2023年12月25日掲載
ワンポイント:2023年10月19日、研究公正局は、ベイラー大学(Baylor University)・助教授だったララ・ファ(36歳)の2件の研究費申請書、2019~2020年(32~33歳)の2報の発表論文、にねつ造・改ざんがあったと発表した。2023年8月18日から4年間の締め出し処分を科した。記事執筆時点では、撤回論文は1報。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。2023年ネカト世界ランキングの「2」の「9」である。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ララ・ファ(Lara Hwa、Lara S. Hwa、Lara Stephanie Hwa、ORCID iD:、写真出典)は、米国のノースカロライナ大学・医科大学院(University of North Carolina School of Medicine)・ポスドクを経て、2021年1月(33歳)、ベイラー大学(Baylor University)・助教授になった。医師免許は持っていない。専門は神経科学である。
2021年(34歳)、ララ・ファが第一著者の「2020年7月のElife」論文は共著者が12人だった。そのうちの5人が、論文に記載したデータに異常があると述べた。この論文は、ララ・ファがノースカロライナ大学・ポスドクとして出版した論文だった。
この時、ララ・ファは既に、ベイラー大学(Baylor University)・助教授になっていた。
それで、ノースカロライナ大学とベイラー大学の両大学が合同でネカト調査をし、クロと判定し、研究公正局に報告した。
2023年10月19日(36歳)、研究公正局(ORIロゴ出典)は、ベイラー大学(Baylor University)・助教授だったララ・ファの2件の研究費申請書(1件は採択、1件は申請を行政的取り下げ(administratively withdrawn))、2019~2020年(32~33歳)の2年間の2報の発表論文、にねつ造・改ざんがあったと発表した。
2023年8月18日(35歳)から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。
2023年12月24日(36歳)現在、ララ・ファはベイラー大学・助教授職を維持している。
ベイラー大学(Baylor University)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:タフツ大学
- 男女:女性
- 生年月日:1987年6月(出典)。仮に1987年6月1日生まれとする。2005年に大学・学部に入学した時を18歳としても合致する
- 現在の年齢:37 歳
- 分野:神経科学
- 不正論文発表:2019~2020年(32~33歳)の2年間
- ネカト行為時の地位:ノースカロライナ大学・医科大学院・ポスドク
- 発覚年:2021年(34歳)
- 発覚時地位:ベイラー大学・助教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はノースカロライナ大学の同じ研究室の共著者たち
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ノースカロライナ大学とベイラー大学の両大学がネカト調査。②研究公正局
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:研究公正局は2件の研究費申請書、2報の発表論文。2023年12月24日現在、撤回論文は1報
- 時期:研究キャリアの初期
- 職:事件後に発覚時の地位を続けた(〇)
- 処分:NIHから 4年間の締め出し処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:(1)Lara S. Hwa, Ph.D. | Psychology & Neuroscience | Baylor University、(2)Lara Hwa Ph.D. | LinkedIn
- 生年月日:1987年6月(出典)。仮に1987年6月1日生まれとする。2005年に大学・学部に入学した時を18歳としても合致する
- 2005~2009年(18~22歳):タフツ大学(Tufts University)で学士号を取得
- 2015年(28歳):同大学で研究博士号(PhD)を取得:神経科学
- 2015年8月~2020年12月(28~33歳):ノースカロライナ大学・医科大学院(University of North Carolina School of Medicine)・ポスドク
- 2019~2020年(32~33歳):この2年間に出版した2報の論文が後に問題視された
- 2021年1月(33歳):ベイラー大学(Baylor University)・助教授
- 2021年(34歳)?:不正が発覚
- 2021年(34歳)?:ノースカロライナ大学・医科大学院とベイラー大学がネカト調査開始
- 2023年10月19日(36歳):研究公正局がネカトと発表
- 2023年12月24日(36歳)現在:ベイラー大学・助教授職を維持している:Lara S. Hwa, Ph.D. | Baylor University、2023年12月23日保存
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
2021年2月の議論動画:「Lara Hwa Podcast Neuroscientists Talk Shop – YouTube」(英語)41分58秒。
