7-21.捕食学術社からのメチャクチャな勧誘

2018年12月1日掲載

白楽の意図:研究者はどうやって捕食学術誌や捕食学会を知るのだろう? 従来の研究者は、指導教員が勧めた学術誌に投稿し、学会に参加した。また、自分が重要だと思った論文が掲載されている学術誌に投稿し、その関連の学会や国際会議、さらに、定評のあるゴードン会議、コールドスプリング・シンポジウムなどに参加した。この過程に捕食学術誌や捕食学会が入る隙間はない。で、文献を読んでいると、どうやら、捕食学術社は研究者に魅力的な電子メールを送付して、誘惑するらしい。その実態を調べたエリック・メルシエ(Éric Mercier)らの2017年9月の論文を読んだので、紹介しよう。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.論文概要
2.書誌情報と著者
3.論文内容
4.関連情報
5.白楽の感想
6.コメント
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【注意】「論文を読んで」は、全文翻訳ではありません。ポイントのみの紹介で、白楽の色に染め直してあります。

●1.【論文概要】

カナダの大学・医学部の研究員で救急医療が専門のエリック・メルシエは、2016年5月、彼が初めて連絡著者になった論文を学術誌「Injury」に出版した。すると、その後の12か月で、捕食学術社から合計502件の論文投稿と会議参加への招待状が送付されてきた。エリック・メルシエの研究分野に関連していたのは177件(35.3%)だった。 237件が論文投稿の招待状だった。210件は会議への招待状だった。それらが提供するサービスは、甘い誘惑であり、また、メチャクチャな勧誘でもあった。

●2.【書誌情報と著者】

★書誌情報

★著者

●3.【論文内容】

【1.序論】

2016年5月、カナダの大学・医学部の研究員で救急医療が専門のエリック・メルシエは、彼が初めて連絡著者になった論文を学術誌「Injury」に出版した(下記)。翌日、小児期の肥満に関する国際会議で基調講演を依頼するというEメールを受け取った。

その後、12か月の間、捕食学術社から合計502件の論文投稿と会議参加への招待状が送付されてきた。

【2.方法】

エリック・メルシエは、カナダおよびオーストラリアの学術センターに所属する研究員で、カナダの大学・医学研究科を卒業し救急医になった。2016年4月27日、メルシエが初めて連絡著者になった論文を学術誌「Injury」に出版した。その翌日、捕食学術社からのメチャクチャな勧誘メールを受け取った。それで、2016年4月28日から2017年4月27日の12か月間、捕食学術業者からの電子メール招待状を収集し、分析した。

捕食の判定は、ビール・リスト(2016年12月31日更新)に従った。疑わしい場合は研究チームのメンバー間で議論した。コンセンサスが得られなかった電子メールは除外した。

招待電子メールは英語またはフランス語で記述されたのだけを収集した。

学術誌への招待電子メールでは、次のデータ「日付、送信者、紹介、挨拶文、使われた用語、原稿要求データ、オープンアクセスステータス、インパクトファクター、提案の期限、出版料、学術誌、学術出版社名」を抽出した。また、会議への招待電子メールでは、次のデータ「送信者、会議の分野、挨拶文、会議で提供された役職、使われた用語、参加費、会議の開催場所、主催者名、会議名」を抽出した。

データはエクセル(Microsoft Excel)に入力しデータベース化した。電子メールを受け取った12か月の間、招待状に返信、問い合わせ、送信禁止要求をしなかった。

【3.招待状】

12か月の調査期間中に、合計512通の電子招待状を受信し、それらを分析した。

招待状はすべて英語だった。

10通は、まともなのか捕食的なのか不明だったので分析から除外した。従って、502通の招待状を分析した。

237通(47.2パーセント)が論文出版の招待、210通(41.8パーセント)が会議での講演・オーガナイザーの招待、1通(0.2%)が学術誌・編集長の招待、30通(6.0%)が学術誌・編集委員の招待、6通(1.2%)が雑誌特集号のゲスト編集委員の招待、11通(2.2%)が書籍の章の執筆の招待、3通(0.6%)が査読者の招待である。

184通(36.7%)は、招待者のフルネーム、住所、電話番号を含む連絡先が記載されていた。
294通(58.6%)は、招待状の英語の文法または句読点の間違いがあった。
177通(35.3%)は、対象者の研究分野に関連していた。

以下の図1は1か月あたりの招待状(平均42、SD 17.5)を示している。この調査の開始前の月(2016年4月1日〜26日)には、招待状は1つも受け取っていなかった。

図1.

