「ズサン」:フェリッサ・ウルフ=サイモン(Felisa Wolfe-Simon)(米)

2017年9月24日掲載。

ワンポイント:アメリカ地質調査所で研究したNASA研究員(女性)で、2010年12月(32歳?)、リン酸の代わりにヒ素でできたDNA鎖を持つ新種のバクテリアを発見し、「2011年のScience」論文に発表した。NASAは、世紀の大発見と興奮し、記者会見で派手に宣伝した。2011年4月(33歳)、ウルフ=サイモンはタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。ところが、すぐに、研究がズサンだと指摘され、新種バクテリアの存在は否定された。2011年5月(33歳)、ウルフ=サイモンは学術界からドロップアウトした。損害額の総額(推定)は3億1千万円。2011年ランキングの「The Scientist誌の選んだ2011年の大事件」の第4位である。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

フェリッサ・ウルフ=サイモン(Felisa Wolfe-Simon、写真出典)は、米国・NASA(航空宇宙局 National Aeronautics and Space Administration)の研究員で、カリフォルニア州メンローパークのアメリカ地質調査所(US Geological Survey in Menlo Park, California)で研究していた。専門は地質微生物学だった。

2010年12月(32歳?)、ウルフ=サイモンは、リン酸の代わりにヒ素でできたDNA鎖を持つ新種のバクテリアを、モノ湖(Mono Lake)で発見した。GFAJ-1(Give Felisa a Job(フェリッサに職を与えよ)、大胆ですね!)と命名し、とサイエンス誌のオンライン版に発表した。

NASAは、世紀の大発見と、記者会見で派手に宣伝した。記者会見の動画を見ると、発見者の若い女性(ウルフ=サイモン)は、堂々と発見について語っている。メディアは大騒ぎした。

2011年4月(33歳)、タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた(表紙出典)。

どこかの事件と似ていますね。そう、小保方晴子事件です。

そして、すぐに、DNA抽出法を間違えていたこと、リン酸が含まれていないハズの培養液に微量のリン酸が含まれていたことから、研究結果は間違っていると、多くの研究者から批判された。つまり、ズサンな研究の一言です。

「The Scientist」誌の選んだ「2011年の大事件」の第4位である(Top Science Scandals of 2011 | The Scientist MagazineR)。
→ 2011年ランキング | 研究倫理(ネカト)

カリフォルニア州メンローパークのアメリカ地質調査所(US Geological Survey in Menlo Park, California)(Credit: Wilfred (Terry) Carr, USGS. Public domain)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ラトガース大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:1978年で月日は不明。仮に1978年1月1日生まれとする
  • 現在の年齢:39 歳?
  • 分野:地質微生物学
  • 最初の不正論文発表:2010年(32歳?)
  • 発覚年:2010年(32歳?)
  • 発覚時地位:NASA・研究員
  • ステップ1(発覚):多くの研究者
  • ステップ2(メディア):多くの新聞・テレビなどのメディア、学術誌
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①サイエンス誌・編集部。②多くの大学の研究者が追試した。例えば、ブリティッシュ・コロンビア大学のローズマリー・レッドフィールド教授(Rosemary Redfield)
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 不正:ズサン
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 損害額:総額(推定)は3億1千万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円が7年間=1億4千万円。③院生の損害はなし。④外部研究費の受領額は不明。3,000万円とした。⑤調査経費(NASAと学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判なし。⑦撤回論文なし。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
  • 結末:学術界からドロップアウト

●2.【経歴と経過】

主な出典:Felisa Wolfe-Simon | LinkedIn

  • 生年月日:1978年で月日は不明。仮に1978年1月1日生まれとする
  • 2000年(22歳?):米国のオバーリン大学(Oberlin College)を卒業。学士号。生物学
  • 2000年(22歳?):米国のオバーリン音楽院(Oberlin Conservatory of Music)を卒業。学士号。音楽学
  • 2006年(28歳?):ラトガース大学(Rutgers University)で研究博士号(PhD)を取得した。海洋学。博士論文「The Role and Evolution of Superoxide Dismutases in Algae」
  • 2006年-2009年(28-31歳?):科学庁(NSF)のポスドク奨学金でNASA(航空宇宙局National Aeronautics and Space Administration)・ポスドク
  • 2010年-2013年(32-35歳?):NASA(航空宇宙局National Aeronautics and Space Administration)・研究員。カリフォルニア州メンローパークのアメリカ地質調査所で研究した
  • 2010年12月(32歳?):問題の論文を発表し問題が顕在化
  • 2011年4月21日(33歳):タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた
  • 2011年5月(33歳):カリフォルニア州メンローパークのアメリカ地質調査所を去った
  • 2013年(35歳?):バークレー高校(Berkeley High School)・音楽コーチ
  • 2016年(38歳?):ミルズ大学・客員教授(Chan-Norris Distinguished Visiting Professor at Mills College)

