2021年3月2日掲載
ワンポイント:この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「4D」の「2」に挙げられたので記事にした。チャンは台湾出身で、ロチェスター大学医療センター(University of Rochester Medical Center)の著名な教授になった。2012年、中国の千人計画に選ばれた。スオク・リー(Soo Ok Lee)は韓国出身で2008年からチャン研究室・助教授、その後、同大学の準教授になった。2012年と2016年の2回、ネカトハンターのポール・ブルックス(Paul S Brookes)がチャン教授の論文のねつ造・改ざん画像を指摘したが、ロチェスター大学は「間違い」だったと発表し、調査結果を公表しなかった。2020年、3回目のネカト指摘だが、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)、スマット・クライド(Smut Clyde)、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)がチャン教授の論文と今度はスオク・リー準教授の論文も加えて、画像を詳細に分析し、ねつ造・改ざんではないかと指摘した。しかし、ロチェスター大学は調査の結果、3回目も再び、ネカトではなく「間違い」だったとした。現在、ネカト疑惑論文は24報あるが撤回論文は1報もない。2020年、64歳(?)のリー準教授は大学を退職した。チャン教授は在職している。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。
【追記】
・2022年1月4日記事:Yuhchyau Chenも関与か。University of Rochester cancer researchers included ‘incorrect images’ in 13 papers, committee finds – Retraction Watch
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
チャウンシャン・チャン(张传祥、張傳祥、Chawnshang Chang、Chuanxiang Zhang、ORCID iD:?、写真出典)は台湾出身で、大阪大学・泌尿器科・客員教授にもなったことがある米国のロチェスター大学医療センター(University of Rochester Medical Center)・教授で、医師免許はもっていない。専門は泌尿器科学(がん)で、アンドロゲン受容体 (AR:androgen receptor)の研究で有名である。
スオク・リー(Soo Ok Lee、写真出典)は韓国出身で、2008年からチャン研究室・助教授、その後、準教授になった。
ネカト論文は2桁数ある。
ロチェスター大学は調査し、ネカトではなく「間違い」だったとした。
本記事では大学での地位の高いチャウンシャン・チャン(Chawnshang Chang)を主役にリー準教授を脇役に記事を書いていく。
以下、( )内の年齢は断らない限り、チャン教授の年齢である。
2012年と2016年の2回、ネカトハンターのポール・ブルックス(Paul Brookes)がチャン教授の論文のねつ造・改ざん画像をロチェスター大学に通報した。ロチェスター大学はそれなりに調査した。
しかし、調査報告書を発表しなかった。後でわかるのだが、ロチェスター大学はネカトではなく「間違い」だったとした。
3回目のネカト指摘だが、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)がチャン教授の論文と今度はスオク・リー準教授の論文も加えて、論文の画像を詳細に分析し、ねつ造・改ざんではないかと指摘した。また、ネカトハンターのスマット・クライド(Smut Clyde)も詳細に分析し、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログで指摘した。
彼らの調査によると、チャン教授とリー準教授の多数の共著論文にネカト画像(イヤ、間違いの画像。イチイチ面倒なので、以下はテキトー)があり、さらに、共著ではない論文にもネカト画像があった。
また、本記事ではあまり触れないがチャン教授グループの他の研究者である「ドナルド・トランプ(Donald L Trump)」(あの前大統領ではありません)、「アレン・ガオ(Allen C Gao)」、「シュ=ユアン・イェー教授(Shu-Yuan Yeh)」等が著者の多数の論文にもネカト画像がある。
2020年9月、上記の指摘に対して、ロチェスター大学は、調査の結果、「間違い」はあったが、ネカトはなかったとした。
丁度その頃、リー準教授は大学を辞めた。ネカト(イヤ、「間違い」)の責任を問われて解雇されたのか、辞職したのか、はたまた、64歳(?)なので、単に退職したのか不明である。しかし、大学は「間違いはあったが、ネカトはなかった」としているので、退職だったのだろう。
チャン教授とリー準教授を含め、「ドナルド・トランプ(Donald L Trump)」、「アレン・ガオ(Allen C Gao)」、「シュ=ユアン・イェー教授(Shu-Yuan Yeh)」など、複数の研究者にネカト犯の可能性がある。
しかし、ロチェスター大学が「間違い」で済ませているので、このまま、ウヤムヤになるだろう。
ネカト調査の当局(オーソリティ)が、研究者の所属する大学という現在のシステムでは、大学が「間違い」と言い張れば、打つ手がない。現在のネカト摘発システムの大きな欠陥である。
この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「4D」の「2」に挙げられた。
ロチェスター大学医療センター(University of Rochester Medical Center)。写真出典
★チャウンシャン・チャン(张传祥、張傳祥、Chawnshang Chang、Chuanxiang Zhang)
- 国:米国
- 成長国:台湾
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:米国のシカゴ大学
- 男女:男性
- 生年月日:1955年生れとある。仮に1955年12月31日生れとする
- 現在の年齢:68 歳?
