2023年9月15日掲載
ワンポイント:イタリア育ちのジーノは、2014年に36歳でハーバード大学ビジネススクール(Harvard Business School, HBS)・正教授になった行動心理学のスター科学者である。ベストセラーになった日本語訳の『失敗は「そこ」からはじまる』(2015年)や『イヤなやつほど仕事がデキる』(2019年)など、大衆向けの心理学の本を出版した有名人でもある。2023年(45歳)、ネカトハンター・トリオのウリ・サイモンソン(Uri Simonsohn)、レイフ・ネルソン(Leif Nelson)、ジョー・シモンズ(Joe Simmons)がジーノの4論文にデータねつ造・改ざん(数値)があると指摘した。その4論文は撤回された。さらに、数十論文にもネカトの可能性があると指摘している。ハーバード大学はネカト調査し、結果を発表していないが、ジーノを2年間の無給休職処分にした。ところが、2023年8月2日(45歳)、ジーノはハーバード大学とウリ・サイモンソンら3教授に対し、2,500万ドル(約25億円)の損害賠償を求めて提訴した。現在、裁判中。国民の損害額(推定)は25 億円(大雑把)。
【追記】
・2024年9月11日記事:裁判官はジーノの名誉棄損での提訴を却下:Judge Dismisses Francesca Gino’s Defamation Charges Against Harvard | News | The Harvard Crimson
・2024年4月15日記事:One of World’s Leading Honesty Researchers Accused of Plagiarism
・2024年4月9日記事:Embattled Harvard honesty professor accused of plagiarism | Science | AAAS
・2024年3月15日記事:ハーバード大学は1,300ページの調査報告書を公開:Honesty researcher committed research misconduct, according to newly unsealed Harvard report | Science | AAAS
・2024年3月14日記事:ハーバード大学の1,300ページの調査報告書をこの記事で公開:Here’s the Unsealed Report Showing How Harvard Concluded That a Dishonesty Expert Committed Misconduct
・143人の共著者、138論文の説明プロジェクト:manycoauthors.org/about
・2023年10月23日記事:A Post Mortem on the Gino Case | The Organizational Plumber
・2023年10月3日記事:‘I Am Innocent’: Embattled HBS Prof. Francesca Gino Defends Against Data Fraud Allegations in Letter to Faculty | News | The Harvard Crimson
・2023年9月30日記事: They Studied Dishonesty. Was Their Work a Lie? | The New Yorker
・2023年9月16日記事:[114] Exhibits 3, 4, and 5 – Data Colada
・2023年9月15日記事:Battling in Court and on Campus, HBS Professor Francesca Gino Denies Data Fraud Allegations | News | The Harvard Crimson
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino、ORCID iD:?、写真出典)は、イタリアに生まれ、育ち、2014年、36歳(?)で米国のハーバード大学ビジネススクール(ハーバード・ビジネス・スクール、Harvard Business School, HBS)・正教授になった。専門は心理学(行動心理学)である。
ジーノは、行動心理学でたくさんの大衆向け書籍を出版している。英語の「アマゾン」サイトで33冊がヒットした。
日本語に翻訳された以下の2冊は、ベストセラーになり、有名になった。
『Sidetracked: Why Our Decisions Get Derailed, and How We Can Stick to the Plan』(2013年)は柴田裕之訳で日本語に翻訳され『失敗は「そこ」からはじまる』(2015年)として出版された(本の表紙出典はアマゾン)。
『Rebel Talent』(2018年)は櫻井祐子訳で日本語に翻訳され『イヤなやつほど仕事がデキる』(2019年)として出版された(本の表紙出典はアマゾン)。
2021年秋(43歳)、ネカトハンター・トリオのウリ・サイモンソン(Uri Simonsohn)、レイフ・ネルソン(Leif Nelson)、ジョー・シモンズ(Joe Simmons)の3教授がジーノの論文にデータ(数値)の異常を見つけ、ハーバード大学に伝えた。
2023年6月xx日(45歳)、大学はネカト調査結果を終えたようだ。調査結果を発表していないが、ハーバード大学はジーノを2年間の無給休職処分(administrative leave)にした。
2023年6月16日(45歳)、ステファニー・リー(Stephanie M. Lee)記者が「Chronicle of Higher Education」でジーノのネカト疑念を報道した。この記事がジーノのネカト疑念を世間に知らせた最初の記事である。
ところが、2か月後の2023年8月2日(45歳)、ジーノはハーバード大学とウリ・サイモンソンら3教授に対し、2,500万ドル(約25億円)の賠償を求めて、提訴した。
2023年9月14日(45歳)現在、裁判中。ジーノの 4論文が撤回され、「パブピア(PubPeer)」で23論文にコメントがある。
ジーノはNIHのグラントを受給していないので、本事件は研究公正局の案件にはならない。
ハーバード大学ビジネススクール(ハーバード・ビジネス・スクール、Harvard Business School, HBS)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:イタリア
