2023年7月15日掲載
ワンポイント:ゲギャンは、南ブルターニュ大学(ブルターニュ・スッド大学、Southern Brittany University 、仏語:Université Bretagne-Sud)・教授で、男女の性的行動や消費者行動などに関する大衆向けの心理学の本を数十冊出版している有名人である。2015年(50歳)、有名なネカトハンターのニック・ブラウン(Nïck Brown)とジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)がゲギャンの論文中のデータ(数値)が異常だと指摘した。数値データのねつ造である。2002~2015年(37~50歳)の14年間に出版した10論文に懸念表明が付き、3論文が撤回された。ところが、大学は調査の結果、シロと結論した「大学のネカト調査不正」事件でもある。国民の損害額(推定)は5億円(大雑把)。
【追記】
・2024年4月1日記事:Exclusive: ‘Bust Size and Hitchhiking’ author to earn four more expressions of concern – Retraction Watch
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ニコラ・ゲギャン(ニコラス・ゲーガン、ニコラ・ゲゲン、ニコラ・ゲガン、Nicolas Guéguen、ORCID iD:?、写真出典)は、フランスの南ブルターニュ大学(ブルターニュ・スッド大学、Southern Brittany University 、仏語:Université Bretagne-Sud)・教授で医師免許は持っていない。専門は行動心理学である。
ゲギャンは男女の性的行動や消費者行動などの心理学で、たくさんの大衆向け書籍を出版している。
日本語に翻訳されていないが、『日常的な影響力と操作の芸術(L’art de l’influence et de la manipulation au quotidien』』(2021年)、『誘惑心理学の100の小さな経験(100 petites expériences de psychologie de la séduction)』(2007年)など数十冊もある(本の表紙出典はアマゾン)。
2015年(50歳)、有名なネカトハンターのニック・ブラウン(Nïck Brown)とジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)がゲギャンの論文のデータ(数値)が異常だと指摘した。
2002~2015年(37~50歳)の14年間に出版した10論文が、2020~2023年(55~58歳)に懸念表明、2019年、2020年、2023年に出版した計3論文が撤回された。
データ(数値)の異常は、白楽の解釈だと、数値のねつ造である。
そして、ゲギャンは2017年(52歳)以降、論文を1報も出版していない。
白楽が思うに、データをねつ造しないで、チャンと研究し、その結果を論文にする、ということができないのだと思う。
驚いたことに、データねつ造がかなり明白なのに、南ブルターニュ大学と前任校のボルドー第2大学はネカト調査の結果、ゲギャンをシロと結論した。従って、ゲギャンは何も処分されていない。2023年7月12日(58歳)現在:南ブルターニュ大学・教員職を維持している。 → Nicolas Gueguen – Université Bretagne Sud:2023年7月12日保存版
典型的な「大学のネカト調査不正」事件でもある。
南ブルターニュ大学(Southern Brittany University 、仏語:Université Bretagne-Sud、つまりUBS)。写真出典
- 国:フランス
- 成長国:フランス
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:レンヌ第2大学
- 男女:男性
- 生年月日:1964年11月15日
- 現在の年齢:60歳
- 分野:行動心理学
- 不正論文発表:2002~2015年(37~50歳)の14年間
- ネカト行為時の地位:ボルドー第2大学・教員、南ブルターニュ大学・教授
- 発覚年:2015年(50歳)
- 発覚時地位:南ブルターニュ大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は有名なネカトハンターのニック・ブラウン(Nïck Brown)とジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)で、彼らのブログとツイッターで指摘
- ステップ2(メディア):ニック・ブラウン(Nïck Brown)のブログ、「Ars Technica」紙、「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②南ブルターニュ大学・調査委員会はシロと結論
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:10論文に懸念表明、3論文が撤回
- 時期:研究キャリアの中期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)。大学がシロと結論したから
- 処分:なし。大学がシロと結論したから
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は5億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 1964年11月15日:生まれる
