2022年1月18日掲載
白楽の意図:2020年9月、ベンタビア社(Ventavia Research Group)の支部長・ブルック・ジャクソン(Brook Jackson)は、ファイザー社の新型コロナ・ワクチンの臨床試験でデータ改ざんがあったと米国・食品医薬品局(FDA)に電子メールで告発し、即日、解雇された。この顛末を記載したポール・タッカー (Paul D. Thacker)の「2021年11月のBMJ」論文を読んだので、紹介しよう。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.書誌情報と著者
2.日本語の予備解説
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】
学術論文ではなくウェブ記事なども、本ブログでは統一的な名称にするために、「論文」と書いている。
「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直し、さらに、理解しやすいように白楽が写真・解説など加え、色々加工している。
研究者レベルの人で、元論文を引用するなら、自分で原著論文を読むべし。
●1.【書誌情報と著者】
★書誌情報
- 論文名:Covid-19: Researcher blows the whistle on data integrity issues in Pfizer’s vaccine trial
日本語訳:新型コロナ:ファイザーのワクチン試験のデータ公正に問題があると研究者は告発する - 著者:Paul D Thacker
- 掲載誌・巻・ページ:BMJ 2021; 375 :n2635 doi:10.1136/bmj.n2635
- 発行年月日:2021年11月2日
- 指定引用方法:BMJ 2021;375:n2635
- DOI: https://doi.org/10.1136/bmj.n2635
- ウェブ:https://www.bmj.com/content/375/bmj.n2635
- PDF:https://www.bmj.com/content/bmj/375/bmj.n2635.full.pdf
★著者
- 単著者:ポール・タッカー(ポール・サッカー、Paul D. Thacker)
- 紹介:Paul D. Thacker – Wikipedia
- 写真:https://ethics.harvard.edu/people/paul-thacker
- ORCID iD:
- 履歴:
- 国:米国(論文ではスペイン)
- 生年月日:米国。現在の年齢:49 歳?
- 学歴:1997年に米国のカリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis)で学士号(生物学)
- 分野:科学ジャーナリズム
- 論文出版時の所属・地位:
ファイザー社のワクチン。写真出典。By Marco Verch Professional Photographer, Creative Commons 2.0 (Attribution required).
●2.【日本語の予備解説】
かなりたくさん(5報以上)の日本語記事がある。
しかし、例によって、日本の大手メディアの報道は見つからなかった。
★2021年11月3日:Sputnik 日本:著者名不記載:ファイザーの臨床試験で深刻な違反が報告=米BMJ
2020年秋にテキサス州の民間研究所Ventaviaが新型コロナウイルス・ワクチン「ファイザー」の臨床試験を行っていた際、深刻な違反が発生していた。学術雑誌BMJがVentavia社のブルック・ジェクソン元支社長による証言をもとに報じた。
Ventavia社は試験データを操作していたほか、十分な経験を持たないワクチン接種者を臨床試験に採用し、さらには臨床試験の過程で報告されていた望ましくない症状について迅速な調査を行わなかったという。
報道に入ると、社内のこうした違反に関する報告を受けて、ジェクソン氏は米食品医薬品局(FDA)に状況を通知したところ、その日のうちにジェクソン氏は本社の決定で解雇されたという。
★2021年11月3日:魔界王伝3 攻略 私的メモ:「独占記事:研究者の内部告発により、ファイザー社COVID-19ワクチン接種試験のデータ改ざんと規制監督上の問題が明らかに」
Ventavia Research グループの元リージョナル・ディレクター、Brook Jackson氏が、試験に関するデータの整合性と規制監督の問題について明らかにしました。
