生物材料工学:ベルント・グローエ(Bernd Grohe)(カナダ)

2023年5月30日掲載 

ワンポイント:グローエはウェスタン・オンタリオ大学(University of Western Ontario)・上級研究員である。ネカト発覚の経緯は不明だが、2020年9月(48歳?)、グローエの「2017年8月のMaterials Science & Engineering」論文がネカトで撤回された。ウェスタン・オンタリオ大学はネカト調査をしたのに、その調査結果を隠蔽した。そのため、ネカトの内容はわからない。大学はグローエを処分していない。「大学のネカト隠蔽」事件でもある。国民の損害額(推定)は2千万円(大雑把)。

ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
ーーーーーーー

●1.【概略】

ベルント・グローエ(Bernd Grohe、ORCID iD:?、写真出典)は、カナダのウェスタン・オンタリオ大学(University of Western Ontario)・上級研究員で医師免許は持っていない。専門は生物材料工学である。

2020年9月25日(撤回公告は2021年1月)(48歳?)、ネカト発覚の経緯は不明だが、グローエの「2017年8月のMaterials Science & Engineering」論文が撤回された。

ウェスタン・オンタリオ大学はネカト調査をしたのに、その調査結果を隠蔽した。それで、データねつ造・改ざんなのか、盗用なのか、ネカトの内容どころか、種類さえもわからない。

「大学のネカト隠蔽」事件でもある。

大学はグローエを処分していない。

2023年5月29日(51歳?)現在、グローエはウェスタン・オンタリオ大学・上級研究員の職を維持している。

グローエ事件のように、大学がネカトを隠蔽するケースは欧米先進国でもソコソコある。ただ、欧米先進国と比べると、日本ではとても多く、日本の隠蔽体質は際立っている。

以下はウェスタン・オンタリオ大学(University of Western Ontario)のキャンパス動画。

  • 国:カナダ
  • 成長国:ドイツ
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:ドイツのマックスプランク高分子研究所
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1972年1月1日生まれとする。1996年に修士号を取得した時を24歳とした
  • 現在の年齢:52歳?
  • 分野:生物材料工学
  • 不正論文発表:2017年(45歳?)
  • 発覚年:2020年(48歳?)
  • 発覚時地位:ウェスタン・オンタリオ大学・上級研究員
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ウェスタン・オンタリオ大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:極端な隠蔽(🔳)
  • 不正:内容不明
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:なし(推定)
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2千万円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1972年1月1日生まれとする。1996年に修士号を取得した時を24歳とした
  • 1xxxx年(xx歳):xx大学(xx)で学士号取得
  • 1996年(24歳?):ドイツのダルムシュタット工科大学(Technical University Darmstadt)で修士号取得
  • 1999年(27歳?):ドイツのマックスプランク高分子研究所(Max-Planck-Institute for Polymer Research)で研究博士号(PhD)を取得
  • 2003~2009年(31~37歳?):カナダのウェスタン・オンタリオ大学(University of Western Ontario)・ポスドク
  • 2009~2013年(37~41歳?):同大学・研究員
  • 2013年(41歳?):同大学・上級研究員
  • 2017年(45歳?):後で問題視される「2017年8月のMaterials Science & Engineering」論文を出版
  • 2020年(48歳?):研究不正が発覚する
  • 2023年5月29日(51歳?)現在:ウェスタン・オンタリオ大学・上級研究員の職を維持

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★経緯

2020年9月25日(撤回公告は2021年1月)、ネカト発覚の経緯は不明だが、ベルント・グローエ(Bernd Grohe)の「2017年8月のMaterials Science & Engineering」論文が撤回された。 → 2021年1月x日の撤回公告:Retraction notice

  • Synthetic peptides derived from salivary proteins and the control of surface charge densities of dental surfaces improve the inhibition of dental calculus formation.
    Grohe B.
    Mater Sci Eng C Mater Biol Appl. 2017 Aug 1;77:58-68.

撤回公告には、ウェスタン・オンタリオ大学の研究担当副学長からの撤回要請があったためとしている。

ウェスタン・オンタリオ大学は、外部に依頼したネカト調査で論文にネカトがあったとの結論を受け、撤回を要請した。

ネカトの種類や内容の記載はない。

それで、「撤回監視(Retraction Watch)」がウェスタン・オンタリオ大学にネカト調査報告書の情報開示を求める手紙を書いた。

すると、ウェスタン・オンタリオ大学のレスリー・リグ研究担当副学長(Lesley Rigg、写真出典)から、雇用状況などの情報を自由に開示できないのでネカト調査報告書を開示できない。質問は、論文の著者にしてください、との返事が得られた。

