7-188 ◎学術論文の営利出版を廃止せよ:サボーのフリブール宣言

2026年2月3日(火)掲載 

現代の学術出版は出版詐欺(編集詐欺)、つまり、論文工場(論文売買)、談合出版(共謀出版)、査読偽装、査読工場、引用カルテル、引用強要(引用強制)、過剰自己引用、架空文献に、大きく浸食・汚染され、莫大な研究費(世界で数億円~3桁億円?)(税金が原資)が無駄になっている。チャバ・サボー(Csaba Szabo)は、改革には学術論文の営利出版を廃止し、研究助成機関が学術誌を出版するという「過激な」改革が必要だと提案した。その「2025年11月のFor Better Science」論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.日本語の予備解説
2.サボーの「2025年11月のFor Better Science」論文
 《1》論文のコメント
7.白楽の感想
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【注意】

学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。

「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。

記事では、「論文」のポイントのみを紹介し、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説を加えるなど、色々と加工している。

研究者レベルの人が本記事に興味を持ち、研究論文で引用するなら、元論文を読んで元論文を引用した方が良いと思います。ただ、白楽が加えた部分を引用するなら、本記事を引用するしかないですね。

●1.【日本語の予備解説】

★2025年11月10日:榎木英介(フリーランス病理医・科学ジャーナリスト賞受賞者):科学出版を取り戻す──「ストックホルム宣言」が示す改革の行方

出典 → ココ、(保存版) 

英、仏、オランダを含む2025年11月、ロンドン王立協会のオープンアクセス誌『Royal Society Open Science』に「科学出版改革のためのストックホルム宣言」が発表された。

 論文数と被引用数が研究者の評価を支配し、偽論文やペーパーミルが氾濫し、AI生成データが査読をすり抜ける──そんな現代科学の歪みを前に、この宣言は「知の公共性」を取り戻す行動を呼びかけている。11の欧州の研究助成機関は9月4日、研究助成をした研究成果について、論文発表直後からのオープンアクセス(OA)を実現する、イニシアティブ「cOAlition S」を宣言しました。

・・・中略・・・

目次
背景:なぜこの宣言が掲げられたか
宣言の主な内容・行動提言
1. 出版・流通モデルを研究者・学術界主導に転換する
2. 研究評価制度・インセンティブ構造の見直し
3. 偽科学・出版不正・質低下への対応強化
宣言の位置づけ・特徴
日本の研究・出版環境への示唆
留意点・今後の課題
結びに:日本の研究・出版文化に向けて

続きは、原典をお読みください(閲覧有料、上記は無料部分)。

●2.【サボーの「2025年11月のFor Better Science」論文】

★読んだ論文

  • 論文名: The Fribourg Declaration:Beyond Papermills: Why Scientific Publishing Must Be Rebuilt from the Ground Up
    日本語訳:フリブール宣言:論文工場を超えて:学術出版を根本から再構築しなければならない理由
  • 著者:Csaba Szabo
  • 掲載誌・巻・ページ:For Better Science
  • 発行年月日:2025年11月17日
  • ウェブサイト:https://forbetterscience.com/2025/11/17/the-fribourg-declaration
  • 著者の紹介:チャバ・サボー(Csaba Szabo、経歴出典、写真出典)。
  • 学歴:1992年にハンガリーのセンメルワイス大学(Semmelweis University)で医師免許取得。1994年に英国のウィリアム・ハーベイ研究所(William Harvey Institute)で研究博士号(PhD)取得(薬理学)。xxxx年にハンガリーのハンガリー科学大学(Hungarian University of Sciences)で研究博士号(PhD)取得(生理学)
  • 分野:医師で薬理学者
  • 論文出版時の所属・地位:スイスのフリブール大学(University of Fribourg)で薬理学部門の責任者
  • 著書:2025年3月11日に『信頼できない(Unreliable)』を出版した(表紙出典はアマゾン)。関連記事 → 7-181 ドロシー・ビショップの「書評」:チャバ・サボー(Csaba Szabo)著の『信頼できない(Unreliable)』 | 白楽の研究者倫理