- 19xx年(xx歳):xx大学(xx)で学士号取得:コンピューター工学
- 19xx年(xx歳):レンヌ第2大学(Université Rennes 2)で研究博士号(PhD)を取得:社会心理学
- 1997年(32歳):ボルドー第2大学(Université Bordeaux-II)・教員
- 2002~2015年(37~50歳):この14年間の24論文がパブピアで疑念視された
- 2007年(42歳):南ブルターニュ大学(Southern Brittany University 、仏語:Université Bretagne-Sud)・教授
- 2015年(50歳):ネカトが発覚
- 2017年(52歳):この年以降、論文を1報も出版していない
- 2017年11月29日(53歳):キャスリーン・オグラディ(Cathleen O’Grady)記者が「Ars Technica」紙でデータ異常を記事にした
- 2023年7月14日(58歳)現在:南ブルターニュ大学・教員職を維持:Nicolas Gueguen – Université Bretagne Sud:2023年7月12日保存版
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
「Nicolas Guéguen」を「ニコラ・ゲギャン」と紹介。
動画:「L’évocation de la liberté par Nicolas Gueguen – Psychologie Sociale – YouTube」(フランス語)4分50秒。
Thibault Gouttier – Hypnose & thérapie(チャンネル登録者数 5.27万人)が2017/04/28に公開
【動画2】
「Nicolas Guéguen」を「ニコラ・ゲギャン」と紹介。
動画:「„Psihologia manipulării și a supunerii”, de Nicolas Gueguen – YouTube」(フランス語)4分51秒。
Stefan cel Mare Biblioteca(チャンネル登録者数 811人)が2022/12/05に公開
●4.【日本語の解説】
日本人はニコラ・ゲギャン(Nicolas Guéguen)の研究成果が大好きなようで、ゲギャンの研究成果を取り上げた日本語文章がたくさんある。
ただ、事件を解説した日本語文章は少ない。
なお困ったことに、ニコラ・ゲギャン(Nicolas Guéguen)の呼び方が、「ニコラス・ゲーガン」、「ニコラ・ゲゲン」、「ニコラ・ゲガン」などとイロイロだ。
本記事では「ニコラ・ゲギャン」とした。
★xxxx年x月xx日:著者名不記載(関西ギター音楽アカデミア):「ギターを持つだけでモテる!?」
南ブリュターニュ大学のNicolas Gueguen教授が行動科学の研究として、20歳の男性にブルターニュのショッピングセンターの18~22歳の女性300人に対して、ギターを持った男性にどのくらい憧れるのかを調べました。
その際の手荷物として、①スポーツバッグ、②ギターケース、③手ぶらの3パターンを比較しました。
さてそれぞれのパターンで約100名の調査を比較した結果ですが…①のスポーツバッグは9%、③の手ぶらは14%、そして②のギターケースを持っていた時は31%の人が、魅力的に感じたそうです。
続きは、原典をお読みください。
★2014-12-13xxxx年x月xx日:Chris Matyszczyk (Special to CNET News) 翻訳校正:編集部(ZDNET Japan):「ヒールの高さで男性の態度が変わる?–フランスの調査結果が話題に」
ハイヒールを履いた女性が道で手袋を落とすと、ぺたんこ靴を履いた女性よりも男性に拾ってもらえる確率が50%高くなることが分かったという。
バーにいる時も(少なくともフランスでは)、ヒールの女性のほうが半分の時間で男性に声をかけられることが分かった。APは、調査執筆者で行動科学者でもあるNicolas Gueguen氏が「簡単に言うと、ヒールが女性を美しく見せている」と述べたとしている。
続きは、原典をお読みください。
★2015年2月6日:編集部の上田(クーリエ・ジャポン):「異性を惹きつける”クリエイティビティー”とは?」
フランスのブルターニュ・スッド大学のニコラ・ゲゲン博士が「創造性」と「性的魅了」に関する実験を行いました。それは、一人の男性がシチュエーションを変えながら、道行く300人の若い女性にランダムに声を掛け、何人の電話番号をゲットできるかというもの。その結果、ギターケースを持っているときのほうが、普通のバッグや何も持っていないときよりも多く番号を聞き出すことができたそうです。
つまり、男性の“クリエイティブさ”に女性は魅力を感じたということ。「ほとんどの人間は、受け手の知覚、感覚、そして感情を刺激する創造性に、最も性的な魅力を感じる」のだそうです。
続きは、原典をお読みください。
★2016年4月17日:ルーカス:「ゲーガン教授のナンパ・シリーズ」
ニコラス・ゲーガン(Nicholas Gueguen)教授は、フランスのブルターニュ・スッド大学の行動学科の主任研究員です。(Université de Bretagne-Sud)
恋愛の科学は、偶然にこの方のことを知りました。
ある日、恋愛に関する論文を探していたら、「どんな鞄を持てば、高い確率で異性から電話番号をもらえる?」という面白そうな論文を見つけました。
その数日後には、「どんな色のリップをつけたとき、異性から電話番号をゲットできる確率が高いのか?」という変な論文を見つけました!
