2021年12月27日掲載
ワンポイント:英国の小さな会社であるエナジー・ドッツ社(EnergyDots)のニセ科学事件。スマートフォンなどから出るごく微弱な電磁放射線の害を防ぐ1枚数千円のステッカーを製造・販売している。その効能は科学的に証明されていない。イェール大学医科大学院(Yale University School of Medicine)のスティーブン・ノベラ助教授(Steven Novella)は、「これは単純な詐欺だ」と指摘している。この事件は、2021年ネカト世界ランキングの「2」の「4」に挙げられた(記事掲載は元旦)。この騒動で、死亡者や健康被害者はいない。国民の損害額は不明。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.日本語の解説
3.事件の経過と内容
4.白楽の感想
5.主要情報源
6.コメント
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●1.【概略】
英国の小さな会社であるエナジー・ドッツ社(EnergyDots)のニセ科学事件である。
スマートフォンなどから出るごく微弱な電磁放射線は人間の健康に害をもたらす、という説がある。
1枚数千円のスマートドットというステッカー(SmartDot、写真のオレンジ色部分、出典)を電子機器に貼ることでその害を防ぎ、人の睡眠を助け、頭痛を治し、より明晰な頭脳が得られる、と宣伝している。
英国のサリー大学(University of Surrey)の研究者が科学的な検査をすると、スマートドット(SmartDot)にはなにも効果がなかった。
ニセ科学を指摘しているイェール大学医科大学院(Yale University School of Medicine)のスティーブン・ノベラ助教授(Steven Novella)は、「これは単純な詐欺だ」と指摘している。
現在、なお、スマートドット(SmartDot)はアマゾンで購入できる。
このニセ科学製品による死者や健康被害者は報告されていない。
国民の損害額は不明である。
この事件は、2021年ネカト世界ランキングの「2」の「4」に挙げられた(記事掲載は元旦)。それで、白楽ブログの記事にした。
エナジー・ドッツ社(EnergyDots)のウェブサイトの写真。3人は社長(右)と役員と思われる。出典
- 国:英国。製品は日本でも購入できる
- 集団名:エナジー・ドッツ社
- 集団名(英語):EnergyDots
- ウェブサイト(英語):https://energydots.com/
- 集団の概要:ジェレミー・ベントレー(Jeremy Bentley)が2016年10月に設立した電磁場(EMF: electromagnetic field)保護器材を製造・販売する会社。従業員は社長を入れて6人。
- 事件の首謀者:ジェレミー・ベントレー(Jeremy Bentley、写真出典)社長
- 分野:電磁線保護
- 不正年:2016~2021年現在進行中
- 発覚年:2020年
- ステップ1(発覚):第一次追及者は「USA TODAY」紙のチェルシー・コックス(Chelsey Cox)記者。「USA TODAY」紙に記事掲載
- ステップ2(メディア): 「USA TODAY」、「BBC News」など
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ): ①なし
- 不正:ニセ科学
- 不正製品:数点
- 被害(者):死者や健康被害者は報告されていない
- 国民の損害額:不明
- 結末:無処分
●2.【日本語の解説】
省略
●3.【事件の経過と内容】
日本で「スマートドット」というと、猫の運動用に開発されたレーザーポインタで、猫の「運動不足を解消して肥満のリスクを軽減 猫専用スマートガジェットSmart Dot」を指すことが多い(写真出典同)。
本記事のスマートドットは全く別の商品である。
単語が微妙に異なり、日本のは「Smart Dot」だが、本記事のは「SmartDot」で半角空白が詰めてある。
★スマートドット(SmartDot)
無線インターネット技術の普及のおかげで、私たちは現在、非電離電磁放射線(non-ionizing electromagnetic radiation)の海の中で生活している。
電磁放射線にさらされていることは憂慮すべきことのように聞こえるかもしれない。
耳の近くでスマートフォンを使うと、脳腫瘍の原因になるという都市伝話がある。しかし、科学研究は、この超低電力エネルギーは無害だとしている。
ところが、英国のエナジー・ドッツ社(EnergyDots)は、電磁放射線から人々を保護するためと称して、磁気ステッカーを製造・販売している。
その1つのブランドがスマートフォンやノートパソコンに貼り付けるステッカーのスマートドット(SmartDot)である。
スマートドット(SmartDot)は、睡眠を助け、頭痛を治し、より明晰な頭脳を得るために、「無線および電子機器から放出される有害なエネルギーを打ち消す」と述べている。