- 分野:泌尿器科学
- 疑念論文発表:2002~2015年の14年間(46~59歳?)
- 発覚年:2012年(56歳?)
- 発覚時地位:ロチェスター大学・殊勲教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのポール・ブルックス(Paul Brookes)で、ロチェスター大学に公益通報
- ステップ2(メディア):レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)、「パブピア(PubPeer)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②ロチェスター大学・調査委員会
- 大学の透明性:発表なし・隠蔽(✖)
- 不正:大学は「間違い」と結論だが、本記事では「ねつ造・改ざん」とする
- 不正論文数:撤回論文はないが、「パブピア(PubPeer)」で2002~2015年の14年間(46~59歳?)の25論文にコメントあり
- 時期:研究キャリアの中期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:日本人ポスドクが多数いた。以下は一部。①:武田洋幸 (Hiroyuki Taketa) (東京大学・教授)が1988-1990年に滞在、②:
中元崇(Takashi Nakamoto)(広島大学・准教授)が1988-1990年に滞在、③:泉浩二 (Kouji Izumi) (金沢大学・講師)が2010/10-2012/09に滞在、④
山下慎一(東北大学・講師)がが2010.3- に滞在
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。
★スオク・リー(Soo Ok Lee)
- 国:米国
- 成長国:韓国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:米国のラトガーズ大学
- 男女:女性
- 生年月日:仮に1956年1月1日生まれとする。1978年に学士号所得した時を22歳とした
- 現在の年齢:68 歳?
- 分野:泌尿器科学
- 疑念論文発表:2002~2020年の19年間(46~64歳?)
- 発覚年:2012年(56歳?)
- 発覚時地位:ロチェスター大学・準教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)で、パブピアで指摘した。また、ネカトハンターのスマット・クライド(Smut Clyde)が、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログで指摘した
- ステップ2(メディア):レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)、「パブピア(PubPeer)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②ロチェスター大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:発表なし・隠蔽(✖)
- 不正:大学は「間違い」と結論だが、本記事では「ねつ造・改ざん」とする
- 不正論文数:撤回論文はないが、「パブピア(PubPeer)」で32論文にコメントあり
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめたが(Ⅹ)、64歳(?)だったので退職したのかもしれない
- 処分:なし。ヒョットして、解雇(辞職?)