テキサス州に拠点を置くVentavia Research Groupは、2020年秋に複数の施設でファイザー社のCOVID-19ジャブの試験を担当していました。
Ventavia Research Groupのジャクソン氏によると:
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また、ファイザー社の主要な第3相試験で報告された有害事象のフォローアップが遅れていたこともあり、データの改ざんや患者の盲検化が行われていました。品質管理チェックを行ったスタッフは、発見された問題の多さに圧倒されていました。このような問題を何度もVentaviaに通知した後、リージョナルディレクターのBrook Jackson氏が、米国食品医薬品局(FDA)にメールで苦情を申し立てました。
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Ventaviaはこれを受けて彼女を解雇しました。
続きは、原典をお読みください。
★2021年11月4日(投稿日: 2021年11月3日): Alzhacker:投稿者はイヴ・スミス:「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル 「研究者がファイザー社のワクチン試験におけるデータインテグリティ問題を内部告発」」
これまでのところ、米国や英国の主要な報道機関は、ファイザー社のCOVID-19ワクチンの臨床試験の完全性に疑問を投げかけるBritish Medical Journalの記事を取り上げていない。少なくとも、約44,000人の参加者のうち、1,000人分の結果が損なわれたということである。
このリンクを最初に送ってくれたIM Docによると、昨日の会議でもこの話が出たそうである。ある参加者は、講演者がこう言ったという。「もし本当なら、これは致命的なダメージであり、その試験のデータはどれも信じられない。」
BMJ誌は、テキサス州のいくつかの施設でファイザー社のCOVID-19臨床試験の一部を実施していたVentavia Research Group社の元地域ディレクターで、訓練を受けた臨床試験監査人であるBrook Jackson氏の主張を実証した。ジャクソン氏が関わった2週間の間に、データの改ざん、盲検化の解除、ワクチン接種者の訓練不足、いくつかの重篤な有害事象のフォローアップを行わない過失、コービットタイプの症状を報告した参加者に対する大規模な試験未了などが見られた。
ジャクソンは、まず社内でエスカレーションを行い、それがうまくいかなかったので、FDAに報告した。彼女はその日のうちに解雇された。
続きは、原典をお読みください。
★2021年11月5日:大紀元 エポックタイムズ:著者名不記載(翻訳編集・張哲):「米ファイザー社のワクチン治験に違反行為か、実施企業「調査中」」
米ファイザー社製の新型コロナウイルスワクチンの研究開発に不正行為があった。元従業員による告発を受け、ワクチンの臨床試験(治験)に関わった米企業は調査に乗り出した。
米臨床研究企業の「ベンタビア・リサーチ・グループ(Ventavia Research Group、以下はベンタビア)」は2020年秋、ファイザー社が開発したワクチンの複数の臨床試験を行った。
臨床試験に参加した同社の元従業員ブルック・ジャクソン氏はこのほど、英医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(British Medical Journal、BMJ)」に対して、この臨床試験の過程には違反行為や、データの改ざんを含む様々な問題があると語った。
BMJ誌の2日付によると、ジャクソン氏は、これらの問題点をベンタビア社に繰り返し知らせた上、米国食品医薬品局(FDA)に電子メールで問題を指摘した。同氏はその数時間後に解雇されたという。
続きは、原典をお読みください。
★2021年11月9日:中央日報/中央日報日本語版:著者名不記載:「詐欺容疑で逮捕説」出回ったファイザーCEO…ずさんな臨床暴露、真実は
英国の有名医学会誌にファイザー社の新型コロナウイルス感染症(新型肺炎)ワクチン臨床試験過程で問題があったという報告書が掲載され、論争が続いている。同報告書には、臨床試験に参加した研究陣の内部告発を通じて、ファイザーワクチンが厳格な臨床試験を経ておらず、副作用に対する調査も十分に行われなかったという内容が掲載された。
