2024年6月5日掲載 【長文注意】
ワンポイント:イタリアで育ったプラティコは米国のテンプル大学(Temple University)・教授になり、NIHから計約19億円の研究費を受給し、脳疾患やアルツハイマー病研究の大御所になった。2020年(58歳?)、コロンビア大学・助教授のムー・ヤン(Mu Yang、杨沐、中国の北京大学出身)が、論文のデータ異常を見つけ、NIH、研究公正局、学術誌に通報したが、どこもまともな対処をしてくれなかった。それで、ネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)などに協力を依頼した。現在、パブピアで36論文のデータ疑惑が指摘され、2022年10月(60歳?)以降、5論文が撤回された。しかし、テンプル大学と研究公正局はクロと発表していない。国民の損害額(推定)は19億円(大雑把)。
この事件は、白楽指定の重要ネカト事件である:ムー・ヤンの追求を詳細に報じたレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事と「孙滔、王兆昱」記者の「2024年1月の中国科学报」記事は秀逸である。ムー・ヤンのネカト追求過程のわかりやすさ、研究公正局と大学の対処怠慢・隠蔽、学術誌の対処怠慢・隠蔽・調査不正など、研究公正局・大学・学術誌のネカト対処の貧困さがよく描かれている。
【追記】
・2024年8月22日記事:Unusual Fraud Claim Against Scientific Co-Author Over Alleged Research Problems Fizzles Out
ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
ーーーーーーー
●1.【概略】
ドメニコ・プラティコ(Domenico Praticò、 Domenico Pratico、ORCID iD:?、写真出典)は、イタリアで育ち、医師になり、米国のテンプル大学(Temple University)・教授になった。専門は神経病理学(アルツハイマー病)である。
アルツハイマー病研究財団の会長であり、脳の健康、脳の老化、アルツハイマー病などの研究で国際的に高い評価を得ている。
2020年1月下旬(58歳?)、コロンビア大学・助教授のムー・ヤン(Mu Yang、杨沐、中国の北京大学出身)が、プラティコ論文のデータに異常な部分を見つけた。
英国のエディンバラ大学のリチャード・モリス教授(Richard Morris)に異常の確認をしてもらって、NIH、研究公正局、学術誌に通報したが、どこもまともに対処してくれなかった。
2020年10月(58歳?)、それで、ムー・ヤンは有名なネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik)に協力を依頼した。ビックは、プラティコの論文のウェスタンブロットと組織画像がネカトだと、パブピア(PubPeer)で指摘してくれた。
2022年8月31日(60歳?)、ドイツのネカトハンター、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログでムー・ヤンはプラティコのネカト事件を解説した。
2024年6月4日(62歳?)現在、プラティコの 36論文のデータ疑惑がパブピアで指摘され、撤回論文は5報になった。しかし、残りの多くの疑惑論文は懸念表明がついていないし、撤回もされていない。
2024年6月4日(62歳?)現在、テンプル大学と研究公正局はクロと発表していない。プラティコは処分されていない。
ムー・ヤンが頑張ってネカトを追及したが、学術誌は対処怠慢・隠蔽あるいは調査不正で、大学も研究公正局も対処怠慢・隠蔽だった。
希望的観測を言えば、今後、テンプル大学はクロと認定しプラティコを解雇する。テンプル大学の認定をもとに研究公正局(ORI)もクロと判定する。そして、プラティコの問題論文をすべ撤回する、と期待したい。
しかし、闇に葬られる可能性はかなりある。
ムー・ヤンの追求を詳細に報じたレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事と「孙滔、王兆昱」記者の「2024年1月の中国科学报」記事は秀逸で、ネカト対処の実態を詳細に描き、圧巻である。
テンプルテンプル大学ルイス・カッツ医科大学院(Temple University’s Lewis Katz School of Medicine)。写真出典上 、下
- 国:米国
- 成長国:イタリア
- 医師免許(MD)取得:ローマ大学「ラ・サピエンツァ」
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1962年1月1日生まれとする。1986年に医師免許を取得した時を24歳とした
- 現在の年齢:62 歳?
- 分野:神経病理学
- 不正論文発表:2011~2023年(49~61歳?)の13年間
- ネカト行為時の地位:テンプル大学・準教授、正教授
- 発覚年:2020年(58歳?)
- 発覚時地位:テンプル大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は同じ分野の研究者であるコロンビア大学・助教授のムー・ヤン(Mu Yang、杨沐)
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「For Better Science」、「中国科学报」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②テンプル大学は調査していない?
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない?