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
★チャウンシャン・チャン(张传祥、張傳祥、Chawnshang Chang、Chuanxiang Zhang)
出典:①:Chawnshang Chang Lab、②:我校张传祥教授入选第七批国家”千人计划”
- 生年月日:1955年生れとある。仮に1955年12月31日生れとする
- 1978年(22歳?):台湾の国立台湾大学(National Taiwan University)で学士号取得:農芸化学
- 1980年(24歳?):台湾陸軍化学学校(Taiwan Army Chemical School)・中尉:化学
- 1985年(29歳?):米国のシカゴ大学(University of Chicago)で研究博士号(PhD)を取得:生化学および分子生物学
- 1985年(29歳?):同大学・ポスドク
- 1988年(32歳?):同大学・ポスドクの時、アンドロゲン受容体cDNAをクローニングという重要な研究をした(Chang, et al, Science, 1988)
- 1988年(32歳?):同大学・助教授(1988-93年)。その後、準教授(93-96年)、教授(96-97年)
- 1996-98年(40-42歳?):日本の大阪大学・泌尿器科・客員教授
- 1997年(41歳?):米国のロチェスター大学医療センター(University of Rochester Medical Center)・殊勲教授(Distinguished Professor)、ジョージ・ホイップルがん研究所(George Whipple Laboratory for Cancer Research)・所長、泌尿器研究センター(Urology Research Center)・センター長
- 2002年(46歳?):後で問題視されるネカト最古論文を発表
- 2012年(56歳?):ポール・ブルックス(Paul S Brookes)が論文ネカトを見つけ1回目の指摘。大学は「間違い」と結論
- 2016年(60歳?):2回目の指摘。ポール・ブルックス(Paul S Brookes)が「2015年1月のMol Oncol.」論文のネカトを見つけ通報。大学は「間違い」と結論、論文「訂正」で済ませた
- 2019年(63歳?):3回目の指摘。エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)、スマット・クライド(Smut Clyde)、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)らが論文ネカトを追及。大学は「間違い」と結論、論文「訂正」で済ませた
- 2021年3月1日(65歳?)現在:米国のロチェスター大学・殊勲教授
★スオク・リー(Soo Ok Lee)
- 生年月日:仮に1956年1月1日生まれとする。1978年に学士号所得した時を22歳とした
- 1978年(22歳?):韓国の延世(ヨンセ)大学(Yonsei University)で学士号取得:生化学
- 1980年(24歳?):同大学で修士号取得:生化学
- 1989年(33歳?):米国のラトガーズ大学(Rutgers University)で研究博士号(PhD)を取得:分子生物学と生化学
- 1990年9月~1993年7月(34~37歳?):韓国のアサン生命科学研究所(Asan Life Science Research Center)・ポスドク
- 1993年3月~1996年6月(37~40歳?):韓国の延世(ヨンセ)大学(Yonsei University)・講師
- 1996年8月~1999年11月(40~43歳?):韓国のBMS研究所(Research Institute of BMS at Seoul)・上級研究員
- 2000年8月~2001年6月(44~45歳?):韓国のアジュー医科大学(Ajou Medical School)・教授
- 2001年7月~2002年8月(45~46歳?):米国のピッツバーグ医療センター(Pittsburgh Medical Center)・研究員
- 2002年9月~2007年12月(46~51歳?):米国のロズウェルパーク癌研究所(Roswell Park Cancer Institute)・研究員
- 2008年(52歳?):米国のロチェスター大学医療センター(University of Rochester Medical Center)・ジョージ・ホイップルがん研究所(George Whipple Laboratory for Cancer Research)・助教授。後に準教授
- 2019年(63歳?):論文ネカトが発覚
- 2020年9月(64歳?):米国のロチェスター大学はネカトではなく「間違い」と結論
- 2020年9月(64歳?)?:米国のロチェスター大学・準教授を退職
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
「Chawnshang Chang」を「チャウンシャン・チャン」と紹介。
ニュース動画:「chawnshang Chang 張傳祥的抗癌大發現!生薑抑制肝癌細胞-華視新聞網3.flv – YouTube」(中国語)1分40秒。
Jessica Tsengが2010/06/10に公開
【動画2】
ニュース動画:「生姜化合物を抽出して肝炎が肝癌になるのを防ぐ:2010-05-20公視中晝新聞(萃取生薑化合物 抑制肝炎變肝癌) – YouTube」(中国語)1分45秒。
公視 PTS 台灣が2010-05-20に公開
●5.【不正発覚の経緯と内容】