これを受け、国内外では「ファイザーのアルバート・ブーラCEOが詐欺容疑で米国連邦捜査局(FBI)に逮捕された」というフェイクニュースが広がるなど、波紋が続いている。報告書に掲載された問題が、ファイザーワクチンの有効性と安全性の結果を揺るがすほど説得力があるのか、国内の感染病専門家らと共に調べた。
続きは、原典をお読みください。
●3.【論文内容】
●《1》序論
2020年秋、ファイザーの会長兼最高経営責任者であるアルバート・ブーラ(Albert Bourla、写真は白楽が加えた、写真出典)は、パンデミックを終わらせるために安全で効果的な新型コロナ(covid-19)ワクチンに期待を寄せている世界中の人々に公開書簡を発表した。 → An Open Letter from Pfizer Chairman and CEO Albert Bourla | Pfizer
「私が前に述べたように、私たちは科学並みのスピードで活動しています」と、ブーラ会長は、ファイザー製ワクチンを大至急で準備していて、ワクチンが早く認可されることを期待した。
しかし、丁度その20020年秋、テキサス州で行なっていたファイザー製ワクチンの臨床試験では、データ公正(改ざん)と患者の安全性を犠牲にしてスピードを上げていた可能性があった。
ベンタビア社(Ventavia Research Group)のテキサス州の支部長・ブルック・ジャクソン(Brook Jackson、女性)は、ベンタビア社の研究不正を学術誌「BMJ」に告発した。
ベンタビア社は、データを改ざんし、患者を盲検化しないで臨床試験し、まともな教育訓練を受けていないワクチン接種者を雇用し、第III相試験で報告された重要な有害事象の対応が遅れたと学術誌「BMJ」に語った。
臨床試験の質を管理するスタッフは、臨床試験で見つかったこれらの問題の多さに驚いた。
2020年9月25日、ジャクソンは、これらの問題をベンタビア社に繰り返し通報した後、米国・食品医薬品局(FDA)に電子メールで告発した。
同日、ベンタビア社は彼女を解雇した。
なお、ジャクソンは学術誌「BMJ」に数十の社内文書、写真、音声録音、電子メールを提供していた。ポール・タッカー(Paul D. Thacker)はその資料に基づいて本記事を書いた。
●《2》臨床試験の不適切な管理
ベンタビア社(Ventavia Research Group)はテキサス州最大の個人所有の臨床試験会社で、多くの賞を受賞した優良な企業と思われる。 → 受賞リスト:Company | Ventavia Research Group
2020年9月、ジャクソンは2週間、上司に、臨床試験管理の不適切さ、患者の安全上の懸念、データ公正(改ざん)の問題について繰り返し伝えた。
ジャクソンは訓練を受けた臨床試験監査人(clinical trial auditor)で、臨床研究の調整と管理で15年以上の経験があり、ベンタビア社に来る前の会社では臨床試験の責任者を務めていた。
ベンタビア社が問題に対処しないことに憤慨したジャクソンは、証拠として問題を記録し、携帯で写真を撮った。
学術誌「BMJ」に提供された1枚の写真には、本来、注射針は蓋の付いた硬い容器に廃棄するが、プラスチックのバイオハザードバッグに捨てられていた注射針が写っていた。
別の写真には、治験参加者の識別番号が書かれたワクチン包装材料が写っていた。これは、治験参加者が盲検化されていないことを示していた。
初期の不注意による非盲検化は、はるかに広い規模で発生した可能性がある。
臨床試験の設計によれば、スタッフが治験薬(ファイザー製ワクチンまたはプラセボ)の準備と投与を担当していた。治験参加者および主任研究者を含む他のすべての現場スタッフの盲検化を維持するために行われることになっていた。
しかし、ベンタビア社では、ファイザー製ワクチンまたはプラセボの割り当てを確認できるプリントが残っていた。それは、どのスタッフもアクセスできた。つまり、どの治験参加者にファイザー製ワクチンまたはプラセボが割り当てられているか、どのスタッフも知ることができた。
2020年9月、治験募集の2か月後、是正措置が講じられた。約1000人の治験参加者がすでに登録されていた。この時点で、臨床試験の品質保証チェックリストが更新され、薬剤の割り当てリストを削除するようにスタッフは指示された。
2020年9月下旬、ジャクソンが2人のベンタビア社幹部に問題を指摘した時、2人の幹部は、臨床試験の品質管理に必要なのだが、臨床試験で見つかっているエラーの種類と数を把握できていないと説明した。
「毎日何か新しい問題が見つかっていて、それが重要であることを私たちは知っています」とベンタビア社の幹部は述べた。