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:イタリアのサンターナ大学院大学
- 男女:女性
- 生年月日:1978年4月xx日。仮に1978年4月1日生まれとする。2015年4月15日の記事に36歳とあった
- 現在の年齢:46 歳
- 分野:心理学
- 不正論文発表:2008~2020年(30~42歳)の13年間
- ネカト行為時の地位:ノースカロライナ大学・助教授、ハーバード大学ビジネススクール・準教授・教授
- 発覚年:2021年(43歳)
- 発覚時地位:ハーバード大学ビジネススクール・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は、ウリ・サイモンソン(Uri Simonsohn)、レイフ・ネルソン(Leif Nelson)、ジョー・シモンズ(Joe Simmons)の3教授で、ハーバード大学に伝え、また、ブログ「Data Colada」に記載
- ステップ2(メディア):「Chronicle of Higher Education」、「Data Colada」、「パブピア(PubPeer)」など、多数
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ハーバード大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが大学のウェブ公表なし(△)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:「パブピア(PubPeer)」で23論文にコメントあり。4論文撤回
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を2年間無給休職(▽)
- 処分:2年間無給休職
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は25億円(大雑把)。ジーノが要求した損害賠償額と同じにした
●2.【経歴と経過】
主な出典: GinoCV_June2023.pdf
- 生年月日:1978年4月xx日。仮に1978年4月1日生まれとする。2015年4月15日の記事に36歳とあった
- 1997~2001年(19~23歳):イタリアのトレント大学(Kanpur)で学士号取得:ビジネス経済学
- 2001~2004年(23~26歳):イタリアのサンターナ大学院大学(Sant’Anna School of Advanced Studies)で研究博士号(PhD)を取得:経済学と経営学
- 2004~2006年(26~28歳):米国のハーバード大学ビジネススクール(Harvard Business Schoo)・ポスドク、その後、主任研究員、講師
- 2006~2008年(28~30歳):米国のカーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University)・客員助教授
- 2008~2010年(30~32歳):米国のノースカロライナ大学(University of North Carolina)・助教授
- 2008~2020年(30~42歳):この13年間に出版した23論文が後でパブピアで問題視された
- 2010年(32歳):ハーバード大学ビジネススクール(Harvard Business School)・準教授
- 2014年(35歳):同・教授
- 2015年(37歳):「40歳以下のビジネススクール教授のベスト40人」の1人に選ばれた
- 2017年(39歳):「経営思想家ベスト50(Thinkers50)」で49位にランク入りした
- 2021年秋(43歳):不正研究が発覚
- 2023年6月xx日(45歳):ハーバード大学はネカト調査を終えた
- 2023年6月xx日(45歳):ハーバード大学から2年間の無給休職(administrative leave)処分
- 2023年6月16日(45歳):不正研究が新聞で公表
- 2023年8月2日(45歳):ハーバード大学とウリ・サイモンソンら3教授に2500万ドル(約25億円)の賠償を求め提訴
- 2023年9月14日(45歳)現在:ハーバード大学はネカト調査を終えたハズだが結果を未発表
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
「フランチェスカ・ジーノ」と自己紹介。
研究内容説明動画:「Francesca Gino – Rebel Talent: Why It Pays to Break the Rules at Work and in Life – YouTube」(英語)2分53秒。
The Brainwaves Video Anthology(チャンネル登録者数 3.53万人)が2018/04/12に公開
【動画2】
テッド講演動画:「The Power of Why: Unlocking a Curious Mind | Francesca Gino | TEDxTrentoStudio – YouTube」(英語)15分25秒。
TEDx Talks3860万人(チャンネル登録者数 3910万人)が2021/04/16に公開
講演の主張は以下のようで、なかなか興味深い。
私たちは皆、好奇心をもって生まれてきます。 しかし、年齢を重ねるにつれて好奇心は減退していきます。 私たちは判断を恐れたり、質問したときに他人に与える印象を心配したり、新しいアイデアを模索するのは時間の無駄だと判断したりします。
しかし、好奇心は仕事や生活で成功するために不可欠であり、それを失うと生産性から幸福まであらゆることに影響を与えることがわかりました。
フランチェスカ・ジーノによれば、良いニュースは、私たちがその探究本能を取り戻すことができるということです。 好奇心がなぜそれほど重要なのか、そして自分自身や他の人の好奇心を育てるために何ができるかを学びましょう。
●4.【日本語の解説】
日本人はフランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)の本が大好きなようで、ジーノの日本語訳本がかなり売れているようだ。
ということは、ジーノの研究成果を取り上げた日本語文章がたくさんあると、容易に想像できる。
しかし、ジーノのネカト事件を解説した日本語文章はたくさんあるだろうか?
