2017年8月21日掲載。
ワンポイント:ネカトではない。逮捕されていないが犯罪に分類した。南カリフォルニア大学の著名な眼科医で年収1億円以上の学部長が、2016年3月4日(65歳)、ホテルで21歳の売春婦のサラ・ウォーレンとセックスし、麻薬を吸引した(白楽の想像)。売春婦の薬物過剰摂取で容態が急変し、救急車を呼んだ。このスキャンダルは隠蔽されていたが、1年4か月後の2017年7月17日(66歳)、「ロサンゼルス・タイムズ」紙がすっぱ抜いた。大学辞任。損害額の総額(推定)は100億5千万円(当てずっぽう)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
カーメン・プリアフィート(Carmen A. Puliafito、写真同)は、米国の南カリフォルニア大学ケック医科大学院(Keck School of Medicine of the University of Southern California)・学部長・医師、眼科部長だった。なお、南カリフォルニア大学は3,455人の教授を擁し、ロサンゼルス市の民間組織では最大の雇用数を誇る巨大組織である。
1991年、プリアフィートは、画期的な診断法である光干渉断層画像診断法(Optical Coherence Tomography , OCT)を、マサチューセッツ工科大学のジェームス・フジモト(James Fujimoto)らとともに発見した。その功績で、ランク賞(Rank Prize for Opto-electronics)を2002年に、アントニオ・シャンパリモー視覚賞(António Champalimaud Vision Award)を2012年に、ジェームス・フジモトらと共同受賞している。
プリアフィートは、ハーバード大学医科大学院の同級生だったジャネット・パイン(Janet Pine)と結婚し、3人の子供(長女、長男、次男)がいる。一度も離婚していない。
2016年3月4日(65歳)、ホテルで21歳の売春婦のサラ・ウォーレン(Sarah Warren、写真出典)とセックスし、麻薬を吸引した(白楽の想像)。売春婦が薬物過剰摂取で容態が急変し、救急車を呼んだ。
この時点ではこの「買春と薬物」行為は大学にも世間にもバレなかった。
10日後の2016年3月14日、匿名者が南カリフォルニア大学・学長に通報した。学長は、プリアフィートに学部長を辞任させた。ただし、マスメディアでの報道はなかったので、「買春と薬物」行為は世間にバレなかった。
匿名者は同時に「ロサンゼルス・タイムズ」紙にも通報していた。「ロサンゼルス・タイムズ」紙は特別取材チームを編成し、1年4か月かけて綿密に調査と取材を重ねた。
2017年7月17日(66歳)、「ロサンゼルス・タイムズ」紙は、ようやく、プリアフィート学部長・医師の裏の生活・「買春と薬物」を記事に掲載し、世間に初めて伝えた。大スクープである。後追い記事も多数掲載している。
南カリフォルニア大学ケック医科大学院(Keck School of Medicine of the University of Southern California)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:ハーバード大学医科大学院
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1951年1月1日生まれとする。2017年7月17日の新聞記事に66歳とあったので
- 現在の年齢:73 歳?
- 分野:眼科学
- 今回の「買春と薬物」行為:2016年(65歳)
- 世間への発覚年:2017年(66歳)
- 発覚時地位:南カリフォルニア大学ケック医科大学院・学部長・医師、眼科部長
- ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)は「憂慮している市民」(Concerned Citizen)と名乗る匿名者で、パサデナ市当局、南カリフォルニア大学・学長、「ロサンゼルス・タイムズ」紙に公益通報
- ステップ2(メディア): 「ロサンゼルス・タイムズ」紙の特別取材チームが大きな役割を果たした
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①「ロサンゼルス・タイムズ」紙・調査グループ。②南カリフォルニア大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 不祥事:「買春と薬物」
- 不正論文数:なし
- 時期:研究キャリアの後期