●【論文内容】

ーーー論文の本文は以下から開始

★シュナイダーの編集

論文を掲載したサイト「For Better Science」はレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)が管理するブログである。

ゲスト寄稿したチャバ・サボー(Csaba Szabo)の論文に「フリブール宣言(The Fribourg Declaratio)」というタイトルはない。

チャバ・サボーはスイスのフリブール大学・教授なので、その大学名(土地名)にちなんで、シュナイダーが「フリブール宣言(The Fribourg Declaratio)」と命名した。

シュナイダーはまた、今まで提案された学術出版の改革宣言をリストにした。

  1. The Budapest Declaration, for Open Access (1994 and 2002)
    オープンアクセスに関するブダペスト宣言(1994年と2002年)
  2. The Berlin Declaration, for Open Access (2003)
    ベルリン宣言、オープンアクセス(2003年)
  3. The Singapore Statement, on research integrity (2010)
    研究公正に関するシンガポール声明(2010年)
  4. The San Francisco Declaration, on Research Assessment (DORA, 2012)
    研究評価に関するサンフランシスコ宣言(DORA、2012年)
  5. The Leiden Manifesto, for research metrics (2014)
    ライデン宣言、研究指標について(2014年)
  6. The Sarajevo Declaration, on integrity and visibility (2016)
    サラエボ宣言、公正と可視性について(2016年)
  7. The Hong Kong Principles, for research integrity (2020)
    研究公正に関する香港原則(2020年)
  8. The Barcelona Declaration, for open research information (2024)
    バルセロナ宣言、オープンな研究情報(2024年)
  9. The Paris Declaration, on forensic scientometrics (2024)
    犯罪科学的な科学計量学に関するパリ宣言(2024年)
  10. The Stockholm Declaration, for reformation of science publishing (2025)
    科学出版の改革に関するストックホルム宣言(2025年)

ーーーチャバ・サボー(Csaba Szabo)が記述した内容は以下から開始―――

★論文工場(ペーパーミル)

論文工場の攻撃は、学術出版に対する外部からの攻撃ではなく、機能不全に陥った出版界内部の問題で、学術出版ビジネスの問題点を映し出す鏡である。

学術出版を営利で行なう出版界は、研究公正の新たな救世主を装っているが、実際は論文工場の最大の受益者で、論文工場の発展を促進している。

学術が信頼を取り戻すためには、この現実を直視し、営利出版界を解体しなければならない。修復では不可能である。解体である。

論文工場(ペーパーミル、学術論文を捏造し、「著者」から金銭を受け取り、その論文出版を保証する怪しげな事業)の存在は何年も前から知られていた(STM & COPE report 2022、Bishop & Abalkina 2023 、Abalkina et al 2025 )。

最近の新しい点は、主流の一流学術誌にも論文工場製の論文が掲載されるようになったことだ。

論文工場のことを初めて聞く人は、論文工場の規模の大きさに驚く。

そして、
彼らのビジネスの厚かましさ、
学術界のあらゆる層に浸透している現状、
論文工場ネットワークが得ている莫大なお金、
に驚く。

彼らのグループに潜入してその手口を暴露することは難しくないが(私が暴露した例:ココ、ココ)、論文工場の背後にいる犯罪者たちを排除するのは難しい。

というのは、論文工場と戦っているふりをしている強固なシステムが、意図的か否かにかかわらず論文工場を保護しているからだ。

★出版社の偽善的な改革

出版業界は論文工場に「宣戦布告」した。

United2Act」はバナーやハッシュタグ、ズームプレゼンテーションで「宣戦布告」した。

同社の最新発明である「Trust Marker」は、論文の主張が真実か再現可能かに関係なく、著者や所属機関の特定の特徴に基づいて「本物」の研究にフラグを立てている。

学術誌「ランセット(The Lancet )」は、いわゆる「世界研究公正会議(WCRI)財団」と共同で新しい委員会を結成した。2026年5月にバンクーバーで開催される次回の会議で会合を開く。