この論文を書いたのもニコラス・ゲーガン教授でした。
・・・中略・・・
[ゲーガン教授のナンパシリーズ]
14編.ソフトタッチの力!手が触れただけでもナンパの成功率が2倍に!?
13篇.面白い男性は本当にモテるの?
12編.犬を飼うと恋人ができる!?
11編.天気によって変わるナンパの成功率!
10編. 通りすがりの人に「今晩エッチしない?」と聞いてみた
9編. ヒール女子はモテる!ハイヒールの魔法
8編. モテる人は「笑顔」笑って愛され度アップ!
7編. デートの誘いを受け入れやすい日がある
6編. 簡単に好感度を上げる方法
5編. foot-in-the-door:デートの誘いを断らせないテクニック
4編. 「YES」を誘う花の魔法
3編. 胸が大きくなると、男性の関心も高まる?
2編. ロマンチックな歌とナンパの関係!驚きのBGM効果
1編. 持ち物で変わる?!女性にモテるカバンとは?
今後もゲーガン教授のナンパシリーズをお楽しみに♡
続きは、原典をお読みください。
★2017年12月6日:編集部(TOCANA):「【悲報】ジェンダー学でまたデタラメ発覚! 仏人気教授の研究「男はポニーテールの女に不親切」に改ざん疑惑 → 学会は沈黙」
科学ニュースサイト「Ars Technica」(29日付)によると、仏・南ブルターニュ大学の社会心理学者ニコラ・ゲガン教授が行った研究に統計学的に奇妙な点が多数あることが判明したという。
ゲガン教授は、一般人にも分かりやすいキャッチーでインパクトのある社会実験をしばしば行うことで知られ、その研究の1つである「ハイヒールを履いている女性は男性にとってより性的に見える」は、米高級誌「TIME」(2014年11月19日付)にも取り上げられたほどだ。
だが今回、米ノースイースタン大学の心理学者ジェームズ・ヘザー博士とオランダ・フローニンゲン大学のニック・ブラウン氏が、たまたま目にしたゲガン教授の研究「男性はポニーテール女性を助けにくい傾向にある」に統計上無視できない点があることに気付いたという。
ヘザー博士らは、同研究を目にした当初は“大笑い”したそうだが、小一時間ばかり真剣に精査してみたところ、明らかにおかしなデータであることが数学・統計的に判明したという。
続きは、原典をお読みください。
なお、この記事の内容は後で再掲する。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★行動心理学
ニコラ・ゲギャン(Nicolas Guéguen)の行動心理学というのは、科学研究というか「おふざけ」なのか、判断が迷うような研究である。
ゲギャンは男女の性的行動や消費者行動などの心理学で、たくさんの大衆向け書籍を出版している。グーグルで「books Nicolas Guéguen」と検索すると、30冊以上の本の表紙が得られた(以下は2023年5月22日版、出典:books Nicolas Guéguen – Google 検索、2023年7月12日保存版)
★バストサイズとヒッチハイクの関係
ゲギャンの「2007年12月のPercept Mot Skills.」論文の書誌情報は以下のようだ。
- Bust size and hitchhiking: a field study.
Guéguen N.
