土木工学:アシュトシュ・ダー(Ashutosh S. Dhar)(バングラデシュ)、イアン・ムーア(Ian D. Moore)(カナダ)

2018年5月28日掲載。

ワンポイント:ダーはバングラデシュのバングラデシュ工科大学(Bangladesh University of Engineering Technology)・教授で、ムーアはカナダのクイーンズ大学(Queen’s University)・教授である。2人の共著で「2008年のJournal of Civil Engineering」論文を発表した。この論文が2016年、自己盗用だとウェブ上で指摘された。大学は調査していないので、処分されていない。自己盗用はネカト事件としては不正の度合いが微妙である。損害額は推定していない。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】

アシュトシュ・ダー(Ashutosh S. Dhar、写真出典)は、2008年に問題の論文を発表した時はバングラデシュのバングラデシュ工科大学(Bangladesh University of Engineering Technology)・教授だった。2014年からカナダのニューファンドランドメモリアル大学(Memorial University of Newfoundland)・助教授である。専門は土木工学だ。

イアン・ムーア(Ian D. Moore、写真出典)は、カナダのクイーンズ大学(Queen’s University)・教授で、専門は土木工学である。

2人共著で「2008年のJournal of Civil Engineering」論文を出版した。

8年後の2016年、「2008年のJournal of Civil Engineering」論文が自己盗用と指摘された。

自己盗用の証拠がウェブにアップされているが、大学は調査した節がないし、マスメディアも事件として報道していない。それで、2人の内、どちらが自己盗用の実行者なのか不明である。

また、自己盗用はネカトの「盗用」だとする規範と、しない規範がある。世界的なコンセンサスはない。但し、著者の1人が在籍するカナダでは自己盗用は「2重出版(redundant publication)」とされ、不正である。

バングラデシュ工科大学(Bangladesh University of Engineering Technology)。写真出典

カナダのクイーンズ大学(Queen’s University)。写真出典

★アシュトシュ・ダー(Ashutosh S. Dhar)、イアン・ムーア(Ian D. Moore)

  • 国:バングラデシュ(ダー)、カナダ(ムーア)
  • 成長国:バングラデシュ(ダー)、オーストラリア(ムーア)
  • 研究博士号(PhD)取得:カナダのウェスタンオンタリオ大学(ダー)、オーストラリアのシドニー大学(ムーア)
  • 男女:男性
  • 生年月日:
  • 現在の年齢:
  • 分野:土木工学
  • 最初の不正論文発表:2008年
  • 発覚年:2016年
  • 発覚時地位:カナダのニューファンドランドメモリアル大学・助教授(ダー)、カナダのクイーンズ大学・教授(ムーア)
  • ステップ1(発覚):第一次追及者はLittle Office of Research Integrity (LORI)で、ウェブにアップした。同時に、大学に通報した(?)
  • ステップ2(メディア):
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部は調査していない。②大学は調査委員会を設けていない。
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:所属機関の事件への透明性。発表なし(✖)。
  • 不正:自己盗用
  • 不正論文数:1報
  • 盗用ページ率:100%
  • 盗用文字率:約50%(白楽の推察)
  • 時期:
  • 損害額:
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)。
  • 処分: なし
  • 日本人の弟子・友人:

●2.【経歴と経過】

★アシュトシュ・ダー(Ashutosh S. Dhar)
主な出典:(2) Ashutosh Sutra Dhar | LinkedIn

  • 生年月日:不明。仮に1970年1月1日とする。1988年の大学入学時を18歳とした
  • 1988-1993年(18-23歳?):バングラデシュのバングラデシュ工科大学(Bangladesh University of Engineering Technology)で学士号取得
  • 1994-1996年(24-26歳?):バングラデシュのバングラデシュ工科大学(Bangladesh University of Engineering Technology)で学士号取得
  • 1999-2002年(29-32歳?):カナダのウェスタンオンタリオ大学(University of Western Ontario)で研究博士号(PhD)を取得
  • 2002-2010年(32-40歳?):バングラデシュのバングラデシュ工科大学(Bangladesh University of Engineering Technology)・助教授、準教授、正教授
  • 2008年(38歳?):問題の「2008年のJournal of Civil Engineering」論文を発表
  • 2013-2014年2月(43-44歳?):米国のニューメキシコ州立大学(New Mexico State University)・助教授
  • 2014年3月(44歳?):カナダのニューファンドランドメモリアル大学(Memorial University of Newfoundland)・助教授
  • 2016年(46歳?):「2008年のJournal of Civil Engineering」論文の自己盗用が指摘される
  • 2018年5月27日(48歳?)現在:ニューファンドランドメモリアル大学・助教授に在籍している