- 大学の透明性:調査していない、発表なし(✖)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:パブピアで36論文が疑惑、5報撤回
- 時期:研究キャリアの後期
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
- 処分:なし
- 対処問題:大学怠慢、学術誌怠慢、研究公正局ズサン
- 特徴:ムー・ヤンの追求が詳細に公開されている。米国政府の助成機関(NIH・国立老化研究所)、調査機関(研究公正局)、学術誌、テンプル大学という正統的なネカト対処組織が機能しなかった
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は19億円(大雑把)。プラティコの獲得したNIH助成金総額。
●2.【経歴と経過】
主な出典: Domenico Pratic�
- 生年月日:不明。仮に1962年1月1日生まれとする。1986年に医師免許を取得した時を24歳とした
- 1986年(24歳?):イタリアのローマ大学「ラ・サピエンツァ」(University of Rome “La Sapienza”)で医師免許取得:医学
- 1986~1991年(24~29歳?):イタリアのローマ大学「ラ・サピエンツァ」・研修医
- 1991~1993年(29~31歳?):アイルランドのダブリン大学(University of Dublin)・ポスドク
- 1994年(32歳?):米国のペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)・研究員、後に、助教授
- 2007年(45歳?):米国のテンプル大学(Temple University)・準教授、後に、正教授
- 2011~2023年(49~61歳?):この13年間の36論文にパブピアのコメントがある
- 2020年1月(58歳?):ムー・ヤン(Mu Yang、杨沐)が研究不正を見つけた。以後、追及する
- 2022年10月(60歳?):ネカト疑惑論文2報が撤回。その後、3論文が撤回され、計5論文が撤回された
- 2024年6月4日(62歳?)現在:従来職を維持:Domenico Praticò, MD | Lewis Katz School of Medicine at Temple University
●3.【動画】
以下は事件の動画ではない。
【動画1】
研究インタビュー動画:「Intervista Dott. Domemico Pratico – – YouTube」(イタリア語)27分56秒。
giornale brancaccio e cultura(チャンネル登録者数 11人) が2023/11/25 に公開
【動画2】
ギリシャでの研究講演動画:「Intervista Dott. Domemico Pratico – – YouTube」(英語)23分33秒。
ELIA Lesvos Confest(チャンネル登録者数44人) が2022/10/18 に公開
●4.【日本語の解説】
★2020年9月29日:髙久史麿(メディカルノート):「緑茶は認知症にも肥満にも効果あり?」
Praticò教授らは、認知症の要因となる脳の神経細胞の変性を引き起こすと考えられている「タウたんぱく」が脳内に蓄積するよう遺伝的に改変したマウス(taupathyマウス)を用い、このマウスに生後6カ月(ヒトでは30歳)からエキストラバージンオリーブ油を投与し始め、生後1年目(ヒトでは60歳)に対照群のマウスの脳と比較した。その結果、エキストラバージンオリーブ油投与群のマウスの脳では、対照群に比べてタウたんぱくの蓄積が60%少なかったことを見出している。
続きは、原典をお読みください。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★研究人生
ドメニコ・プラティコ(Domenico Praticò、 Domenico Pratico、写真出典)は、イタリアで育ち、イタリアで医師になり、1994年(32歳?)、米国のペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)・研究員、後に、助教授になった。
その後、2007年(45歳?)、米国のテンプル大学(Temple University)・教授になった。
専門は神経病理学で、脳の健康、脳の老化、アルツハイマー病など、いくつかの神経変性疾患の研究で国際的に高い評価を得ている。
アルツハイマー病研究財団の会長であり、多数の論文を出版し、次節に示すように多額の研究費を得ている。
★獲得研究費
ドメニコ・プラティコ(Domenico Praticò、 Domenico Pratico)は、NIHから2001~2024年の24年間に38件、計18,906,353ドル(約18億9063万円)の研究費を獲得していた。 → RePORT ⟩ Domenico Pratico
以下、最近の4件を示す(出典:上記)。
★発覚の経緯:ムー・ヤン(Mu Yang)
ムー・ヤン(Mu Yang、杨沐、写真出典、https://www.linkedin.com/in/mu-yang-11229436/)は、1999年に北京大学で心理学の学士号を取得後、2006年、米国のハワイ大学で研究博士号を取得、2016年にコロンビア大学(Columbia University Medical Center)・助教授で同大学・マウス行動試験センター研究所(Mouse Neurobehavior Core)・所長になった。
ムー・ヤンの研究室はオープンラボなので、実験に来る他の研究グループの院生の対応もする。
2020年1月下旬(58歳?)、ある院生が、アルツハイマー病を患っているマウスの研究を記載したプラティコの論文を読んで、プラティコの論文結果を繰り返したいとムー・ヤンに言った。
ムー・ヤンはプラティコの論文に記載されていた実験を繰り返そうと、論文内容を精査した。
その時、ムー・ヤンは論文のデータに不自然さを感じた。院生に、論文のデータはヘンなので、実験を繰り返すことは不可能だと伝えた。
論文はマウスの迷路実験をしているのだが、そのデータが完璧すぎる気がしたのだ。
動物行動の実験では、誤差が大きく、誤差があるのが動物行動実験のデータの特徴である。
論文は、さまざまな迷路の実験で、異なるマウスを4日間訓練したが、脱出待ち時間にほとんど誤差がなかったのだ。
2020年2月5日(58歳?)、院生の依頼が発端でプラティコの論文を精読していた頃、たまたま、その論文の著者であるテンプル大学のプラティコ教授が、コロンビア大学でアルツハイマー病に関する研究講演を行なった。
聴衆として参加したムー・ヤンはデータの疑念をプラティコ教授に質問した。
「対照群マウスの試験点は30~70%で、トランスジェニックマウスの試験点は10~55%でしたが、対照群は常にトランスジェニックマウスよりも優れていました。 データの安定性に問題があるようです。ご説明をお願いいたします」。
質問は礼儀正しく行なわれたが、質問を聞いたプラティコは顔を伏せた。
それでも、プラティコは何とか答えたが、ムー・ヤンは納得しなかったので、再度質問した。
この時、プラティコを招聘したコロンビア大学のスコット・スモール(Scott Small)は、他にも質問者がいるので、後で、もう一度質問するように頼んだ。ムー・ヤンは再度質問をしなかった。
ムー・ヤンとプラティコが直接質疑応答したのは、この時だけである。
なお、ムー・ヤンは2015~2019年の以下の4論文をおかしな論文だと特定した。
- Pharmacologic inhibition of 5-lipoxygenase improves memory, rescues synaptic dysfunction, and ameliorates tau pathology in a transgenic model of tauopathy.