ファイザー社は研究機関のアイコン社(ICON plc)にも臨床試験を委託していた。ベンタビア社はそのアイコン社から送られてきたデータ入力の問い合わせに対応できていなかった。
2020年9月、アイコン社はベンタビア社に、「この調査では、すべての質問が24時間以内に対処されることが期待されています」と電子メールした。そして、アイコン社は、3日以上経過した100を超える未解決の質問を黄色で強調表示した。
例えば、「2人の被験者が重度の症状/反応を示したと報告されていますが……プロトコルごとに、グレード3の局所反応を示した被験者に連絡する必要があります。計画外の連絡(UNPLANNED CONTACT)が行なわれたかどうかを確認し、必要に応じて対応するフォームを更新してください」 とある。
臨床試験プロトコルによれば、「詳細を確認し、自宅訪問が必要かどうかを臨床的に判断するために」電話で連絡する必要があった。
●《3》食品医薬品局(FDA)の査察
入手した文書には、臨床試験で生じた問題が何週間も続いていたことを示していた。
2020年8月初旬、臨床試験開始直後、ジャクソンの採用前だが、ベンタビア社のリーダーの間で回覧された「行動項目」のリストに、「電子日記の問題/データの改ざんなどを調べる」必要があるとベンタビア社の幹部が特定した3人のサイトスタッフがいた。
メモは、そのうちの1人に、「データ変更と入力の遅れに注意するよう口頭で注意した」とあった。
9月下旬までの会議で何度も、ジャクソンとベンタビア社の幹部は、食品医薬品局(FDA)が査察に現れる可能性について話し合った(「囲み記事」)。 「もし、食品医薬品局(FDA)が査察に来るならき、少なくともある種の文章情報が送られてくる」と幹部は述べた。
2020年9月25日、結局、ジャクソンは食品医薬品局(FDA)に電話をかけ、ベンタビア社でのファイザー製ワクチンの臨床試験における不健全な行為について警告した。その後、彼女は懸念事項を代理店に電子メールで報告した。
その日の午後、ベンタビア社はジャクソンを解雇した。
ジャクソンは、20年間の研究キャリアで解雇されたのは初めてだと語った。
――――――囲み記事、ここから
査察は甘いという歴史
食品医薬品局(FDA)と臨床試験に関しては、「責任あるケアと研究のための市民(Citizens for Responsible Care and Research Incorporated:CIRCARE http://www.circare.org/)」のエリザベス・ウェックナー会長(Elizabeth Woeckner)は、食品医薬品局(FDA)の査察能力が大幅に不足していると指摘している。
食品医薬品局(FDA)は、臨床試験での不正通知を受け取っても、査察に行けるスタッフがほとんどいない。そして、査察が行なわれても、しばしば遅すぎる。
1つの例をあげると、2018年7月、「責任あるケアと研究のための市民(CIRCARE)」と米国の消費者擁護団体である「パブリック・シチズン(Public Citizen)」は、数十人の公衆衛生の専門家とともに、治験参加者の保護に関する規制に準拠しなかった臨床試験について食品医薬品局(FDA)に詳細な苦情を申し立てた。
数か月後の2019年4月、食品医薬品局(FDA)の調査員が臨床現場を査察した。
2021年5月、食品医薬品局(FDA)は、苦情の多くを立証する警告書(warning letter)・「あなたは、臨床試験の実施と被験者の保護を規定する法律と食品医薬品局(FDA)規制を順守していなかったようです」を臨床試験者に送った。
『雇われるための医学研究(Medical Research for Hire: The Political Economy of Pharmaceutical Clinical Trials)』の著者であるノースカロライナ大学医学部のジル・フィッシャー社会医学教授(Jill Fisher、写真は白楽が加えた、写真出典)は、「委託研究機関と独立した臨床研究施設の監視が完全に欠如している」と述べている。
ベンタビア社と食品医薬品局(FDA)
ベンタビア社の元従業員は学術誌「BMJ」に、「ベンタビア社は神経質なので、連邦政府の査察を重視すると思います。ファイザー製ワクチン臨床試験の連邦政府が査察するのを期待しています」と述べた。
「臨床研究に従事する人々は食品医薬品局(FDA)の査察を恐れています」とジル・フィッシャー教授は学術誌「BMJ」に語った。しかし、通常は臨床試験が終了してから数か月後、査察報告書を事務的に書くだけで、「それ以外のことは、めったにしません」と付け加えた。
