「セクハラ」:経済学:ローランド・フライヤー(Roland Fryer)(米)

2021年10月1日掲載 

ワンポイント:フライヤーは米国・フロリダ州に生まれたアフリカ系米国人で、若くしてハーバード大学(Harvard University)のスター教授(男性)になった。約34億円の研究助成金を得ていて、次期ノーベル・経済学賞と言われていた。ところが、2018年(40歳)、数年に渡り5人の女性にセクハラ行為を繰り返していたことが発覚した。2019年7月(42歳)、2年間の無給の休職処分を受けた。セクハラでノーベル賞をフイにした教授。国民の損害額(推定)は50億円(大雑把)

【追記】
・2022年3月31日記事:解雇されたがセクハラ行為が理由ではない:New documentary explores why Harvard fired black professor over sexual harassment claims | Daily Mail Online
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

ローランド・フライヤー(Roland Fryer、Roland G. Fryer、Roland Gerhard Fryer Jr.、写真出典)は、ハーバード大学・文理学部・経済学科(Department of Economics, Faculty of Arts and Sciences, Harvard University)の教授で、専門は経済学である。経済学では著名な学者である。

フライヤーは米国・フロリダ州に生まれたアフリカ系米国人で、若くしてハーバード大学(Harvard University)のスター教授(男性)になった。約34億円の研究助成金を獲得していた。次期のノーベル・経済学賞*を受賞すると言われていた。

*注:正式には、「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」だが、通称に従い、ここでは「ノーベル・経済学賞」と呼ぶ。

2018年(40歳)、ところが、数年に渡り5人の女性にセクハラ行為を繰り返していたことが発覚した。

ただ、メディアでは、セクハラ行為の内容が一部しか報道されていない。被害女性も匿名である。

2019年7月(42歳)、2年間の無給休職の処分を受けた。

2021年7月7日(44歳)、2年間の停職期間が終わり、ハーバード大学に復職したが、活動は制限付きである。

端的に言えば、ハーバード大学は解雇などの強い処分をフライヤーに科さなかったが、セクハラでノーベル賞をフイにした教授である。

ハーバード大学(Harvard University)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 研究博士号(PhD)取得:ペンシルベニア州立大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:1977年6月4日
  • 現在の年齢:46歳
  • 分野:経済学
  • セクハラ行為:2018年(40歳)までの数年間
  • 最初に訴えられた:2018年(40歳)
  • 社会に公表年:2018年(40歳)
  • 社会に公表時地位:ハーバード大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は被害者の女性(匿名)で大学に公益通報
  • ステップ2(メディア):「Harvard Crimson」、「New York Times」など多数のメディア
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ハーバード大学・文理学部・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学・処分のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:隠匿の意図あり(Ⅹ)
  • 不正:セクハラ
  • 被害者数:5人以上の女性だが、院生、職員、教員などの身分は不明
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:事件後は2年間の無給停職(▽)
  • 処分:2年間の無給停職、その後、2年間の院生指導禁止
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は50億円(大雑把)。約34億円の研究助成金を獲得していたので。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Roland Gerhard Fryer, Jr. Curriculum Vitae

  • 1977年6月4日:米国・フロリダ州で生まれた
  • 1998年(21歳):テキサス大学アーリントン校(University of Texas at Arlington)で学士号取得:経済学
  • 2002年(25歳):ペンシルベニア州立大学(Pennsylvania State University)で研究博士号(PhD)を取得:経済学
  • 2005年(28歳):ハーバード大学・経済学科(Department of Economics Harvard University)・助教授
  • 2007年(30歳):同・準教授。アフリカ系アメリカ人としてハーバード大学の歴史上最年少テニュア取得者。その後、正教授
  • 2008年(31歳):同・大学内に教育イノベーション研究所(Education Innovation Laboratory:: EdLabs)を設立
  • 2018年5月(40歳):セクハラが発覚
  • 2019年7月(42歳):2年間の無給停職。教育イノベーション研究所は閉鎖
  • 2021年7月7日(44歳):2年間の停職期間が終わり、ハーバード大学に復職
  • 2021年9月30日(44歳):ハーバード大学・教授職は維持:Roland G. Fryer, Jr.、(210929保存版