物議を醸している出版社のMDPIでさえ、偽の画像を識別するために「AI搭載画像校正」の使用を開始すると発表した。

最近、ベルンハルト・サベル(Bernhard Sabel)とダン・ラーハマー(Dan Larhammar)は「ストックホルム宣言(Stockholm Declaration)」で、「論文工場はニセ論文で学術文献をますます汚染している」と警告し、「出版の品質と公正を高めるための法律、規制、政策を実施するよう」すべての人に呼びかけた。

これらのキャンペーンは一見、正義のように見える。

しかし、中身がない。偽善的で、自己中心的だ。

改革ではなく、マーケティングだ。

世界研究公正会議(WCRI)は2007年に最初に開催した。現在、それから18年も経つが、何かを改革しただろうか?

世界各地で、研究公正に関する会議、ワークショップは尽きることなく開催されてきたし、現在も開催されている。

研究倫理に関する研究、ガイドライン、チェックリスト、コンコーダンス(調和や協調)も尽きることなく検討・公表されている。

それらの中には学会主導のものもあるが、多くの場合、出版業界の支援を受けている。

しかし、はっきりさせておきたい。

「出版業界は論文工場の被害者ではなく、加害者だ」ということだ。

毎日膨大な量の粗悪論文が出版されている。そして、この粗悪論文が出版業界の大きな収入源となっている。

超一流学術誌は質の良い論文だけを選別して出版できるが、超一流学術誌を出版している出版社でさえも、収入を増やすために質の良くない論文を掲載する粗悪学術誌を発行している。

つまり、収入に依存しているすべての営利出版社は、大量のゴミ論文を出版することで莫大な利益を得ている。

グレーゾーン学術誌や捕食学術誌は、論文掲載料を得るために、ペーパーミル(論文工場)製の粗悪論文の投稿を喜んで受け入れてきた。

そして、ホワイトリスト優良印のオープンアクセス学術誌(Open Access journals)も、残念ながら、状況はそれほど変わらない。

そしてもちろん、クローズドアクセス学術誌(closed-access journals)は、大学・図書館から購読料を徴収するために、何らかの論文でページを埋める必要がある。

何か劇的な変化がない限り、出版社は、表では、自らの「反ペーパーミル」活動を宣伝し、裏では、現状の儲かるビジネスを続けるだろう。

PNAS (リチャードソン他 2025)論文が示す最近の分析によると、論文工場は腐敗した編集者と手を組み、評判の良い学術誌も不正行為を行なっていた。 →  2025年8月4日論文:The entities enabling scientific fraud at scale are large, resilient, and growing rapidly | PNAS

For Better Scienceの情報に基づいて、最近、Nature誌は論文工場に関与した数名の氏名を公表した。 → 2025年8月4日論文:Exclusive: retraction-prone editors identified at megajournal PLoS ONE

一部の編集者はひそかに辞任、あるいは解任された。

しかし、不正な編集者を数人解任しても、大多数の編集者は残っている。

出版システムの大部分が彼らに依存しているため、不正な編集者全員を解雇できない。

私(チャバ・サボー)の著書(『信頼できない(Unreliable)』)に書いたが、過去10年間、研究助成金の額は増えていないのに、発表論文数は劇的に増加している。 → 7-181 ドロシー・ビショップの「書評」:チャバ・サボー(Csaba Szabo)著の『信頼できない(Unreliable)』 | 白楽の研究者倫理

この最も妥当な説明は、これらの論文の多くは、研究しないで得たデータ、つまり捏造データ、で書いた論文だということだ。

★論文工場は病気ではなく症状である

論文工場はコピー&ペーストによる捏造からAI生成による捏造へと移行し、今ではオープンアクセスのデータベースをアルゴリズムで悪用している。

論文不正を検出する新しいツールが登場するたびに、論文工場は対応してきた。

また、取り締まりが強化されるたびに、論文工場は進歩してきた。

そして、多くの出版社は、多額のお金が得られるなら、論文工場製の論文でも出版する。

終わりが見えない。

彼らは海外やダークウェブで事業を展開しているから、論文工場自体を摘発し追及しても論文工場を撲滅できない。

米国の連邦取引委員会(FTC)は数年前にOMICSグループに対する訴訟で「勝訴」した。しかし、OMICS グループは今も存続し、利益を上げている(Omics online)。 → 企業:学術業(academic business):オミックス・インターナショナル社(OMICS International)(インド) | 白楽の研究者倫理

企業:学術業(academic business):オミックス・インターナショナル社(OMICS International)(インド)

論文工場をなぜ排除できないのか?

