2020年4月3日掲載
ワンポイント:権力闘争のダシにアカハラとされ解雇された事件。ヴァン・デア・コークは米国のハーバード大学・教授を経て、ボストン大学医科大学院(Boston University School of Medicine)・教授になった。1982(39歳)にトラウマ・センター(Trauma Center)を創設し、センター長のまま、2008年(65歳)、その親組織のジャスティス・リソース協会(Justice Resource Institute)・研究担当副会長になった。2018年1月(75歳)、ジャスティス・リソース協会の女性従業員にアカハラ(敵対的な職場環境を作り、イジメと見なされる言動)をしたとし、解雇された。ボストン大学医科大学院は調査せず、処分しなかった。国民の損害額(推定)は100万円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ベッセル・ヴァン・デア・コーク(ベッセル・ヴァンダーコーク、Bessel van der Kolk、写真出典)は、オランダ生まれだが米国で育ち、米国のハーバード大学・教授を経て、ボストン大学医科大学院(Boston University School of Medicine)・教授になった。1982(39歳)にトラウマ・センター(Trauma Center)を創設し、センター長のまま、2008年(65歳)、その親組織のジャスティス・リソース協会(Justice Resource Institute)・研究担当副会長になった。専門は精神科学で、トラウマの臨床と研究では有名である。
日本語に翻訳された著書は『身体はトラウマを記録する』(2016年685 ページ、原書は『The Body Keeps the Score』、2014年。全米ベストセラー)がある(本の表紙出典はアマゾン)。
2018年1月(75歳)、ヴァン・デア・コークが、女性従業員に対して敵対的な職場環境を作り、イジメと見なされる言動をしたという理由で、ジャスティス・リソース協会のアンディ・ポンド会長(Andy Pond)は、突然、ヴァン・デア・コークをジャスティス・リソース協会から解雇した。
ポンド会長は、告発者が詳細を非公開にするように求めたので詳細を公表できない、と説明した。つまり、被害者はだれで、どんなアカハラがあったのかわからない。ヴァン・デア・コークは、アカハラを否定した。アカハラの告発を受けていたことも知らなかった。
このアカハラ事件には裏があった。
ポンド会長とヴァン・デア・コークの間に金絡みの争いあり、ポンド会長はヴァン・デア・コークにアカハラがあったということにして、解雇したようだ。ヴァン・デア・コークは解雇が契約違反だと裁判所に訴えた。
ボストン大学医科大学院(Boston University School of Medicine)はアカハラ被害の告発を受けていないので、ヴァン・デア・コークのアカハラを調査していない。処分もしていない。
2020年4月2日現在、ボストン大学医科大学院のサイトでヴァン・デア・コークを検索すると、ヒットしない。退職している。 → Bessel van der Kolk · Directory · Boston University
ヴァン・デア・コーク事件は刑事事件になっていない。
ジャスティス・リソース協会(Justice Resource Institute、160 Gould St. Needham, MA 02494)。写真は不動産会社のサイトに載っていた。現在は転居したかもしれない:出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:シカゴ大学
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:男性
- 生年月日:1943年、オランダのハーグで生まれた。仮に1943年1月1日生まれとする
- 現在の年齢:81 歳?
- 分野:精神科学
- アカハラ行為:2018年(75歳)
- 最初に訴えられた:2018年(75歳)
- 社会に公表年:2018年(75歳)
- 社会に公表時地位:ジャスティス・リソース協会・研究担当副会長。ボストン大学医科大学院・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はジャスティス・リソース協会の女性従業員
- ステップ2(メディア):「Yahoo」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ジャスティス・リソース協会
- 機関・調査報告書のウェブ上での公表:なし。ジャスティス・リソース協会は調査していない
- 機関・処分のウェブ上での公表:なし
- 機関の透明性:調査していない(✖)
- 不正:アカハラ
- 被害者数:女性従業員?人。嘘かも?
- 時期:研究キャリアの後期
- 職:事件後、ジャスティス・リソース協会・研究担当副会長の地位を続けられなかった(Ⅹ)、ボストン大学医科大学院・教授の地位を続けた(〇)
- 処分:解雇
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は100万円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Curriculum Vitae of Bessel van der Kolk M.D. – BESSEL VAN DER KOLK M.D.
