionary?attitudes.
Enos RD.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Mar 11;111(10):3699-704. doi: 10.1073/pnas.1317670111. Epub 2014 Feb 24.
この論文は、電車の中でスペイン語話者と話した後、郊外の白人の移民に対する見方がどのように変化したかを調査した論文である。
2019年4月29日、イーノスは論文を訂正した。 → 「訂正公告」
図2と表1の2番目の質問が間違って表示されているので訂正した。質問の「必要な証明書類を持たない子供は滞在できますか?」は、「必要な証明書類を持たない移民は滞在できますか?」と表示されるべきだったとして、論文を訂正した。
「撤回監視(Retraction Watch)」が学術誌「Proc Natl Acad Sci U S A」に問合せると、広報担当者は以下のように答えた。
2022年3月、学術誌「Proc Natl Acad Sci U S A」はこの論文の疑念を受け取りました。それで、内部で調査しましたが、これ以上の措置は必要ないと結論しました。新しい情報がない限り、この問題は解決したと見なします。
ただし、いろいろおかしな点がある。以下の出典 → 2022年3月14日のクリストファー・ブリュネ(Christopher Brunet)記者の「Karlstack」記事
- 論文では「電車の中でスペイン語話者と話した後」とあるが、回答者たちが使用したハズの複数の IPアドレスは、ケンブリッジの近くではない、別の電車に乗っていた人のIPアドレスだった。
- データセットには乳幼児もたくさん含まれていた。乳幼児が移民についてまともな意見を提示したとは思えない。ヘンです。
- 論文中のデータは処理されたデータで、生データがない。
- そして、「電車の中でスペイン語話者と話した」データには、さらにいくつかの奇妙な点があるのだが、2022年5月10日、イーノスはインターネットからデータを削除した。以下のツイッターに削除したと書いている。ところが、そのツイッターもその後、削除された。
そして、オランダのアンドレ・ヴァン・ホールン(Andre van Hoorn、写真出典)がイーノスの「2014年3月のProc Natl Acad Sci U S A」論文はおかしいと、2014年4月8日の論文で指摘した。 → 2014年4月8日論文:Significance of attitudinal experiments | PNAS
こうなってくると、何が正しいのか?
●【ねつ造・改ざんの具体例】
上記したので省略。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★論文数
省略
★撤回監視データベース
2023年6月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでライアン・イーノス(Ryan Enos、Ryan D. Enos)を「Ryan Enos」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2023年6月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ライアン・イーノス(Ryan Enos、Ryan D. Enos)の論文のコメントを「Ryan D. Enos」で検索すると、本記事で問題にした2論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》大学がヘン
ライアン・イーノス教授(Ryan Enos、写真出典)はハーバード大学の政府学の教授で、アメリカ政治研究センター(Center for American Political Studies)の所長である。
イーノスの2論文にデータ改ざんがあると告発した匿名Aはハーバード大学の元学生である。
「撤回監視(Retraction Watch)」の問い合わせに、ネカトを指摘した元学生の実名を大学と学術誌は秘匿した。それで、白楽ブログでは匿名 Aとした。
匿名 Aの告発を受け、イーノスの2論文を掲載した学術誌は告発を無視しないで、ネカト調査をした。その結果、イーノス教授をシロと判定し、論文を撤回しないとした。
ハーバード大学・専門家行動委員会は、ハーバード大学の研究不正行為の規則に従って告発を検討したが、告発内容が専門家行動常任委員会の権限の範囲外なので、告発を却下した。
この、「規則に従って告発を検討」が告発内容を調査したのか、告発内容を調査せず、調査するかどうかを検討したのかが不確かだが、白楽の印象では、告発内容を調査しなかった。というのは「権限の範囲外」なので、告発を却下したとあるからだ。
このハーバード大学の対応がいかにも不誠実である。「権限の範囲外」なら権限のある部署に調査を担当させるべきだ。
この大学の常習的対応だが、ハーバード大は自大学の教授をかばい過ぎる。隠蔽体質が強い。つまり、この事件も「大学のネカト対応怠慢・不作為」事件である。
《2》一水四見
イーノスは、イーノス教授の論文のデータねつ造・改ざん疑惑を告発してきた元学生を、イーノスに個人的な不満を持っている人物と表現している。
イーノスは、「告発は真実ではなく、悪意で行なわれた」と述べている。
チョッと待て。告発が悪意かどうかということと、告発内容が正しいかどうかは別の話しだ。
告発が「悪意で行なわれた」と述べることこそ、告発者をおとしめる「悪意」の発言に思える。
イーノスは、元学生をイーノスに個人的な不満を持っている人物と表現して、ここでも、告発者をおとしめる発言をしている。
イーノスは、「データに詳しい人なら誰でも、有権者ファイルと公式結果の間に不一致があることを知っているでしょう」と述べている。
白楽は、「有権者ファイルと公式結果の間に不一致があること」が米国では普通のことなのかどうか判断できないが、日本だと、明確に不正だと思う。それで、最初、読んだ時、「エェー? この不一致はデータ改ざんだ」と思った。
マー、イーノスが正しいとして、それでも、データ改ざんと指摘されたのに、「不一致がある」のは当然だと居直る態度にも驚いた。
「不一致」をいいことに、イーノスが「不一致」の中身の数値を改ざんしている可能性は十分ありえる。
論点をすり替えて、「不一致があるのは当然」と居直った。これも、告発内容を不当におとしめる発言である。
で、イーノス事件は以下のどれが正解なのでしょう?
解釈A:「火のない所に煙は立たぬ」で、イーノス教授は、実際はデータ改ざんをしていた。つまり、「大学のネカト調査不正」と「学術誌のネカト調査不正」で、「大学」と「学術誌」はクロをシロと捻じ曲げて判定した。あるいは、「大学」と「学術誌」の調査員は単に無能だった。
解釈B:元学生がエキセントリックにイーノス教授の論文を分析し、改ざんしていない数値に対してデータ改ざんだと指摘した? つまり、「大学」と「学術誌」のネカト調査はまともだった。
解釈C:・・・。
このような判定しにくいネカト事件はかなり多い。
白楽自身がネカト調査委員ではないので、真実がどこにあるのかわからない。疑問を消化できないまま、事件の幕を下ろします。
白楽は、どれが正解なのかわかりません。
一水四見(いっすいしけん)
一水四見という言葉が仏教にあります。同じものでも、立場や境遇の違いで全く違って見えることを教えています。
同じ問題であっても、それぞれの都合や利害が絡んでくると、意見や考え方が違ってくるのは当然なことです。(一水四見- 仏教辞典)
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日本の人口は、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。
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●9.【主要情報源】
① 2023年3月6日のロリ・ヨムシャジェキアン(Lori Youmshajekian)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Journals dismiss claims that Harvard researcher’s work on race is ‘pseudoscience’ ? Retraction Watch
② 2022年3月14日のクリストファー・ブリュネ(Christopher Brunet)記者の「Karlstack」記事:EXCLUSIVE: Leaked Report Shows Harvard Professor Fabricated Data
③ 2022年3月16日のジェシー・シンガル(Jesse Singal)記者の「Singal-Minded」記事:How Not To Cover A Social Science Controversy (Updated)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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