Percept Mot Skills. 2007 Dec;105(3 Pt 2):1294-8. doi: 10.2466/pms.105.4.1294-1298.
単著論文で、その内容は以下のようだ。
20歳の女性がサクラになって、ヒッチハイカーが頻繁に訪れる道路の脇に立ち、車に乗ろうと親指を差し出す。この時、乳房の大きさと車を停める男性ドライバーの関係を調べた。
同じ女性がブラジャーを調節して胸のサイズを大きくすると、車を停める男性ドライバーは増えたが、女性ドライバーは変化しなかった。なお、写真は論文中の写真ではない。出典、 by Hyacinthe RAIMBAULT。著作権:表示 – 非営利 – 改変禁止 2.0 一般 (CC BY-NC-ND 2.0)
2023年3月18日、この論文に懸念表明が付いた。 → 懸念表明(Expression of Concern)
理由は、ゲギャンの研究公正観、データの信頼度、結果の再現性、研究参加者同意倫理などへの懸念があるとのことだった。
★女性の服の色と性的下心の関係
ゲギャンの「2012年5・6月のJ Soc Psychol.」論文の書誌情報は以下のようだ。
- Color and women attractiveness: when red clothed women are perceived to have more intense sexual intent.
Guéguen N.
J Soc Psychol. 2012 May-Jun;152(3):261-5. doi: 10.1080/00224545.2011.605398.
これも単著論文で、その内容は以下のようだ。
一部の非ヒト霊長類では、赤色がメスの性的魅力を高めることが知られている。それで、赤、青、白、緑のTシャツを着た女性の写真を被験者である多数の男性に見せた時の反応を研究した。
赤い服の女性に最も性的下心(sexual intent)があると受け取った男性が最も多かった。写真(出典)は論文中の写真ではない。
この論文は2023年3月21日に撤回された。 → 撤回公告
論文は、ニック・ブラウンとジェームズ・ヘザーズ(Nicholas Brown and James Heathers)が「J Soc Psychol.」誌にネカト疑惑を通報してきたのを受け、「J Soc Psychol.」誌・ネカト調査委員会が調査した。
論文の表1に示されている平均値と標準偏差の4つの組み合わせは、あり得ない不可能な数値だと、ニック・ブラウンとジェームズ・ヘザーズが指摘した。
論文は閲覧有料である。なので、白楽は論文の表1にアクセスしていない。
ニック・ブラウンが「テイラー・フランシス社(Taylor and Francis)の著作権担当者が、この記事の「ハイライト」の一部をここに掲載しても気にしないことを願っています」と断りながら、2022年11月30日にツイッターで表1を示してくれた(以下出典:https://twitter.com/sTeamTraen/status/1597662584794411010?s=20)。
解説なしで表1を示されても、統計学が不得手な白楽はどこがマズいのかわから無い。深入りしないで話しを進める。
「J Soc Psychol.」誌・ネカト調査委員会は、ゲギャンに平均値と標準偏差のあり得ない組み合わせについて説明を求めたが、返答がなかった。
議論の結果、「J Soc Psychol.」誌・ネカト調査委員会は報告されたデータが信頼できないと全会一致で結論付け、論文撤回を勧告した。
★ハイヒールをはいた方が女性はもてる
ゲギャンの「2015年11月のArch Sex Behav.」論文の書誌情報は以下のようだ。
- High Heels Increase Women’s Attractiveness.
Guéguen N.
Arch Sex Behav. 2015 Nov;44(8):2227-35. doi: 10.1007/s10508-014-0422-z. Epub 2014 Nov 19.