写真出典:https://www.done21.com/smartdot-review
製品のパッケージ全体とその中身を以下に示す(写真出典)。
公式には、1個、$40.00 – $100.00(約4,000円~1万円)である。
2021年12月22日にアマゾンでチェックすると、日本に配送可で、以下のように、5個63ドル(約6,300円)で購入できる。そして、過去1年間のコメントの97%は製品に肯定的だった。 → Energydots smartDOT | Amazon.co.uk
エナジー・ドッツ社は、「2021年3月の顧客調査で、全体の60%の人が、頭痛が減ったと答えた(267人中161人)」と宣伝している(同サイトの右の図では60%ではなく、69%とある)。出典:smartDOT User survey – EnergyDots (保存版)
エナジー・ドッツ社は、スマートドット(SmartDot)をたくさんの動画で宣伝している。
以下に2編示すが、読者の皆さんはダマされないように。
【動画1】
スマートドット(SmartDot)の評価動画というタイトルの宣伝動画「SmartDot Review – Pros & Cons Of SmartDot (2021) – YouTube」(英語)3分15秒。
Habit Castが2020/04/07に公開
【動画2】
スマートドット(SmartDot)の宣伝動画「Does smartDOT Work? User Review – YouTube」(英語)2分43秒。
Digitogyが2020/04/08に公開
★調査
英国のBBCニュース社は、スマートドット(SmartDot)を5個購入し、英国のサリー大学(University of Surrey)の第6世代イノベーションセンター(6th Generation Innovation Centre)に調査を依頼した。 → 2021年1月11日のロリー・セラン=ジョーンズ(Rory Cellan-Jones)記者の「BBC News」記事:SmartDot radiation-protection phone stickers ‘have no effect’ – BBC News
研究者は、ステッカーが貼られている場合と貼られていない場合の4G携帯電話とWi-Fiアクセスポイントをテストした。
そして、なにも効果がなかった。
予想していたことだが、スマートドット(SmartDot)は電磁場に対して何の作用もしていない。単なるステッカーである。他の製品も間違いなく偽物だと思われる。
エナジー・ドッツ社は、ステッカーは「スカラーエネルギー(scalar energy)でプログラムされているので、科学機器では検出できない。これをテストする方法は、生物学的テストだけです」と反論している。
国際ガイドラインは電波曝露(radio-wave exposure)を規制している。そして、その制限内では、健康への影響はないと、世界保健機関(World Health Organization)は述べている。 → Radiation: 5G mobile networks and health
ニセ科学を批評をしているイェール大学医科大学院(Yale University School of Medicine)のスティーブン・ノベラ助教授(Steven Novella)は、「スマートドットは単純な詐欺だ」と指摘している。 → スティーブン・ノベラ(Steven Novella)はグレインフリー(穀物不使用)ドッグフードのニセ科学を指摘した人:7-46 グレインフリー(穀物不使用)ドッグフード | 白楽の研究者倫理
●【ねつ造・改ざんの具体例】
スマートドット(SmartDot)事件は、研究論文のデータねつ造・改ざんではない。盗用でもない。
効果がないのに、効果があると宣伝しているニセ科学である。
研究論文で「効果がある」とは発表していない。
●4.【白楽の感想】
《1》商標権侵害
記事で、間違えないようにと書いたが、猫の運動用の日本のレーザーポインタは「Smart Dot」で、本記事のステッカーは半角空白を詰めた「SmartDot」である。
と言っても、読めば、あるいは、“日本語”で書けば、両方とも「スマートドット」である。
これは、どっちかが商標権を侵害している。
日本の特許庁の特許情報プラットフォーム「J-PlatPat [JPP]」で「Smart Dot」を検索すると、韓国の会社「スマート カンパニー リミテッド」1件が商標登録していた。半角空白が詰めた「SmartDot」で検索しても、同じ韓国の会社1件がヒットした。
「スマートドット」を検索すると韓国のその会社を含め 4 社が商標登録している。
猫の運動用のレーザーポインタの日本の会社(ペットニア(Petoneer)社)も英国のエナジー・ドッツ社(EnergyDots)も 4 社の中に入っていない。
両社とも製品を日本で販売して、商標権の侵害に関して、大丈夫なんだろうか?