英語記事の日本語訳が、ソコソコ、ありました。
★2023年6月24日: 著者名不記載(CoinUnited.io.):「フランチェスカ・ジーノのスキャンダル: 行動科学研究の公正性への打撃」
フランチェスカ ジーノは、何を食べるかを決める前に黙って 10 まで数えることがいかに健康的な食品の選択をする可能性を高めることができるかなどのテーマについて査読誌に数十の論文を共著しています。彼女が監督した研究には偽のデータが含まれていたなど、いくつかの研究で結果を捏造したという疑惑が浮上し、この学者の研究は精査の対象となっている。ハーバード・ビジネス・スクールのシュバイツァー博士とベイザーマン博士を含む数人の行動科学者は、不正の兆候がないかジーノ博士と共同研究した論文を精査している。 2012年にジーノ博士が行った研究は他の研究者によってすでに何百回も引用されているが、最近の研究でその発見に疑問が生じている。
続きは、原典をお読みください。
★2023年6月25日: 著者名不記載(Sputnik 日本):「正直さの研究をしていたハーバードの科学者、嘘で摘発される=米国メディア」
★2023年8月10日:Kate Taylor [原文] (編集・常盤亜由子)(Business Insider Japan):「データ不正を告発されたハーバード大教授、2500万ドルの賠償を求め同大らを提訴。学界は内部告発の萎縮を懸念 」
ハーバード大学教授のフランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)は、自身をデータ不正で告発したハーバード大学とData Coladaのブロガーのグループに対して2500万ドル(約35億円、1ドル=140円換算)の賠償を求める訴訟を起こした。ジーノは、彼らが「自分のキャリアと評判を駄目にするために協力して動いていた」と主張している。
続きは、原典をお読みください。
★2019年4月10日: 森本博行(東京都立大学 名誉教授)(DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー):「より優れた成果を生み出す意思決定や交渉をどう実現するか」
ネカト事件を解説した日本語文章ではない。
『Harvard Business Review』を支える豪華執筆陣の中で、特に注目すべき著者を毎月1人ずつ、首都大学東京名誉教授である森本博行氏と編集部が厳選して、ご紹介します。彼らはいかにして現在の思考にたどり着いたのか。それを体系的に学ぶ機会としてご活用ください。2019年4月の注目著者は、ハーバード・ビジネス・スクール教授のフランチェスカ・ジーノ氏です。
・・・中略・・・
ジーノの研究分野は行動科学であり、その対象は、意思決定論、組織行動論、心理学、行動経済学、交渉術など広範に及ぶ。HBSのMBAコースとエクゼクティブ・エデュケーション・プログラムでは「意思決定と交渉」科目を担当し、博士課程では意思決定に対する組織行動・行動経済学アプローチや実験法を教えている。また、ハーバード・ロースクールやケネディ・スクールでも同様の科目を提供している
続きは、原典をお読みください。
★2019年7月2日:hd_murakami(?):「三部作① レビュー『イヤなやつほど仕事がデキる なぜルールに従わない人が成功するのか』 フランチェスカ・ジーノ・著 日本経済新聞出版社」
ネカト事件を解説した日本語文章ではない。
自分らしく働きながら成功を手に入れる8原則
1. 新奇性を求めよ
2. 建設的な異論を促せ
3. 対話を閉ざすな、開け
4. 自分をさらけだせ――そして内省せよ
5. すべてを学べ――そしてすべてを忘れよ
6. 制約のなかに自由を探せ
7. 現場から指揮せよ
8. しあわせな偶然を促せ
続きは、原典をお読みください。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★スター教授の研究人生
イタリアに生まれ育ち、2014年に36歳でハーバード大学ビジネススクール(Harvard Business School, HBS)・正教授に就任したフランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino、写真出典)は既婚で4人の子供がいる。
2015年(37歳)、ジーノは「40歳以下のビジネススクール教授のベスト40人」の1人に選ばれた。 → Poets&Quants – 2015 Best 40 Under 40 Professors: Francesca Gino, Harvard Business School
