心理学:ルネ・ディクストラ(René Diekstra)(オランダ)

2023年2月15日掲載 

ワンポイント:27年前の盗用事件。ディクストラは自殺の心理学で著名なライデン大学(Leiden University)・教授で、1996年8月(50歳)、著書の盗用が発覚した。ディクストラは盗用を軽く見ていたが、ライデン大学の調査委員会からクロと認定され、1997年12月(51歳)、解雇された。盗用事件の数年後、ディクストラは他大学に職を得、その後、多数の著書を出版している。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ルネ・ディクストラ(Rene Diekstra、Rene F. W. Diekstra、Regnerus Folquinus Willibrordus Diekstra、写真出典)は、オランダのライデン大学(Leiden University)・教授だった。専門は心理学(自殺行動)である。医師免許は持っていない。

ディクストラは国際的に著名な自殺行動の心理学者だった。また、学術界で活躍しただけでなく、一般大衆向けに心理学の本を多数出版し、世間一般でもよく知られていた。

アマゾンでルネ・ディクストラ(Rene Diekstra)の著者を検索すると19冊がヒットした。

日本語に翻訳されていないが『人生を手放す(Leven is Loslaten (Dutch Edition))』(2018年)などがある(本の表紙出典も上記)。

また、自殺に関する教育政策や福祉政策での心理的プログラムも開発した。

さらに、オランダの地方紙や雑誌に定期的に記事を寄稿していた。

それで、オランダでは、世間一般によく知られた有名な心理学者だった。

1996年8月29日(50歳)、ところが、オランダの新聞「Leidsch Dagblad」は、ディクストラの著書に盗用があると顔写真入りで大きく報道した。

ディクストラは盗用を軽く見ていた。

しかし、ライデン大学の調査委員会はクロと結論した。

1997年12月(51歳)、ライデン大学はディクストラを解雇した。

ディクストラは、数年後、他大学に職を得て、研究と著作を続けた。

つまり、2002年、ディクストラはオランダのハーグにあるハーグ応用科学大学(The Hague University of Applied Sciences)・青年発達(Youth and Development)・研究グループ長になり、2002(2004の記載もある)~2011年はミデルブルグのルーズベルト大学(Roosevelt Academy in Middelburg)で社会科学部門の責任者と心理学の教授を務めた。

ただ、他大学に職を得る時、反対者が多数でるなど、ディクストラは、何年も盗用事件を引きずった。

ライデン大学病院(Leiden University Medical Center)の入口前に立つ白楽、2006年4月。写真所有者:白楽

  • 国:オランダ
  • 成長国:オランダ
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:男性
  • 生年月日:1946年7月20日
  • 現在の年齢:77 歳
  • 分野:心理学
  • 不正論文発表:1976~1996年(30~50歳)の20年間の一部。白楽は期間を特定できなかった
  • 発覚年:1996年(50歳)
  • 発覚時地位:ライデン大学・教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
  • ステップ2(メディア):オランダの新聞「Leidsch Dagblad」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ライデン大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:盗用
  • 不正論文数:論文は1報撤回。他に数冊の書籍
  • 盗用ページ率:?%
  • 盗用文字率:?%
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に発覚時の地位を続けられなかった(Ⅹ)が、移籍し研究職を続けた(◒)
  • 処分:解雇処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Rene DIEKSTRA

  • 1946年7月20日:オランダのスニーク(Sneek)で生まれる
  • xxxx年(xx歳):オランダのネイメーヘンのカトリック大学(Roomsch Katholieke Universiteit te Nijmegen)(現在のラドバウド大学 Radboud University Nijmegen)で学士号取得:心理学
  • 1970年6月~1973年7月(24~27歳):オランダのカニシウス・ヴィルヘルミナ病院(Canisius-Wilhelmina Ziekenhuis)・医療従事者(medical professional)
  • 1979年11月~1997年12月(33~51歳):ライデン大学(Leiden University)・心理学・教授
  • 1987~1989年(41~43歳):スイス・ジュネーブの世界保健機関(WHO)のプログラム・マネージャー
  • 1996年8月(50歳):盗用が発覚
  • 1997年12月(51歳):ライデン大学(Leiden University)・教授を解雇
  • 2002~2011年(56~65歳):ハーグ応用科学大学(The Hague University of Applied Sciences)・青年発達(Youth and Development)・研究グループ長
  • 2002~2011年(56~65歳):ミデルブルグのルーズベルト大学(University College Roosevelt Academy Middelburg)で社会科学部門の責任者と心理学の教授