Giannopoulos PF, Chu J, Sperow M, Li JG, Yu WH, Kirby LG, Abood M, Praticò D.
Biol Psychiatry. 2015 Nov 15;78(10):693-701. doi: 10.1016/j.biopsych.2015.01.015. Epub 2015 Feb 7. - Antileukotriene therapy by reducing tau phosphorylation improves synaptic integrity and cognition of P301S transgenic mice.
Giannopoulos PF, Chiu J, Praticò D.
Aging Cell. 2018 Jun;17(3):e12759. doi: 10.1111/acel.12759. Epub 2018 Apr 1. - Overexpression of 5-Lipoxygenase Worsens the Phenotype of a Mouse Model of Tauopathy.
Giannopoulos PF, Praticò D.
Mol Neurobiol. 2018 Jul;55(7):5926-5936. doi: 10.1007/s12035-017-0817-7. Epub 2017 Nov 11. - Learning Impairments, Memory Deficits, and Neuropathology in Aged Tau Transgenic Mice Are Dependent on Leukotrienes Biosynthesis: Role of the cdk5 Kinase Pathway.
Giannopoulos PF, Chiu J, Praticò D.
Mol Neurobiol. 2019 Feb;56(2):1211-1220. doi: 10.1007/s12035-018-1124-7. Epub 2018 Jun 7.
★リチャード・モリス(Richard Morris)
リチャード・モリス(Richard Morris、写真出典)は当時72歳で、1974年から英国のエディンバラ大学(University of Edinburgh)で神経科学の教授を務めていた。
モリス教授はプラティコの研究内容と近い研究をしていたので、ムー・ヤンはモリス教授に協力してもらおうと考えた。
2020年2月10日(58歳?)、ムー・ヤンはモリス教授に、プラティコの問題の4論文と問題点を書いて、メールした。
わずか30分後、モリス教授は「私は、データの信頼性について、自分なりに分析した結果を出します」と答えた(以下のメール)。
もう少し詳しく、部分的に意訳すると以下のようだ。
「ざっと読んでみましたが、確かに、少し変ですね。
今夜これらのデータをもう一度見直して、私の第一印象があなたの第一印象と同じかどうかを確かめます。自宅で静かにデータを精査してみます。ただ、今、大雪が降っているので、今夕、自宅に帰れるかどうかもわからないので、2日かかるかもしれません」
ムー・ヤンは、メールした時、モリス教授は少し励ましの言葉をくれるだけだろう、と思っていた。それで、メールの返事を読んでも、大きな期待をしないようにと、自分を戒めた。
ところが、翌日、モリス教授は4ページの詳細な分析文書を送ってきた。その分析では、いくつかの重要な結論がヤンの分析と一致していた。
以下はモリス教授の詳細な分析文書(2024年1月9日)の冒頭部分(出典:同)。全文(4ページ)は → https://forbetterscience.com/2022/08/31/research-misconduct-theory-pratico/
2022年7月28日、ムー・ヤンは、そのことをツイッターした。
DeepL翻訳で翻訳すると以下のようだ。
リチャード・モリス博士は、このモリス水迷路データについて、「図2Cの潜伏データは、グループ間の脱出潜伏がほぼ直線的に減少し、平均(SEM)の標準誤差が驚くほど小さいことを示しているという点で異例です」と述べています。
Dr. Richard Morris on this Morris water maze data “the latency data of Figure 2C is unusual in showing an almost linear decline in escape latency across groups and astonishingly small standard errors of the mean (SEMs).” https://t.co/eznf1z9G9R @BiologicalPsyc1 @ElsevierConnect pic.twitter.com/FmDxL6Gb7N
— Mu Yang, Ph.D. (@mumumouse) July 28, 2022
★研究公正局(ORI)
ムー・ヤンには、匿名希望の2人の仲間がいた。
2020年2月(58歳?)、ムー・ヤンがモリス教授とやり取りしていた頃、2人の仲間は、米国のNIH・国立老化研究所(NIA: National Institute of Aging)でプラティコに研究費を提供したプログラム担当者に連絡した。
2020年2月14日(58歳?)、プログラム担当者からは、「この不穏な事件について警告してくれてありがとうございます。・・・。論文ネカト疑惑を研究公正局(ORI)に伝えることをお勧めします」と返信してきた。
ムー・ヤンは、モリス教授の分析文書を添え、研究公正局(ORI)に告発書を提出することにした。
この頃は、ムー・ヤンは、研究公正局(ORI)のネカト対処の真剣さを過大評価していた。
ムー・ヤンが告発書を書き、他の2人の仲間が連署した。
告発書の中で、ムー・ヤンは、データがねつ造・改ざんされていると結論した理由を丁寧に説明した。
2020年2月18日、彼女はモリス教授の分析文書とともに、共同で告発書を研究公正局(ORI)に送った。