- 生年月日:1943年、オランダのハーグで生まれた。仮に1943年1月1日生まれとする
- 1965年(22歳):米国のハワイ大学(University of Hawaii)で学士号取得:物理学、化学、数学
- 1970年(27歳):米国のシカゴ大学 (University of Chicago, Pritzker School of Medicine)で医師免許(MD)取得
- 1970-1971年(27-28歳):ハワイのクイーンズメディカルセンター(Queen’s Medical Center, Honolulu, Hawaii)・研修医
- 1971-1974年(28-31歳):マサチューセッツ・精神健康センターMassachusetts Mental Health Center)・医師
- 1982-2000年(39-57歳):トラウマ・センター(Trauma Center)を創設。センター長
- 1992-1997年(49-54歳):ハーバード大学・医学部精神医学(Harvard University Graduate School of Education)・準教授
- 1997-1999年(54-56歳):同・教授
- 1996年(53歳):ボストン大学医科大学院・精神科・教授
- 2000年(57歳):トラウマ・センター(Trauma Center)・センター長
- 2008-2016年(65-73歳):ジャスティス・リソース協会(Justice Resource Institute)・研究担当副社長
- 2018年1月(75歳):アカハラ事件でジャスティス・リソース協会を解雇
- 2020年4月2日(77歳)現在:ボストン大学医科大学院のサイトでヴァン・デア・コークを検索すると、ヒットしない。退職している。 → Bessel van der Kolk · Directory · Boston University
●3.【動画】
【動画1】
事件の動画ではない。「ベッセル・ヴァン・ダ・コーク」と発音し紹介している。インタビュー動画:「トラウマから身体を解毒する方法(Bessel van der Kolk – how to detoxify the body from trauma)- YouTube」(英語)7分37秒。
meg-rottweilが2016/05/26に公開
【動画2】
事件の動画ではない。「ベッセル・ヴァン・ダー・コーク」と発音し紹介している。インタビュー動画:「トラウマ治療に関するベッセル・ヴァン・デア・コーク:小児期トラウマとPTSDの違い(Bessel van der Kolk on the Treatment of Trauma: How Childhood Trauma is Different from PTSD)- YouTube」(英語)3分49秒。
NICABMが2013/04/20に公開
●5.【アカハラ発覚の経緯と内容】
★トラウマ・センター
米国マサチューセッツ州に非営利組織のジャスティス・リソース協会(Justice Resource Institute 、ロゴ出典)がある。職員数2,746人(2018年)の大きな組織である。
アンディ・ポンド(Andy Pond、写真出典)は、2006年9月以来、ジャスティス・リソース協会の会長である。
その12プログラムの1つにトラウマ・センター(Trauma Center 、ロゴ写真出典l)があり、マサチューセッツ州ブルックライン(Brookline, Massachusetts)で子供と大人を対象にトラウマの治療・教育・訓練を行なっている。
そのトラウマ・センターは、トラウマの臨床と研究で著名な精神科医のベッセル・ヴァン・デア・コーク(Bessel van der Kolk)が、1982年に設立した。
そして、ヴァン・デア・コークは2008年にジャスティス・リソース協会(Justice Resource Institute)、研究担当副会長に就任した。
なお以下のゴタゴタの後、トラウマ・センターはジャスティス・リソース協会とは別組織になったようだが、白楽は、ハッキリ理解できていない。
★アカハラ
2018年1月(75歳)、ベッセル・ヴァン・デア・コーク(Bessel van der Kolk)は、ジャスティス・リソース協会(Justice Resource Institute)を解雇された。トラウマ・センターからは解雇されていない。
この解雇は2018年3月まで公表されなかった。
2018年3月9日の以下のツイッターが、ヴァン・デア・コークのトラウマ・センター(Trauma Center)からの解雇を報じた。後述するように、「トラウマ・センターからは解雇されていない」とヴァン・デア・コークは述べている。
Bessel van der Kolk (influential researcher in #trauma) was fired from the Trauma Center over allegations of bullying employees. Sadly, this news reminds us that the mental health field is not immune to the challenges of harassment and bullying. https://t.co/FAgcEIepVn
— CAMFT (@CAMFTTeam) March 8, 2018
ジャスティス・リソース協会のアンディ・ポンド会長(Andy Pond)は、解雇の理由を新聞記者に聞かれ、ヴァン・デア・コークが女性従業員に対して敵対的な職場環境を作り、イジメと見なされる言動をした、つまりアカハラをした、と説明した。
ただ、告発者が詳細を非公開にするように求めたため、ポンド会長は詳細を公表できない、と新聞記者に述べた。
アカハラの詳細が公表されていないので、被害者、アカハラの内容、被害状況は不明である。
★事件の裏