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。動画は多くある。動画でのディクストラはとても魅力的である。ゼスチャー、表情、話し方、内容、素晴らしい。

【動画1】
講演動画:「Rene Diekstra – Enc.Internacional Educacion Emocional – INGLES – YouTube」(英語)14分57秒。
Fundacion Botin(チャンネル登録者数  7370人)が2012/03/22 に公開

【動画2】
インタビュー動画:「Rene Diekstra: “Versterk de pijn als het ware maar.” – YouTube」(英語)1分17秒。
EO(チャンネル登録者数 2.85万人)が2020/05/21 に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

ディクストラ事件の詳細はフランク・ヴァン・コルフスホーテン(Frank Van Kolfschooten)の以下の著書(オランド語)に詳しいらしいが、白楽は読んでいない。

『脱線した科学(Ontspoorde Wetenschap)』(2012年)(本の表紙出典はアマゾン)。

★発覚の経緯

ライデン大学(Leiden University)のルネ・ディクストラ教授(Rene Diekstra)の盗用を最初に見つけた人を白楽は特定できていない。多分、盗用を見つけた人が新聞記者に伝え、新聞記者が詳細に調べたのだと思う。

ディクストラは1996年までに『Ik kan denken/voelen wat ik wil』(1976)、『Denkwijzer』(1988)、『Denk nog wijzer』(1990)など8冊の本を出版していた。

1996年8月29日(50歳)、オランダの新聞「Leidsch Dagblad」は、ディクストラの1996 年のベストセラー『 Het onderste boven (“Upside Down”)』に盗用があると顔写真入りで大きく報道した(本の表紙出典)。

以下の新聞記事(Leidsch Dagblad: 1996年8月29日):出典

米国のベストセラー作家、ハロルド・ブルームフィールド(Harold H. Bloomfield )とピーター・マクウィリアムズ( Peter McWilliams)の『うつ病に対処する方法』から出典を明示せずに一語一句引用していた(逐語盗用)。

ディクストラは夏季休暇中だったが、休暇先ですぐに対応した。

彼は『うつ病に対処する方法(How to Deal with Depression)』から約20 ページをコピーしたことを認めたが、出版社に責任を負わせた。

しかし、スキャンダルはそこで終わらなかった。

彼が夏季休暇から戻ったとき、さらに盗用が見つかった。

カリフォルニア大学デービス校の ダイアン・ヘイルズ(Dianne Hales)とロバート・ヘイルズ( Robert E. Hales )の『Caring for the Mind』 から48 ページを丸々、盗用していた。

 また、エドマンド・ボーン(Edmund J. Bourne)の『不安と恐怖症のワークブック(The Anxiet y and  Phobia Workbook)』から、16 ページも盗用していた。 

★ネカト調査委員会

1996年(50歳)、ディクストラの盗用が新聞に報道されるとすぐに、ライデン大学は独立したネカト調査委員会を設置した。

フローニンゲン大学(Rijksuniversiteit Groningen)のウィレム・ホフスティー・心理学教授(Willem Hofstee – Wikipedia、写真出典)が委員長になり、調査を始めた。

すると、さらにディクストラに対して別の盗用が見つかってきた。

ディクストラは、米国のゲイリー・マッケナリー(Gary McEnery)の英語の未発表原稿から26ページを翻訳し、1990年に出版した彼のオランダ語の本『人生が傷ついたとき(When Life Hurts《Als het Leven Pijn Doet》)』にそれらを組み込むという翻訳盗用をしていた(本の表紙出典)。