以下の文章と写真はレオニッド・シュナイダーの記事をベースにした。 2020年3月18日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Chainsaw Chang and Soo Not Ok Lee – For Better Science
★チャウンシャン・チャン:大阪大学の客員教授
チャウンシャン・チャン (张传祥、Chawnshang Chang)は台湾出身で、米国のシカゴ大学(University of Chicago)で研究博士号(PhD)を取得し、ロチェスター大学・殊勲教授(Distinguished Professor)になった。
1996-98年(40-42歳?)に、日本の大阪大学・泌尿器科で客員教授をしたこともある。この時の漢字姓名は「張傳祥」だった。
1988年(32歳?)、チャン教授は、アンドロゲン受容体cDNAをクローニングし、アンドロゲン受容体(AR:Androgen Receptor)の解明に大きな貢献をした(Chang, et al, Science, 1988)。この研究結果が、アンドロゲン受容体に関連する病気の解明に端緒を付け、チャン教授を有名にした。
例えば、2017年7月30日公開の動画でも、HBV-HCC肝癌でアンドロゲン受容体を発見したニュースを報道している。 → 張傳祥教授Chawnshang Chang’s discovery in androgen receptor-HBV-HCC liver cancer一16之5.wmv – 動画 Dailymotion
チャン教授は、多くの若い研究者を育成し、日本人のポスドクもたくさん引き受けた。例えば、東京大学・教授の武田洋幸は1988-1990年に、広島大学・准教授の中元崇(Takashi Nakamoto)は1988-1990年に、チャン教授のポスドクだった。
チャン教授は、しかし、それよりも多くの中国人ポスドクを集めた。中国人ポスドクはチャン教授が統制する。また、韓国人ポスドクも多く集め、韓国出身のスオク・リー助教授(Soo Ok Lee)が研究室の韓国人を統制している。要するに、米国の大学の中に中韓日の若いポスドクを多数集め、中韓日文化の権力支配構造で研究室を運営している。米国の中に米国の文化と隔離したアジア的研究室があるという構図だと、シュナイダーが指摘している。
2012年、チャン教授は、中国の「千人計画 – Wikipedia」の1人に選ばれた。 → 我校张传祥教授入选第七批国家”千人计划”
チャウンシャン・チャン(Chawnshang Chang)は、ロチェスター大学の同僚から愛情を込めて「チェーンソー(Chainsaw)」(写真出典)と呼ばれているので、本記事でもチェーンソーと呼ぼう。イヤイヤ、止めます。チャン教授でいきましょう。
チャン教授のグラント受給研究費を調べると、1992~2015年に81件のグラントを受給している(Grantome: Search)。以下に直近の2012~2015年の9件を示すが、2016年以降受給していない。この理由は不明だが、ネカト発覚と関係があるのだろうか?
★発覚:2012年
2012年、匿名の有力なネカトハンターが世界中のネカト論文を摘発し、サイト「science-fraud.org」を作り、公表していた。
2012年末、しかし、この匿名のハンターは「ポール・ブルックス(Paul S Brookes)」だと暴露され、告発していたネカト者から損害賠償で訴えると脅された。
2013年、それで、ブルックスはサイトを閉鎖し、ネカトハンター活動を停止した。
そのブルックスは当時、ロチェスター大学医療センター(University of Rochester Medical Center)・準教授で、今は教授である。(写真出典:Paul Spencer Brookes, Ph.D. University of Rochester Medical Center)
サイトを閉鎖する前の2012年夏(49歳?)、ブルックスは同僚のチャウンシャン・チャン(Chawnshang Chang)の2004~2010年の5論文のネカト画像を摘発していた。この5論文は、スオク・リー(Soo Ok Lee)が共著者になっていない。
レオニッド・シュナイダーがそのファイルを保存していた。以下はそのファイルである。全文(6ページ)。 → https://forbetterscience.files.wordpress.com/2020/03/chang-summary-problem-data.pdf
chang-summary-problem-data
2012年、ブルックスの通報を受け、ロチェスター大学はチャン教授のネカト調査をしたらしい。しかし、十分な調査をしたのかどうか不明である。ロチェスター大学は調査結果を公表しなかった。
★発覚:2016年
2016年、ブルックスは、チェーンソー(チャン教授でした)の新しい論文でのネカト疑惑を、再び大学当局に通報した。 この論文も、スオク・リー(Soo Ok Lee)が共著者になっていない。
- Infiltrating T cells promote prostate cancer metastasis via modulation of FGF11→miRNA-541→androgen receptor (AR)→MMP9 signaling.
Hu S, Li L, Yeh S, Cui Y, Li X, Chang HC, Jin J, Chang C.
Mol Oncol. 2015 Jan;9(1):44-57. doi: 10.1016/j.molonc.2014.07.013. Epub 2014 Jul 29.