「なぜ彼らは食品医薬品局(FDA)の査察をそんなに恐れているのか分かりません。しかし、ベンタビア社の従業員であるブルック・ジャクソンが不正を申し立てたのに、食品医薬品局(FDA)がベンタビア社の査察をしなかったことに驚きました。ただ、食品医薬品局(FDA)が調査しなければならないという具体的で信頼できる不正行為があったのかどうか、疑問です」とフィッシャー教授は述べた。
2007年、健康福祉省・監査総監室(DHHS-OIG)は、2000~2005年の間に実施した臨床試験の食品医薬品局(FDA)による査察の報告書を発表した。その報告書によると、臨床試験サイトの1%しか食品医薬品局(FDA)は査察していなかった。
食品医薬品局(FDA)のワクチンおよび生物製剤部門の査察は近年減少していて、2020会計年度にはわずか50件しか実施していない。
――――――囲み記事、ここまで
●《4》懸念の提起
食品医薬品局(FDA)への2020年9月25日の電子メールで、ジャクソンは、ベンタビア社が3つのサイトに1000人以上の治験参加者を登録したと書いている。
臨床試験全体では(登録番号NCT04368728)、多数の商業企業や学術センターを含む153のサイトで約44,000人の治験参加者が登録されていた。
ジャクソンが目撃した12の懸念事項をリストした。以下はその内の6項目である。
- 治験参加者は注射後に廊下にでて、臨床スタッフに監視されていなかった
- 有害事象を経験した治験参加者のタイムリーなフォローアップがなかった
- プロトコルからの逸脱があったのに報告されていない
- ワクチンは適切な温度で保管されていなかった
- 誤ってラベル付けされたサンプルがあった
- これらの問題を報告したベンタビア社のスタッフを標的にして攻撃した(註:白楽に誤解があるかも)
ジャクソンは通報してから数時間以内に、食品医薬品局(FDA)から返事を受け取った。彼女の懸念に感謝するが、結果として生じる可能性のある調査について、食品医薬品局(FDA)はコメントできないとの返事だった。
数日後、ジャクソンは食品医薬品局(FDA)の調査官から彼女の報告について話し合うための電話を受けた。ただ、それ以上の情報は提供できないと言われ、ジャクソンは自分の通報に関してそれ以上何も聞かされなかった。
2020年12月10日に開催された食品医薬品局(FDA)諮問委員会に提出されたファイザー社の文書では、ファイザー社の新型コロナ(covid-19)ワクチンの緊急使用許可の申請について話し合ったが、ベンタビア社の問題について何も言及していなかった。
そして、翌日の2020年12月11日、食品医薬品局(FDA)はワクチンを緊急認可した。 → 2020年12月11日記事:FDA Takes Key Action in Fight Against COVID-19 By Issuing Emergency Use Authorization for First COVID-19 Vaccine | FDA
2021年8月、ファイザー製ワクチンが完全に承認された後、食品医薬品局(FDA)は同社の臨床試験の査察の概要を発表した。
153か所の臨床試験サイトのうち9サイトが査察されていた。
ベンタビア社の3つのサイトはこの9サイトに入っていなかった。
食品医薬品局(FDA)の査察官は、次のように述べている。
「データ公正(改ざん)と事実検証は、研究が進行中で、検証と比較に必要なデータがまだ利用できなかったため、限定的だった」
●《5》他の従業員の説明
ここ数か月以内、ジャクソンは、ベンタビア社を辞めた(または解雇された)数人の元従業員と再会した。
そのうちの一人は、2020年9月下旬の会議に参加したベンタビア社幹部の一人だった。2021年6月、元幹部は「あなたが告発した内容はすべて正しかった」とジャクソンに謝罪のメッセージを送付した。
ベンタビア社の元従業員2人は、研究コミュニティは狭い世界なので報復と失職を恐れ、学術誌「BMJ」に匿名という条件で話してくれた。
2人ともジャクソンが通報した不正の内容があったことを認めた。
1人は、自分のキャリアの中で、大規模な臨床試験を含め50件以上の臨床試験をしてきたが、ファイザー社の臨床試験で、ベンタビア社のような「でたらめ(helter skelter)」の職場環境を経験したことは一度もなかったと述べた。
彼女は、ベンタビア社にいる間に食品医薬品局(FDA)の査察を期待していたが、査察はされなかったと付け加えた。
ジャクソンがベンタビア社を辞めた後、ベンタビア社で問題が続いたと、この従業員は付け加えた。