●3.【動画】

【動画1】
セクハラ事件の動画ではない。2017年の講演動画:「Visitas Thinks Big 2017 – Harvard University – Roland Fryer – YouTube」(英語)18分20秒。
CS50が2017/04/29に公開

●4.【日本語の解説】

事件の記事はない。フライヤー教授を賞賛する日本語記事は多くある。

★2015年5月13日:倉沢美左(東洋経済):「貧困不良少年」が経済学のスターになった! 規格外経済学者、フライヤー教授の快進撃

出典 → ココ、(保存版) 

アフリカ系アメリカ人として初めてノーベル経済学賞を手にする日もそう遠くないかも知れない。

ハーバード大学経済学部教授のローランド・フライヤー氏が4月下旬、アメリカ経済学会が授与している「ジョン・ベイツ・クラーク賞」を受賞した。同賞の対象は、経済学での功績が認められた40歳以下の米国人で、過去にはポール・サミュエルソン氏やジョセフ・スティグリッツ氏、ポール・クルーグマン氏などが受賞している。受賞者の多くがその後、ノーベル賞を授与されているため、米国では「ノーベル賞に最も近い経済学賞」とも言われる。

★2016年3月3日:John McDermott(訳者不記載):(クーリエ・ジャポン):データの力で格差を解消する! “次期ノーベル賞”ローランド・フライヤーという男

出典 → ココ、(保存版) 

フライヤーが作成したグラフには暫定的な結論が記されていた。

横軸は暴力の程度を表す。左端の「小競り合い」から次第に激しくなり、右端は「発砲」を示している。グラフを見ると、曲線が左上から右下に向かっている。これは、小さな暴力は被害者の人種間の差が大きく、重大な暴力になるほどその差はゼロに近づくことを意味する。

つまり、警官は黒人に対してひんぱんに暴力をふるうが、「黒人のほうが警官に射殺されやすい」とはいえなくなるのだ。では、なぜ激しい抗議活動が起きたのか。フライヤーはこう説明する。

「1つ仮説が立てられます。人々は統計を使って推論したのではない。さらに、殺されたマイケル・ブラウンが有罪か無罪かにかかわらず、警察が大嫌いだから抗議活動に出たのではないか。正当な理由もなく警官に胸ぐらをつかまれ、地面に押し倒され、手錠をかけられることが何年も続けば、警察を嫌いにもなります。そこで、警官が自分たちの街で発砲したという話を聞けば、『差別に違いない』と思ってしまうのです」

★2016年10月3日号:中室牧子(慶應義塾大学総合政策学部教授):(PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)):教育経済学が教える「成績アップ」の意外な常識 (2ページ目)

出典 → ココ、(保存版) 

「子供をご褒美で釣る」ことに抵抗がある保護者の方も多いかもしれません。しかし最近の経済学の研究には、ご褒美やボーナスなどの金銭的なインセンティブ(誘因)を与えることで、さまざまな習慣を形成できることを証明したものがあります。

米国では、大人を対象に禁煙や運動を習慣化させる目的でさまざまな実験が行われ、インセンティブが習慣形成に一定の効果を上げることがわかってきています。米国ではさらに、子供の学力がインセンティブによってどう影響されるかを調べる実験も行われています。なかでも有名なのは、約3万6000人もの児童・生徒が参加した、米ハーバード大学のローランド・フライヤー教授による大規模実験です。

フライヤー教授の実験には、大きく分けると2つのタイプがありました。一つは「学力テストや通知表の成績がよくなったら報奨金を出す」というもの。つまり「いい成績」というアウトプット(成果)に対して報酬を出したのです。

その一方、「本を読む、宿題を出す、きちんと出席する、制服を着る」といったインプット(投入)に対して報酬を与えるという実験も行いました。

結果を簡単にまとめると、大人に対する実験ではアウトプットにインセンティブを与えることで禁煙や運動を習慣化することに成功したものが多いのに対して、子供の学力を上げるためには、インプットにインセンティブを与えることが有効だということがわかりました。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★ローランド・フライヤー(Roland Fryer)の人生

ローランド・フライヤー(Roland Fryer、写真出典 By Christopher Kwok)は世界的に著名で、米国のトップクラスの経済学者である。約34億円の研究助成金を獲得している。