2016年12月、指摘を受けたチャン教授は論文を訂正した。 → Corrigendum。
以下にネカト疑惑箇所と訂正を2点示す。訂正の全体像 → https://drive.google.com/file/d/1fhrEb46gSjbI-TTDMJeK0WmNGFyNgCto/view
【図4C、図4F】
図4Cの画像の1つが図4Fの画像と同じ(赤枠とオレンジ枠)。つまりデータねつ造と指摘された。
チャン教授は説明を求められ、「図4を注意深くチェックし、「間違い」を見つけました」とのべ、上記図4Fの赤枠図を以下の赤枠図に変えた。
【図4B、図4E】
図4Bの画像の1つが図4Eの画像と同じ(赤枠、反転)。つまりデータねつ造と指摘された。
チャン教授は説明を求められ、「元データは違っていました」とのべ、上記図4Bの下段を以下の赤枠図に変えた。
★無風:2017~2019年
2016年にネカト疑惑が指摘されて以降、チャン教授のネカト騒動が激減した。
理由は、チャン教授がいろいろな意味で強くなったからだ。
また、アジア的権力構造が完成してきたこともある。前述したように、チャン教授は多くの中国人ポスドクを集め、チャン教授が統制している。また、韓国人ポスドクも多く集め、韓国出身のスオク・リー助教授(Soo Ok Lee)が研究室の韓国人を統制している。
要するに、米国の大学の中に中韓支配の隔離研究室があるという構図だと、シュナイダーが指摘している。
★発覚:2019年12月以降
2019年12月4日、ネカトハンターのジョン・スミス(John Smith)がブルックスにメールした。
「今年(2019年)の7月、私は、スオク・リー(Soo Ok Lee)研究室の13論文に重大なデータ改ざんがある、とロチェスター大学医療センター(University of Rochester Medical Center)のコンプライアンス室(compliance office)に通報しました。彼女の論文は、不適切に加工されたウエスタンブロット・バンドと顕微鏡画像がたくさん使われていました。これらの証拠を、パブピア(PubPeer)で明らかにしました。
最近になって、ロチェスター大学医療センターのセンター長からこのネカト事件を調査するという回答が受け取りましたが、2019年7月にこの事件を報告したのに、未だに、リー準教授は在職しています。リー準教授がネカト論文を作成し続けているのではないかと気になります」。
ジョン・スミス(John Smith)が言及したスオク・リー(Soo Ok Lee)の不適切画像はあとで示す。
流れの中で、スオク・リー(Soo Ok Lee、写真出典)が突然出てきたが、リーは2008年にロチェスター大学医療センターの助教授に就任し、チャン教授グループの一員になった研究者である。
レオニッド・シュナイダーはロチェスター大学とロチェスター大学医科大学院にコメントを求めた。研究担当副学部長のスティーブ・デューハースト(Steve Dewhurst、写真出典)は2012年のネカト調査の失敗について、次のように述べた。
「私たちは、あなたが指摘した種類の懸念について、学術誌との間で協議しました。その結論は、学術誌が下しました。
大学は一貫してネカト問題に取り組んでおります。大学にはネカト規則があり、規則に従います。 ただし、ネカト対処の内部プロセスや調査の詳細を公にすることはありません。大学は学術誌と直接連絡を取り合いました」。
レオニッド・シュナイダーはロチェスター大学医療センターのシュ=ユアン・イェー教授(Shu-Yuan Yeh、写真出典)の論文にも不適切な画像があると指摘した。
その指摘に対して、デューハースト研究担当副学部長は次のように答えた。
「私たちは、追加されたシュ=ユアン・イェー教授(Shu-Yuan Yeh)の論文のネカト疑惑についても検討しています。私たちは、論文の研究公正に関するあなたの懸念を共有し、データ不正の告発に対処し、調査しますので、ご安心ください」。
2020年9月12日、デューハースト研究担当副学部長は、「スオク・リー(Soo Ok Lee)とシュ=ユアン・イェー教授の15報の共著論文を調査した結果、ネカトはありませんでしたが、13論文に「間違い」がありました」、とレオニッド・シュナイダーに伝えてきた。
その内容は、マーク・タウブマン医学歯学部長(Mark B.Taubman)が学術誌「Oncotarget」・編集部に回答した2020年9月8日の手紙に示されていた。
以下はその2020年9月8日の手紙の冒頭部分(出典:同)。全文(2ページ)は → https://forbetterscience.files.wordpress.com/2020/09/oncotarget-journal_ur-findings-re-lee-and-chen-investigation-090820.pdf
●【ねつ造・改ざんの具体例】
この章の文章と写真はレオニッド・シュナイダーの記事をベースにした。 → 2020年3月18日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Chainsaw Chang and Soo Not Ok Lee – For Better Science
以下に示すたくさんの不適切が画像について、ロチェスター大学は調査の結果、「ねつ造・改ざん」ではなく、「間違い」だとしている。
画像の出典はパブピアである。量が多いので、単純に5件リストする。
★チャウンシャン・チャン(Chawnshang Chang)の論文
スオク・リー(Soo Ok Lee)は共著者に入っていない。
①以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/01E69BF3C61D21C84045966FEF75A4
②以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/A65CF85B952B656328A85C88C97275
③以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/90CF55D38EB3DA1FA2A31AABE5CC33