2017年(39歳)、ジーノは「経営思想家ベスト50(Thinkers50)」で49位にランク入りした。その後、2019年に21位に、2021年にもランク入りした。 → You searched for Francesca Gino – Thinkers50(削除された?)。ココに記事あり:Harvard Business School Faculty Recognized in 2021 “Thinkers 50” List
ジーノは、上記のように数々の賞に輝くキャリアを持っているのだが、出版した論文の不正行為が指摘された。
皮肉なことに、ジーノは、「不正行為の研究」もしていた。
不正行為が人々の創造性をどう刺激するのか、人々は不道徳な行為をどう正当化するのか、などの研究をしていた。この「不正行為の研究」は何万回も引用され、頻繁にメディアで取り上げられていた。
★経緯
2023年6月16日(45歳)、フランチェスカ・ジーノの複数の論文はネカトの可能性が高いと「Chronicle of Higher Education」紙が初めて報道した。 → 2023年6月16日のステファニー・リー(Stephanie M. Lee)記者の「Chronicle of Higher Education」記事:A Weird Research-Misconduct Scandal About Dishonesty Just Got Weirder
情報の根拠は,翌日・2023年6月17日に公表したウリ・サイモンソン(Uri Simonsohn)らの分析記事である → 2023年6月17日:[109] Data Falsificada (Part 1): “Clusterfake” – Data Colada
ウリ・サイモンソンは有名なネカトハンターで、ウリ・サイモンソン(Uri Simonsohn)、レイフ・ネルソン(Leif Nelson)、ジョー・シモンズ(Joe Simmons)の3教授はトリオで活動している(写真出典)。
★1つ目の論文・「2012年9月のProc Natl Acad Sci U S A」論文
2021年8月(43歳)、サイモンソンら3教授は、以下の「2012年9月のProc Natl Acad Sci U S A」論文のデータが不正だと、ウェブサイトの「Data Colada」で指摘した。
- Signing at the beginning makes ethics salient and decreases dishonest self-reports in comparison to signing at the end.
Shu LL, Mazar N, Gino F, Ariely D, Bazerman MH.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Sep 18;109(38):15197-200. doi: 10.1073/pnas.1209746109. Epub 2012 Aug 27.
この時点では、共著者のダン・アリエリー(Dan Ariely)がこの「2012年9月のProc Natl Acad Sci U S A」論文のデータをねつ造した研究者とされ、論文は2021年9月13日に撤回された。 → 心理学:ダン・アリエリー(Dan Ariely)(米) | 白楽の研究者倫理
ところが、サイモンソンら3教授は、アリエリー以外に、ジーノもアリエリーとは独立に、同じ論文でデータ不正をしていたことを突きとめた。
それで、3教授は、 2021年の秋以降、ダン・アリエリーのネカト検証からフランチェスカ・ジーノ論文のネカト検証へと調査を拡大した。
★他の3論文
フランチェスカ・ジーノ論文のネカトを調査した結果、サイモンソン ら 3教授は、上記論文以外に、以下の ①「2014年2月のPsychol Sci.」論文、②「2015年5月のPsychol Sci.」論文、③ 「2020年12月のJ Pers Soc Psychol.」論文、のデータにねつ造・改ざんがあるという結論に達した。
2023年x月(45歳)(白楽推定)、調査報告書を作成し、ハーバード ビジネス スクール (HBS) にこれら論文のネカト調査結果を伝えた。
そして、①と②、つまり、「2014年2月のPsychol Sci.」論文と「2015年5月のPsychol Sci.」論文はデータねつ造疑念で2023年7月6日に、③ 「2020年12月のJ Pers Soc Psychol.」論文は2023年8月17日に、撤回された。
① Evil genius? How dishonesty can lead to greater creativity.