UTSA Neuroscience(チャンネル登録者数 162人)が2021/03/25に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★研究人生
ララ・ファ(Lara Hwa)は、米国で生まれ育ち、米国で研究博士号(PhD)を取得後、2015年8月~2020年12月(28~33歳)、ノースカロライナ大学・医科大学院(University of North Carolina School of Medicine)・ポスドクを務め、2021年1月(33歳)に、ベイラー大学(Baylor University)・助教授になった。
ネカト発覚は以下のようだ。
ノースカロライナ大学・ポスドク時代の研究成果を発表した「2020年7月のElife」論文のネカトを、ノースカロライナ大学の同じ研究室の共著者たちが見つけた。
発覚時期は、ララ・ファがベイラー大学に栄転した2021年1月以降だと思われる。ここでは2021年(34歳)とした。
ノースカロライナ大学・ポスドクの時のボスはトーマス・カッシュ教授(Thomas L Kash、写真出典)だった。
「2020年7月のElife」論文はララ・ファが第一著者で、共著者は全12人だった。最後著者はカッシュ教授である。
2021年(34歳)、第一著者のララ・ファを除く5人の共著者が、論文に記載したデータの異常(error)が1つあるとカッシュ教授に伝えた。
その後、著者らは論文に記載したデータを徹底的に調査し、さらにいくつかの異常(errors)を見つけた
異常(errors)の内容は、論文に発表した複数の図は生データの値と一致しなかったことだ。
それで、生データを再分析したところ、統計的有意性に問題があって、研究結果の解釈が論文の記述と合わないことが判明した。
★獲得研究費
ララ・ファ(Lara Hwa、Lara S. Hwa、Lara Stephanie Hwa)は、NIHから2013~2022年に6件、計818,363ドル(約8,184万円)の研究費を獲得していた。 → RePORT ⟩ Lara Stephanie Hwa
以下に全6件を示す(出典は上記)
★研究公正局
2023年10月19日(36歳)、研究公正局はララ・ファの2件の研究費申請書(1件は採択、1件は申請を行政的取り下げ(administratively withdrawn))、2019~2020年(32~33歳)の2年間の2報の発表論文で、データねつ造・改ざんをしていたと発表した。
2023年8月18日から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。
2件の研究費申請書(1件は採択、1件は申請を行政的取り下げ(administratively withdrawn))は以下の通り。研究公正局の発表のまま、以下に貼り付けた。
- K99 AA027576(採択):“Long-term Alcohol Drinking Alters Stress Engagement of BNST Circuit Elements,” submitted to NIAAA, NIH, Funding Period: September 20, 2019-August 31, 2024.
- R01 DK136486(行政的取り下げ):“Neuropeptide Characterization of Limited Access Sugar Drinking in Mice,” submitted to NIDDK, NIH, administratively withdrawn on December 9, 2022.
2報の発表論文は以下の通り。2019~2020年(32~33歳)の2年間の2論文である。研究公正局の発表のまま、以下に貼り付けた。
- Alcohol Drinking Alters Stress Response to Predator Odor via BNST Kappa Opioid Receptor Signaling in Male Mice. Elife. 2020 Jul 21;9:e59709. doi: 10.7554/eLife.59709 (hereafter referred to as “Elife 2020”). Retraction in: Elife. 2021 Nov 2;10:e74986. doi: 10.7554/eLife.74986.
- Predator Odor Increases Avoidance and Glutamatergic Synaptic Transmission in the Prelimbic Cortex via Corticotropin-releasing Factor Receptor 1 Signaling. Neuropyschopharmacology. 2019 Mar;44(4):766-775. doi: 10.1038/s41386-018-0279-2 (hereafter referred to as “Neuropyschopharmacology 2019”).
●【ねつ造・改ざんの具体例】
2023年10月19日(36歳)の研究公正局の発表で2報の論文のネカト部分を指摘している。
2報の内の1報を選んで具体的に見ていこう。
★「2020年7月のElife」論文
「2020年7月のElife」論文の書誌情報を以下に示す。2021年11月2日に撤回された。
- Alcohol drinking alters stress response to predator odor via BNST kappa opioid receptor signaling in male mice.