“Additional Evidence” that I filed to ORI in June 2020, part 1. pic.twitter.com/K3yhRerX7e
— Mu Yang, Ph.D. (@mumumouse) July 26, 2022
しかし、1週間待ったが、何の返事もこなかった(来たのはそれから2か月後の4月)。
ムー・ヤンは同じ文書を、問題の論文を掲載した4つの学術誌(Aging Cell、Molecular Neurobiology、Molecular Psychiatry、Biological Psychiatry)にも送った。
★ボールの蹴り合い
そして、「ボールの蹴り合い」が始まった。
2020年4月17日(58歳?)、研究公正局(ORI)は告発書を受け取ってから2か月後、調査監査部の調査員が告発内容を検討し始めた。
2020年6月上旬(58歳?)、ムー・ヤンが研究公正局(ORI)に進捗状況について尋ねたところ、次の返事が来た。以下はグーグル翻訳を貼り付けた(カッコ内は白楽。返事の出典:https://forbetterscience.com/2022/08/31/research-misconduct-theory-pratico/)
ORI(研究公正局) にご連絡いただきありがとうございます。 あなたが提起した問題への返答が遅れたことをお詫び申し上げます。 DIO(研究公正局の調査監査部) は、あなたの懸念に関する 4 つの文書(論文)を検討し、以下の理由により、これらの文書(論文のネカト調査)は ORI の管轄下にないと考えています。
ORI は PHS 基金(公衆衛生庁:Public Health Service )によって支援された研究のみを管轄します。 しかし、あなたが懸念した 4 つの論文のうち、NIH 助成金を引用したのは 1 つだけ (Biological Psychiatry 2015) でした。
ORI は、偽造(改ざん)、捏造、および盗作(盗用)の可能性のみを管轄しており、科学的見解の相違や、異なる研究室間の再現不可能な結果に関する問題は含まれません。 実験計画、データ収集、同じ研究室から発表された 4 つの論文のデータ分析とプレゼンテーションに関するあなたの懸念は、連邦規制で定義されている f/f/p(ねつ造・改ざん・盗用) を超えています。 少なくとも、あなたが提供した現在の証拠 (f/f/p の可能性に関する直接的な証拠がない) を考慮すると、ORI は支援することができません。
ただし、すでにあなたが行ったことと同様に、ORI は、ジャーナル、著者、さらには研究機関に連絡して懸念事項について話し合うことをお勧めします。
私の回答がお役に立てば幸いです。 f/f/p の可能性について証拠を伴う具体的な申し立てがない場合、ORI はこの問題を終了することを検討します。 他にご質問がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
早い話、研究公正局(ORI)の調査監察部は、プラティコの疑惑論文4報を調べたが、研究公正局(ORI)が扱う研究不正ではないと判断した。
それで、問題点を学術誌、著者、テンプル大学に伝え、懸念事項について話し合うことを、ムー・ヤンに勧めてきたのだ。
ムー・ヤンは、NIH・国立老化研究所(NIA)にも再度メールした。
国立老化研究所(NIA)の返答は、「主任研究員(PI)に直接連絡して、あなたの懸念に対処してもらうことをお勧めします。 そうすれば、私たちはより透明でオープンな科学的議論を行うことができます」だった。
ムー・ヤンは大きく失望した。研究公正局(ORI)も国立老化研究所(NIA)もネカト告発に誠実に対処する姿勢・意志がない、と感じたのだ。
ムー・ヤンは米国の連邦政府機関を過大評価していたことを実感した。
4学術誌の対応はさらに鈍かった。
数カ月後、ムー・ヤンが再び手紙を書いて4つの学術誌に進捗状況を尋ねたところ、学術誌「Aging Cell」の共同編集長で、アルバート・アインシュタイン医科大学・教授のアナ・マリア・クエルボ(Ana Maria Cuervo、写真出典)は、次のように答えてきた。以下、グーグル翻訳をそのまま貼り付けた。
メールとご返信ありがとうございます。
Aging Cell は、他の多くのジャーナルと同様に、出版された論文に対して提起された懸念に対して、非常に具体的な行動方針を持っています。 これらすべての状況において、編集チーム間での議論の後(今回の場合のように)、著者には常に懸念事項に答える機会が与えられ、必要に応じて追加のデータや分析を提供する機会が与えられます。 主張、著者の反応、およびデータを評価した後、編集チームが詐欺または非倫理的行為の明らかな証拠があると判断した場合にのみ、研究が実施された機関の誠実部門および指導部に連絡されます。
これらの手順は、すべての主張が十分に考慮されていることを保証するため、また、著者が純粋な科学的証拠以外の理由に基づく主張から保護され、矛盾を明確にし、必要に応じて修正する機会が与えられることを保証するために設けられています。
このプロセスの次のステップに進んでほしい場合は、あなたとあなたの同僚がプラティコ博士に提供した情報を共有し、プラティコ博士としてあなたの懸念に対処することを希望する場合はお知らせください。
この対応に、ムー・ヤンは再び、大きく失望した。
このような対応が、善意で行なう研究者のネカト通報を大きく阻害していることを実感した。
2020年3月上旬(58歳?)、一方、学術誌「Biological Psychiatry」はすぐに対応し、テンプル大学ルイス・カッツ医科大学院の暫定学部長に連絡した。
2020年6月(58歳?)、3か月後、ムー・ヤンが進捗状況を尋ねた。
しかし、学術誌「Biological Psychiatry」の編集長の神経科学者のエリック・ネスラー(Eric Nestler、写真出典)の対応がひどかった。
「お問い合わせの問題は、今はテンプル大学の手中にあります。テンプル大学へお問い合わせ下さい」と、ネスラー編集長は、責任をたらい回しする返事をしたのだった。