この盗用は少し複雑である。

米国のペンシルバニアを拠点とする心理学者のマッケンナリーは、1987 年に「10 代若者の自殺ガイド(A Teenage Guide to Suicide)」(仮題)という本を書いた。しかし、世間に売れていない学者の世間受けしない本の題名だったため、マッケンナリーは出版社を見つけられなかった。

自殺の研究者として有名なディクストラがマッケンナリーの原稿の出版に協力すると申し出た。それで、マッケンナリーは 未発表の原稿をディクストラに送った。

ディクストラはすぐに出版社を探し、ディクストラが一部を書き、ディクストラ を共著者にすることで、オランダの出版社と出版契約を結んだ。

ところが、1991 年にこの本がオランダで出版されたとき、表紙には ディクストラ の名前しか載っていなかった。また、マッケンナリーに出版を知らせなかった。

ディクストラは、出版社がマッケンナリーと共著であることを知っていたにもかかわらず、「何らかの理由で」(おそらくマーケティングのため)、マッケナリーの名前を除外したと主張している。

というのは、ディクストラは、ゲラを見て驚き、動揺し、マッケナリーの名前を追加するよう出版社に頼んだ。出版社は、しかし、「今さらでは遅すぎる」と強く出た。タイトル頁と著作権頁にはマッケナリーの名前が記載されていたので、それでいいかと、ディクストラは出版社の主張に屈服した、と弁解している。

「しかし、私は出版社にシッカリ伝えるべきだった」と後で述べている。ただ、マッケナリーは印税を受け取っていた。

さらに別の、同僚と共著の出版物で、ディクストラは『草の根を分けて(No Stone Unturned)』に他人の文章を使ったことを認めた。不注意だったと弁解した。

1996年12月(50歳)、ネカト調査委員会は、調査した 8 件のうち 6 件で ディクストラに盗用の罪があるとした。

ディクストラの『人生が傷ついたとき(When Life Hurts《Als het Leven Pijn Doet》)』と『草の根を分けて(No Stone Unturned)』に盗用があったと結論した。

科学論文にも盗用があったと結論し、ネカト調査委員会は、ディクストラがライデン大学の教授に在職していることに否定的な結論を下した (Hofstee and Drupsteen 1996)。

しかし、ディクストラは、ネカト調査委員会の「研究不正をした」という結論に納得しなかった。むしろ、自分は犠牲者だと感じていた。

ディクストラは「私はオランダで非常に有名です。これは、メディアによる裁判です」と述べ、マスメディアから不当な烙印を押されたと主張した。

皮肉なことに、ディクストラのスクープを担当した新聞記者もディクストラと同様に感じて、困惑していた。

ディクストラの支持者たちは、「彼は教祖のような人です。何人かの学生、特に女性学生は彼を本当に尊敬しています」と述べている

ライデン大学のディクストラの同僚たちは彼を弁護した。

同僚たちは、ネカト調査委員会の報告書はずさんだし、解雇は不当なので、大学・理事会はネカト調査委員会の評決を再考すべきだと主張する272ページの嘆願書を発表した(白楽はこの嘆願書を入手できていない)。

1997年12月(51歳)、しかし、ライデン大学(Leiden University)はディクストラを解雇した。

★ライデン大学を去ったのち

ライデン大学を解雇された翌1998年(52歳)、ディクストラは『オー、オランダ、屈辱の国!(O Holland, Land of Humiliation! (O Nederland, Vernederland!))』という題の事件の自伝的書籍を出版した(表紙出典)。

この本では、不当な扱いを受けた彼の気持ちが書かれている。調査委員会が「悪意」を持ってどのように行動し、「事実をねじ曲げた」かについて述べている。既に有名で自尊心の高いディクストラは怒り心頭だったのだろう。

その間ずっと、ディクストラは無実を主張し、盗用の申し立ては虚偽だと主張した。ただし、他人の資料を不注意に扱ったことは認めていた。

不正ではないというディクストラの主張は、次の3点だ。

(1) 大衆向け科学書は、科学論文の出版規範とは(少なくともある程度は)異なり、盗用基準も異なる。
(2) 被盗用者は金銭的に補償されていた。
(3) 他人から盗むつもりはなかった。