Hwa LS, Neira S, Flanigan ME, Stanhope CM, Pina MM, Pati D, Hon OJ, Yu W, Kokush E, Calloway R, Boyt K, Kash TL.
Elife. 2020 Jul 21;9:e59709. doi: 10.7554/eLife.59709.
研究公正局の指摘箇所を以下に詳しく見よう。
以下の図1D で、雄の野生型マウスの血中エタノール濃度を、今回の研究に関係しない雌のマウスの血中エタノール濃度の結果を使った。
以下の図2Cでエタノール摂取範囲とエタノール離脱時間を改ざんした。図4(省略)と図6(省略)でもエタノール摂取範囲を改ざんした。
以下の図 1F、1G、1H の水およびエタノール処理グループの追跡ソフトウェアからのマウスの位置データ、マウスの行動データをねつ造・改ざんした。
上記の図1Fのヒートマップ画像は、本研究と無関係な別の過去のヒートマップ画像を使用した。
上記の図 1Gと図3E(省略)、図5I(省略)の2,4,5, トリメチル-3-チアゾリン (TMT) (つまり、捕食者の臭気物質) のマウスの位置データをねつ造・改ざんした。
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上記のすべてのデータねつ造・改ざんは、図を見ても、第三者にはネカトだと判定できない。
つまり、実際にデータを出した共著者などの同じ研究室内の研究者しか、データねつ造・改ざんはわからない。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えていると思います。
★パブメド(PubMed)
2023年12月24日現在、パブメド(PubMed)で、ララ・ファ(Lara Hwa、Lara S. Hwa)の論文を「Lara Hwa [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2011~2023年の13年間の24論文がヒットした。
2023年12月24日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2020年7月のElife」論文・1論文が2021年11月2日に撤回されていた。
★撤回監視データベース
2023年12月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでララ・ファ(Lara Hwa、Lara S. Hwa)を「Lara S Hwa」で検索すると、本記事で問題にした「2020年7月のElife」論文・1論文が2021年11月2日に撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2023年12月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ララ・ファ(Lara Hwa、Lara S. Hwa)の論文のコメントを「”Lara S. Hwa”」で検索すると、本記事で問題にした「2020年7月のElife」論文を含め2論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》片手落ち
ララ・ファ(Lara Hwa、Lara S. Hwa、写真出典)は、優秀な人らしい。単純に「もったいない」と白楽は思った。
一体、いつ、どこでネカト癖をつけてしまったのか?
研究公正局がネカトと認定した論文は、2019~2020年(32~33歳)の2報だけである。
しかし、ララ・ファは2011~2023年の13年間に24論文も発表している。
その24論文の内の14論文は、学部・院生で10年過ごしたタフツ大学時代の2011~2018年の8年間に出版している。
そして、ネカト調査はノースカロライナ大学とベイラー大学が行なったので、タフツ大学時代の 14論文は調査されていない。
ネカトの法則:「ネカト癖は研究キャリアの初期に形成されることが多い」。
ネカトの法則:「強い衝撃がなければ、研究者はネカトを止めない」
「ねつ造・改ざんの具体例」で示したように、ララ・ファのネカトは共著者しかわからないデータねつ造・改ざんである。
ほぼ確実に、タフツ大学時代の論文にネカトがあると、白楽は思う。そして、そのネカトは共著者しかわからない。
そして、クロと認定された論文以前に出版されたネカト者の論文を調査するメカニズムがない。
タフツ大学時代の指導教授はクラウス・ミチェク教授(Klaus Miczek、写真出典)である。
しかし、過去に在籍した学生のネカトを調べることをミチェク教授はしないだろう。タフツ大学もしないだろう。
ララ・ファのタフツ大学時代の14論文の研究公正疑惑は闇に埋もれることになる。
なんかヘンなんですけど。
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:(1)2023年10月19日:Case Summary: Hwa, Lara S. | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2023年10月24日の連邦官報:2023-23464.pdf 。(3)2023年10月24日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2023年11月13日:NOT-OD-24-028: Findings of Research Misconduct
② 2023年10月19日のエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Alcohol researcher faked data in animal studies, US watchdog says – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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