フライヤーは次期ノーベル・経済学賞*を受賞すると言われていた。

*注:正式には、「アルフレッド・ノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞」だが、通称に従い、ここでは「ノーベル・経済学賞」と呼んだ。

米国・フロリダ州で生まれ育ち、父親から虐待され、10代は荒れたが、大学で学問・研究の頭角を表し、25歳で経済学の研究博士号(PhD)を取得した。

2005年に28歳でハーバード大学・経済学科(Department of Economics Harvard University)の助教授になった。

2年後の2007年(30歳)、アフリカ系アメリカ人としてハーバード大学の歴史上最年少のテニュア取得者になった。その後、正教授になった。

2008年(31歳)、ハーバード大学(Harvard University)内に教育イノベーション研究所(Education Innovation Laboratory: EdLabs)を設立した。

フライヤーは、36歳の時に、既に「次期ノーベル賞」とメディアで騒がれた超優秀経済学者だった。

ハーバード大学のウェブページの要約によると、少なくとも3360万ドル(約34億円)の助成金を獲得していた。

2018年(41歳)、ハーバード大学で最も給与の高い教員の1人で、2016年の税務申告では60万ドル(約6,000万円)以上の年収っだった。

2019年7月10日の記事に、フライヤーはフランツィスカ・ミコアー(Franziska Michor、写真出典)と結婚し、4歳の女児がいるとあった。

それで、セクハラ事件を起こした時、結婚していたと思われる。妻・ミコアーはハーバード大学・教授(計算生物学)である。

★セクハラ事件概略

2018年1月、3月、4月(40歳)、ハーバード大学は、フライヤーに対する性不正の申立てを受けた。

2018年3月(40歳)、ハーバード大学は、フライヤーの性不正調査を開始した。その際、フライヤーを彼の研究所である教育イノベーション研究所(EdLabs)から締め出した。

2018年12月後半(41歳)、ニューヨークタイムズ紙に宛てた手紙の中で、フライヤーは、性的なジョークや女性所員の私生活についてのコメントするなど、教育イノベーション研究所の性的に堕落した雰囲気を許し・奨励し自分も加わったことは良くなかったと反省している。しかし、イジメはしていないし、研究所員に性的な誘いをしたことはないと、自分の性不正行為を否定した。

2019年7月(42歳)、ハーバード大学・文理学部(Faculty of Arts and Sciences)のクローディン・ゲイ学部長(Claudine Gay、写真出典)は、3人の女性からの性不正の申立てを受け、調査の結果を発表した。

その内容は、フライヤーが一緒に働いていた部下の数人の女性に、不適切な性的メールを送るセクハラ行為をしていたので、2年間の無給の休職処分をしたとのことだった。

訴えた女性は上記では3人だが、その後、5人と言われている。

フライヤーが何年にもわたってセクハラ行為をしていて、フライヤーが設立した教育イノベーション研究所(Education Innovation Laboratory:: EdLabs)は女性にとって毒研究所で敵対的な環境だった。

ただし、アフリカ系アメリカ人(つまり、黒人)のフライヤーは「肌の色が違うことで不当に精査された」と主張し、セクハラ行為を繰り返し否定した。

2019年9月(42歳)、ゲイ学部長はメールで、教育イノベーション研究所を完全に閉鎖したと発表した。 2年間の休職中、フライヤーは大学の設備・機材の使用は禁止された。

フライヤーが2021年にハーバード大学で復職しても、次の2年間、研究室に院生を持つことも大学院生教育プログラムにも参加できない。性不正の再訓練中の監視対象となる学部クラスを教えることになる。

なお、ハーバード大学の規則では、フライヤーを処罰する権限はゲイ学部長が持っている。しかし、学部長は解雇する権限は持っていない。 大学の理事会に相当するハーバード・コーポレーション(Harvard Corporation)だけがテニュア取消及び解雇の権限を持っている。その場合、「重大な違法行為または職務怠慢」に対してだけである。

2021年7月7日(44歳)、2年間の停職期間が終わり、フライヤーにハーバード大学に復職した。 → 2021年7月7日記事:Harvard Restores Prof. Fryer’s Teaching, Research Roles After Two-Year Sexual Harassment Suspension | News | The Harvard Crimson