- 損害額:総額(推定)は100億5千万円(あてずっぽう)。内訳 → ①研究者になるまで5千万円。研究ネカトではないので、損害はゼロ。②研究者の給与・研究費など年間5千万円が28年間+年間1億円が10年間=24億円。研究ネカトではないので、損害はゼロ。③院生の損害はゼロ。④研究費。総額2億ドル(約200億円)以上の研究助成金を受領してきたが、研究ネカトではないので、損害はゼロ。⑤調査経費(大学)が5千万円。⑥裁判なし。⑦論文出版・撤回作業なし。⑧損害は大学の評判悪化による副次的なもので100億円(当てずっぽう)。⑨南カリフォルニア大学のために10億ドル(約1000億円)の寄付金を集めたが、返還は要求されないので損害はゼロ。今後の寄付金は減るかもしれないがそれは次の学部長の力量の問題。
- 結末:辞職
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1951年1月1日生まれとする。2017年7月17日の新聞記事に66歳とあったので
- 1973年(22歳):ハーバード大学の学部(Harvard College)を「極めて優秀な成績(magna cum laude)」で卒業
- 1979年(28歳):ハーバード大学医科大学院(Harvard Medical School)を卒業。医師免許取得
- 1981年(30歳):ハーバード大学関連病院のマサチューセッツ眼耳病院(Massachusetts Eye and Ear Infirmary)で研修医
- 1983年(32歳)?:ハーバード大学医科大学院の同級生だったジャネット・パイン(Janet Pine)と結婚
- 19xx年(xx歳):ボストンのフォークナー病院(Faulkner Hospital)で内科の研修医
- 1991- 2001年(40-50歳):タフツ大学医科大学院(Tufts University School of Medicine)・教授、眼科部長
- 1997年(46歳):ペンシルバニア大学ウォートン校(Wharton School of the University of Pennsylvania)で経営学修士(MBA)取得
- 2001- 2007年(50-56歳):マイアミ大学医科大学院(University of Miami Miller School of Medicine)・教授、眼科部長
- 2007年12月(56歳):南カリフォルニア大学ケック医科大学院(Keck School of Medicine of the University of Southern California)・学部長、眼科部長
- 2012年(50-56歳):プリアフィート学部長の2012年の収入が$1,189,523(約1億1900万円)で、「米国の大学・役員収入ランキング」で21位に入った()
- 2016年3月4日(65歳):本記事の主要出来事である「買春と薬物」事件が起こった。具体的には、連れの売春婦の薬物過剰摂取事件が発生した
- 2016年3月24日(65歳):南カリフォルニア大学ケック医科大学院・学部長を辞任。教授に在職。眼科部長
- 2017年7月17日(66歳):「ロサンゼルス・タイムズ」紙がプリアフィート学部長の裏の生活「買春と薬物」を掲載した
- 2017年7月21日(66歳):南カリフォルニア大学ケック医科大学院・教授を辞任
●3.【動画】
【動画】
事件ニュース:「南カリフォルニア大学・学部長が売春婦の薬物過剰摂取に関与(Report: Former USC Dean Linked To Drug Overdose With Prostitute ) 」(英語)2分54秒
CBS Sacramento が2017/07/18 に公開
以下のリンクが切れた時 → 保存版
★2017年8月4日:「名門大学の学部長が違法ドラッグを使用 米報道に衝撃(クランクイン!)」(未読:有料記事)
アメリカの名門大学の1つである南カリフォルニア大学(USC)のスキャンダルが、LAを騒がせている。昨年までメディカルスクールの学部長を務めていた名医のもつ陰の姿を、L.A.TIMESがすっぱ抜いたのだ。昨年3月、学期の真ん中で突然にして学部長の座を退いたカーメン・プリアフィトは、見えないところで、犯罪者やドラッグ中毒、若者たちと、頻繁に違法ドラッグを使っていたという。
本文:1,608文字
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★全体の概略
「買春と薬物」事件は2016年3月4日に起こったが、警察は関係者の名前と事件を発表しなかった。新聞・テレビは警察から事件情報を得ていないので、事件を知らず、報道しなかった。そして、警察は大学に伝えていないので、大学も知らなかった