Gino F, Wiltermuth SS.
Psychol Sci. 2014 Apr;25(4):973-81. doi: 10.1177/0956797614520714. Epub 2014 Feb 18.
② The Moral Virtue of Authenticity: How Inauthenticity Produces Feelings of Immorality and Impurity.
Gino F, Kouchaki M, Galinsky AD.
Psychol Sci. 2015 Jul;26(7):983-96. doi: 10.1177/0956797615575277. Epub 2015 May 11.
③ Why connect? Moral consequences of networking with a promotion or prevention focus.
J Pers Soc Psychol. 2020 Dec;119(6):1221-1238. doi: 10.1037/pspa0000226. Epub 2020 Jun 18.
なお、3教授は、上記3論文だけでなく、ジーノの多数の論文(2桁数)にデータねつ造があると述べている。
そして、論文共著者の中に、問題の研究データ収集を収集・整理・提供した人はジーノ以外にいない。
2023年6月xx日(45歳)、ハーバード大学はネカト調査を終えたらしい。ネカト疑惑を公表し、ハーバード大学はジーノを2年間の無給休職処分(administrative leave)にした。 → Francesca Gino – Faculty & Research – Harvard Business School
ハーバード大学のネカト調査報告書の長さは約 1,200 ページとの話だ(白楽未入手)。
しかし、ハーバード大学はまだ、そのネカト調査結果を公表していない。ジーノの最終的処分をどうするか検討しているのだろう。
★ネカト被災者の被害は甚大
ジーノの 4報のネカト論文でデータ収集した人は、ジーノだけで、ジーノ論文の共著者らは、不正に関与していない。
ジーノ論文の共著者たちは、現在、ジーノの残りの論文のデータが信頼できるかどうかを検証し始めた。この検証を、エヴァン・ネスターク(Evan Nesterak)記者は「多数共著者プロジェクト(Many Co-Authors Project)」と呼んでいる。白楽もそれに従う。
2023年7月xx日(45歳)、「多数共著者プロジェクト(Many Co-Autho rs Project)」は、ジーノ論文の150人近くの共同研究者に電子メールを送り、誰が論文のデータを収集・処理したのか、どのファイルを分析に利用したか、その研究結果はまだ信頼できるか、メールで問い合わせた。
「多数共著者プロジェクト(Many Co-Autho rs Project)」は、ウェブサイトを立ち上げ、2023年 9 月(45歳)に結果を示すとのことだ。
2023年9月14日現在、サイトは立ちあがっていないようで、白楽はそのサイトを見ていない。
ジーノが共著者になっている論文のハーバード大学・院生自身は信頼できるデータを収集・分析したとしても、論文は信頼を失っている。彼(女)らはネカト被災者で、大きなダメージを受けることになる。
院生はキャリアが始まったばかりので、論文数が少ない。院生の少ない論文の1報でも2報でも(場合によるとすべてだが)、ネカトで撤回になると、当の院生は何も不正をしていないのに、研究キャリアは深刻なダメージを受ける。
同じ分野の研究者たちもまた、衝撃を受け、ジーノのネカト行為に憤っている。
米国のスワースモア大学(Swarthmore College)の行動経済学者であるシオン・バノット準教授(Syon Bhanot、写真出典)は、ねつ造データは他の研究者に重大な損害を与えると批判した。
ねつ造データ論文を土台に研究を展開すると、時間、エネルギー、リソースの全部が無駄になる、と彼は説明した。
英国のキングス・カレッジ・ロンドン(King’s College London)の公共政策学者であるマイケル・サンダース教授(Michael Sanders、写真出典)は、彼のチームがジーノの「2012年9月のProc Natl Acad Sci U S A」論文に基づいた大規模な実地試験に約25万ドル(約2,500万円)を使った、と述べた。
サンダース教授は「グアテマラ税務当局との協力を含め、経費と努力はすべて無駄になった、我々は間違った場所を掘っていたからだ」と憤慨した。
サンダース教授らは、不正行為の摘発・調査に特化した機関、潤沢な資金を投入したネカト調査機関の設立を主張している。そのほうが内部告発者、学術誌、大学などがネカト調査するより、公平で効率的だと主張している。
ただ、「私の直感では、ネカト者を捕まえてもネカト行為はなくならない。ネカト行為を予防する方向を中心に努力すべきです」、とサンダース教授は述べた。
