2019年10月21日掲載
ワンポイント:グルノーブル大学(Université Grenoble Alpes)・教授でドイツ人の植物学者。妹のクリスチャン・レインボース(Christiane Reinbothe)との共著論文が多い。パブピア(PubPeer)が、レインボースの1990~2019年(28~57歳)の30年間の12論文にコメントし、電気泳動画像やグラフのねつ造・改ざんを指摘した。グルノーブル大学がネカト調査をした様子はないが、2019年(57歳)現在、昨年まで在籍していたグルノーブル大学を辞職した(させられた?)らしい(推定)。ネカトハンターのレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)がこの事件を追求した。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.白楽の手紙
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ステフェン・レインボース(Steffen Reinbothe、ORCID iD:、顔写真見つからない)は、ドイツのハレ大学で博士号を取得し、フランスのグルノーブル大学(Université Grenoble Alpes)・教授になった。医師ではなない。専門は植物学(葉緑体形成)である。
この事件の特徴として、確立した研究者なのにステフェン・レインボースの写真がウェブ上に見つからない。発表論文の約9割は妹のクリスチャン・レインボース(Christiane Reinbothe)と共著だが、クリスチャン・レインボースの写真もウェブ上に見つからない。院生・ポスドクならこういうこともあるが、確立した研究者ではとても珍しい。
本記事では、同姓の妹と区別するためフルネールで記載した。
2009年(47歳)、スウェーデンの匿名研究者からの告発が大きいが、研究者の間では、それ以前から、ステフェン・レインボースの論文を追試できない事態が続いていた。
パブピア(PubPeer)が、ステフェン・レインボースの1990~2019年(28~57歳)の30年間の12論文にコメントしている。
グルノーブル大学は調査している様子がない。当然、調査結果の公表はない。
それで、公式には、ネカト実行者は不明である。本記事では、研究主宰者のステフェン・レインボース(Steffen Reinbothe)とするが、妹のクリスチャン・レインボース(Christiane Reinbothe)、または、別の共著者かもしれない。
なお、2018年9月26日にはあったはずのグルノーブル大学のステフェン・レインボースのサイト(https://www.univ-grenoble-alpes.fr/fr/acces-direct/annuaire/steffen-reinbothe–11630.kjsp?RH=UAINTER)が、2019年10月4日に確認した時、削除されていた。
グルノーブル大学のサイトで、ステフェン・レインボースを「Steffen Reinbothe」で検索してもヒットしない(Université Grenoble Alpes)。グルノーブル大学を辞職した(させられた)と、白楽は解釈した。
グルノーブル大学(Université Grenoble Alpes)。写真出典
- 国:フランス
- 成長国:ドイツ
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:ドイツのハレ大学
- 男女:男性
- 生年月日:1962年。仮に1962年1月1日生まれとする
- 現在の年齢:62 歳?
- 分野:植物学
- 最初の不正論文発表:1990年(28歳)
- 不正論文発表:1990~2019年(28~57歳)の30年間
- 発覚年:2009年(47歳)
- 発覚時地位:グルノーブル大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はスウェーデンの匿名研究者(詳細不明)。関係者に論文の異常個所を通知
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、レオニッド・シュナイダー
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②グルノーブル大学は調査している様子なし
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査していない(推定)
- 大学の透明性:発表なし・隠蔽(✖)
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:12報が疑念(パブピア(PubPeer))。撤回論文なし
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:なし
- 日本人の弟子・友人:佐藤浩之(東邦大学・生物分子科学科・教授)
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:1962年。仮に1962年1月1日生まれとする
- 19xx年(xx歳):ドイツのハレ大学(University of Halle)で研究博士号(PhD)を取得:指導教授は Benno Parthier
- 2000年(38歳):フランスのグルノーブル大学(Université Grenoble Alpes)・準教授
- 2002年(40歳):同・正教授
- 2009年(47歳):不正研究が発覚する
