ラウロ・ベルトゥラーノ(Lauro Bertulano)、ナタリー・ジョーンズ(Natalie Jones)、レベッカ・ジョーンズ(Rebecca Jones)(英)

2022年3月19日掲載 

ワンポイント:3人は、プリンセス・オブ・ウェールズ病院(Princess of Wales Hospital)の看護師で、2012年2月~2013年2月、患者の診療データをねつ造した。病院は調査し、患者の健康被害はなかったとした。3人は逮捕され、2016年8月2日、不正発覚から3年後、ベルトゥラーノ(46歳)に懲役4か月、ナタリー・ジョーンズ(42歳)は地域社会貢献、レベッカ・ジョーンズ(31歳)に懲役8か月の判決が下った。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

英国のプリンセス・オブ・ウェールズ病院(Princess of Wales Hospital)の3人の看護師が患者の検査記録をねつ造した事件である。

左から、ラウロ・ベルトゥラーノ(Lauro Bertulano)、ナタリー・ジョーンズ(Natalie Jones)、レベッカ・ジョーンズ(Rebecca Jones)。写真出典:https://www.bbc.com/news/uk-wales-south-east-wales-36953299

3人は研究者ではない看護師だが、データねつ造事件なので、生命科学の枠で扱った。

2012年2月~2013年2月、3人の看護師は、英国のプリンセス・オブ・ウェールズ病院(Princess of Wales Hospital)で一緒に働いていた。この時、患者の血糖値を測定せずに、測定したことにして、ねつ造データを報告していた。

2013年2月、プリンセス・オブ・ウェールズ病院は3人の看護師の不正行為に気付き、内部調査を開始した。

2016年8月2日、不正発覚から3年後、裁判所は、「患者のネグレクト」という罪状で、ラウロ・ベルトゥラーノ(46歳)に懲役4か月、ナタリー・ジョーンズ(42歳)は地域社会貢献、レベッカ・ジョーンズ(31歳)に懲役8か月の判決を下した。

なお、プリンセス・オブ・ウェールズ病院(Princess of Wales Hospital)は、ブリジェンド総合病院(Bridgend General Hospital)を1986年にリノベーションし、現在の名称に変えた200床の総合病院で、この地域の中核の病院である。

プリンセス・オブ・ウェールズ病院(Princess of Wales Hospital)。写真出典

  • 国:英国
  • 成長国:英国
  • 看護師免許取得:あり
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男女
  • 分野:看護
  • 不正行為:2012年2月~2013年2月の1年間
  • 発覚年:2013年
  • 発覚時地位:プリンセス・オブ・ウェールズ病院・看護師
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は患者か患者の家族(詳細不明)で、病院に通報
  • ステップ2(メディア):「Guardian」、「BBC News」など多数
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①プリンセス・オブ・ウェールズ病院・調査委員会。②サウスウェールズ警察。③裁判所
  • 病院・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 病院の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:ねつ造
  • 不正数:判明した数で81件(実際はもっと多い?)
  • 職:事件後に発覚時の地位を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:ラウロ・ベルトゥラーノ(46歳)に懲役4か月、ナタリー・ジョーンズ(42歳)は地域社会貢献、レベッカ・ジョーンズ(31歳)に懲役8か月
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

3人は研究者ではない看護師なので、省略する。

3人共、外国から英国に来た人ではなく、地元のブリジェンド出身である。

●3.【動画】

【動画1】
ニュース動画:「Three Nurses Charged With Neglecting Patients」(英語)1分16秒。
Sky Newsが2014/06/19 に公開 。以下をクリック
https://news.sky.com/story/three-nurses-charged-with-neglecting-patients-10400068

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★経緯

2012年2月~2013年2月、英国のブリジェンド出身の3人の看護師は、英国の南ウェールズのブリジェンド(Bridgend)にあるプリンセス・オブ・ウェールズ病院(Princess of Wales Hospital)で一緒に働いていた。

推定だが、患者または患者の家族が、患者の血糖値が測定されていないと、病院に通報したことで、問題が発覚したと思われる。

2013年2月、プリンセス・オブ・ウェールズ病院は血糖値測定を担当している3人の看護師の不正行為に気付いた。

病院は、「脆弱成人保護協会(Protection of Vulnerable Adults、PoVA-General-Information.pdf)」に電話で通報した。脆弱成人保護協会に通報すると、通報内容が、サウスウェールズ警察を含む複数機関に伝わる仕組みになっている。

その後、病院は内部調査を行なった。

内部調査の結果、3人の看護師が検査値をねつ造していたことがわかった。

レベッカ・ジョーンズ(28歳)とベルトゥラーノ(43歳)は、脳卒中病棟が担当で、その病棟の患者の血糖値を測定せずに、偽の測定値を報告していた。

レベッカ・ジョーンズは9人の患者の51件の血糖値をねつ造し、ベルトゥラーノは6人の重病患者の26件の血糖値をねつ造した。

糖尿病患者の血中の糖濃度が危険なほど低くなったり高くなったりしないように、少なくとも2時間ごとに検査する必要があった。

ある時、寝たきりの82歳の患者の血糖値を26時間も検査しなかった。この時、患者の家族は、看護師が患者の世話をせずに、勤務中にお茶を飲んで電話していたのを見ていた。