これも単著論文で、その内容は以下のようだ。
研究によると、女性用のアパレルの外観は、男性から見た女性の魅力を高めるのに役立っているという研究成果がある。今回、女性の靴のかかとの長さと女性の魅力の関係を調査した。
0、5、9センチのヒールの黒い靴を履いた女性が、さまざまな状況で男性たちに助けを求めた。写真(出典)は論文中の写真ではない。
研究1では、男女平等に関する簡単なアンケートに回答するよう男性と女性に依頼した。研究2では、地元の食生活の消費に関する調査に参加するよう男性と女性に依頼した。研究3では、路上で手袋を落とした時に、後ろからくる男性と女性の行動を観察した。
3つの研究とも、ヒールの長さが長くなると男性の援助行動が増加するが女性からの援助行動はヒールの長さとは無関係だった。また、ハイヒールを履いている女性に男性はより早く寄ってきた(研究4)。
この論文は2019年10月11日に撤回された。 → 撤回公告
撤回公告によると、南ブルターニュ大学は、調査の結果、方法論上に重大な弱点があり、また、統計上の誤りがあるので、論文で報告したデータに信頼性がない。それで、論文撤回を要請した、とある。
なお、学術誌編集部は著者・ゲギャンに論文撤回に関する連絡をしたが、著者・ゲギャンからはなにも返答が得られなかった。
★男性はポニーテールの女性に不親切
ゲギャンの「2015年12月のScand J Psychol.」論文の書誌情報は以下のようだ。
- Women’s hairstyle and men’s behavior: A field experiment.
Guéguen N.
Scand J Psychol. 2015 Dec;56(6):637-40. doi: 10.1111/sjop.12253.
この論文は2022年4月6日に懸念表明された。 → 懸念表明
ゲギャンの「2015年12月のScand J Psychol.」論文は「4.【日本語の解説】」に示した以下の記事に、詳しく記載されている。
★2017年12月6日:編集部(TOCANA):「【悲報】ジェンダー学でまたデタラメ発覚! 仏人気教授の研究「男はポニーテールの女に不親切」に改ざん疑惑 → 学会は沈黙」出典(画像も) → ココ、(保存版)
以下長いけど、白楽が解説しても同じことになるので、この記事を修正しつつ、引用した。
19歳白人女性の長い黒髪を3つの異なる髪型にして、路上で手袋をわざと落とす。後ろから歩いてくるターゲットの男女がどのような行動を取ったか、という研究である。
①髪を自然に流したナチュラルヘアの女性、②ポニーテールの女性、③お団子ヘアである。
手袋を拾い挙げ渡したら3点、落とした女性に声をかけたら2点、なにもしなかったら1点とし、ターゲットの男女それぞれ30人の平均値を割り出した。
すると、ターゲットが男性の場合、①ナチュラルヘアの女性に対しては2.80ポイントに対し、②ポニーテールと③お団子ヘアの女性に対しては1.80ポイントとかなりの差が生じた。一方、ターゲットが女性の場合、差はなかった。
つまり、「男はポニーテールやお団子ヘアの女性に不親切な傾向にある」という結果だった。
ヘザー博士らは論文中の数値のおかしさにすぐに気がついたという。まず、それぞれの獲得したポイントの平均が30で割られているにもかかわらず、1.80や1.60など切りの良い数字で終わるのはおかしいという。たとえば、17を3で割ると5.6666…となるように、3で割り切れない数字は循環小数(0.3333333 or 0.6666666)になるはずだからだ。
ヘザー博士らの計算によると、6つ全ての組み合わせ(①ナチュラルヘア、②ポニーテール、③お団子ヘアの3つをターゲットの男女で掛けた組み合わせ)において、小数点以下第2位にゼロが来る確率(割り切れる確率)は0.0014と極めて低いという。
ただ、ここでヘザー博士らはゲガン教授が小数点以下第2位をあらかじめ四捨五入して(たとえば1.5666…ならば1.6)、それに小数点以下第2位にゼロを取ってつけたのだと考えた(1.60)。しかし、ゲガン教授の統計データには小数点以下第2位がゼロでないものも含まれており、これは「エラーとして説明できない」(ヘザー博士)という。
さらに、ヘザー博士らは可能なあらゆる数値を組み合わせて、ゲガン教授のデータを再現したところ、驚くべき結論に至った。
なんと、それぞれの獲得ポイント(3ポイント、2ポイント、1ポイント)が、どの組み合わせにおいても6回、12回、18回、24回と、規則的に起こっていたというのだ。たとえば、平均が1.60ポイントとされる、お団子ヘア+女性ターゲットの場合、1ポイントが12回、2ポイントが18回であったという。
このポイントをターゲットの人数30で割ると、確かに1.60という数値が得られる。これと同じことが他の組み合わせでも起こっていたというのだ。
もしこれがランダムに起こったとしたら、その確率は1億7千万分の1になるという。つまり、ゲガン教授の実験データはランダムではなく、周到にコントロールされていたと疑うだけの要素が目白押しだということだ。
★ネカト発覚の経緯
本記事では、ニコラ・ゲギャン(Nicolas Guéguen)のネカト発覚の前に、上記のようにネカトの実例を4論文で示した。
ゲギャンのネカトは、2015年、有名なネカトハンターのニック・ブラウン(Nïck Brown)とジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)が指摘したのが最初である。
2022年11月30日、ニック・ブラウンが以下のツイッターでそう説明している。