- 2018年9月26日(56歳):レオニッド・シュナイダーの記事で不正研究が追及された
- 2019年(57歳)頃:グルノーブル大学を辞職した(させられた?)(推定)
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★発覚の経緯
2009年(47歳)、スウェーデンの匿名研究者からの告発が発覚の大きいが、研究者の間では、それ以前から、ステフェン・レインボースの論文を追試できない事態が続いていた。
★スウェーデンの研究者からの告発
スウェーデンの研究者の告発もレオニッド・シュナイダーの記事に掲載されている。レオニッド・シュナイダーの記事を参考に、推測を入れながら、以下、かいつまんで記す。 → 2018年9月26日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Steffen Reinbothe: duplications planted on PNAS contributed track – For Better Science
1999年、私(匿名)は、ヨーテボリ大学のクリスター・スンドクヴィスト教授(Christer Sundqvist、2009年7月15日死亡)の植物生理学の研究室で卒業研究していました。
私を指導してくれた人は、当時博士院生で、現在は教授で学部長のヘンリック・アロンソン(Henrik Aronsson、写真出典)です。彼はステフェン・レインボースのみごとな論文のいくつかを追試実験していました。
ところが、アロンソンはステフェン・レインボースの論文を再現できませんでした。ヨーテボリ大学の某準教授は、実験のポイントを実際に教えてもらおうと、ステフェン・レインボースの研究室を訪問しました。
私はその準教授に、「実験のコツはどこにありました?」と聞きました。
返ってきた答えは、「ステフェンが暗室で1人で作業した時だけ、結果が再現されたんだよ」。
その後、博士院生のアロンソンが、ステフェン・レインボースの論文が再現できないという論文を4報発表しました(Aronsson et al 2000, Dahlin et al 2001, Aronsson et al 2003, Aronsson et al 2008)。
スンドクヴィスト教授は、ステフェン・レインボースの「1999年のNature」論文(Reinbothe, Lebedev & Reinbothe 1999)をまったくデタラメ論文だと言っていました。
ただ、少し後に反論の論文が掲載されました(Armstrong et al, Trends in Plant Science, 2000)。
私は結局、別の研究室に進学し、植物学の博士号を取得しました。それで、2010年にアロンソンが、ステフェン・レインボース研究室の誰かから匿名告発ファイルを受け取ったことを聞くまで、ステフェン・レインボースのネカトについて知りませんでした。
アロンソンがこの問題を正式に調査するようドイツの教授に連絡したことを知っていますが、私が知る限り、ステフェン・レインボースのネカト調査は全くされていないようです。
★プロナス(PNAS)論文
レオニッド・シュナイダーが指摘しているが、ステフェン・レインボースの論文出版の特徴は、1994-2017年の24年間に、米国の一流学術誌・PNAS(通称、プロナス、Proceedings of National Academy of Sciences, USA)に19報も出版していることだ。
プロナス(PNAS)は多くの学術誌と異なり、米国科学アカデミー会員が掲載を推薦・仲介することで査読が省略される一流学術誌だ。ステフェン・レインボースを支えたパトロンは、ドイツ生まれの米国の植物生理学者・ディター・フォン・ウェットスタイン(Diter von Wettstein 、写真出典 :uploaded by L. Andrew Staehelin)である。ウェットスタインは、2017年に88歳で亡くなった。
ステフェン・レインボースのプロナス(PNAS)19報の内、2007-2017年の11年間の8報でウェットスタインは共著者になっていた。内、2報にパブピアが問題を指摘している。
意図したのではないだろうが、結果として、ウェットスタインがステフェン・レインボースのネカトを擁護してきた面があった。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
グルノーブル大学は調査している様子がない。当然、調査結果の公表はない。
つまり、どの論文の何がどのようにねつ造・改ざんされたのか、公式発表がない。
それで、レオニッド・シュナイダーの記事、スウェーデンの匿名研究者からの告発、パブピア、から問題点を探った。
★「2007年のプロナス(PNAS)」論文
「2007年のプロナス(PNAS)」論文の書誌情報を以下に示す。2019年10月20日現在、撤回されていない。ディター・フォン・ウェットスタイン(Diter von Wettstein)、妹のクリスチャン・レインボース(Christiane Reinbothe)と共著である。
- A plant porphyria related to defects in plastid import of protochlorophyllide oxidoreductase A.
Pollmann S, Springer A, Buhr F, Lahroussi A, Samol I, Bonneville JM, Tichtinsky G, von Wettstein D, Reinbothe C, Reinbothe S.