いくつかのケースでは、ベンタビア社は、新型コロナ(covid)のような症状を報告したすべての試験参加者の感染を診断するために、綿棒で拭く十分な人員がいなかった。
2021年8月に発表された食品医薬品局(FDA)の査察の概要では、全臨床試験を通じて、新型コロナ(covid)の疑いのある症例を示した477人から、綿棒試料を採取されていなかったと述べている。
従業員はファイザー社の臨床試験でベンタビア社が生成したデータは、「クリーンなデータではなかったと思います。現場はとても混乱していました」と述べた。
2人目の従業員も、ベンタビア社の研究環境は20年間の臨床研究で経験したことのないヒドサだったと説明した。
彼女は、ベンタビア社がジャクソンを解雇した直後に、ファイザー社はワクチン臨床試験に関するベンタビア社の問題について通知を受け、監査が行われたと語った。
ジャクソンが2020年9月にベンタビア社の問題を食品医薬品局(FDA)に報告した後でも、ファイザー社は研究下請け業者としてベンタビア社を採用し、他の4つのワクチン臨床試験を行なった(子供と若い成人、妊婦、ブースター用量のcovid-19ワクチン臨床試験、そして、RSVワクチン:NCT04816643, NCT04754594, NCT04955626, NCT05035212)。
●4.【関連情報】
ポール・タッカー (Paul D. Thacker)の「2021年11月のBMJ」論文の反響は大きく、たくさんの記事が公開されている。
以下に1つだけ示す。
①2021年11月8日のウェイン州立大学医科大学院(Wayne State University School of Medicin)のデイヴィッド・ゴルスキー外科教授(David Gorski – Wikipedia)の「Science-Based Medicine」記事:What the heck happened to The BMJ? | Science-Based Medicine、保存版
●5.【白楽の感想】
《1》証拠不十分
今回読んだポール・タッカー (Paul D. Thacker)の「2021年11月のBMJ」論文には、ジャクソンが「数十の社内文書、写真、音声録音、電子メールを提供した」とある。
しかし、論文では、その資料を示していない。
だから、記載内容がどれほど事実なのか、正確なのか、読者は検証できない。不当に「不正だ!」と騒いでいる可能性もあるかも、と感じてしまう。事実、そのように批判する研究者もいるし、記事もある。
論文内容が重要なだけに、資料を持っているなら、示して欲しかった。
それに、告発者のブルック・ジャクソン(Brook Jackson)がどのような人なのか、写真も掲載して欲しかった。
《2》可能性
普通に考えれば、非常に急いで開発したワクチンなので、その臨床試験データにねつ造・改ざんはあると思う。
153のサイトで約44,000人の治験参加者がいて、ブルック・ジャクソン(Brook Jackson)の関係した3つのサイトの1,000人の治験参加者だけのデータねつ造・改ざんなら、2.3%なので、全体の判定にほとんど影響しない。
しかし、ジャクソンは不正を報告して即日解雇された。
ということは、他のサイトでも不正を報告すれば、直ぐに解雇される。
153のサイトのほぼ全部が同様のデータねつ造・改ざんをしていても、皆、報復を恐れ、誰一人、不正を報告しない可能性は高い。
しかも、食品医薬品局(FDA)は、153か所の臨床試験サイトのうち9サイトしか査察していない。
つまり、3つのサイトだけでなく、153のサイトのほぼ全部かどうかわからないが、多数のサイトでデータねつ造・改ざんがあったと考える方が妥当だろう。
この場合、ファイザー社は逆にジャクソンの勇気を称賛し、ボーナスを支給するくらいの度量を示すべきだった。
そうすれば、ファイザー社内で不正があれば、直ぐに報告され、ファイザー社は公正に、透明性を保って臨床試験を進めていますと、大きく宣伝できたハズだ。
多分、実際は、多数のサイトでデータねつ造・改ざんがあったので、ファイザー社はジャクソンの勇気を称賛できなかった。他の従業員が同じ告発をするのを防ぐため、直ぐ口封じに動き、見せしめのため告発の報復をした。
食品医薬品局(FDA)は、政治的に判断し、事を荒立てなかった。
ただ、人の健康と命を守る事を最優先にした場合、臨床試験のデータねつ造・改ざんを無視してでもワクチンを早く認可した方がよかった のか、小さな不正でも、研究公正を追求した方がよかったのか、判断は難しい。
《3》ネカトはある