《2》ニセ科学
ごく微弱な電磁放射線が人間に有害で、スマートドット(SmartDot)はその害を除くと称している。
効果は科学的に証明できていない。
ごく微弱な電磁放射線が人間に害があるというまともな研究成果は報告されていない。
ただ、全く害がないかと言えば、100%絶対に害はありませんとは言えない。科学に「絶対」はないからだ。
しかし、それをいいことに、製品に効果があるように宣伝し、国民をダマす悪質な行為である。
しかし、このようなニセ科学を常時・組織的に監視するシステムがない。
多くの人が詐欺的被害を通報すれば、米国では連邦取引委員会(Federal Trade Commission、略称: FTC)が取り締まりに乗り出す。
米国の連邦取引委員会には「商業活動に関わる不公正または欺瞞的な行為または慣行を、人・団体・または法人が行わないようにするための権限と責務を与えられている」(連邦取引委員会 – Wikipedia)。
事実、米国の連邦取引委員会は、携帯電話の放射線詐欺に注意を呼び掛けている。 → 2011年6月16日記事:FTC Offers Tips to Help Consumers Avoid Cell Phone Radiation Scams | Federal Trade Commission
日本では消費者庁が取り締まりに乗り出すと思う。
「家庭用品品質表示法」は、消費者が日常使用する家庭用品を対象に、商品の品質について事業者が表示すべき事項や表示方法を定めており、これにより消費者が商品の購入をする際に適切な情報提供を受けることができるように制定された法律です。(家庭用品品質表示法 | 消費者庁)
商品・サービスの品質や価格について実際よりも著しく優良又は有利と見せかける表示が行われると、消費者の適切な商品・サービスの選択が妨げられてしまいます。このため、景品表示法では、一般消費者に商品・サービスの品質や価格について、実際のもの等より著しく優良又は有利であると誤認される表示(不当表示)を禁止しています。(事例でわかる景品表示法 | 消費者庁)
ただ、ネカトと同じで、公的組織は自律して常時・組織的に監視・調査しているわけではない。多数の被害通報を受けてから対処するのである。
となると、事件として問題視される頃には、多数の人がダマされ、被害を受けている。
「ダマす人が悪い」のか、「ダマされる人がバカ」なのか?
そういえば、「ダマされる人」の特徴があるとのことだ。
ひろゆき氏:そうですね。ダマされる人には、1つ特徴があるんですよ。
じつは「自分からダマされにいっている」んですよね。無意識に。(出典:2021年6月7日記事:ひろゆきに聞いた「ダマされる人、ダマされない人の決定的な特徴」)
つまり、「ダマす人は悪い」。そして、「ダマされる人はバカ」なのだ。
両方がそろわないと成り立たない、とゆうことだ。
オレオレ詐欺を含め、多くの人が詐欺的に「ダマされる」状況がなかなか改善しない。
ネカト事件でも、監視・調査するネカトハンターは個人のボランティア活動である。
個人のボランティア活動ではなく、公的に活動する確固たる組織と仕組みを作る。そして、これらの詐欺的行為を厳罰化する。そうしない限り、世の中は良くなっていかない。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●5.【主要情報源】
① 2020年7月12日のチェルシー・コックス(Chelsey Cox)記者の「USA TODAY」記事:Fact check: Low-powered magnets do not protect against EMF emission
② 2021年1月11日のロリー・セラン=ジョーンズ(Rory Cellan-Jones)記者の「BBC News」記事:SmartDot radiation-protection phone stickers ‘have no effect’ – BBC News
③ 2021年1月12日のスティーブン・ノベラ(Steven Novella)記者の「NeuroLogica Blog」記事:SmartDot Scam | NeuroLogica Blog
④ 2021年12月15日のロス・ポメロイ(Ross Pomeroy)記者の「RealClearScience」記事:The Biggest Junk Science of 2021 | RealClearScience
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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