「従って、盗用は成立していない。単なるズサンだっただけだ」とディクストラは主張した。

しかし、これらの主張も同僚の嘆願も受け入れられず、盗用で有罪とされ、1997年12月(51歳)、ライデン大学(Leiden University)から解雇された。そして、ディクストラはこの盗用事件を何年も引きずった。

2002年、ディクストラはオランダのハーグにあるハーグ応用科学大学(The Hague University of Applied Sciences)・青年発達(Youth and Development)・研究グループ長になり、2002(2004の記載もある)~2011年はミデルブルグのルーズベルト大学(Roosevelt Academy in Middelburg)で社会科学部門の責任者と心理学の教授を務めた。

しかし、ディクストラが盗用者だったことで、ディクストラのルーズベルト大学・教授・就任に多数の研究者が反対した。

例えば、ユトレヒト大学(Utrecht University)の社会科学学部長代理を務めていたウィレム・クープス(Willem Koops、写真出典)は、「ディクストラは自分自身を盗用の加害者ではなく被害者と見なしている。このような人が学部生や院生の教育を担うのは異常である」と反対した。

【盗用の具体例】

複数の著書と論文で盗用した。

論文では、「1988年1月のNed Tijdschr Geneeskd」論文が盗用で撤回されている。

盗用比較図を見つけられなかったので、省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★著書

ウィキペディア・オランダ語版から以下に著書(オランダ語のみ)リストを貼り付けた → Rene Diekstra – Wikipedia

  1. 1976:  Ik kan denken/voelen wat ik wil ISBN 9026502389 – de eerste 5 hoofdstukken van de 1e druk zijn overgenomen uit Rationeel Denken van Howard S. Young (1975); een Nederlandse vertaling en bewerking door Diekstra van A rational counseling primer (1974). 29e dr. van de Nederl. vert. in 2006.
  2. 1988: Denkwijzer ISBN 9026308582 5e dr. in 1995.
  3. 1990: Denk nog wijzer ISBN 9026309597 3e dr. in 1994.
  4. 1990: Als leven pijn doet, ISBN 90-229-7886-9 (13e druk: ISBN 9061128013)
  5. 1991: Je verdriet voorbij. Een herziene editie. (met Gary McEnery). ISBN 9038908814
  6. 1991: Pleisters voor de ziel ISBN 9022980340
  7. 1993: Persoonlijk onderhoud ISBN 9022981088
  8. 1994: Het geestige lichaam ISBN 9789022981696
  9. 1996: Het onderste boven ISBN 9022982378
  10. 1996: Op gedachten gebracht ISBN 9022983293
  11. 1998: O Nederland, vernederland! ISBN 9022984044
  12. 2000: De kwestie van geluk; Psychologie en de kunst van het zelfonderhoud, ISBN 9061128110
  13. 2000: Schaatsend Nederland door de eeuwen heen ISBN 9789043502375
  14. 2003: De grondwet van de opvoeding, ISBN 9061128226
  15. 2003: Als leven pijn doet; Weerbaar en waardig omgaan met de verliezen in je leven, ISBN 9061128013
  16. 2003: Nederlandsche Winters Van Weleer ISBN 9789043507073
  17. 2004: Waardenvolle of waardenloze samenleving. Over waarden, normen en gedrag in samenleving, opvoeding en onderwijs (met Max van den Berg en Jakop Rigter), ISBN 9061128420
  18. 2004: Het land van liefde ISBN 9061129524
  19. 2004: Waardig en vaardig in het leven. Hoe jongeren sociaal en emotioneel uit te rusten voor de volwassenheid (met J.C. Gravesteijn) ISBN 9026517165
  20. 2005: Lieve hemel. Over hulp bij rouwverwerking van kinderen en jongeren door opvoeders (met J.C. Gravesteijn) ISBN 9061128234
  21. 2006: Ik kan denken/voelen wat ik wil. ISBN 9789043035828
  22. 2008: Harmonie in gedrag ISBN 9061129966
  23. 2009: De Elfstedentocht anders ISBN 9789081258920
  24. 2010: Opvoedingscanon. Omdat Over Kinderen Zoveel Meer Te Weten Valt (met Malou van Hintum en Janneke Wubs) ISBN 9789035135147
  25. 2011: De macht van een maitresse. Hoe passie en politiek de laatste prins van Conde fataal werden ISBN 9789061127505
  26. 2012: Verzorgingshuis of plaats delict, een zwartboek over het beroven van ouderen in zorginstellingen ISBN 9789045203270
  27. 2013: Wegwijzers naar een hemel op aarde. Psychologie van de levenskunst (columns). ISBN 9789045207841
  28. 2018: Leven is loslaten. Over een dood met een grote toekomst ISBN 9789045215303
  29. 2019: Het huis van je leven. Over de psychologie van het gelukkige evenwicht ISBN 9789045217451
  30. 2020: In gesprek met je ouders. Handleiding voor je belangrijkste interview ISBN 9789045222318