サンダース教授は、ネカト行為者を減らすには、学術界の報酬システムを変える必要があるとも指摘した。ジーノはハーバード大学の高給教授の1人で、2019年、ジーノは約100万ドル(約1億円)の給料をハーバード大学(と関連団体)からもらっていた。
学術界のトーナメントで優勝すれば、その賞金は莫大だ。だから、不正行為をしてでも優勝しようと考えるのだ。
★反撃
2023年8月2日(45歳)、ジーノは、事件について、発覚後、ほとんどコメントしてこなかったが、「私はこれまで一度もデータをねつ造・改ざんしたことも、いかなる種類の研究不正行為にも関与したことはありません( I have never, ever falsified data or engaged in research misconduct of any kind)」と、不正を強く否定した。
2023年8月2日(45歳)、ネカト公表の 2か月後、ジーノはハーバード大学とウリ・サイモンソンら3教授に対し、2,500万ドル(約25億円)の損害賠償を求めて提訴した。
以下は100ページの訴状(2023年8月2日提出)の冒頭部分(出典:同)。全文(100ページ)は → https://storage.courtlistener.com/recap/gov.uscourts.mad.259933/gov.uscourts.mad.259933.1.0.pdf
訴訟は、ネカトかどうかを問題にしていない。
ウリ・サイモンソンら3教授らが虚偽で中傷的な発言をした「悪質で中傷的な名誉棄損キャンペーン(vicious, defamatory smear campaign)」だったことを問題にしている。
また、ハーバード大学の調査は、規則に定められたプロセスから逸脱していて、他の不正行為の調査とは異なるやり方をしている。そのことで、自分(ジーノ)のキャリアを台無しにし休職処分を科した、と主張している。
訴訟がどうなるかは不明だが、多くの研究者はジーノの訴訟に批判的である。
トロント大学の心理学者のヨエル・インバー準教授(Yoel Inbar、写真出典)は、「データが不正でないなら、それを証明できるはずだ。不正で、その不正が他人がしたのであれば、その人物を名指ししてほしい。個人の研究者を数千万ドルを求めて訴えるのは、正当な研究者を黙らせようとする恥知らずの行為です」とコメントした。
2023年9月14日(45歳)現在、裁判中。
★ウリ・サイモンソンら3教授への応援
多くの研究者は、ジーノがねつ造・改ざんしたと思っている。
そして、損害賠償を要求する訴訟を起こしたジーノに批判的である。
ネカトと指摘された人が、指摘した人に損害賠償を要求する裁判を起こしたら、今後、おちおちネカトを指摘できない。
メルボルン大学・心理学教授のシミーン・ヴァジーア(Simine Vazire、写真出典)は、研究者同士がお互いの研究について注意し合うことは研究界の健全な発展に必要なことだ、と指摘している。
ヴァジーア教授のすごいところは、ウリ・サイモンソンら3教授(写真左下出典)への応援をかってでたことである。
裁判費用の25万ドル(約2,500万円)を目標にみんなから寄付金を集めるサイトを開設した。 → Fundraiser by Simine Vazire : Support Data Colada’s Legal Defense
サイトを開設した2日後には2,000人から25万ドル(約2,500万円)が集まり、目標を達成した。
ナント、1万ドル(約100万円)を寄付した人が2人もいた。
しかし、裁判は始まったばかりで、25万ドル(約2,500万円)で足りるかどうか分からない。3人への応援を込めて、その後も寄付を募っている。訴訟費用は5万ドル(約500万円)から60万ドル(約6,000万円)の範囲になると推定されている。
2023年9月14日現在、2,887人以上の寄付者で33万ドル(約3,300万円)が集まった。白楽も50ドル(+15%手数料)を寄附した(写真出典同)。 → Fundraiser by Simine Vazire : Support Data Colada’s Legal Defense
●【ねつ造・改ざんの具体例】
撤回されたネカト論文が4報ある。
撤回論文を2報選んで、そのネカト部分を以下に示す。
★「2014年2月のPsychol Sci.」論文
「2014年2月のPsychol Sci.」論文の書誌情報を以下に示す。2023年7月6日に撤回された。
Evil genius? How dishonesty can lead to greater creativity.
Gino F, Wiltermuth SS.
Psychol Sci. 2014 Apr;25(4):973-81. doi: 10.1177/0956797614520714. Epub 2014 Feb 18.