●3.【動画】

動画はたくさんある。グーグルで動画を検索した結果。 → ココ

【動画】
発見の分析:「NASAは本当に新しいエイリアン生物を見つけたのか?(Did NASA really find New Alien Life??) 」(英語)10分28秒
Thunderf00t が2010/12/07 に公開
以下のリンクが切れた時 → 保存版

●4.【日本語の解説】

★ウィキペディア日本語版:フェリッサ・ウルフ=サイモン

出典 → ココ

ウルフ=サイモンの研究は進化微生物学と外来代謝経路(exotic metabolic pathways)に焦点を合せている。2008年の会議、続く2009年の論文ではウルフ=サイモンとその同僚らはヒ酸塩 (arsenate) (AsO43−)がリン酸塩(PO43−)の代替として機能しうるのではないかと提案した。初期の報告書の共著者であったPaul Daviesによれば、ウルフ=サイモンはヒ素がリンの代替になりうることに対するクリティカルな洞察を持っていたという。

ウルフ=サイモンはそのような生命体を探し出すため、カリフォルニア州のヒ素が元々豊富なモノ湖をターゲットにした。モノ湖における調査の結果、DNAや他の必要不可欠な生体分子内でリン酸塩の代わりとしてヒ素を取り組むことが可能なGFAJ-1というバクテリアを発見した。もしこの研究成果が正しければ、DNAや他の重要な生化学的機能にヒ素を取り込むことが可能と判明した世界初の生命となると思われた。

しかし、この論文は発表当初から論理的実験的な稚拙さから批判が殺到し、サイエンス誌が発見を主張する論文とそれを否定する八つのグループによる複数の反対論文を同時掲載するという前代未聞の異例の事態になり、2012年には原論文の要点をほぼ完全に否定する報告がサイエンス誌上で発表され、ほぼ間違いだったことが確定的となっている。

この発見には、もともと確実な証拠が皆無なのにかかかわらすメディアの報道だけが過熱したことから、「微生物学のビッグフット」と揶揄されている。この発見論文はそもそも出版されるべきではなくRetraction(撤回)されるべきだという意見がある中、2013年2月時点では撤回まではいたっていない。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

http://www.cbc.ca/news/technology/critics-take-aim-at-nasa-arsenic-life-study-1.996506

★画期的な大発見

2010年12月2日(32歳?)、ウルフ=サイモンは、リン酸の代わりにヒ素でできたDNA鎖を持つ新種のバクテリアを、モノ湖(Mono Lake)で発見したとサイエンス誌の電子版に発表した(プリント版は2011年6月出版)。

https://www.wsj.com/articles/SB10001424052748703989004575652940497021092

そのバクテリアを、GFAJ-1と命名した。「GFAJ」は「Give Felisa a Job(フェリッサに職を与えよ)」の頭文字をとった略号(大胆ですね!)というからオドロキ、モモノキである。

論文の図1。CDが新細菌GFAJ-1の姿(走査型電子顕微鏡図)。出典は上記論文。

図1.出典:A Bacterium That Can Grow by Using Arsenic Instead of Phosphorus | Science

2010年12月2日、NASAは、世紀の大発見と、記者会見で派手に宣伝した。「2011年のScience」論文の著者で記者会見に出席したのはウルフ=サイモンだけである。

記者会見の動画を見ると、発見者の若い女性(ウルフ=サイモン)は、堂々と発見を主張している。メディアは大騒ぎした。

【動画】
2010年12月のNASAの記者会見:「2010年12月2日 – 宇宙生物学のNASA記者会見(NASA News Conference on Astrobiology Discovery, Part 1 (Thursday, December 2-2010)) 」(英語)9分45秒
Moniqueが2010/12/02 に公開
以下のリンクが切れた時 → 保存版

2011年4月21日(33歳)、タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。
→ Felisa Wolfe-Simon – The 2011 TIME 100 – TIME(保存版)

★ズサンな研究

論文発表後すぐに、研究のズサンさが指摘された。

DNA抽出法を間違えていたこと、リン酸が含まれていないハズの培養液に微量のリン酸が含まれていたことから、研究結果は間違っていると、多くの研究者から批判された。

新細菌GFAJ-1の姿(走査型電子顕微鏡図)。By NASA/Jodi Switzer Blum – http://www.nasa.gov/topics/universe/features/astrobiology_toxic_chemical.html (image link), Public Domain, Link

以下は、2012年7月9日のamarcus41記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Despite refutation, Science arsenic life paper deserves retraction, scientist argues – Retraction Watch at Retraction Watch

パーデュー大学のデイビッド・サンダース教授(David Sanders)は、ウルフ=サイモンのサイエンス論文に興味を持って、試薬・ヒ素中にリン酸塩が微量に含まれているのではないかと疑念を抱いた。

ウルフ=サイモンのサイエンス論文は、ヒ素の購入先を記載していません。論文を追試するために、市販のヒ素を購入したが、市販のヒ素には微量のリン酸塩が含まれていることを見つけました。

