2020年8月25日掲載
ワンポイント:2017年(47歳?)、アースランダーはミシガン州立大学博物館・館長に就任した。その頃、ミシガン州立大学・名誉教授のウィリアム・ローヴィス(William Lovis)は数年がかりで「王女」のミイラを母国ボリビアに返還する作業を進めていた。2019年1月(49歳?)、アースランダー館長は、ミイラ送還の記事を「2019年2月のMSU Museum newsletter」に掲載した。ところが、その記事はローヴィス名誉教授の文章をコピペした盗用だった。さらに、放射線画像や化学分析の結果をねつ造していた。ローヴィス名誉教授に告発され、調査の結果クロと判定され、2020年6月(50歳?)、アースランダーはミシガン州立大学を辞職した。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
マーク・アースランダー(Mark Auslander、ORCID iD:?、写真出典:Photo by Rob Fraser)は、米国のミシガン州立大学博物館(Michigan State University Museum)・館長で、専門は人類学である。
1890年、米国のチリ領事から王女「ウスタ(Ñusta)」のミイラがミシガン州立大学博物館に寄贈された。
2018年、ウィリアム・ローヴィス(William Lovis)はミシガン州立大学(Michigan State University)・人類学・教授を引退し人類学の名誉教授になり、ミシガン州立大学博物館・名誉学芸員になった。
ローヴィス名誉教授は、数年がかりで、王女「ウスタ(Ñusta)」のミイラを母国ボリビアに返還する作業を進めていた。
丁度その頃、2017年、アースランダーはミシガン州立大学博物館の館長は就任した。その直後から、ローヴィス名誉教授が進めていた王女「ウスタ(Ñusta)」のミイラ返還の作業を横取りし始めた。
2019年1月(49歳?)、アースランダー館長はワシントンDCで王女「ウスタ(Ñusta)」ミイラ返還式典を開いた。そして、ミイラ返還の記事を「2019年2月のMSU Museum newsletter」に掲載した。
ところが、この「2019年2月のMSU Museum newsletter」は、ローヴィス名誉教授の文章をコピペした盗用だった。さらに、放射線画像や化学分析の結果をねつ造していた。
この盗用とねつ造をローヴィス名誉教授に告発され、ミシガン州立大学博物館の調査委員会は、調査の結果、アースランダー館長に不正があったと結論した。
2020年6月(50歳?)、アースランダー館長はミシガン州立大学を辞職した。
なお、2019年8月、王女「ウスタ(Ñusta)」は母国ボリビアに返還された。
ミシガン州立大学・博物館(Michigan State University Museum)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国?
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:xx大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1980年1月1日生まれとする。見た目で判断
- 現在の年齢:44 歳?
- 分野:人類学
- 最初の不正論文発表:2019年(49歳?)
- 不正論文発表:2019年(49歳?)
- 発覚年:2019年(49歳?)