④以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/4F83E7FD406A0F4CDEB020DA94E72B
⑤ 緑色枠で囲った部分が同じ。つまり、同じ画像を別の資料として使用した。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/7433BB0273D139C664A3A1C4A62445
★スオク・リー(Soo Ok Lee)の論文
チャウンシャン・チャン(Chawnshang Chang)は共著者に入っていない。
①「2017年論文の図5」、「2018年論文の図4」、別の「2018年論文の図6」、「2019年論文の図5」のおなじバンドを別のタンパク質として重複使用している。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/storage/image-1584096343833.png
②以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/storage/image-1561441476602.jpg
③以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/storage/image-1583696399891.jpg
④
⑤
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
【チャウンシャン・チャン(张传祥、張傳祥、Chawnshang Chang、Chuanxiang Zhang)】
2021年3月1日現在、パブメド(PubMed)で、チャウンシャン・チャン(Chawnshang Chang)の論文を「Chawnshang Chang [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、1999~2021年の23年間の324論文がヒットした。
2021年3月1日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
「Chang C」で検索すると、 23,295論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。
【スオク・リー(Soo Ok Lee)】
2021年3月1日現在、パブメド(PubMed)で、スオク・リー(Soo Ok Lee)の論文を「Soo Ok Lee [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2021年の20年間の87論文がヒットした。
87論文中の28論文がチャウンシャン・チャン(Chawnshang Chang)と共著だった。
2021年3月1日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
【チャウンシャン・チャン(张传祥、張傳祥、Chawnshang Chang、Chuanxiang Zhang)】
2021年3月1日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでチャウンシャン・チャン(Chawnshang Chang)を「Chawnshang Chang」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。ウン? なんか異常だ。訂正論文はたくさんある。正しく登録されていない?
【スオク・リー(Soo Ok Lee)】
2021年3月1日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでスオク・リー(Soo Ok Lee)を「Soo Ok Lee」で検索すると、 0論文が訂正、0論文が懸念表明、0論文が撤回されていた。ウン? なんか異常だ。訂正論文はたくさんある。正しく登録されていない?
★パブピア(PubPeer)
【チャウンシャン・チャン(张传祥、張傳祥、Chawnshang Chang、Chuanxiang Zhang)】
2021年3月1日現在、「パブピア(PubPeer)」では、チャウンシャン・チャン(Chawnshang Chang)の論文のコメントを「”Chawnshang Chang”」で検索すると、25論文にコメントがあった。
【スオク・リー(Soo Ok Lee)】
2021年3月1日現在、「パブピア(PubPeer)」では、スオク・リー(Soo Ok Lee)の論文のコメントを「”Soo Ok Lee” OR “Soo O.K. Lee”」で検索すると、32論文にコメントがあった。
なお、エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)はチャン・グル―プとして、「”Soo Ok Lee” OR “Chawnshang Chang” OR “Donald L Trump” OR “Allen C Gao”」で検索している。すると、53論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》複雑
チャウンシャン・チャン(Chawnshang Chang)とスオク・リー(Soo Ok Lee)のネカト疑惑事件だが、記事をまとめた段階では、2人が所属する(した?)ロチェスター大学医療センター(University of Rochester Medical Center)は調査報告書を公表していないし、スティーブ・デューハースト研究担当副学部長(Steve Dewhurst)は公表しないと、レオニッド・シュナイダーにメールしている。
そして、どう見てもデータねつ造・改ざんと思われるたくさんの画像があるのに、ロチェスター大学は「間違い」で押し通している。
しかし、2020年、リー準教授が大学を解雇(辞職?)された。チャウンシャン・チャン(Chawnshang Chang)は在職している。ということは、リー準教授を単独ネカト犯にするのだろうか?