根本的な点を考えてみよう。

すると、論文工場が存在するのは、学術システムがそれを要求しているからだ、となる。

論文工場は病気ではなく症状なのだ(They are not the disease — they are a symptom)。・・・白楽はこの意味が分からない(腑に落ちない)。「症状ではなく病気」の方が腑に落ちる。スミマセン。

論文工場の真の問題は需要があるということだ。

研究者として、生き残る、昇進する、あるいは称賛を得たい。それらのために論文出版を必要とする研究者の絶え間ない需要がある。それも多くの研究者の強い需要だ。

彼らが粗悪論文を買う理由は、彼らの大学が出版論文数と引用数を重視するからだ。

こうした歪んだインセンティブが撤廃されない限り、論文工場は繁栄し続けるだろう。

需要がなくなれば、供給もなくなる。それ以外の全ては、彼らと戦っているふりをしている偽善でしかない。

★学術出版全体の腐敗

論文工場は、腐った木に寄生している菌類のようなものだ。

論文結果の再現性を調べると、生物医学論文の80%(あるいはそれ以上!)は再現できない。たとえ超一流学術誌に掲載された論文でもだ(Szabo 2025aSzabo 2025b)。

こうした再現できない論文の大部分は、論文工場製の論文ではない。

巨額の研究助成金、高い名声、たくさんの賞を受賞しているスーパースター研究者も、再現不可能な論文を発表している。

私(チャバ・サボー)の経験で思うに、生物医学の現在の学術論文全体は極めて信頼性に欠ける。

まともな学術出版を表の市場とすると、論文工場は裏の裏、闇の市場(black-market version)になる。

つまり、学術界のこの病気は、再現性よりも論文数、真実よりもインパクト、知識よりも数値(メトリックス)、を高く評価する生活習慣病(文化)だ。

この生活習慣病を治すには、研修、資金、データ分析、品質管理といったシステム全体の改革が必要である。それをしない限り、この病気は治らない。

★営利出版システム

営利出版業界は、学術的成果を伝え、配布するための唯一のメカニズムとして自らをアピールすることに成功してきた。

しかし、歴史的に、学術コミュニケーションや学術論文の出版は、営利ビジネスに依存していなかった(Stephen Buranyi in Guardian, 2017)。

かつて、科学が飛躍的に発展した20世紀は、学会(多くの場合は非営利)が学術誌を所有・出版・管理し、図書館が購読していた。大学出版局、学会、学術コミュニティが、学術論文の出版と品質の責任を負っていた。

サービスの様式は、商業的活動というよりも、学術インフラの一部だった。

現在では、営利企業が優位に立っているが、学術論文の出版を公共財ではなく、営利目的のビジネスで行なう本質的な理由はない。

最近の「論文工場危機」と、彼らに対する利己的で非効率的な「宣戦布告」は、利益の論理と学問の論理の間に明らかな不一致があることを改めて証明している。

今日のシステムは、論文出版に高いコストが課され、質の向上よりも量の増加に終始し、出版した論文の信頼は保証されず、学術出版界の真の自己改革が見られないことだ。

現在の学術出版は、公的資源の途方もない浪費でしかない。

研究費の大半は公的機関や慈善団体によって賄われているにもかかわらず、査読は主に無給の研究者によって行なわれ(Aczel et al 2021)、大学(間接的に政府、最終的には国民の税金)は購読料または論文掲載料(APC)を払っている。

出版社の利益率は常に30~40%ととても高い。 → 2024年11月20日記事:Scientific publishers are producing more papers than ever