Seven years after @JamesHeathers and I first started to write about it, this article by Nicolas Guéguen has been retracted today. 🥂🍾🥳🎉
— Nïck Brown🌻 (@sTeamTraen) November 29, 2022
以下はニック・ブラウン(Nïck Brown)とジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)の調査文書(2019年4月25日)の冒頭部分(出典:同)。全文(53ページ)は → https://osf.io/67x2j
★大学の調査
白楽は、セレスの対応が高圧的な印象を受けた。
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南ブルターニュ大学と前任校のボルドー第2大学はネカト調査の結果、ゲギャンをシロと結論した。
白楽は、このネカト調査報告書を探したが見つからなかった。
ウェブ上に公表されていない公算が高い。
公表されているなら、ニック・ブラウン(Nïck Brown)とジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)の調査文書集(OSF | Investigation into the work of Dr. Nicolas Guéguen)に入っているハズだ。
その中に、それらしき文書はないが、上記の調査文書集は膨大で、暑さに参っている白楽は、見落としているかもしれない。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
上記したので省略
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2023年7月14日現在、パブメド(PubMed)で、ニコラ・ゲギャン(Nicolas Guéguen)の論文を「Nicolas Guéguen[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2016年の15年間の72論文と2020年の撤回公告1報がヒットした。
その72論文の内の大半は、ゲギャンの単著論文である。
「Guéguen N」で検索すると、2000~2023年の24年間の189論文がヒットした。
2023年7月14日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、2論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2023年7月14日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでニコラ・ゲギャン(Nicolas Guéguen)を「Nicolas Guéguen」で検索すると、2002~2015年の0論文が訂正、10論文が懸念表明、3論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2023年7月14日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ニコラ・ゲギャン(Nicolas Guéguen)の論文のコメントを「”Nicolas Guéguen”」で検索すると、2002~2015年の25論文にコメントがあった。なお、2020年の生命科学系の1論文(ディディエ・ラウル(Didier Raoult)の論文)は何かの間違いだと思う。 → 「ズサン」:ディディエ・ラウル(Didier Raoult)(仏) | 白楽の研究
●7.【白楽の感想】
《1》研究は落語
白楽が筑波大学・講師だった頃、どういうわけか、10歳くらい年上で、植物生理学が専門の藤伊 正(ふじい ただし)・助教授に可愛がられた。
白楽は動物系の生化学・細胞生物学が専門だから、藤伊さんとは学問的にも学閥的にも全く系列外である。
その藤伊さんに、生物科学系棟の廊下や階段で私に会うと、ニコニコしながら寄ってきて、「あのね、研究ってのは落語だからね」とよく言っていた。
この人は独特の温かい人柄の持ち主なのだが、しばしば、白楽に、冗談だか本気だかわからないことを話しかけてきた。
当時の白楽は、「研究は落語」説を聞き流していたが、その後、そうかもしれないと思うことが時々あった。
ニコラ・ゲギャン(Nicolas Guéguen)の研究結果を見て、藤伊さんの「研究は落語」説を思い出した。
要するに、ゲギャンは、面白いネタを思いついてから、論文構想を練り、データをねつ造し、創造した文章の中にデータを記入していく。この方法で論文原稿をまとめ発表してきた。
だから、大衆向けの心理学の本として、話が面白い。ナルホドと思えるオチもある。それで売れる。
心理学にはこの手の「研究は落語」論文が多い気がする。
《2》ネカト体質研究者
ゲギャン事件では、2015年、ネカトハンターのニック・ブラウン(Nïck Brown)とジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)がニコラ・ゲギャン(Nicolas Guéguen)のネカトを指摘した。
パブピアによると、ゲギャンは2002~2015年(37~50歳)の14年間に、ネカト疑念論文を24報、出版していた。
しかし、2015年にネカトが指摘されてから、その後は、ネカト疑念論文を1報も出版していない。2016年に5報出版しているが、ネカトと指摘される前に既に投稿していたのが出版されたのだろう。
2017年以降、ゲギャンは論文そのものを1報も出版していない。