この対応にも、ムー・ヤンは再々度、大きく失望した。
2つの学術誌「Molecular Psychiatry」と「Molecular Neurobiology」は、独自の調査をしたが、何も結論を得ていないと回答してきた。
まとめると、「Aging Cell」誌と「Biological Psychiatry」誌は、プラティコとテンプル大学に連絡して確認することを勧め、「 Molecular Neurobiology」誌と「Molecular Psychiatry」誌は、調査中で、結論は出ていないと回答したのだ。
つまり、問題の論文を掲載した4つの学術誌は、ボールを受け止めずに蹴とばす、または、曖昧な対処をした。
★研究公正局(ORI)に再度
同じ2020年6月(58歳?)、諦めないムー・ヤンは、プラティコの論文に不正操作の疑いがある証拠として、ねつ造・改ざんされたウェスタンブロット、組織学、電気生理学のデータをリストアップし、研究公正局(ORI)に2通目の手紙を送った。
2020年6月下旬(58歳?)、研究公正局(ORI)はテンプル大学に「評価書の依頼書(request for assessment letter)」を送付した。
ただ、研究公正局(ORI)は、テンプル大学に伝えた内容をムー・ヤンに伝えなかった。
でも、ついにテンプル大学にボールが届いたと、ムー・ヤンは思った。
ネカト調査には、通常長い時間がかかることを知っているので、ムー・ヤンは次の3か月間、この問題に注意を払わなかった。
2020年10月(58歳?)、4か月後、ところが、驚いたことに、ムー・ヤンは、プラティコが率いるアルツハイマー病センターに380万ドル(約3億8千万円)の助成金がペンシルベニア州保健局(Pennsylvania Department of Health)から授与されたニュースを見つけた。 → 2020年9月24日記事:Alzheimer’s Center at Temple Awarded $3.8 Million from Pennsylvania Department of Health to Lead Collaborative Investigation into Vascular Risk Factors in Dementia | Lewis Katz School of Medicine at Temple University
「この助成金は、認知症研究の全国的リーダーになる態勢を整えているテンプル大学のアルツハイマー病センターにとって、初めての大規模な共同賞です」とテンプル大学はプレスリリースで述べている。
研究不正の疑いがかけられている教授に、ペンシルベニア州が巨額の助成金を支給している。テンプル大学はそれを認め賞賛している。ネカト告発に対処するどころか、テンプル大学はネカト行為を隠蔽するに違いない。
ムー・ヤンは政府の助成機関(NIH・国立老化研究所)、調査機関(研究公正局)、学術誌、テンプル大学という正統的な公式ルートによるネカト告発が機能していないことを実感した。
それで、他の強力な方法を模索した。
なお、ネカトハンターのチェシャー(Cheshire、またの告発名をActinopolyspora biskrensis)も、2021年10月21日(59歳?)、プラティコが460万ドル(約4億6千万円)の助成金を受領したとツイッターした。ねつ造・改ざん画像も示している。
Domenico Pratico (@TempleHealth) back at the @NIH trough (for $460k) despite >2 dozen papers flagged @PubPeer. I reported the one below over a year ago. @HHS_ORI, does anyone care?https://t.co/xVF1ROK7s1https://t.co/Tl25b2kyRD pic.twitter.com/CctnOu5YcR
— Cheshire (@Thatsregrettab1) October 12, 2021
★エリザベス・ビック(Elisabeth Bik)
ムー・ヤンは有名なネカトハンターのエリザベス・ビック(Elisabeth Bik、写真出典)に協力を打診した。
ムー・ヤンはビックに手紙を書き、プラティコの論文のウェスタンブロットと組織画像の不正分析をしてほしいと頼んだ。
ビックは快く引き受けてくれ、徹底的な分析結果をパブピア(PubPeer)で指摘した。
例えば以下の「2013年12月のAging Cell」論文。
- The 12-15-lipoxygenase is a modulator of Alzheimer’s-related tau pathology in vivo.
Giannopoulos PF, Joshi YB, Chu J, Praticò D.
Aging Cell. 2013 Dec;12(6):1082-90. doi: 10.1111/acel.12136. Epub 2013 Aug 19.
2020年10月(58歳?)、エリザベス・ビックは、ウェスタンブロット図2Eは過去の別論文の図4Dを再使用していると指摘した。図出典:https://pubpeer.com/publications/EDBA7DDFF79973F7E6E65ACD445C3F
以下の「2014年4月のMol Psychiatry」論文。
- Gene knockout of 5-lipoxygenase rescues synaptic dysfunction and improves memory in the triple-transgenic model of Alzheimer’s disease.
Giannopoulos PF, Chu J, Joshi YB, Sperow M, Li JG, Kirby LG, Praticò D.
Mol Psychiatry. 2014 Apr;19(4):511-8. doi: 10.1038/mp.2013.23. Epub 2013 Mar 12.