学術界(最終的には納税者)は、公的資金で賄われた知識を、利益率が高く付加価値が疑わしい出版社を通して学術コミュニティに分配するのに多大な代償を払っている。

学術誌の「ブランド」がますます過大評価され、インパクトファクターと格付けの高い学術誌に論文を掲載しようと、研究者を駆り立てる。その一方で、出版された論文の質的重要性はほとんど無視される。

ちなみに、2023年のネイチャー論文は、論文の実世界における影響力は低下し続けている、と指摘した。 → Papers and patents are becoming less disruptive over time | Nature

しかし、システムが「再現性、厳密さ、質」よりも「量と名声」を奨励する場合、拡大するのはアウトプットであって、信頼できる中身ではない。

論文工場が存在する唯一の理由は、「発表すべきまともな研究成果の量」よりもはるかに多くの営利目的の学術誌があることだ。そして、その学術誌は増え続けている。

営利目的の学術誌は何かで空白を埋めなければならない。論文工場製のニセ論文でも何でもいいから埋めなければならない。増え続けている学術誌が空白にならないよう埋めなければならない。というわけだ。

★段階的な改善は絶望的

現行システムの様々な改善について、多くの議論がなされてきた。

改善策を挙げるとまだまだたくさんある。

営利出版業界はこうした改善策に表面上は同意や支持をするが、実際には実行しない。

頻繁に提案され、かなり人気のある代替案は、研究者が「学術誌の所有権を取り戻し」、学会や大学に学術誌を委ねる、という提案である。 → Reclaiming academic ownership of the scholarly communication system

この提案は誠意に基づいているとはいえ、決して成功しない。

なぜなら、指標重視の学術評価システムや、「出版か死か(publish or perish)」という過度な競争意識といった、学術誌の根底にあるインセンティブを廃止しないからだ。

学会や大学に学術誌を委ねても、「学会出版の学術誌」「大学出版の学術誌」も金が絡むビジネスである。収益は学術誌を所有する学会や大学出版会にもたらされる。

というわけで、どんなシステムであれ、金が絡むビジネスになると、機能せず、本来の目的を果たせない。

こうなると、抜本的な改革、あるいは、より望ましいのは、現行システムを廃止して新しいシステムに置き換えることだ。

一時的な対策では効果がない。

ここで、大胆な提案をするが、唯一の解決策は、現状の学術誌を緊急かつ完全に廃止することだ。

★前進への道:研究助成機関が学術誌を出版する

新しいシステムでは、現状の学術誌を完全に廃止する。

より正確に言えば、現状の学術誌は多量の投稿論文を処理できなくなり消滅するだろう。

代わりに、研究資金を提供している研究助成機関が学術誌(学術データ発表)の直接的な責任を負う。

研究助成機関は、オープンなインフラ(プレプリントサーバー、コミュニティ管理の査読プラットフォーム、データコード・リポジトリなど)を構築し、論文内容の検査(査読、再現性)をビジネスから切り離す。

新しいシステムは、以下のようだ。

  1. 研究者(または研究者グループ)は、研究助成された研究助成機関のプラットフォームに研究成果を発表する。ここを唯一の発表の場にする義務を負う。研究者は研究費の申請時にそのことに同意する必要がある。
  2. 研究助成機関は、研究者の研究の品質保証、品質管理、研究公正のサポートをする。言い換えれば、研究助成機関は、研究の積極的な利害関係者、パートナーになる。
  3. 研究データが集まり、研究成果を発表する状況になると、助成金受給者は、研究成果の生データとその解析結果のすべてを、研究助成機関が義務付けたオープンアーカイブに投稿する。データには抄録と原稿が添付され、それらは直ちに公開され、抄録システム(PubMedなど)によって索引化される。
  4. 出版後のコメント(査読と呼ぶ必要すらない)はこの時点で初めて始まる。研究助成機関が任命したコメント者と学術コミュニティからの自発的なコメントの両方は顕名で行なわれ、公開される。
  5. 第三者である研究者による独立した再現研究を奨励し、盲検化および対照試験(業界標準)の方法で実施する。独立した再現研究は、各助成金の条件の一部とする。この目的のためだけに、別途資金を確保する。再現研究の結果は、元論文にリンクした状態で、研究助成機関のサーバーに掲載する。独立した再現研究に合格した研究には、信頼性の認定証を与える。
  6. 有効で信頼性の高いデータを提出した研究者だけ、次の研究費申請を認め、採択されると、研究助成機関から研究費を受け取る。再現不能なデータや不正データを大量に提出した研究者と、そのような研究者が多く所属する大学・研究所に対しては、その後の研究助成金の申請を禁止し、研究品質の改善を求める。