Proc Natl Acad Sci U S A. 2007 Feb 6;104(6):2019-23. Epub 2007 Jan 29. Erratum in: Proc Natl Acad Sci U S A. 2010 Mar 23;107(12):5693.
図6Bbは以下の図である(出典:原著論文)。
ところが、この図6Bbは、レオニッド・シュナイダーの記事によると、以下に示すように、自分たちの「2006年のMol Genet Genomic」論文の図を加工したねつ造図だった。
この論文では、他にもいくつかねつ造・改ざん画像がある。グラフのねつ造を以下に示そう。
図4Cと図2Gのグラフを重ね合わせると、赤枠で囲った真ん中の曲線が測定点も含め、ピッタリ一致する(出典:告発 https://drive.google.com/file/d/1SX34UEYumafptgvf2-KMJCnh455u34GE/view)。
つまり、少なくともこの曲線はねつ造である。ここまでねつ造するなら、多分、図そのものをねつ造したと考える方が妥当だろう。図そのものをねつ造したのだが、加工がズサンで、変更し忘れた点や線が、指摘された、というのが真相だろう。
★「2005年のPlant J.」論文
「2005年のPlant J.」論文の書誌情報を以下に示す。2019年10月20日現在、撤回されていない。妹のクリスチャン・レインボース(Christiane Reinbothe)と共著である。
- A role of Toc33 in the protochlorophyllide-dependent plastid import pathway of NADPH:protochlorophyllide oxidoreductase (POR) A.
Reinbothe S, Pollmann S, Springer A, James RJ, Tichtinsky G, Reinbothe C.
Plant J. 2005 Apr;42(1):1-12.
どの部分がどのように不正だったのか、告発ファイルで見てみよう。図の出典も同じ。
図3の電気泳動バンドがおかしい。おかしいのを赤枠で囲ってある。このサイズだと、異常点がわかりにくい。
以下、その赤枠内の画像部分を拡大し、背景のゴミや特徴を青丸で囲んだ。
背景のゴミや特徴は左右の画像で同じだ。つまり、左右の画像は同じが画像である(ねつ造)。ところが、右から2本目のレーンの下方のバンドは左図にあるのに右図にはない。意図的に削除したと思われる(改ざん)。
結構、あからさまな画像のねつ造・改ざんである。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2019年10月20日現在、パブメド(PubMed)で、ステフェン・レインボース(Steffen Reinbothe)の論文を「Steffen Reinbothe [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2019年の18年間の45論文がヒットした。
「Reinbothe S[Author]」で検索すると、1990~2019年の30年間の70論文がヒットした
70論文の内60論文は妹のクリスチャン・レインボース(Christiane Reinbothe)と共著である。
2019年10月20日現在、「Reinbothe S[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回論文データベース
2019年10月20日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでステフェン・レインボース(Steffen Reinbothe)を検索すると、0論文がヒットし、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2019年10月20日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ステフェン・レインボース(Steffen Reinbothe)の論文のコメントを「Steffen Reinbothe」で検索すると10論文にコメントがあり、「Reinbothe」で検索すると1990~2019年の30年間の12論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》大学院・研究初期
レオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)が事件を記述しているが、状況はよくわからない。
グルノーブル大学がネカト調査をした様子はない。当然、調査報告書はない。それで、ネカト実行者が誰だかわからない。本記事では、研究主宰者のステフェン・レインボース(Steffen Reinbothe)としたが、妹のクリスチャン・レインボース(Christiane Reinbothe)、または、別の共著者かもしれない。
こうなると、どこをどうすれば、このネカト事件を防げたのか、まったくもって、ワカリマセン。ハイ。
フランスよ、もっと、ちゃんと調べてよ!
ステフェン・レインボースがネカト犯とすれば、1990~2019年(28~57歳)の30年間もネカトしていた。初期の段階で対処すべきでしたね。
ネカトの法則:「ネカト癖は研究キャリアの初期に形成されることが多い」。
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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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●9.【主要情報源】
① 2018年9月26日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Steffen Reinbothe: duplications planted on PNAS contributed track – For Better Science
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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