2020年10月(58歳?)、エリザベス・ビックは、組織画像図1Cは過去の別論文の図3Eを再使用していると指摘した。図出典:https://pubpeer.com/publications/8066E672E458C1AA2C8CD27A9F3992
2020年2月5日(58歳?)、当初、ムー・ヤンは2015~2019年の以下の4論文をおかしな論文だと特定した。
それが、わずか8か月後の2020年10月(58歳?)、ビックのようなネカトハンターたちが、プラティコ研究室の疑惑論文を30報以上もパブピア(PubPeer)でおかしいと指摘するほどになった。
30報以上のプラティコ論文のネカト行為は、彼が過去に発表したさまざまな実験結果の画像やグラフをコピー&ペーストし、重複使用していた。また、一部の画像は新しい実験データに見えるように、画像を反転するなどの操作をし、再使用していた。
研究データは疑惑だらけで、データは信頼出来ない。従って、論文の結論も信頼できない。内容の信頼性を大きく欠いたを論文を掲載し続ける正当な理由はない。
★レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)
プラティコ研究室の疑惑論文の件は、ドイツのネカトハンター、レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)にも伝わった。
ムー・ヤンはシュナイダーに状況を説明した。
シュナイダーがチームに加わった。
テンプル大学がプラティコの不正行為を握りつぶせないように、シュナイダーは疑惑論文の件を彼のブログ「For Better Science」に公開する提案をした。
ムー・ヤンはプラティコについて告発した内容をシュナイダーに詳しく伝え、シュナイダーはその内容を彼のブログ「For Better Science」で公開した。
2021年1月5日(59歳?)、そして、ムー・ヤンはテンプル大学・研究担当副学長のミケーレ・マスッチ(Michele Masucci、写真出典)にメールした。
以下、グーグル翻訳したそのメールを示す。白楽が読みにくい部分を修正した。
親愛なるマスッチ博士。
私は昨年、ドメニコ・プラティコ博士について研究公正局(ORI)といくつかの学術誌に告発した者です(リチャード・モリス博士と2人の同僚とともに)。 私の告発内容は、生命科学の研究公正第一人者であるエリザベス・ビック博士、この事件をブログに公開したシュナイダー博士、および「27報」ものプラティコ論文にコメントした多くの匿名者によって実証されパブピア(PubPeer)でフラグが立てられました。
何かお役に立てることがございましたら、または具体的なご質問にお答えできることがございましたら、お知らせください。
ミケーレ・マスッチ研究担当副学長はその日のうちに、ムー・ヤンにメールを受け取ったと返事をしてきた。
★学術誌
シュナイダーは、プラティコの疑惑論文を掲載している学術誌・編集者にも問題点を伝えた。
2021年1月5日(59歳?)、シュプリンガー・ネイチャー社の研究公正部長は次のように答えた。
私たちはこれらの論文に起こりうる問題を認識しており、すでに慎重に調査しています。編集長が何かを隠蔽しているわけではありません。たちの調査は、確立されたプロセスに従って実施され、出版規範委員会(COPE)のガイドラインに従っています。
調査中であるため、現時点ではこれ以上の詳細をお伝えすることはできませんが、現在、あなたがフラグを立てたすべての論文について、出版規範委員会(COPE)ガイドラインにきちんと従っていることを保証します。
2022年7月(59歳?)、それから1年6か月後、この研究公正部長に、証拠が山積みなのになぜ事件が進まないのかと、シュナイダーが尋ねたところ、研究公正部長は次のように回答してきた。
これは証拠の問題ではなく、プロセスの問題です。 私の研究公正チームはこの論文の問題を検討していますが、私たちは単に論文を出版するだけです。出版後の編集行為(撤回など)は編集長が行なう必要があります。 このような場合、編集長が最終決定権を持っています。私の研究公正チームは正しいプロセスに従っていることを確認しています (そしてその過程で、特定の推奨を行なうことを決して躊躇しません)
学術誌「Aging Cell」の共同編集長のアナ・マリア・クエルボ(Ana Maria Cuervo、写真出典)は、「私たちは著者に問い合わせ、追加の資料を提供していただきました。編集委員会は、提供された資料と詳細な回答を検討し、最終的に、論文には故意の不正行為はなかったと結論付けました」と回答してきた。
プラティコの疑惑論文の研究不正は一目瞭然なので、シュナイダーはこれらの学術誌の対応に不満だった。
★潮目
2022年10月(60歳?)、潮目が変わり始めた。
ムー・ヤン、ビック、シュナイダーの他に、プラティコの疑惑論文に関心をもつテンプル大学の教員も出てきた。
2022年10月(60歳?)、テンプル大学のプラティコの同僚たちが大学理事会に書簡を送り、パブピア(PubPeer)で指摘されているプラティコの疑惑論文を調査するよう大学に要請した。
アメリカの新聞「インクワイアラー」がこの書簡のコピーを入手した。その書簡には、プラティコの論文には複数のデータに矛盾があると書かれていた、そうだ(白楽はこの書簡を見ていない)。
2022年10月(60歳?)、そして、プラティコの核心的な4論文が次々と撤回された。 しかし、プラティコ自身は不正行為を否定し続けた。
2022年10月5日に「2013年のMolecular Psychiatry」論文、2022年10月18日に「2019年のMolecular Psychiatry」論文が、2023年1月25日に「2017年のMolecular Neurobiology」論文が撤回され、2023年2月24日に「2017年のMolecular Neurobiology」論文が撤回された。 「Molecular Psychiatry」と「Molecular Neurobiology」誌はシュプリンガー・ネイチャー傘下の学術誌である。
2022年10月5日の撤回公告には、プラティコの論文に10回の繰り返しと別の論文との画像の類似性があり、プラティコを含め一部の著者が撤回に同意したとある。
2022年10月18日の撤回公告には、プラティコが以前発表した論文と内容が重複していたため、編集長の権限で論文を撤回したとある。プラティコは撤回に同意したかどうか不明である。この論文の実験のいくつかは、ムー・ヤンが問題だと指摘していた。
2023年1月25日の撤回公告では、論文中のウェスタンブロットデータに問題があったため、編集長の権限で論文を撤回したとある。プラティコは撤回に同意していなかった。
2023年2月24日の撤回公告では、論文内容が他の論文と大幅に重複していた。また、一部のデータに関して、編集者と出版社は、それらのデータを信頼できないため、編集長の権限で論文を撤回したとある。 プラティコは撤回に同意していなかった。
つまり、プラティコは、いくつかの論文撤回に異議を唱えていた。
★奇手
追い詰められたプラティコは「珍しい、奇手と思える一手」を打った。
2024年1月9日(62歳?)、プラティコは内部告発者に対してではなく、かつての教え子の1人であるフィリップ・ジャンノプロス(Phillip F. Giannopoulos、写真出典)がデータねつ造・改ざんをしていたと、ジャンノプロスを名誉毀損と詐欺で訴訟を起こした。