この新しいシステムは、営利出版のプロセスを排除して、研究助成と論文出版を直接リンクしている。

ちなみに、このシステムは新しい発想ではない。

10年前、英国の研究助成団体であるウェルカム財団(Wellcome Foundation)は同様のシステム(「ウェルカム・オープン・リサーチ(Wellcome Open Research)」)を考案した。

ただし、「ウェルカム・オープン・リサーチ(Wellcome Open Research | Open Access)」は失敗した。 → 2016年7月1日記事:Wellcoming the samizdat publishing revolution – For Better Science

なぜなら、世論の激しい反発を受け、助成金受給者にウェルカム財団の学術誌への論文発表を義務付けなかったからだ。

研究助成機関が学術誌を出版するシステムは、助成金受給者に研究助成機関の学術誌へ論文発表することを義務化して初めて効果を発揮する。

私(チャバ・サボー)が提唱するこの新しいシステムが稼働すれば、コスト削減、アクセス向上、品質管理(含・再現性)の強化、インパクトよりも信頼へのインセンティブへの変化など、そのメリットは計り知れないほど大きい。

★結論:問題は論文工場ではなく出版システムなのだ

営利目的の学術出版社は、論文工場と「戦う」という自己中心的で空虚な宣言を掲げるが、もはやその役割を終えており、自己改革のための信頼できるメカニズムを欠いている。

なぜなら、その意図と構造は学術ではなく、営利に基づいているからだ。

この営利出版システムを廃止する。

システムの周辺部分を漸進的に改善する策は機能しない。そうでなければ、既に機能しているはずだ。

現行システムを解体し、出版管理権を研究助成機関と大学・研究所に移譲することが、学術中心、透明性、高い費用対効果、の持続可能なシステムへの唯一の道である。

言うまでもなく、私(チャバ・サボー)が提案したこの改革の実行は困難を極めるだろう。

なぜなら、出版業界は現在の学術システムと深く絡み合い、学術界の様々な人の言説の多くを支配し、自己保存に優れているからだ。

また、現在の研究助成機関は、機能不全に陥った現在の学術出版システムに深く根ざした研究者たちによって率いられているからだ。

したがって、彼らを排除しなければ改革は達成できない。

研究助成機関の運営陣は、品質、再現性、検証、そして最終的には研究成果を公共の利益につなげることにのみ関心を持つ、新たな政府行政官と改革志向の研究者たちと交代すべきである。

真の改革を実行するのは非常に困難だろう。しかし、必ず実行しなければならない。他に前進する方法はないからだ。

【論文のコメント】

★Just My Imagination:2025年11月24日

ダイヤモンド型オープンアクセス学術誌の立ち上げは容易で、静的なPDFファイルを提供するために必要なコンピュータ・インフラのコストは廉価です。

ダイヤモンド型オープンアクセスシステムへの移行は一夜にして可能です。

最大の障害は、現行システムを維持するためにあらゆる手段を講じるであろう学者たち自身です。

彼らは自らを最も権威ある存在として売り込むことでキャリアを築いてきたため、権威ある出版の場を必要としています。

2018年、欧州の資金提供者が出版料の上限を伴うオープンアクセス出版の義務化を提案した際、彼らは豚のように騒ぎ立てました。「ネイチャーに出版できるようにしなければならない!」と。

★Assprof:2025年11月17日

コミュニティが運営する査読付き学術誌「JOSS:Journal of Open Source Software」があります。

★Gabor Lente:2025年11月17日

特定の資金援助なしに論文を発表する研究者はどうなるのでしょうか?