ウルフ=サイモンのサイエンス論文は、悪いデータ、誤ったデータ、不確定なデータ、試薬の汚染があって、論文として発表するようなシロモノではありません。 ゲームオーバーです。 追加の研究や論文は必要ありません。 論文は明らかに間違っており、決して発表してはいけない類の質の悪い研究です。即刻、撤回すべきです。

しかし、論文自体は物語全体のほんの1部分です。今後、この事件は、論文査読、学術誌、政府機関、学術機関、メディア、そして多数の個人が力量に応じて公正に仕事をこなしていても、大失敗をしてしまうという研究上のよい例になるでしょう。

ブリティッシュ・コロンビア大学のローズマリー・レッドフィールド教授(Rosemary Redfield)も疑念を抱いた。

レッドフィールド教授は、いろいろな手法で、GFAJ-1のDNA中のヒ素の存在を調べ、2012年、「細菌のDNA中に検出可能なヒ素がない。また、ヒ素の存在下ではGFAJ-1は増殖しない」と発表した。つまり、ウルフ=サイモンのサイエンス論文を全否定した。

ローズマリー・レッドフィールド教授(Rosemary Redfield)(左)とウルフ=サイモン(右)。写真出典

★事件後の人生

2011年5月(33歳)、事件の半年後、ウルフ=サイモンはカリフォルニア州メンローパークのアメリカ地質調査所を去った。この時点で、研究界からドロップアウトし、研究者のキャリアは終わったようだ。

2016年(38歳)、ミルズ大学・客員教授(Chan-Norris Distinguished Visiting Professor at Mills College)になった。ミルズ大学のサイトで検索すると在職はしているが、準教授などと書く身分欄が空白である。教授会メンバーではないパートタイム教員なのだ。

2017年の活動を見ると、ミルズ大学の学部生の「科学・技術・工学・数学(STEM:Science, Technology, Engineering and Mathematics)」教育を担当している。
→ Want to fix underrepresentation in STEM? Here’s one story.

●6.【論文数と撤回論文】

2017年9月23日現在、パブメド(PubMed)で、フェリッサ・ウルフ=サイモン(Felisa Wolfe-Simon)の論文を「Felisa Wolfe-Simon [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2006~2011年の6年間の5論文がヒットした。

2017年9月23日現在、撤回論文はない。問題視された「2011年のScience」論文も撤回されていない。

●7.【白楽の感想】

《1》事件後の人生

ウルフ=サイモンは、事件の半年後、2011年5月(33歳)、カリフォルニア州メンローパークのアメリカ地質調査所を去った。

この時点で、研究界からドロップアウトし、研究者のキャリアは終わったようだ。

《2》防ぐ方法

ウルフ=サイモンの発見は、もし本当ならノーベル賞級の発見である。

そういう世紀の大発見なので、NASAは、記者会見で派手に宣伝した。

それで、メディアは大騒ぎした。

http://www.newswise.com/articles/astrobiologists-deadly-arsenic-breathes-life-into-organisms

ところが、まともな研究者が少し考えれば、研究のツメの甘さや研究プランのズサン具合がわかる。

ウルフ=サイモンの論文の共著者、査読者、NASAのお偉いさん、大発見に舞い上がって、基本的なことが見えなくなってしまったようだ。

2011年4月(33歳?)、タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれた。

小保方晴子事件と似ていると書いたが、どうしてこうなってしまうんでしょう。デイビッド・サンダース教授が指摘するように、「論文査読、学術誌、政府機関、学術機関、メディア、そして多数の個人」がダマされてしまう。

防ぐ方法はなく、また、いずれどこかで起こる、いや、昨日、あなたの近くで、起こりましたよ、多分。

《3》論文撤回すべき

2017年9月23日現在、問題視された「2011年のScience」論文は撤回されていない。

論文内容が間違っているのだから、論文撤回すべきでしょう。

「Science」はネカト問題を記事にしているのに、自誌のネカト論文を放置するとは、コレいかに!

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photo by Suzie Katz. https://www.flickr.com/photos/flyinghorsepix/5577976202

●8.【主要情報源】

① ウィキペディア日本語版:フェリッサ・ウルフ=サイモン – Wikipedia
② ウィキペディア英語版:Felisa Wolfe-Simon – Wikipedia
③ ウィキペディア日本語版:GFAJ-1 – Wikipedia
④ ウィキペディア英語版:GFAJ-1 – Wikipedia
⑤ 2010年12月13日のデニス・オーバーバイ(Dennis Overbye)記者の「New York Times」記事:Arsenic Paper by Felisa Wolfe-Simon and NASA Is Assailed – The New York Times(保存版)
⑥ 2012年7月9日のamarcus41記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Despite refutation, Science arsenic life paper deserves retraction, scientist argues – Retraction Watch at Retraction Watch
⑦ コンサーヴァペディア英語版:Felisa Wolfe-Simon – Conservapedia
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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