- 発覚時地位:ミシガン州立大学博物館・館長
- ステップ1(発覚):第一次追及者のウィリアム・ローヴィス(William Lovis)はミシガン州立大学・人類学・名誉教授で、大学に公益通報
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」、「Lansing State Journal」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ミシガン州立大学博物館・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
- 不正:盗用、ねつ造・改ざん
- 不正論文数:1報
- 盗用ページ率:不明%
- 盗用文字率:不明%
- 時期:研究キャリアの中期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:辞職
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1980年1月1日生まれとする。見た目で判断
- xxxx年(xx歳):xx大学で学士号取得
- xxxx年(xx歳):xx大学で研究博士号(PhD)を取得
- 2011年(41歳?):セントラル・ワシントン大学(Central Washington University)・準教授、博物館長
- 2017年7月1日(47歳?):ミシガン州立大学(Michigan State University)・準教授、博物館(Michigan State University Museum)・館長
- 2019年(49歳?):「2019年2月のMSU Museum newsletter」のネカトが発覚
- 2020年2月(50歳?):有給で停職
- 2020年3月3日(50歳?):ミシガン州立大学・博物館の3人を裁判所に訴えた
- 2020年6月(50歳?):ミシガン州立大学・辞職
●3.【動画】
【動画1】
「マーク・アースランダー」と紹介。
ニュース動画:「Mummy research flags MSU Museum director for research misconduct and plagiarism – YouTube」(英語)1分45秒。
FOX 47 Newsが2020/02/11に公開
【動画2】
「マーク・アースランダー」と紹介。
ニュース動画:「That’s a serious violation of research protocols, and I was very annoyed by it. – YouTube」(英語)2分12秒。
Sam Brittenが2020/02/28に公開
https://www.youtube.com/watch?v=9oW6nryP9Sg&feature=emb_logo
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★王女「ウスタ(Ñusta)」のミイラ
1890年、米国のチリ領事は、8歳のインカ少女のミイラをシガン州立大学博物館に寄贈した。
サンダル、ビーズ、羽などと一緒に石墓に埋葬された少女は、15世紀後半にアンデス高地に住んでいた先住民の「ウスタ(Ñusta)」(ケチュア語)、つまり、「王女」で、そのミイラである。
2019年8月、「王女」のミイラは母国ボリビアに返還された。
「ウスタ(Ñusta)」のミイラ。写真出典:https://www.smithsonianmag.com/smart-news/500-year-old-inca-mummy-repatriated-bolivia-180972966/
★アースランダー館長の横取り
2017年7月1日(47歳?)、「王女」のミイラが返還される2年前、マーク・アースランダー(Mark Auslander)はセントラル・ワシントン大学(Central Washington University)からミシガン州立大学・博物館(Michigan State University Museum)・館長に就任した。
2018年、ウィリアム・ローヴィス(William Lovis、写真出典)はミシガン州立大学(Michigan State University)・人類学・教授を引退し名誉教授になり、ミシガン州立大学博物館・名誉学芸員にもなった。
アースランダー館長は、館長に就任してすぐに、ローヴィス名誉教授が取り組んでいた複数の研究プロジェクトに干渉し始めた。
大きな研究プロジェクトは、ミシガン州立大学博物館が1890年に所蔵した王女「ウスタ(Ñusta)」のミイラを母国ボリビアに返還する事業だった。
ローヴィス名誉教授はロジスティクス、倫理、法的問題に取り組むことに加えて、王女「ウスタ」の放射線画像や化学分析など、ミイラから科学データを収集した。これらの作業はかなり大変なものだった。
ところが、新任のアースランダー館長は、ローヴィス名誉教授のプロジェクトを横取りしはじめ、ボリビア大使館に直接連絡を取り始めた。
2019年1月(49歳?)、アースランダー館長はボリビア大使館と一緒にワシントンDCでミイラの本国送還式典を開くように手配した。
その式典にアースランダー館長の妻、父親、スミソニアン協会出身の友人や同僚を招待した。しかし、招待された家族やスミソニアン協会出身の友人は誰も何も、ミイラの本国送還に貢献していなかったし、関係もなかった。
そして、アースランダー館長は、とんでもないことに、実質的な返還の最大の貢献者であるローヴィス名誉教授をその式典に招待しなかった。
ローヴィス名誉教授は仕方なしに、一般参加者として参加した。
しかし、ローヴィス名誉教授は王女「ウスタ」のミイラの本国送還に中心的に貢献した自分と自分の同僚たちの功績は認められるべきだと、多くの大学上層部に訴えた。
最後には、アースランダー館長のやり方について激怒しているとメールした。
★ネカト発覚
2019年1月(49歳?)、アースランダー館長(写真出典)は王女「ウスタ」のミイラの本国送還の記事を「2019年2月のMSU Museum newsletter」に掲載した。
なお、「2019年2月のMSU Museum newsletter」はミシガン州立大学博物館ウェブサイトから削除されていて、2020年8月24日現在、白楽は読むことができない。