事件の10日後、「憂慮している市民」(Concerned Citizen)と名乗る匿名者が、南カリフォルニア大学・学長に通報した。それで、カーメン・プリアフィートは学部長を突然、辞任したが、辞任理由である「買春と薬物」行為は世間に伏せられていた。
学長に通報した日、「憂慮している市民」は、「ロサンゼルス・タイムズ」紙にも通報していた。
「ロサンゼルス・タイムズ」紙は、ひそかに特別取材チームを作り、「憂慮している市民」をはじめ多数の関係者を取材し、1年4か月も綿密に調査と取材を重ねた。
世間に初めて事件を伝えたのは、事件発生から1年4か月後の2017年7月17日、「ロサンゼルス・タイムズ」紙だった。一面全段記事の大スクープである(出典)。
「ロサンゼルス・タイムズ」紙は、プリアフィート学部長・医師(66歳)の裏の生活・「買春と薬物」を暴露したのである。後追い記事も多数掲載している。
実は、「ロサンゼルス・タイムズ」紙報道時点では、当局(警察、消防署、大学)はプリアフィート学部長の相手の女性の名前を公表していない。ロサンゼルス・タイムズ紙がインタビュー、ソーシャルメディア、財産記録を調べて、相手の女性をサラ・ウォーレンと特定し、新聞紙上に掲載したのである。
●【「買春と薬物」事件】
★2016年3月4日:ホテルで事件発生
2016年3月4日(金曜日)、夕方5時少し前、パサデナのホテル・コンスタンス(Hotel Constance)の一室から男の声でフロントに電話があった。
男:「連れの女性の容態がおかしいので、救急車を呼んでくれ」。
ホテルのフロントは消防署に電話した。消防署の係員が電話に出たので、フロントはホテル3階の客室につないだ。
ホテルの男性客は消防署の係員に次のように話している。
男:「ガールフレンドが飲みすぎて、眠っていて、容態がおかしい」
男:「私は医者だ。女性は息をしている」
消防署の係員:「何を飲みましたか?」
男:「アルコール」
後でわかるのだか、男性客は南カリフォルニア大学ケック医科大学院・学部長で医者のカーメン・プリアフィート(Carmen A. Puliafito)、65歳で、ガールフレンドは21歳の売春婦・サラ・ウォーレン(Sarah Warren)だった。部屋はプリアフィートの名前で使われていた。
21歳の売春婦・サラ・ウォーレン(Sarah Warren)とパサデナのホテル・コンスタンス(Hotel Constance)。写真出典
パサデナのホテル・コンスタンス(Hotel Constance)の一室。事件があった部屋かどうか知りません。ホテルの正式名称には、デュシットD2 ホテルコンスタンセ パサデナ(DusitD2 Hotel Constance Pasadena)。写真出典
実のところ、サラ・ウォーレンの容態がおかしいのはプリアフィートが言うようなアルコールのせいではなく薬物だった。薬物過剰摂取で容態が急変したのだ。
ホテルに救急車が到着し、救急医は、サラ・ウォーレンをハンチントン記念病院(Huntington Memorial Hospital)に搬送した。
その夜11時ころ、病院で6時間過ごし容態が回復したサラ・ウォーレンを、プリアフィートは、元のホテル・コンスタンスに連れてきて、別の部屋でパーティーを続けた。
ロサンゼルス・タイムズ記者のインタビューに答えて、サラ・ウォーレンは、「プリアフィートと2日間、ホテルでパーティーをしていました。2日目の夕方、GHB(ガンマヒドロキシブチレート)をたくさん摂取しすぎて、身体が完全に動かなくなったのです」と言っている。
GHB(ガンマヒドロキシブチレート、γ-ヒドロキシ酪酸)は、いわゆるデート・レイプ薬(女性を前後不覚にしてレイプするために使われるドラッグ:旅先では特に要注意!デートレイプ・ドラッグとは?)である。
多くの国で違法ドラックとして規制されているが、ナルコプシーや不眠症、うつ病の治療効果を持ち、アメリカやカナダ、ニュージランド、オーストラリア、多くの欧州諸国では治療目的で認可を受けている(γ-ヒドロキシ酪酸 – Wikipedia)。
★2016年3月4日:警察
実は、救急車がホテルに到着した頃、フロントとは別のホテルの従業員が警察に電話していた。
ホテルの従業員:「客が客室で薬物を吸ってました。クリスタル・メス(crystal meth)だと思います」
クリスタル・メス(crystal meth)は、メタンフェタミン(Methamphetamine)のことで、日本ではヒロポンと呼ばれる。強い中枢興奮作用および精神依存、薬剤耐性により、反社会的行動や犯罪につながりやすいため、日本では覚せい剤取締法により覚醒剤に指定されている(メタンフェタミン – Wikipedia)。
それで、パサデナ署から警察官が急行し、捜査した。警察官はホテルの部屋に麻薬であるメタンフェタミンを見つけた(法律違反)。
