2023年3月20日掲載
ワンポイント:セント・ジュード小児研究病院(St. Jude Children’s Research Hospital)・ポスドクの時に出版したマルティネスの「2016年4月のNature」論文が、6年後の2022年8月31日(43歳?)に撤回された。その5か月前、マルティネスは7年間勤めたNIH・国立環境健康科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences (NIEHS))・終身在職コース研究員(tenure-track investigator)を辞職した。発表はないが、セント・ジュード小児研究病院がネカト調査をし、クロと結論したためだと思われる。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ジェニファー・マルティネス(Jennifer Martinez、ORCID iD:?、写真出典)は、米国のセント・ジュード小児研究病院(St. Jude Children’s Research Hospital)・ポスドクだった。医師免許は持っていない。専門は免疫学である。
セント・ジュード小児研究病院から出版した「2016年4月のNature」論文が、6年後の2022年8月31日(43歳?)に撤回された。
その5か月前、マルティネスは7年間勤めたNIH・国立環境健康科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences (NIEHS))・終身在職コース研究員(tenure-track investigator)を辞職していた。
セント・ジュード小児研究病院がネカト調査をし、クロと結論したためだと思われる。しかし、2023年3月19日(44歳?)現在、ネカト調査報告書は公表されていない。研究公正局はマルティネスのネカト調査に関して何も発表していない。
マルティネスのネカト事情は不明である。
セント・ジュード小児研究病院(St. Jude Children’s Research Hospital)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:デューク大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1979年1月1日生まれとする。1997年に大学・学部に入学したと仮定し、この時を18歳とした
- 現在の年齢:45 歳?
- 分野:免疫学
- 不正論文発表:2013~2021年(34~42歳?)の8年間
- ネカト行為時の地位:セント・ジュード小児研究病院・ポスドク
- 発覚年:2016年(37歳?)
- 発覚時地位:NIH・国立環境健康科学研究所・終身在職コース研究員
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)がパブピアで指摘(推定)
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①セント・ジュード小児研究病院・調査委員会。②研究公正局
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:2報撤回
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
- 処分: なし
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典: JENNIFER MARTINEZ, Ph.D. cv_pdf
- 生年月日:不明。仮に1979年1月1日生まれとする。1997年に大学・学部に入学した時を18歳とした
- 1997~2001年(18~22歳?):テュレーン大学(Tulane University)で学士号取得:細胞分子生物学
- 2005~2010年(26~31歳?):デューク大学(Duke University)で研究博士号(PhD)を取得:免疫学
- 2010~2015年(31~36歳?):セント・ジュード小児研究病院(St. Jude Children’s Research Hospital)・ポスドク
- 2015~2022年3月(36~43歳?):NIH・国立環境健康科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences (NIEHS))・終身在職コース研究員(tenure-track investigator)
- 2016年4月(37歳?):後で問題になる 「2016年4月のNature」論文を出版
- 2016年7月(37歳?):上記論文のネカトが発覚
- 2022年3月(43歳?):NIH・国立環境健康科学研究所を辞職
- 2022年8月31日(43歳?):上記論文が撤回
- 2023年3月19日(44歳?)現在:所属不明
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★研究費
ジェニファー・マルティネス(Jennifer Martinez)のセント・ジュード小児研究病院・ポスドク時代のNIH・研究費の受給状況を調べると、2011~2013年に3件受給していた(以下)。出典:Grantome: Search: Jennifer Martinez, St. Jude Children’s Research Hospital
NIH 2013 F32 AI | Characterization of LC3-Associated Phagocytosis | $53,942 |
NIH 2012 F32 AI | Characterization of LC3-Associated Phagocytosis | $52,190 |
NIH 2011 F32 AI | Characterization of LC3-Associated Phagocytosis | $48,398 |
NIH・国立環境健康科学研究所・研究員の時はNIH職員なので、研究費の受給情報は得られない。
★発覚の経緯
問題は以下の「2016年4月のNature」論文である。
- Noncanonical autophagy inhibits the autoinflammatory, lupus-like response to dying cells.
Martinez J, Cunha LD, Park S, Yang M, Lu Q, Orchard R, Li QZ, Yan M, Janke L, Guy C, Linkermann A, Virgin HW, Green DR.
Nature. 2016 May 5;533(7601):115-9. doi: 10.1038/nature17950. Epub 2016 Apr 20.