以下は2020年12月4日付けのレスリー・リグ研究担当副学長の手紙(出典:同)。全文(1ページ)は → https://retractionwatch.com/wp-content/uploads/2020/12/retraction-watch-dec-2020.pdf

上記をDeepLで日本語化すると以下のようだ。 → DeepL翻訳

オランクシー先生へ;
Westernは、調査報告書を共有することができず、雇用形態などの情報を自由に開示することができません。この点に関するご質問は、記事の著者にお願いします。
敬具

DeepLの日本語訳文のオランクシー」は「オランスキー」、「記事」は「論文」に脳内変換して理解してください。

レスリー・リグ研究担当副学長の手紙を受け、「撤回監視(Retraction Watch)」は論文の著者・グローエに問い合わせたが、返事は得られなかった。

それで、このネカト事件ではネカトの種類や内容など、状況がわからない。

ウェスタン・オンタリオ大学はネカト調査結果を隠蔽しただけでなく、グローエを処分していない。

【ネカトの具体例】

上記のように、このネカト事件での問題論文は「2017年8月のMaterials Science & Engineering」論文だが、ウェスタン・オンタリオ大学はネカト調査結果を隠蔽したため、ネカトの種類や内容はわからない。

パブピアにも記載はない。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2023年5月29日現在、パブメド(PubMed)で、ベルント・グローエ(Bernd Grohe)の論文を「Bernd Grohe [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2007~2022年の16年間の26論文がヒットした。

2023年5月29日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2017年8月のMaterials Science & Engineering」論文・1論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年5月29日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでベルント・グローエ(Bernd Grohe)を「Dahlman-Wright」で検索すると、本記事で問題にした「2017年8月のMaterials Science & Engineering」論文・ 1論文が2020年9月25日に撤回されていた。

なお、撤回公告は2020年9月25日ではなく、2021年1月x日である。

★パブピア(PubPeer)

2023年5月29日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ベルント・グローエ(Bernd Grohe)の論文のコメントを「Bernd Grohe」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》隠蔽 

ウェスタン・オンタリオ大学はベルント・グローエ(Bernd Grohe、写真出典)のネカト調査結果を隠蔽したため、ネカトの内容はわからない。透明性や説明責任という言葉はこの大学にはない。

ただ、グローエの撤回論文は2017年の1報だけだが、この時、45歳(?)と思われる。どんなネカトか不明だが、45歳(?)で初めてネカトをしたとは思えない。

ネカトの法則:「ネカトはネカト常習者の研究スタイルなので、他論文でもネカトしている」。

グローエ事件の内容・発生状況・対処はわからないので、ネカト予防法の参考にならないし、このネカト行為の影響も推察しにくい。

白楽ブログでは、ネカトの内容がわからない事件を記事にしてもしょうがないので、グローエ事件のような隠蔽事件は時々しか記事にしない。

ただ、わかっている事件だけを取り上げると、ネカト事件は全部わかっているものだと読者が誤解するのを恐れる。それで、時々、こういう事件も記事にする。

イラン、中国、インドなどのネカト多発国では、ネカトの内容がわからない事件の絶対数は多い。ネカト事件の中に占める割合(つまり相対数)も、先進国と比べると、高いと思われる。

そして、残念ながら、日本の大学の隠蔽はイランや中国と同じように非常に多い。

思うに、日本の大学はネカト以外でも、なんでも隠蔽する。隠蔽が普通で常態化している。

「日本の大学は隠蔽が普通で常態化」と聞くと、日本に住んでいる読者は、そんなことはない、と思うかもしれない。

で、一例をあげる。

日本はネカト者の氏名を隠蔽する事件が、外国と比べ、ダントツに多い。それを学術界も文部科学省も、そして、メディアも社会も問題視せず許容している。

嘘だと思うなら、以下の2つの表の検索に「匿名」と打ち込んで比較してください。

日本の「研究不正をしてはいけない「文化」」は青息吐息。

どうすりゃいいの?

以下、ゲッティの非商用・無料埋め込み画像を試してみた。

ウェスタン・オンタリオ大学(University of Western Ontario)

Embed from Getty Images

ーーーーーーー
日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。しかし、もっと大きな視点では、日本は国・社会を動かす人々が劣化している。どうすべきなのか?
ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓

ーーーーーー

●9.【主要情報源】

① 2020年12月7日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Western University materials scientist committed misconduct, according to investigation – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●コメント

注意:お名前は記載されたまま表示されます。誹謗中傷的なコメントは削除します

Subscribe
更新通知を受け取る »
guest
0 コメント
Inline Feedbacks
View all comments