3人目の看護師であるナタリー・ジョーンズ(39歳)は、2人の年金受給者の4件の血糖値をねつ造した。

3人全員が故意の怠慢を認めた。

なお、病院の調査では、3人の看護師の怠慢で、短期間、不快症状を示した患者はいたが、患者の健康に危害が及んだ証拠は見つからなかった。

★裁判

2016年8月2日、不正発覚から3年後、裁判所は、「(患者の)ネグレクト」という罪状で、ラウロ・ベルトゥラーノ(46歳)に懲役4か月、ナタリー・ジョーンズ(42歳)は地域社会貢献、レベッカ・ジョーンズ(31歳)に懲役8か月の判決を下した。

3人共、有罪を認めた。

白楽は英国の刑事罰に詳しくないが、検査データのねつ造では有罪にできないらしい。それで、「ネグレクト(neglect)」、つまり、「患者のネグレクト(willful neglect of patients)」で有罪にした。

検察側のクリストファー・クリー勅選弁護士(Christopher Clee, QC、写真出典)は、次のように述べている。[白楽註:QCはQueen’s Counselで 勅選弁護士のこと]

「彼らは患者の糖尿病検査をしないで、結果をねつ造した。要するに、血糖値検査をしていなかった。そのデータねつ造は患者の生命に深刻な結果をもたらす可能性があった」。

「レベッカ・ジョーンズは患者に人気の看護師だった。しかし、彼女は他の看護師よりもいつも早く作業を終えていた。他の看護師が仕事をしているのに、彼女はコーヒーを飲んでいた。それで、作業で何か手抜きをしている懸念があった」。

なお、3人の看護師が判決審理の前に病院を辞任した。

3人は看護師として働くことを生涯禁止された。

【ねつ造の具体例】

上記したように、患者の血糖値の測定値をねつ造した。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

省略

●7.【白楽の感想】

《1》怠慢 

3人の看護師(写真出典)が、血糖値のデータをねつ造した。

どうして?

理由は、怠慢。

人間としては、ありがちな理由、というか、白楽など、怠慢だらけである。

しかし、裁判で、懲役4か月とか懲役8か月を科されてしまった。大変な結果である。

病院は、患者の健康に危害が及んだ証拠は見つからなかった、というが、健康被害はあったのだろう。

データねつ造事件では、ほとんどの場合、患者の健康被害はなかったと言うが、白楽はウソだと思う。

健康被害があったとすると、莫大な損害賠償金を請求される。

《2》日本 

事件を調べていて、思ったのだけど、日本では、このような事件があるだろうか?

調べると、以下のように、日本では医療従事者がデータ改ざんしても罪にならないとのことだ。驚いた。

医療従事者が自分の有利になるように記録を書き換えたら犯罪じゃないの? と思うのが社会の一般的な感覚かもしれません。けれども刑法上の解釈についてはこれまでほとんど議論されておらず、

・・・中略・・・

民間の病院で紙の記録を書いた本人が後から改ざんした場合は罪にならないと考えるのが一般的です。(2017年12月22日記事:診療記録をめぐる課題(中) 改ざんに刑事処罰の明文規定を | ヨミドクター(読売新聞)

データ改ざんではなく、ねつ造だとどうなるんだろう?

診療情報の提供等に関する指針針(平成15年9月12日医政発第0912001号 別添、平成22年9月17日医政発0917第15号)には、

診療記録の字句などを不当に変える改ざんは、行ってはならない」とある(太字は白楽)。

診療記録の「字句」とあるけど、診療記録の「数値」や「データ」はどうなんだろう?

そして、診療情報のねつ造に関して、禁止とか違法とか、何も記載がない。

ただ、上記と異なるが、医療従事者が診療情報のねつ造・改ざんしたら、公文書や私文書の偽造といいう罪になる、という解説もある → 2017年2月14日記事:医師が診断書を偽造したら何罪?公立病院か私立病院かで成立する罪は異なる?カルテ偽造は?-弁護士が解説(福永活也) – 個人 – Yahoo!ニュース保存版

ただ、日本では診療情報のねつ造・改ざん行為の事件報道は少ない。研究ネカトと同じで診療情報のねつ造・改ざんの「行為」は多いが、「事件」は少ない、ということなのかもしれない。

《3》防ぐ方法

看護師が怠慢でデータねつ造するのをどうすると防げるか?

基本は職業規範の徹底だろう。そのことで、不正行為の頻度を減らしてきたのだと思う。

ここで問いたいのは、職業規範の徹底以外に、防ぐ方法があるのか?  である。

英国は、懲役4か月とか懲役8か月の刑事罰を科すことが有効だと考えているわけだ。

日本は、どう対処しているのだろう?

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Princess of Wales Hospital – Wikipedia
② 2015年12月14日のスティーブン・モリス(Steven Morris)記者の「Guardian」記事:Nurses jailed for falsifying stroke patients’ records | UK news | The Guardian
③ 2016年8月2日の著者名不記載の「BBC News」記事:Princess of Wales Hospital nurses struck off over faked results – BBC News
④ 2016年8月2日のベンジャミン・ライト(Benjamin Wright)記者の「Wales Online」記事:Nurses who faked blood sugar readings struck off register – Wales Online
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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