つまり、ゲギャンはデータねつ造が発覚しないと踏んで、不正と知りつつデータをねつ造し、2002~2015年(37~50歳)の14年間、ネカト論文を出版していたと思われる。
それが、発覚し叱責されたので、ピタリとデータねつ造論文を投稿しなくなった。
しかし、データをねつ造しないと、論文原稿としてまとめる知識・技術・能力がない。それまでの研究人生で、真っ当な研究をして、論文原稿としてまとめる知識・技術・能力が育成できていない。
データをねつ造しないと、論文発表できる研究成果がそもそも得られない。それで、論文出版そのものがピタリと止まった。
ということは、若い時からのゲギャンの論文のほぼ全部がネカト論文ということだろう。
こういう根っからのネカト体質研究者は、初期の頃に見つけて研究界から排除すべきなのだ。現実は、2023年7月12日現在も南ブルターニュ大学・教授なんだけど。 → Nicolas Gueguen – Université Bretagne Sud:2023年7月12日保存版
「大学のネカト調査不正」は困ったもんんだ。日本はひどいけど、欧州もソコソコ蔓延している。誰か阻止する方策を考案してください。
ニコラ・ゲギャン(Nicolas Guéguen)https://archive.md/wip/PeiGP
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日本の人口は、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。
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●9.【主要情報源】
① ウィキペディアのフランス語版:Nicolas Guéguen — Wikipédia
② ニコラ・ゲギャンのウェブサイト:Le site web de Nicolas GUEGUEN
③ ニック・ブラウン(Nïck Brown)とジェームズ・ヘザーズ(James Heathers)の調査文書集:OSF | Investigation into the work of Dr. Nicolas Guéguen
④ 2017年11月29日のキャスリーン・オグラディ(Cathleen O’Grady)記者の「Ars Technica」記事:Researchers find oddities in high-profile gender studies | Ars Technica
⑤ 2019年5月9日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:After 18 months — and recommended retractions — no movement in psychology case – Retraction Watch
⑥ 2019年5月9日のニック・ブラウン(Nick Brown)記者の「Nick Brown’s blog」記事:Nick Brown’s blog: An update on our examination of the research of Dr. Nicolas Guéguen
⑦ 2019年10月12日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:In 2014, a study claimed high heels made women more attractive. Now it’s been retracted. – Retraction Watch
⑧ 2020年6月29日のニック・ブラウン(Nick Brown)記者の「Nick Brown’s blog」記事:Nick Brown’s blog: The Guéguen saga update, summer 2020 edition
⑨ 2020年10月9日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Heard about the study claiming men who carry guitar cases are more attractive? It’s been retracted. – Retraction Watch
⑩ 2022年12月2日のエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事: Paper about “sexual intent” of women wearing red retracted seven years after sleuths raised concerns – Retraction Watch
⑪ 2023年3月28日のレベッカ・ソーン(Rebecca Sohn)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事: “Bust Size and Hitchhiking” author earns five expressions of concern – Retraction Watch
⑫ 2022年12月6日のアーロン・チャールトン(Aaron Charlton)記者の「OpenMKT.org」記事:Three strikes for marketing professor, Nicolas Guéguen (but he doesn’t appear to be out) – OpenMKT.org
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