【4.論文出版の招待】

論文出版の招待237通を分析した。

207通 (86.5%)は、論文掲載料について一切触れていなかった。

32通 (13.5%)は、論文掲載料について書いてあった。
32通の内訳は、2通(0.8%)は掲載料がかかるとだけ記載され、10通 (4.2%)は特別割引が利用可能、12通 (5.0%)は一定期間無料、8通 (3.4%)は掲載料の額が記載されていた。その額は、100ドル~495ドル(約1万円~5万円)だった。

167通(70.5%)は、短報、論説、ミニ総説を歓迎したが、いろいろなタイプの原稿を受け付けると記載していた。
25通 (10.5%)は、特別号で出版すると記載していた。

論文出版の招待状は、39の異なるサイト運営者から送付された。サイト運営者当たりの電子メール数は1回から87回で中央値は2回(IQR, 1,6)だった。連絡先情報と学術誌は異なるのに、同じ出版社から同じ招待状を頻繁に受信した。

【5.会議での講演・オーガナイザーの招待】

会議での講演・オーガナイザーの招待210通を分析した。

184通は(87.6%)は、会議への参加費について一切触れていなかった。

26通(12.4%)は参加費に関する情報が記載されていた。
26通の内訳は、16通(7.6%)はポスター投稿の経費、6通(2.9%)は割引の可能性、1通(0.5%)は学生登録料、3通(1.4%)は学術研究者ステータスに基づくとあった。

会議の開催地は、欧州(97件、46.2%)、北米(65件、31.0%)、アジア(. 20件、4%)、5件がその他の大陸(2.4%)だった。[白楽注:合計187件で、23件足りません?]

開催都市は43都市だった。ロンドン(26件、12.4%)、ドバイ(17件、8.1%)、ローマ(14件、6.7%)、アムステルダム(13件、6.2%)、バルセロナ(12件、5.7%)、ラスベガス(12件、5.7%)、その他、だった。

会議名で最も頻繁に使用された単語は、「国際、グローバル、世界(international, global, world)」で178件(84.7%)の会議名に使用された。

51件(24.2%)は、救急医療が専門のエリック・メルシエの所属や研究分野に関連していた。逆に見ると、159件(75.8%)は、所属や研究分野に関係なくランダムに招待している電子メールだった。

【6.編集委員の招待】

学術誌・編集委員の招待30通を分析した。

15件(50%)は、救急医療が専門のエリック・メルシエの研究分野に関連していた。逆に見ると、15件(50%)は、専門性に関係なく依頼してきた電子メールだった。

編集長就任の招待状は、医療腫瘍学の学術誌で、対象者の研究分野とは無関係だった。

査読者なって欲しいという依頼状は3件送られてきた。しかし、実際に、論文原稿が送られ、査読を依頼されたことは、12か月の調査期間中1度もなかった。

【7.議論】

エリック・メルシエ(Éric Mercier)https://lactualite.com/sante-et-science/2017/10/27/bien-vivre-apres-un-arret-cardiaque/

エリック・メルシエは経験豊富な学者よりも少ないスパムメール(月平均42)を受信した。2013年の研究では、5人の中堅研究者は1人毎月平均60通の招待状を受け取ったとある(文献19)。また、 2015年、確立した研究者は毎月26通の招待状を受け取ったとある(文献15)。2017年、大学の腫瘍学者は毎月100通の招待状を受け取った(文献16)。

若手研究者は、研究業績の蓄積に飢えているので、捕食学術社からの招待に対して特に脆弱だろう。さらに、これら捕食学術社からの招待状のいくつかは、とても魅力的で効果的に思えた。

知ってか知らずか、若手研究者が捕食論文を出版したり、捕食会議で発表すると、みじめな結果になる可能性がある。まず、時間と研究費の無駄になる。また、非倫理的だと糾弾される可能性がある。

●4.【関連情報】

【捕食学術に関する白楽の記事リスト】

●5.【白楽の感想】

《1》唖然

捕食学術が電子メールでメチャクチャな勧誘をしているのには驚きました。

まともな学術誌に論文を1つ出版すれば、1年以内に国際会議での講演・オーガナイザーに簡単になれるし、学術誌の編集委員や編集長にもなれる。バナナのたたき売りも真っ青の大安売りで、メチャクチャである。

国際会議での発表は簡単である。学術誌での論文掲載も簡単である。なお、払う金のことは書いてないが、当然、金はもらえるのでなく、払うのである。それも、1論文を掲載してもらうと数十万円という高額である。と言っても、大学教員や研究機関の研究員は研究費から払う。つまり、国民の税金である。唖然とする。

町医者は国際誌に論文発表と宣伝すれば、経費で落としてもお釣りがくる。唖然とする。

《2》捕食学術を取り締まれ!

毎日新聞の鳥井真平記者の記事によると新潟大学が取り締まり始めた。なお、「ハゲタカ」という用語は止めて欲しい。「捕食」です。

「ハゲタカジャーナル」投稿を事実上禁止 新潟大
毎日新聞2018年11月29日
https://mainichi.jp/articles/20181130/k00/00m/040/050000c

国内の大学で、ハゲタカ誌に対する具体策の明文化が明らかになるのは初めて。

具体策は2本柱からなり、(1)研究者はハゲタカ誌に投稿しないよう注意し、論文掲載料の申請書類に投稿先の出版社名や学術誌名の明記を義務付ける(2)部局長や研究室を運営する教授は、研究者や学生がハゲタカ誌に投稿しないよう研究倫理教育を行う--などと定めた。

新潟大の論文投稿チェックリストの概要
・自身または同僚がその学術誌を知っているか
・出版社を特定し、連絡がとれるか
・どのような内容チェックをするか明白か
・学術誌の評価指標は一般的なものか
・料金設定は明瞭か
・料金の内訳や請求時期の説明はあるか
・編集委員会は設置されているか
・出版社は学術出版業界の団体に所属しているか
※新潟大が既存のハゲタカジャーナルチェック用サイトを基に作成

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日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい(富国公正)。正直者が得する社会に!
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★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●6.【コメント】

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