ジャンノプロスは2011年5月にテンプル大学の大学院に入学し、2015年にプラティコの指導の下、博士号を取得していた。
2024年現在、ジャンノプロスはヘルスケア・マーケティング・エージェンシーのメディカル・ディレクターのアシスタント(Assistant Medical Director)を務めている。
ジャンノプロスが博士号を取得した時は、プラティコと博士論文審査員は、ジャンノプロスの博士論文のデータに異常があることに気がついていなかった。
プラティコは、ジャンノプロスを名誉毀損と詐欺で告発した30ページに及ぶ起訴状の中で、ジャンノプロスがデータを複製、改ざん、悪用しただけでなく、ジャンノプロスの実験結果として他人の過去の論文からコピーした画像を、私に提出したと主張した。
プラティコは、学界での評判と地位の毀損、個人的な屈辱、肉体的および精神的苦痛など、名誉を毀損する発言の結果、実害を被ったと主張し、被告に約50,000ドル(約500万円)の損害賠償、および弁護士費用を要求した。
以下は法廷文書(2024年1月9日)の冒頭部分(出典:同)。全文(4ページ)は → https://forbetterscience.com/2024/01/26/schneider-shorts-26-1-2024-personal-humiliation-mental-anguish-and-suffering/
★奇手の異常
プラティコのこの訴訟はおかしい。
パブピア(PubPeer)ではプラティコの36論文にネカト疑惑が指摘されている。
ジャンノプロスが共著なのは、36論文のうち、14論文だけである。そして、5報の撤回論文のうち3報しかジャンノプロスは共著になっていない。
ジャンノプロスが関与していない他の2報の撤回論文は誰の責任なのか? ジャンノプロスが関与していない、パブピア(PubPeer)で問題視されている他の22論文は誰の責任なのか?
★2024年6月4日現在
2024年6月4日(62歳?)現在、パブピアではプラティコの36論文に、データ疑惑が指摘され、論文は5報撤回された。
しかし、テンプル大学と研究公正局はプラティコに対して制裁的な措置をしていない。つまり、クロと発表していない。従って、プラティコは処分されていない。
一部の学術誌はプラティコの論文を撤回したが、他の多くの学術誌は疑惑論文を撤回していない。
希望的観測を言えば、今後、テンプル大学はクロと認定しプラティコを解雇する。テンプル大学の認定をもとに研究公正局(ORI)もクロと判定する。そして、プラティコの問題論文をすべ撤回する、と期待したい。
しかし、闇に葬られる可能性はかなりある。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
パブピアでは36論文のデータ疑惑が指摘され、論文は5報撤回された。
ねつ造・改ざんはウェスタンブロットと組織画像の再使用などである。不正の具体例は、一部だが、上記本文中に記載したので、不正に性状はそれで把握でいたと思う。他の不正の具体例は本項では省略する。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。
★パブメド(PubMed)
2024年6月4日現在、パブメド(PubMed)で、ドメニコ・プラティコ(Domenico Praticò、Domenico Pratico)の論文を「Domenico Pratico[Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2024年の23年間の214論文がヒットした。
「Praticò D」で検索すると、1987~2024年の38年間の309論文がヒットした。
2024年6月4日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、5論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2024年6月4日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでドメニコ・プラティコ(Domenico Praticò、Domenico Pratico)を「Praticò, Domenico」で検索すると、 5論文が撤回されていた。
「2013年のMolecular Psychiatry」論文が2022年10月に、「2019年のMolecular Psychiatry」論文が2022年10月に、「2019年のMolecular Psychiatry」論文が2023年1月に、「2017年のMolecular Neurobiology」論文が2023年2月に、「2012年のMolecular Neurobiology」論文が2024年3月に撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2024年6月4日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ドメニコ・プラティコ(Domenico Praticò、Domenico Pratico)の論文のコメントを「”Domenico Praticò”」で検索すると、2011~2023年の36論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》米国でも大変
ドメニコ・プラティコ(Domenico Praticò)の論文の不正を追及している中国出身のムー・ヤン(Mu Yang、杨沐、写真出典、https://www.linkedin.com/in/mu-yang-11229436/)が素晴らしい。
2022年8月31日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事は、匿名者が書いたとあるが、多分、ムー・ヤン(Mu Yang)が書いたと思う。今回の白楽記事はムー・ヤン(Mu Yang)が書いたという前提でまとめた。
ムー・ヤン(Mu Yang)の追及ぶりを記事にした2024年2月17日の「孙滔、王兆昱」記者の「中国科学报」記事も素晴らしい。
素晴らしい点は、記載内容に隠蔽がないことだ。関係者の名前もメール文書も公表され、事件の進展が具体的につかめる。
そして、ネカト疑惑論文を発見し、証拠を揃えて通報したのに、研究助成機関だったNIH・国立老化研究所(NIA)の担当者、調査機関である研究公正局(ORI)の担当者、学術誌・編集長、そして大学の対応のお粗末さ、程度の悪さ、期待できなさも具体的に把握できた。
ネカトを発見した時、不正を追及するにはどうするか、通報しても解決に役立たない組織はどこか(マー、ほぼ全部ですが)、誰に協力を仰ぐといいのか、流れがよくわかる。
米国でも、ネカトを追及するのは非常に大変なことがよくわかった。
米国の大学は所属教員のネカト行為を頻繁に隠蔽する(と思われる)。
パブピアやメディアで騒がれ、無視できずにネカト調査しても、大学は調査結果を捻じ曲げ、シロと判定する。
この隠蔽や調査不正の割合がどれほど高いのかデータがないので何とも言えないが、印象としては、7~8割はあるのではないだろうか?
