2018年4月22日掲載。
ワンポイント:ガーミート・シンは、2017年11月(60歳?)、デリー大学・化学科・教授からポンディチェリー大学(Pondicherry University)の学長に就任したが、就任直後から、デリー大学時代の盗用が明かるみに出た。記事時点では、学長に留まっている。損害額の総額(推定)は有名大学・学長のネカト事件だから100億円(あてずっぽう)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ガーミート・シン(Gurmeet Singh、写真出典)は、インドのポンディチェリー大学(Pondicherry University)・学長で、専門は化学である。化学の研究論文を100報ほど発表していた。
2017年11月(60歳?)、ガーミート・シンは、デリー大学・化学科・教授からポンディチェリー大学(Pondicherry University)の学長に就任したが、就任直後から、デリー大学時代の盗用が明かるみに出た。
2013年9月25日(56歳?)、研究ネカトを監視する科学価値会(SSV, Society of Scientific Values)は、「ガーミート・シンの「2012年のJ. Mater. Environ. Sci.」論文は盗用率85%で、「2008年のCorrosion Science」論文は盗用率75% だと、デリー大学に伝え、盗用疑惑を調査を要請していた。このことが、2017年11月の学長就任直後に明らかにされたのだ。
2018年4月21日現在、ガーミート・シンはポンディチェリー大学(Pondicherry University)の学長に留任している。
→ ポンディチェリー大学・学長のサイト:Vice-Chancellor | Pondicherry University
なお、ポンディチェリー大学は、インド東海岸のポンディチェリーに1985年に創立された国立大学で学生数は5万人である。ポンディチェリー大学は、NIRFの2018年大学ランキングでインド第86位の大学である。「4icu.org」の大学ランキング(信頼度は?)でインド第83位の大学である(Top Universities in India | 2017 Indian University Ranking(保存済))。
インドのポンディチェリー大学(Pondicherry University)。写真出典
インドのポンディチェリー大学(Pondicherry University)。写真出典
- 国:インド
- 成長国:インド
- 研究博士号(PhD)取得:デリー大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1957年1月1日とする。1984年にデリー大学・教員に就職した時を27歳とした
- 現在の年齢:67 歳?
- 分野:化学
- 最初の不正論文発表:2008年(51歳?)
- 発覚年:2013年(56歳?)
- 発覚公表年:2018年(61歳?)
- 発覚公表時地位:ポンディチェリー大学・学長
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)は科学価値会(SSV, Society of Scientific Values)・会長のプラベーン・ジャンジュア(Praveen Kumar Janjua)
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①科学価値会(SSV, Society of Scientific Values)。②デリー大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:所属機関の事件への透明性。実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
- 不正:盗用
- 不正論文数:例示されたのが2報
- 盗用率:1つは85%。1つは75%。盗用ページ率か盗用文字率か不明
- 時期:研究キャリアの初期から
- 損害額:総額(推定)は有名大学・学長のネカト事件だから100億円(あてずっぽう)。
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)。
- 処分:なし
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1957年1月1日とする。1984年にデリー大学教員に就職した時を27歳とした
- 19xx年(xx歳):インドのデリー大学(Delhi University)で学士号取得:化学
- 19xx年(xx歳):同大学(Kanpur)で研究博士号(PhD)を取得:化学
- 1984年(27歳?):同大学(Kanpur)・化学科・教員、後に、教授
- 2017年11月(60歳?):ポンディチェリー大学(Pondicherry University)・学長
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★ポンディチェリー大学・学長に就任
2017年11月(60歳?)、インド人的資源開発省(MHRD: Ministry of Human Resource Development)は、ガーミート・シン(Gurmeet Singh、写真出典)が、チャンドラ・クリシュナムーティ(Chandra Krishnamurthy)学長の後を継いで、ポンディチェリー大学(Pondicherry University)の学長に就任したと発表した。期間は5年間、または70歳になるまでである。
クリシュナムーティ・前学長は2015年8月17日に盗用で辞任し、2年3か月の間、ポンディチェリー大学の学長は不在だった。
→ 2017年11月27日の「India Education Review」記事:DU’s Professor Is Now V-C of Pondicherry University
→ 法学:チャンドラ・クリシュナムーティ(Chandra Krishnamurthy)(インド) | 研究倫理(ネカト)
★デリー大学時代の盗用
前学長が盗用で辞任したのだが、ガーミート・シン学長にも盗用疑惑が勃発した。