と思ったが、2020年、リー準教授は64歳(?)なので、大学を「解雇」ではなく、「退職」したのだろう。円満退職かどうか分からないが、表向き、ネカトはなかったのだし、「退職」したのだ。
チャウンシャン・チャン教授周辺にはリー準教授の他にもネカト疑惑者が指摘されている。
これらをまとめて、大学は、うやむや、イエイエ、「間違い」で済ませた。ネカトはなかったのだから、ネカト者はいない。
従って、この事件は、研究公正局が調査しない。
《2》当局(オーソリティ)
ネカト調査・処分の当局(オーソリティ)は大学なので、この事件のように、どう見てもデータねつ造・改ざんだと思われるたくさんの画像があるのに、大学が「間違い」で押し通すと、公式に「間違い」と確定する。
この疑惑を解明する奥の手はない。
ネカトウオッチャーが異議を唱えても、強制力がないので犬の遠吠えになる。打つ手がない。
日本もそうだが、大学がクロをシロと決めつけた時、どこで正義が実行されるのか?
なんか、このシステム、マズイ。
正義を下す機会は全くないのか? 「天網恢恢疎にして漏らさず」ではないのか?
そう思ってみると、チャウンシャン・チャン(Chawnshang Chang)が2016年以降グラントを受給していないのは、グラント審査員がネカト疑惑を勘案してグラントを不採択にしているのだろうか?
イヤ、深読み過ぎだろう。「天網」は「漏らさない」けど、「人網」はザルなので「漏らす」のだ。
《3》ネカトハンター
ネカト摘発には、今回もそうだが、ネカトハンターの功績が大きい。米国でも、ネカトハンターが指摘しなければほとんどのネカトは闇の中である。
大学の研究倫理官がネカト行為を見つけたことはなかった(と思う)。研究公正局の局員も、研究者のネカト行為を自分たちで見つけたことはない。
それなのに、ネカトハンターの貢献は評価されない。
なんか、このシステム、マズイ。
ネカトハンターがネカト者を通報し、確かにネカトだった場合、 1件につき100万円くらい払ったらどうでしょう。ネカト者が無駄に使った研究費の20%相当など歩合制でもいい。税金の無駄使いを有効に防いでくれた謝礼だが、謝礼することで、税金の無駄使いを防ぐ1つの有力な方法にもなる。そういえば、米国にはそういう制度(キイタム法 qui tam action)がある。
日本でも キイタム法を制定するといいのですが、気配は全くありません。
《qui tam action》米国の訴訟制度の一つで、政府との契約の相手方である企業や個人の不正を発見した者は、その相手方を被告として賠償を求める民事訴訟を提起できる、というもの。出典:キイタム訴訟(キイタムそしょう)の意味 – goo国語辞書
現在の日本には、ネカトハンターがいない。白楽は時々、「自分でやるか」と思うが、能力・体力・体制的に無理だ。外国のネカト事情を日本に伝える日々の活動(白楽ブログ)だけで青息吐息だ。
エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)は実名でネカトハンター活動をしている。どなたか、日本の研究者の論文を対象に調べ、日本語で指摘しませんかね。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
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●9.【主要情報源】
① 百度百科:张传祥_百度百科
② 2020年3月18日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Chainsaw Chang and Soo Not Ok Lee – For Better Science
③ 2020年6月21日のイヤン(亦言)のブログ記事:揭露美国University of Rochester教授张传祥
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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