学術誌のネカト対処もひどく悪い。通報しても、返事しない。あるいは、放置してネカト調査をしない。明らかなネカトでも、速やかに論文を撤回しない。
研究助成機関、ネカト調査機関、学術誌、そして大学は、結果として、ネカト調査を拒絶しているように思えるほどだ。結果としてネカト者を保護する方向になっている。
なんでなんだろう?
研究公正はどうでもいい。ということなのか?
日本でもネカト追及は大変で、白楽は2戦全敗である。
そして、白楽がそうじゃないと、いくら指摘しても、日本の大多数の院生・研究者、そして国民は、文部科学省やAMED、学術誌、大学が「まともに」ネカト調査をしてくれていると信じている人が多い。 → 白楽の指摘(2024年4月9日の朝日新聞その1、その2)。
どうすりゃいいんだ。
なお、ついでに、朝日新聞以外の白楽の最近の新聞記事を示すと、2022年3月18日の毎日新聞、2024年3月21日のの読売新聞、ヤフーニュース、がある。
ドメニコ・プラティコ(Domenico Praticò):写真出典
《2》トピック
巨額な研究費を得ているアルツハイマー研究者にネカト者が多い?
そう感じたので、白楽記事を軽く探って、以下にリストしたが、2件しかなく、多くはなかった。白楽がアルツハイマー病で思い出せない記事があるのかも。冗談です。
- ベリスラフ・ズロコビッチ(Berislav Zlokovic)(米) | 白楽の研究者倫理
- シルヴァン・レズネー(Sylvain Lesné)、カレン・アッシュ(Karen Ashe)(米) | 白楽の研究者倫理
アルツハイマー研究以外でも、神経科学分野でのネカトは多かったと思う。アルツハイマー研究を含め、神経科学分野ではデータが厳密でなくても論文が出版されている気がした。
さて、ネカト事件数は、研究トピックと関係しているかどうか?
白楽は解析していない。
解析していないが、しかし、麻酔学分野に多数論文撤回者が多く、心理学にデータねつ造者が多いなど、印象として、ネカト事件数は、研究トピックと関係している気がする。
あるいは、ネカト事件数は、配分される研究費総額と関係しているのか?
個人及び研究分野に多額の研究費が配分されると、多額の研究費を受給した研究室主宰者は、研究室から多数の論文を何とか出版しようとする。研究費が多いから多くの室員を雇用できるが、そこに、ロクデナシ室員も紛れ込んでくる。出版論文数が多くなれば、ボスは論文データの精査をするヒマがない。それで、いい加減な論文が出版される。
なお、白楽は何度も、ネカト「事件」数=ネカト「行為」数ではないと解説してきた。 → 白楽の卓見・浅見14【研究不正は昔の方が圧倒的に多かった】 | 白楽の研究者倫理
で、話を少し広げて、ネカト「行為」数、そして、ネカト「事件」数、の増減を支配する要因は何なのか、交絡因子にも配慮して、どなたか、解明し、論文発表してくださいませんかね。
《3》ムー・ヤン
ムー・ヤンの活動はすごい。本記事ではドメニコ・プラティコ(Domenico Praticò)のネカトの追求を書いたが、最近、別の事件でもシッカリ追及している。
「PubPeer」では「Dysdera arabisenen」の仮名で1,297件(240601)、1,315件(240604)も指摘している。
ムー・ヤンの指摘で、既に多数の論文が撤回されている。そして、論文だけではなく、著書も撤回されている。
シュプリンガー・ネイチャー社が出版した著書『Progress in Nanomedicine in Neurologic Diseases』が、ムー・ヤンの指摘で撤回された。
If you are interested in the evidence, here it is. @ImageTwinAI did most of the work! https://t.co/EEIpjQmDQt https://t.co/df5cS4ogWr
— Mu Yang, Ph.D. (@mumumouse2) May 9, 2024
なお、シュプリンガー・ネイチャー社が著書を撤回するのは初めてではない。 → 2019年8月21日記事:Springer Nature took eleven months to retract a plagiarized book, then made it disappear without a trace – Retraction Watch
ーーーーーーー
日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓
ーーーーーー
●9.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Domenico Praticò – Wikipedia
② 2020年10月22日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:The Pratfalls of Domenico Pratico – For Better Science
③ ◎2022年8月31日の匿名者(多分、ムー・ヤン(Mu Yang))が書いたレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Research misconduct: Theory & Pratico – For Better Science
④ 2024年1月18日のパオラ・ペレス(Paola Pérez)記者の「Inquirer」記事:Temple University scientist’s Alzheimers disease research faces criticism
⑤ 2024年1月18日のトム・アヴリル(Tom Avril)記者の「Inquirer」記事:Temple Alzheimer’s researcher Domenico Praticò’s work is under investigation
⑥ 2024年1月26日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Schneider Shorts 26.1.2024 – Personal humiliation, mental anguish and suffering – For Better Science
⑦ ◎2024年2月17日の「孙滔、王兆昱」記者の「中国科学报」記事:一场学术报告,成了他权威人设崩塌的开局—新闻—科学网
⑧ 2024年2月19日の「孙滔、王兆昱」記者の「中国科学报」記事:一场学术报告,成了他权威人设崩塌的开局—新闻—科学网
⑨ 2024年4月2日の「孙滔、王兆昱」記者の「中国科学报」記事:离谱!医学大牛造假 37 篇论文,被同事联名举报后,居然又拿了 2700 万…_Pratic_实验_学术界
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント
注意:お名前は記載されたまま表示されます。誹謗中傷的なコメントは削除します