ごく少数かもしれませんが、確かに存在します。私のような少数派です。

私は数理化学を専門とする研究者です。過去15年間、大学の職務の一環として既にアクセスできるリソースで研究を進めることができるため、外部に資金援助を申請したことすらありません。

チャバ・サボーの返事:出版業界のロビー活動の力、現在のシステムに深く根付いた学術界の大多数と政治家と意思決定者の全体的な無能さを考えると、私が提案したモデルが実施される可能性はほぼゼロです。あなたが尋ねているシナリオについてあまり心配していません。あなたが概説したような論文を掲載する学術誌(大学や学会が運営する学術誌)は今でも存在します。

★kenrodmelrocity:2025年11月17日

私は米国・科学庁(国立科学財団、NSF)のプログラムオフィサーです。連邦政府閉鎖による一時帰休から復職したばかりです。

率直で申し訳ありませんが、米国の連邦政府資金提供機関がこのようなことをする可能性は絶対にありません。不可能です。

チャバ・サボーの返事:マンデラの言葉はご存知でしょうか? 「成し遂げるまでは、いつも不可能に思える(It always seems impossible until it’s done)」と。

どこかの政権(現政権か将来の政権か)の誰かがこう言うでしょう。「もう十分お金を無駄にした。出版業界にこれほど膨大なお金を吸い上げさせるわけにはいかない。ほとんど再現不可能な研究への資金提供をこれ以上認めるわけにはいかない」と。

倫理的な観点からではなく、財務的/効率性の観点から、必ず実現するでしょう。

kenrodmelrocity の返事: NIHの状況は、私が米国・科学庁で経験している状況よりもはるかに深刻です。過去10か月で、科学庁全体でプログラムオフィサーの40~50%が解雇されましたが、今のところ研究費申請件数は昨年に比べて増加しています。元の状態に戻るだけの人員補充も、ましてや科学庁を学術出版社へと転換するために必要な人員増はありえません。むしろ、逆に、かなりの人員が削減されるでしょう。

★Hubert Wojtasek:2025年11月18日

もし何も変わらなければ、数年後に論文工場はなくなり、科学もなくなるでしょう。

ですから、私たちは政策決定者である政治家たちに、何か対策を講じる必要があると説得しなければなりません。

しかし、彼らは政治闘争に明け暮れ、科学に目を向ける余裕はなく、問題を理解していません(少なくともポーランドではそうです。私は他国の動向を詳しくは知りません)。

研究資金を配分する人々(ポーランドでは科学高等教育大臣)の注目を集める必要があります。

グダニスク工科大学の研究者から最近受け取ったアイデアの一つは、ポーランド議会と欧州議会の議員を巻き込むというものです。

論文工場との闘いが容易ではないのと同じように、容易ではないことは承知していますが、この革命を成功させるには、地域的な取り組みではなく、世界規模の取り組みにする必要があります。

●7.【白楽の感想】

《1》チャバ・サボーの覚悟 

チャバ・サボー(Csaba Szabo、写真出典)が提唱する「フリブール宣言」は、研究助成機関が研究論文サイトを設定し、資金提供を受けた研究者はそのサイトにしか研究成果を発表できないという構想だ。

いいと思う。

でも、難しいと思う。

チャバ・サボー自身も、「出版業界のロビー活動の力、現在のシステムに深く根付いた学術界の大多数と政治家と意思決定者の全体的な無能さを考えると、私が提案したモデルが実施される可能性はほぼゼロです」と述べている。

といいつつ、チャバ・サボーは、マンデラの言葉「成し遂げるまでは、いつも不可能に思える(It always seems impossible until it’s done)」とあきらめていない。

彼はどこまで本気なのか?

「研究助成機関の運営陣は、品質、再現性、検証、そして最終的には研究成果を公共の利益につなげることにのみ関心を持つ、新たな政府行政官と改革志向の研究者たちと交代すべきである。」とあるが、この交代が難しい。

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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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