最初に誰がこの論文のネカトを指摘したのかを白楽は特定できなかった。
ただ、2016年7月にパブピアでデータの疑惑が指摘されていたので、この指摘が最初ではないかと思う。それで、ネカト発覚時期を2016年7月とした。
2022年8月31日の「撤回公告| Nature」によると、「所属機関の調査で図1B と 図2Eは信頼できない」とある。それで、図1B と 図2Eを以下に示そう。
図1B(出典: 原著論文)。
図2E(出典: 原著論文)。
白楽には、どこか不正だか、わかりません。似た図なので、重複使用(ねつ造・改ざん)なのかな?
2016年7月にネカトが発覚し、年月日は不明だが、その後、セント・ジュード小児研究病院(St. Jude Children’s Research Hospital)は共著者、学術誌、研究公正局と一緒に、情報共有しながらネカト調査を進めた。 → 2016年4月20日記事: St. Jude Children’s Research Hospital(保存版)
★辞職と論文撤回
2022年3月(43歳?)、ジェニファー・マルティネス(Jennifer Martinez、写真出典)は、7年間勤めたNIH・国立環境健康科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences (NIEHS))・終身在職コース研究員(tenure-track investigator)を辞めた。
他大学・研究所に移籍したわけではない。ネカト調査の結果、クロと指摘・糾弾されたために辞めたのだと思うが、白楽には、それを確認出来る情報が見つからない。
2022年8月31日、辞職5か月後、「2016年4月のNature」論文が撤回された。 → 2022年8月31日:撤回公告| Nature
ということは、辞職の少し前、セント・ジュード小児研究病院(St. Jude Children’s Research Hospital)がネカト調査を終え、学術誌に論文撤回を依頼したということなのだろう。しかし、白楽が、そのことを確認出来る情報を持っていない。ネカト調査報告書は公表されていない。
2023年3月19日現在、研究公正局が追認調査中だと思われる。
というのは、半年前の2022年9月9日の「撤回監視(Retraction Watch)」記事が研究公正局が調査中と公表したからだ。
研究公正局が調査中と公表するのは、とても珍しい。「ネカト調査している・していない」に関してノーコメントなのが研究公正局の基本である。
現在調査中なら、数年以内に、研究公正局はクロと発表するだろう。
★上司
撤回された「2016年4月のNature」論文を出版した時、マルティネスはセント・ジュード小児研究病院(St. Jude Children’s Research Hospital)・ポスドクだった。
上司はダグラス・グリーン教授(Douglas R. Green、写真出典)だが、このグリーン教授はネカト疑惑満載の教授である。
パブピアではグリーン教授の26論文にコメントがある。
撤回監視データベースで検索すると、 5論文が訂正、1論文が撤回されている。
印象で悪いけど、グリーン教授に研究公正上の問題がありそうだ。マルティネスはその影響を受けたのだろう。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
「2016年4月のNature」論文がデータねつ造・改ざんで撤回された。
上述したので、省略。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2023年3月19日現在、パブメド(PubMed)で、ジェニファー・マルティネス(Jennifer Martinez)の論文を「Jennifer Martinez [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2023年の22年間の169論文がヒットした。
2023年3月19日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。
「Martinez J」で検索したら、1939~2023年の84年間の 8,475論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。
「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、13論文が撤回されていた。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。
★撤回監視データベース
2023年3月19日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでジェニファー・マルティネス(Jennifer Martinez)を「Jennifer Martinez」で検索すると、 1論文が訂正、1論文が懸念表明、2論文が撤回されていた。
2016年4月20日に出版した「2016年4月のNature」論文が2022年8月31日に撤回、2020年5月に出版した「2020年5月のJ Allergy Clin Immunol」論文が2022年10月16日に撤回された。
★パブピア(PubPeer)
2023年3月19日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジェニファー・マルティネス(Jennifer Martinez)の論文のコメントを「”Jennifer Martinez”」で検索すると、2013~2021年(34~42歳?)の8論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》不明
マルティネス事件では、ジェニファー・マルティネス(Jennifer Martinez)が「どのような状況で、どうして」ネカトをしたのか、見えてこない。これでは、ネカト対策に役立つ点は少ない。
マルティネスの「2016年4月のNature」論文と「2020年5月のJ Allergy Clin Immunol」論文が撤回されているが、2報だけなのか?
もっとネカト論文があると思うが、ネカト調査の結果を公表してくれないと、事件が見えてこない。
ジェニファー・マルティネス(Jennifer Martinez)。https://archive.md/wip/tH2QB
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】
① 2022年9月9日のエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Exclusive: NIH researcher resigned amid retractions, including Nature paper – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント
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