この論文は、コイントスの結果を正確に予測したかどうかに関して嘘をついた人は、その後、より創造性が高くなったと結論した論文である。
撤回公告によると、ハーバード大学の調査の結果、データセットの初期バージョンでは、コイントスで不正行為を行なった参加者は31人と記録されていたが、論文のデータでは43人になっていた。不正行為者ではない参加者12人を不正行為者に変更するというデータ改ざんをしたのである。
この「改ざん」を修正したところ、研究の結論はもはや成り立たなくなった。
★「2015年5月のPsychol Sci.」論文
「2015年5月のPsychol Sci.」論文の書誌情報を以下に示す。2023年7月6日に撤回された。
The Moral Virtue of Authenticity: How Inauthenticity Produces Feelings of Immorality and Impurity.
Gino F, Kouchaki M, Galinsky AD.
Psychol Sci. 2015 Jul;26(7):983-96. doi: 10.1177/0956797615575277. Epub 2015 May 11.
この論文は、自分の意見に反するエッセイを書く要求に従った人は、その後「道徳的に不純だ」と感じることが判明した。これらの参加者は、一連の洗浄製品が「不純」であると感じさせられなかった参加者よりもはるかに望ましいと評価し、参加者が自分自身を浄化する必要性を感じていることを示唆した。と結論した論文である。
撤回公告によると、ハーバード大学の調査の結果、公開されたデータセットは 2 つのデータファイルを組み合わせたものであることが判明した。その上、これら 2 つのファイルには参加者の一部が欠落していた。さらに、元のファイルにはない追加のデータが加えられていた。最終的なデータセットに参加者データを「入れる・除外する」ことの明確な基準はなく、研究者が独自のプロトコルを使用して2 つのデータファイルを結合した場合、結果は再現されなかった。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
データベースに直接リンクしているので、記事を閲覧した時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。
★パブメド(PubMed)
2023年9月14日現在、パブメド(PubMed)で、フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)の論文を「Francesca Gino [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2008~2023年の16年間の65論文がヒットした。
2023年9月14日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、4論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2023年9月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでフランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)を「Francesca Gino」で検索すると、 4論文が撤回されていた。
「2014年2月のPsychol Sci.」論文と「2015年5月のPsychol Sci.」論文はデータねつ造疑念で2023年7月6日に撤回された。 「2020年12月のJ Pers Soc Psychol.」論文は2023年8月17日に撤回された。
なお4つ目の「2012年8月のProc Natl Acad Sci U S A」論文は、共著者のダン・アリエリー(Dan Ariely)がデータねつ造したことで、論文は2021年9月13日に撤回された。
★パブピア(PubPeer)
2023年9月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)の論文のコメントを「”Francesca Gino”」で検索すると、2008~2020年(30~42歳)の13年間の23論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》クロ濃厚なのに裁判?
記事執筆時点では、ハーバード大学ビジネススクール(Harvard Business School, HBS)はネカト調査を終えたが、大学として調査結果を発表をしていない。
それで、フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)のシロクロはハッキリしないが、ハーバード大学はジーノを2年間無給休職処分に科しているので、白楽ブログではクロとして話しを進めた。
ウリ・サイモンソン(Uri Simonsohn)、レイフ・ネルソン(Leif Nelson)、ジョー・シモンズ(Joe Simmons)の3教授のブログを読めば、ジーノは学術的にはクロである。
これでもって、ジーノが裁判で勝訴したら、研究界はやってられない。
日本では、ネカト裁判の裁決はトンデモナイ結果になることが多いが、米国ではネカト裁判の裁決は学術界の良識と合致することが多い( 7-108 米英中の大学院生の盗用裁判 | 白楽の研究者倫理)。
それでも、ジーノの裁判の判決がどうなるか、とても気になる。
《2》胸を打たれた
ジーノの反省なしの態度と2,500万ドル(約25億円)の損害賠償を求めて提訴したことで、白楽はジーノをトンデモない研究者だと思っている。
一方、ジーノの提訴を受けて、メルボルン大学のシミーン・ヴァジーア教授(Simine Vazire)が、ウリ・サイモンソンら3教授の支援活動を始めた。
裁判費用を集めるクラウドファンディングを始めたのである。
直ぐに世界中の研究者(研究者でない人もいると思う)が呼応して、33万ドル(約3,300万円)が集まった。
ヒドイ研究者がネカトをする一方、健全な研究界を構築しようと活動し、それに呼応する多数の研究者(含・一般人)がいたのだ。