実は、ガーミート・シン学長がデリー大学(Delhi University)・化学科・教授だった時、盗用が指摘されていた。デリー大学は調査したのだが、現職教授の事件だったので、公表しないで秘密裏に処理していた。
ところが、情報公開法(Right To Information Act 2005)で情報開示が要求され、デリー大学は2013年に盗用調査した情報を公開した。デリー大学当局の言い分は、秘密を保持するのは現職者に対してである。ガーミート・シンがデリー大学を去ったので、秘密を保持する制約がなくなったとのことだった。
以下は、情報公開法で入手したPDFファイルである。
RTI_PKUMARDT24.12.13
2013年9月25日(56歳?)、研究ネカトを監視する科学価値会(SSV, Society of Scientific Values)・会長のプラベーン・ジャンジュア(Praveen Kumar Janjua)は、デリー大学のディネシュ・シン学長(Dinesh Singh)にガーミート・シン教授の盗用調査を申し立てた。
ガーミート・シンの「2012年のJ. Mater. Environ. Sci.」論文は盗用率85%である。また、「2008年のCorrosion Science」論文は盗用率75% である。以下に2論文の書誌情報を示す。
- Hibiscus cannabinus extract as a potential green inhibitor for corrosion of mild steel in 0.5 M H2SO4 solution
Ramananda Singh M and Gurmeet Singh
J. Mater. Environ. Sci. 3 (4) (2012) 698-705 (ANN IA) - Inhibiting effects of butyl triphenyl phosphonium bromide on corrosion of mild steel in 0.5 M sulphuric acid solution and its adsorption characteristics
Kalpana Bhrara, Hansung Kim, Gurmeet Singh
Corrosion Science 50 (2008) 2747-2754 (ANN 2A)
以下の資料ではプラベーン・ジャンジュア会長の申し立ては2013年9月25日ではなく、2013年11月11日になっている。白楽は違いがわかりませんでした(どこか誤解しているかもしれません)。
ガーミート・シンは、とても尊敬されている学者だったので、盗用の申し立てはデリー大学を陰鬱にした。
盗用の申し立ては、上記の2論文を代表に挙げたが、実は、ガーミート・シンのすべての出版物、そしてガーミート・シンが指導した博士論文と修士論文にも盗用があると指摘された。盗用論文は昇進や学長栄転時の業績リストに記載されているので、その点も調査するよう要請された。
2014年9月11日、インド人的資源開発省(MHRD: Ministry of Human Resource Development)は、ガーミート・シンの盗用疑惑を調査するために1人調査委員会を設置した。委員には、インド工科大学の前学長のチョプラ(K.L. Chopra)を任命した。
2014年9月22日、ところが、任命11日後、チョプラは1人調査委員会の委員を解任させられた。
2017年11月(60歳?)、ガーミート・シンがポンディチェリー大学(Pondicherry University)の学長に就任した。
それに合わせるかのように、結局、デリー大学当局はガーミート・シンの盗用を否定し、これは「不必要な申し立て」だと非難している。 「盗用の申し立ては根拠がありません。ガーミート・シン教授はこれらの申し立てに全く該当しません。盗用という事実がないので、ガーミート・シン教授はこの問題で処分されません」、とデリー大学のマヘシュ(K. Mahesh)教務課長補佐(広報担当)は新聞記者に述べている。
マヘシュ(K. Mahesh)教務課長補佐は、「インド人的資源開発省がガーミート・シンをポンディチェリー大学の学長に任命するために、ガーミート・シンの前の職場だったデリー大学は、ガーミート・シンを無罪と評価したのです」、と付け加えている。
しかし、デリー大学の某教授は、事件は深刻だと新聞記者に語った。申し立てを調べるためにデリー大学に内部委員会が設置され、調査の結果、申し立ては事実だと判明したそうだ。
●6.【論文数と撤回論文】
省略
●7.【白楽の感想】
《1》ネカト取締法
インドのネカト事件は実に多様である。対処プロセスの標準がないし、処分の標準もない。つまり、混沌としている。
盗用と指摘されても、放置から懲戒解雇までさまざまである。
インド政府はネカト取締法を制定すべきである。そして、政府機関の1つに、取締機関を設けた方がいいと、つくづく思う。
(注:写真は本文とは関係ありません)。デリー大学の購買部の入口で本を読む女子学生。2008年。白楽撮影。
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●8.【主要情報源】
① 2018年2月26日のジシュヌ(Jishnu EN)記者の「Deccan Herald」記事:Questions linger about Pondicherry University V-C’s alleged plagiarism、(保存版)
② 2018年2月23日の「Deccan Chronicle」記事:Plagiarism charge against Pondicherry varsity vice chancellor?、(保存版)
③ 2018年2月21日の「Daily Hunt」記事: Questions linger about Pondicherry University V-C’s alleged plagiarism – Deccan Herald | DailyHunt、(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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