新型コロナ(covid-19)ワクチンの臨床試験データは注目を浴びているので、監視の目は厳しいと思う。 → COVID-19 vaccine clinical research – Wikipedia
しかし、新型コロナ(covid-19)の論文で撤回された論文は2020年5月出版から1年7か月しか経過していないのに、既に200報以上ある。撤回理由の多くはデータねつ造・改ざんやズサンなデータ処理である。 → Retracted coronavirus (COVID-19) papers – Retraction Watch
撤回論文がこんなにあるということは、臨床試験データでも同様なことが起こっているハズだ。
ファイザー社以外のワクチンでも、臨床試験データにねつ造・改ざんやズサンなデータ処理があると考えるのが妥当である。
大規模なねつ造・改ざんがあれば、死者数と健康被害者数は大きくなる。
しかし、臨床試験データの小規模なねつ造・改ざんを防ぐのは、とても難しい。
中規模~大規模なねつ造・改ざんなら防げるかというと、日本の「ディオバン事件 – Wikipedia」で見たように、大規模でも難しい。
《4》判定困難
臨床試験データにねつ造・改ざんが「あったのか・なかったのか」、また、あった時、その結果、ワクチン接種によって生じる健康被害に大きな影響が「あったのか・なかったのか」を正しく把握するのは難しい。
この問題は多数の人々の健康・命が絡む、政治が絡む、経済が絡む、研究者の欲得が絡む。
そして、巨大なカネが絡む。
多くの研究者は、今回、データねつ造・改ざんやズサンなデータ処理はあったかもしれないが、取るに足らない小さなことで、問題なしとする報告・意見を述べている。
この報告・意見が正しいかどうか判断するのが難しい。
ポール・タッカー (Paul D. Thacker)の「2021年11月のBMJ」論文に批判的な報告・意見の多くは、ファイザー社からカネをもらっている(あるいは、今後もらえるかもしれない)研究者の報告・意見だと深読みしてしまう。
金銭の利得が無くても、ワクチン反対などの思想的な利得のために偏った主張をしている可能性もある。
だから、ワクチン開発で利得がない研究者の報告・意見が正しいと思う。
しかし、現実には、研究者は研究稼業で生きているので、原理的に中立という立場はとりにくい、気がする。
それに、「事実をウソをつかない」と思って、事実を見て判断しようにも、その “事実” がねつ造・改ざんされた「事実」の可能性を否定できない。
ファイザー社製ワクチンの副作用でどれほど健康被害がでたのか? 副作用被害の数値を示されても、その数値が改ざんされていないという保証がない。
国土交通省の統計は「政権の都合に合わせて」10年以上も改ざんされていた。 → 2021年12月23日記事:統計不正続けた理由、身内も「論理破綻だ」 国交省に尽きぬ疑問 [国交省の統計書き換え問題]:朝日新聞デジタル
要するに、誰が正しいのか、何が正しいのか、判定は難しい。
《5》日本の大手メディア
ポール・タッカー (Paul D. Thacker)の「2021年11月のBMJ」論文に関して、かなりたくさん(5報以上)の日本語記事があった。
しかし、例によって、日本の大手メディアの報道は見つからなかった。
国民が知りたい科学情報を日本の大手メディアは報道しない。大本営発表を伝えるだけである。調査報道もほとんどない。
中国の弾圧で香港に報道の自由が無くなったが、日本は、弾圧されてもいないのに、報道しない。
日本は、将棋やスポーツの報道がさかんで、科学技術(者)を報道しない。日本でワクチン開発ができない理由がよくわかる。研究不正大国は改善されないし、将棋やスポーツを強くして、日本は貧民国になるばかり。
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【動画1】 8600回視聴 チャンネル登録者数 10.7万人
ポール・タッカー (Paul D. Thacker)のインタビュー動画:「Researcher blows whistle on Pfizer data integrity || Paul Thacker – YouTube」(英語)23分07秒。
Alison Morrowが2021/11/04 に公開
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少し、今後、飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●6.【コメント】
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