いいなあ~、と白楽は感動した。
振り返って、日本で10年近く、白楽ブログで、外国のネカト事情を解説しているが、日本の研究界の反応は低い・ニブイ・貧しい。
健全な研究界を構築しようとする研究者(含・一般人)は、日本では少数、それも、ごくごく少数なんだろう、と感じてしまう。
《3》心理学(行動学)はニセ科学
「パブピア(PubPeer)」では、ジーノの2008~2020年(30~42歳)の13年間の23論文が問題視されている。
30歳から13年間なので、白楽が思うに、ジーノは完璧な詐欺師である。
人々は、どうしてダマされるのだろう? 13年間もの長期間。
それにしても、見つけてよかったですね。
ジーノはとても有名な研究者なので、ドンドン出世するところだった。
今から10年後・20年後だと、告発するのはかなり難しくなっただろう。
イヤイヤ、そうじゃなくて、初期の論文で、もっと早く見つけるべきだった。10年前にです。
なお、心理学の茶番は多い。ゴマンとある。心理学はニセ科学に溢れていると白楽は感じる。最近解説した記事を1つだけ示す。 → 心理学:ニコラ・ゲギャン(Nicolas Guéguen)(フランス) | 白楽の研究者倫理
心理学界は、メルボルン大学・心理学教授のシミーン・ヴァジーア(Simine Vazire)の提唱している改革を即すべきだと思う。 → 7-83 研究の進め方と論文出版の大改革 | 白楽の研究者倫理
《4》ネカト被災者
フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)が、今後どうなるのか不明だが、研究者としてはもう務まらないだろう。
ベストセラーの著書はどうなる? 出版社、編集者、翻訳者は何も悪くないのに大損である。売れ行きは激減するだろう。
有名論文の共著者はどうなる? 論文が撤回されれば、業績リストに記載できない。過去及び現在指導中の院生は何も悪くないのに大きな損害を被る。過去の院生は論文が撤回され。昇進や研究費獲得に影響するだろう。現在指導中の院生は博士号取得・就職が困難になる。
共同で研究プロジェクトを組んでいる研究者は、頭を抱えているだろう。
心理学界はどの論文を信じていいいのか、学術体系が揺らいでくる。「多数共著者プロジェクト(Many Co-Authors Project)」はどこまで機能する・できるのだろうか?
そして、年収1億円もあったジーノは無給休職の処分を受け、4人の子供がいるジーノ家族はどうなるのだろう?
フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino)。出典:https://www.livemint.com/news/business-of-life/francesca-gino-do-you-go-off-track-easily-1540494888158.html
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる。
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●9.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Francesca Gino – Wikipedia
② フランチェスカ・ジーノ(Francesca Gino )本人のウェブサイト:Francesca Gino – Wikipedia
③ 2023年6月16日のステファニー・リー(Stephanie M. Lee)記者の「Chronicle of Higher Education」記事:A Weird Research-Misconduct Scandal About Dishonesty Just Got Weirder
④ 2023年6月17日記事:[109] Data Falsificada (Part 1): “Clusterfake” – Data Colada、Part 4まである
⑤ 2023年6月21日のキャスリーン・オグラディ(Cathleen O’Grady)記者の「Science」記事:Harvard behavioral scientist faces research fraud allegations | Science | AAAS
⑥ 2023年7月5日のエヴァン・ネスターク(Evan Nesterak)記者の「Behavioral Scientist」記事:Harvard Professor Under Scrutiny for Alleged Data Fraud – By Evan Nesterak – Behavioral Scientist
⑦ 2023年7月18日のキャスリーン・オグラディ(Cathleen O’Grady)記者の「Science」記事:After honesty researcher’s retractions, colleagues expand scrutiny of her work | Science | AAAS
⑧ 2023年8月3日のスーザン・スヴルガ(Susan Svrluga)記者の「Washington Post」記事:Harvard professor accused of research misconduct is sues university – The Washington Post
⑨ ◎2023年8月30日のエヴァン・ネスターク(Evan Nesterak)記者の「Behavioral Scientist」記事:Amid Uncertainty About Francesca Gino’s Research, the Many Co-Authors Project Could Provide Clarity – By Evan Nesterak – Behavioral Scientist
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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