★イアン・ムーア(Ian D. Moore)

  • 生年月日:不明。仮に1958年1月1日とする。1980年にシドニー大学で学士号を取得した時を22歳とした
  • 1980年(22歳?):オーストラリアのシドニー大学(University of Sydney)で学士号取得:工学
  • 1986年(28歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得:土木工学
  • xxxx年(xx歳):カナダのクイーンズ大学(Queen’s University)・教授
  • 2008年(50歳?):問題の「2008年のJournal of Civil Engineering」論文を発表
  • 2016年(58歳?):「2008年のJournal of Civil Engineering」論文の自己盗用が指摘される
  • 2018年5月27日(60歳?)現在:クイーンズ大学・教授に在籍している

●5.【不正発覚の経緯と内容】

不正発覚の経緯は不明である。

★自己盗用の具体例

2016年6月7日、アシュトシュ・ダー(Ashutosh S. Dhar)とイアン・ムーア(Ian D. Moore)の2人の共著の「2008年のJournal of Civil Engineering」論文の自己盗用が「Little Office of Research Integrity (LORI)」にアップされた。

最初に自己盗用の様子をPDFでご覧いただこう。21頁ある、その全頁で自己盗用がされていて、盗用文字率は白楽の推定では約50%である。

Dhar_2008-_sent_to_Memorial.15960305

 

★自己盗用はネカトなのか?

http://turnitin.com/en_us/resources/blog/421-general/2554-is-recycling-your-own-work-plagiarism

自己盗用はネカトで「盗用」だとする規範と、しない規範がある。世界的なコンセンサスはない。

事件の記事ではなく、「2.盗用」の章で「自己盗用」をまともに解説した方がいいと思うので、ここでは、解説しない。

但し、著者の1人が在籍するカナダでは自己盗用は「2重出版(redundant publication)」とされ、不正である。

出版規範委員会「COPE」は「redundant publication」を次のように定義している。
→ redundant publication | Committee on Publication Ethics: COPE

ソース/相互参照/正当化の適切な承認なしに、出版論文(または出版論文の実質的なセクション)が複数回(同一または別の言語で)公開されている場合、
または
適切な相互参照/正当化なしで同じ(または実質的に重複する)データが複数の刊行物に出版される場合で、特に査読者/読者がほとんどまたはすべての内容が以前に公開されていることを認識しにくい場合。

http://www.myroom.co.nz/index.php/home-work/22457/

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

省略

●7.【白楽の感想】

《1》盗用の示し方

盗用された文章と図表を論文の中で色付けして示す盗用の証拠提示はななかな優れている。

《1》自己盗用への世界的判断基準

「2.盗用」の章で「自己盗用」をまともに解説した方がいいと思うので、ここでは、解説しないが、以下の扱い上の差は記載しておこう。

米国・研究公正局は自己盗用を盗用扱いしていない。つまり、不正ではない。(なお、研究公正局はここ数年、盗用そのものの事件を発表していない。ねつ造・改ざんの調査に忙しく、盗用に手が回らないのだろう)。

日本の文部科学省基準も自己盗用を盗用扱いしていない。つまり、不正ではない。

一方、出版社の多くは自己盗用を盗用としている。自己盗用は多重出版になり、著作権侵害になる。出版社としては、出版物が売れなくなり困るので、不正だと判定している。

統一して欲しい。

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●8.【主要情報源】

① 2016年6月7日の「LORI」投稿記事:Little Office of Research Integrity (LORI) – Home
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

●コメント

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