フライヤーは、学部と大学院のコースを教え、研究も許可される。ただ、今後2年間、研究室に院生を持つことも大学院生教育プログラムにも参加できない。

【セクハラの具体例】

被害者が5人いると報道されているが、セクハラの具体例は、少ししか報道されていない。

★匿名・アシスタント(xx歳、女性):2008年:フライヤー(31歳)

2008年、研究室のアシスタント(院生?)は、夜間、フライヤーが性的なテキストメッセージを送信してくるとハーバード大学・人事部に申し立てた。

人事部はフライヤーに警告すると、フライヤーは、性的メッセージの送信を止めた。

しかし、別の所員に、告発した女性アシスタントの仕事上の失敗例を集めてくるように指示した。

フライヤーは、告発者が申請していた経済学の大学院プログラムの推薦書を書くことを拒否した。結局、告発者はすべての大学院プログラムの申請に失敗した。

★匿名(xx歳、女性):xxxx年:フライヤー(xx歳)

研究所の匿名の女性で、院生、職員、教員などの身分は不明である。

フライヤーはその女性のセックスについて職場であけすけに話した。また、多くの従業員や他の人に性的に不適切なコメントをした。女性を「もの」と見なす発言や、性の対象とする発言もした。

つまり、研究所内でフライヤーは日常的に性的に堕落した発言をし、多くの女性はその発言を苦痛に感じるというセクハラ発言を繰り返していた。

研究所の匿名の女性は、ハーバード大学の事務局に報告したが、事務局に救済を求めたことに対してフライヤーから報復を受けた。

職場での差別やセクハラから従業員を守る規則がハーバード大学にはあるのだが、ハーバード大学は実行できていなかった。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

省略

●7.【白楽の感想】

《1》セクハラでノーベル賞をフイにした男

ローランド・フライヤー(Roland Fryer)は、36歳の時に、既に「次期ノーベル賞」とメディアで騒がれた超優秀経済学者だった。

それが、4年後の2018年、40歳の時、セクハラで停職2年間の処分を受けた。

セクハラでノーベル賞をフイにした男である。

ローランド・フライヤー(Roland Fryer)PHOTOGRAPH BY JILL ANDERSON。出典:https://www.gse.harvard.edu/news/ed/16/01/no-exceptions

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●8.【主要情報源】

① ウィキペディア英語版:Roland G. Fryer Jr. – Wikipedia
② 2018年5月22日のシェラ・アヴィヨナとアンジェラ・フー(Shera S. Avi-Yonah AND Angela N. Fu)記者の「Harvard Crimson」記事:Star Economics Prof Fryer Facing Harvard and State-Level Investigations, Barred from Lab He Heads | News | The Harvard Crimson
③ 2018年12月14日のジム・タンカズリーとベン・カッセルマン(Jim Tankersley and Ben Casselman)記者の「New York Times」記事:Star Economist at Harvard Faces Sexual Harassment Complaints – The New York Times
④ 2019年7月10日のベン・カッセルマンとジム・タンカズリー(Ben Casselman and Jim Tankersley)記者の「New York Times」記事:Harvard Suspends Roland Fryer, Star Economist, After Sexual Harassment Claims – The New York Times
⑤ 2019年7月10日のレイチェル・サンドラー(Rachel Sandler)記者の「Forbes」記事:Revered Harvard Economist Roland Fryer Suspended For Sexual Misconduct
⑥ 2019年7月10日のシェラ・アヴィヨナ(Shera S. Avi-Yonah)記者の「Harvard Crimson」記事:Harvard Places Fryer on Administrative Leave, Levies Sanctions | News | The Harvard Crimson
⑦ 2019年7月10日の著者不記載の「Glob Intel」記事:Roland Fryer(Harvard Economist) ;Bio, Wiki, Academic Career, Wife, Economist, Professor, Awards, Suspended over Sexual Conduct | Glob Intel | Celebrity News | Sports | Tech
⑧ 2019年3月3日のスコット・グリーンフィールド(Scott H. Greenfield)の「Simple Justice」記事:One Angry Woman and Roland Fryer’s Life | Simple Justice
⑨ 事件当時、多くのニュース記事が流れた(以下は一部)★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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