ヴァン・デア・コークはアカハラで解雇になったが、どうやら、裏がありそうだ。
新聞記者の質問に、ヴァン・デア・コークは、従業員をイジメたことを否定した。さらに、従業員からイジメの告発があったことを知らなかったと述べている。
そして、ヴァン・デア・コークは解雇が公表された数日後、ジャスティス・リソース協会に対して、協会幹部が彼の雇用契約に違反したと、サフォーク上級裁判所に訴訟を起こしていた。ジャスティス・リソース協会との契約で、ヴァン・デア・コークは「終身」雇用だと主張した。
この裁判は決着しているのかどうかも含め、2020年4月2日現在、白楽は、訴訟の詳しいことはわからない。
ただ、ポンド会長とヴァン・デア・コークとの間で、金と覇権絡みの汚い争いがあった。250万ドル(約2億5千万円)の所有権をめぐる問題が記事に出ている。
ヴァン・デア・コークがトラウマ・センターのために集めた250万ドル(約2億5千万円)を親組織のジャスティス・リソース協会に要求したら、ポンド会長が突然解雇した、と訴えている。
この騒動に関連して、ポンド会長は、ヴァン・デア・コークを解雇する前の2017年11月、ジャスティス・リソース協会・部長のジョセフ・スピナッツォラ医師(Joseph Spinazzola、写真出典)も解雇している。
その解雇理由はヴァン・デア・コークの解雇理由と同じで、女性従業員に対するアカハラである。そして、スピナッツォラ医師のアカハラ事件も、ポンド会長は、被害者の女性従業員の名前を公表しなかったし、被害状況も説明してない。スピナッツォラ医師はアカハラを否定している。
2018年3月18日(75歳)、ヴァン・デア・コークはフェイスブック(社交メディア)で事情を説明した。この記事に249件のコメントがあり、大部分はヴァン・デア・コークを支持している。「トラウマ・センターからは解雇されていない」とヴァン・デア・コークは述べている。
(97) The Body Keeps the Score: Brain, Mind, and Body in the Healing of Trauma – 投稿
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2020年4月2日現在、パブメド(PubMed)で、ベッセル・ヴァン・デア・コーク(Bessel van der Kolk)の論文を「Bessel van der Kolk [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2019年の18年間の34論文がヒットした。
「van der Kolk BA[Author]」で検索すると、1976~2019年の44年間の63論文がヒットした。
2020年4月2日現在、「van der Kolk BA[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回論文データベース
2020年4月2日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでベッセル・ヴァン・デア・コーク(Bessel van der Kolk)を「Bessel van der Kolk」で検索すると、0論文がヒットし、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2020年4月2日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ベッセル・ヴァン・デア・コーク(Bessel van der Kolk)の論文のコメントを「Bessel van der Kolk」で検索すると、1論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》アカハラ事件はダシ
ベッセル・ヴァン・デア・コーク(Bessel van der Kolk、写真出典)のアカハラ事件と思って調べたが、アカハラ事件の詳細は不明である。
そして、アカハラ事件をダシに使って、ヴァン・デア・コークを解雇したのだった。
アカハラ事件の裏側はジャスティス・リソース協会のポンド会長とヴァン・デア・コークの覇権争い・金銭争いだった。
ネカトも、権力闘争の道具に使われることがある。このように、事件の表面しか見ていないと実体を見間違えてしまう。
ヴァン・デア・コーク事件でのアカハラは、デッチ挙げではないか、と白楽は思った。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●8.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:ベッセル・ヴァン・デア・コーク – Wikipedia
② 本人のウェブサイト:(1):BESSEL VAN DER KOLK M.D. – Home、(2):Behind the Globe Article – BESSEL VAN DER KOLK M.D.
③ 2018年3月8日の「PressFrom」記事:US: Allegations of employee mistreatment roil renowned Brookline trauma center – – PressFrom – US
④ 2018年3月10日のベス・グリーンフィールド(Beth Greenfield)記者の「Yahoo」記事:Trauma psychiatrist is fired over bullying allegations
⑤ 2018年3月14日のベス・グリーンフィールド(Beth Greenfield)記者の「Yahoo」記事:Fired trauma therapist Bessel van der Kolk speaks out
⑥ Grey Faction
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