★パブメド(PubMed)

2023年2月14日現在、パブメド(PubMed)で、ルネ・ディクストラ(Rene Diekstra)の論文を「Rene Diekstra[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2004年と2019年の2論文がヒットした。

「Diekstra RF」で検索すると、1980~2019年の40年間の51論文がヒットした。

2023年2月14日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、「1988年1月のNed Tijdschr Geneeskd」論文・1論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年2月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでルネ・ディクストラ(Rene Diekstra)を「Diekstra」で検索すると、「1988年1月のNed Tijdschr Geneeskd」論文・ 1論文が1997年1月18日に撤回されていた。撤回理由は盗用である。

★パブピア(PubPeer)

2023年2月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ルネ・ディクストラ(Rene Diekstra)の論文のコメントを「Rene Diekstra」で検索すると、1論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》才能 

ルネ・ディクストラ(Rene Diekstra)のディクストラ事件は、27年前の1996年8月(50歳)に盗用が発覚した事件である。

新聞に大きく報道された。

ディクストラは不注意だったことは認めているが、次の3点を主張し、盗用を否定した。

(1) 大衆向け科学書は、科学論文の出版規範とは(少なくともある程度は)異なり、盗用基準も異なる。
(2) 被盗用者は金銭的に補償されていた。
(3) 他人から盗むつもりはなかった。

白楽は、27年前のオランダの盗用基準を把握していないので、ディクストラの主張がどれほど妥当だったのかは判断できない。

現在の基準なら、明確に盗用である。少なくとも主張の(2)(3)は考慮できるような主張ではない。

ネカト調査委員会がクロと認定したので、27年前のオランダの盗用基準は現在とほぼ同じ基準だったのだろう。

ただ、ディクストラの学歴を見ると、ディクストラは研究博士号(PhD)を取得していない。学部卒なのに、自殺の心理学で世界的に著名な大学教授になった。多数の書籍も出版している。

講演している動画を見ると、優れた才能を感じる。もちろん多大な努力に裏付けされた能力・魅力・実力なのだろう。

ディクストラのような優れた学者に接すると、盗用で研究キャリアを損傷してしまうのは、本人にとっても学術界にとっても、イヤ、社会にとっても、もったいない。

それでも、盗用事件後の1998年以降2020年の23年間に計20数冊の本を出版している。平均すると毎年約1冊である。スゴイ著作力である。その業績は素晴らしい!

ルネ・ディクストラ(Rene Diekstra)。https://www.volkskrant.nl/nieuws-achtergrond/het-waarom-achterhalen-met-psychologische-autopsie~b0a59cea/
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●9.【主要情報源】

① ウィキペディア・オランダ語版:Rene Diekstra – Wikipedia
② ルネ・ディクストラ(Rene Diekstra)のウェブサイト:Diekstra.NL | De Website van Rene Diekstra
③ ◎Bos, J. (2020). Plagiarism. In: Research Ethics for Students in the Social Sciences. Springer, Cham. https://doi.org/10.1007/978-3-030-48415-6_4 :Plagiarism | SpringerLink、(保存版
④ ◎1997年のマーティン・ボーア(Martin Boer)記者の「Lingua franca」記事: MR. HOLLAND’S OPUS、(保存版
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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