アースランダー館長のこの「2019年2月のMSU Museum newsletter」は、ローヴィス名誉教授の文章をコピペした盗用だった。
さらに、アースランダー館長は放射線画像や化学分析の結果をねつ造し、全く間違った記載をしていた。元々、アースランダー館長はこれらの分析方法を知らないので、データの扱いも解釈もわからない。そして、X線撮影と化学分析を行なったローヴィス名誉教授にクレジットを与えなかった。
2019年12月頃(49歳?)、ミシガン州立大学はローヴィス名誉教授から告発を受け、約1年かけてアースランダー館長のネカト行為を調査し、その調査報告書の草案ができた。
ミシガン州立大学博物館の調査委員会は、アースランダー館長が他の学者の研究を盗用し、データねつ造するという不正行為を犯したと判断した。
なお、調査報告書は公表されたようだが、2020年8月24日現在、ウェブサイトから削除されていて、白楽はこの調査報告書を入手できなかった。
★事後処理
2020年2月25日(50歳?)、ミシガン州立大学博物館はアースランダー館長を1か月の有給停職処分にした。
2020年3月3日(50歳?)、アースランダー館長は、シガン州立大学博物館の元館長とその妻、及び学芸員の計3人を資金管理不正で裁判所に訴えた。腹いせ、というか、破れかぶれで、敵を訴えた、という印象を白楽は受けた。 → 2020年3月13日記事:MSU Museum Director Mark Auslander sues university
2020年6月23日(50歳?)、アースランダー館長は、シガン州立大学博物館を辞職した。 → 2020年6月30日記事:MSU Museum director resigns months after misconduct finding, lawsuit
●【盗用とねつ造の具体例】
白楽は、盗用比較図は入手できなかった。被盗用文章と盗用文章も入手できなかった。それで、盗用の具体例を示せない。ゴメン。
ねつ造した放射線画像や化学分析の具体的内容も不明である。ゴメン。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2017 年3月までに30報の論文を出版している:Mark AUSLANDER | Associate Professor of Anthropology and Museum Studies, and Director, Museum of Culture and Environment | Central Washington University, WA | CWU | Department of Anthropology and Museum Studies
★パブメド(PubMed)
2020年8月24日現在、パブメド( PubMed )で、マーク・アースランダー(Mark Auslander)の論文を「Mark Auslander [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2020年の19年間の0論文がヒットした。
★撤回監視データベース
2020年8月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでマーク・アースランダー(Mark Auslander)を「Mark Auslander」で検索すると、0論文がヒットし、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2020年8月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、マーク・アースランダー(Mark Auslander)の論文のコメントを「Mark Auslander」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》ネカト常習者?
2019年(49歳?)、マーク・アースランダー(Mark Auslander)は、博物館・館長として「2019年2月のMSU Museum newsletter」に書いた文章が盗用とデータねつ造・改ざんだった。
しかし、事情を知るにつれ、この時初めてネカトをしたとは思えない。
この時、どうしてもネカトをしなければならない事情はないからだ。
ということは、アースランダーは、それまで何度もネカトしてきたネカト常習者ではないのだろうか? という疑問が生じる。例によって、調査委員会は過去の論文・記述をさかのぼって調査した形跡がない。
一度クロ判定された研究者は、その生涯の全論文の調査をするというシステムに切り替えて欲しい。
《2》呆れた
それにしても、他人の業績を横取りするとは、マーク・アースランダー(Mark Auslander)に呆れた。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】
① 2019年8月22日のメイラン・ソリー(Meilan Solly)記者の「Smithsonian Magazine」記事:500-Year-Old Inca Mummy Repatriated to Bolivia | Smart News | Smithsonian Magazine
② 2020年2月5日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Michigan State committee finds misconduct by museum head in celebrated mummy case – Retraction Watch
③ 2020年2月12日のマーク・ジョンソン(Mark Johnson)記者の「Lansing State Journal」記事:MSU: Museum director committed plagiarism, research misconduct
④ 2020年6月30日のマーク・ジョンソン(Mark Johnson)記者の「Lansing State Journal」記事:MSU Museum director resigns months after misconduct finding, lawsuit
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