白楽の推定だが、プリアフィートはサラ・ウォーレンに「誰かに聞かれたら薬物はγ-ヒドロキシ酪酸だと言いなさい」と言い含めていたと思われる。γ-ヒドロキシ酪酸の方がカリフォルニア州では罪が軽いのだろう(?)。実際に吸引していたのγ-ヒドロキシ酪酸より強力なメタンフェタミンだったと思われる。
というのは、後に、ロサンゼルス・タイムズ記者のインタビューに答えて、サラ・ウォーレンは、「事件の前日(ホテルでの初日)、メタンフェタミンを鼻から吸引(hot rail)しやすいように錠剤を砕いてほしいと、プリアフィートにお願いした」と言っている。
パサデナ警察は以下の「薬物過剰摂取(Overdose)」の調書も作成した(示したのは冒頭部分のみ)(出典)。被害者欄のサラ・ウォーレンの名前は黒塗りだが、目撃者欄はプリアフィートと識別できる。
ただ、パサデナ警察はいくつか不審な行動をとっている。
- メタンフェタミンを見つけたのに捜査してない
- サラ・ウォーレンに尋問していない
- 上の調書は3か月後に作成(提出?)したのである。
パサデナ警察は「買春と麻薬」の相手が南カリフォルニア大学・学部長というロサンゼルスの重要人物で、犯罪歴がないことから、何らかの隠蔽工作をしたと思われる。
★2016年3月11日と14日:匿名者の通報
2016年3月11日、「買春と麻薬」事件から1週間たったが新聞もテレビも事件を報道しない。
「憂慮している市民」(Concerned Citizen)と名乗る匿名者は、パサデナ市役所の問い合わせサイトで、プリアフィート学部長の不祥事を捜査するよう、また警察が事件を捜査するよう通報した。
2016年3月14日、事件から10日後、「憂慮している市民」は、今度は、「ロサンゼルス・タイムズ」紙にも通報した。
2016年3月14日、「憂慮している市民」は、同時に、南カリフォルニア大学・学長室にも電話し、プリアフィート学部長の不祥事を伝えた。ニキアス学長(C. L. Max Nikias、写真同)は不在だったので、2人の学長室・秘書が電話を受けた。
南カリフォルニア大学・ニキアス学長(C. L. Max Nikias )。By University of Southern California/Steve Cohn – University of Southern California, CC BY 2.5, Link
この通報で、南カリフォルニア大学は初めて、プリアフィート学部長の不祥事を知った。
ニキアス学長は、大学の看板学部長の不祥事の事実を知りその対策を立てるため、優力な弁護士であるデブラ・ヤン(Debra Wong Yang)を長とする内部調査委員会を設立し、調査を命じた。
なお、デブラ・ヤン(Debra Wong Yang、1959生まれ、写真出典)はギブソン・ダン法律事務所(Gibson, Dunn & Crutcher)のパートナーで、元連邦検事正(アジア系女性の初)でもある。情報を加えると、トランプ政権で米証券取引委員会(SEC)委員長の有力候補者になったほどの人である。
★2016年3月24日:学部長を辞任
2016年3月24日(65歳)、プリアフィート学部長は学部長を辞任し、教授として在職した。
社会一般は事件を知らされていないので、この学部長辞任は「突然」と受け取られた。
実際は、デブラ・ヤンの調査報告を受けてニキアス学長が辞任するよう説得したと思われる。
★2017年7月21日:大学を辞任
1年4か月前、南カリフォルニア大学は、プリアフィートの学部長・辞任でケリをつけようとした。
しかし、2017年7月17日に「ロサンゼルス・タイムズ」紙が、1年4か月前のプリアフィート学部長の「買春と麻薬」事件を詳細に報道したのだ。
南カリフォルニア大学は、学部長・辞任だけでは済ませられないと判断し、大学からプリアフィートを追放した。さらに、南カリフォルニア大学キャンパスへの立入りも禁止した(以下の手紙)。
●【表の顔】
★医学上の名声
カーメン・プリアフィート学部長は、一言でいえば「超優秀な研究者、パワフルな学部長」である。
学術上の業績は素晴らしい。
1991年(40歳)、プリアフィートは、画期的な診断法である光干渉断層画像診断法(Optical Coherence Tomography , OCT)を、マサチューセッツ工科大学のジェームス・フジモト(James Fujimoto)らとともに発見した。
その功績で、ランク賞(Rank Prize for Opto-electronics)を2002年に、アントニオ・シャンパリモー視覚賞(António Champalimaud Vision Award)を2012年に、ジェームス・フジモトらと共同受賞している。どっちだったか忘れたが、1つは「眼科のノーベル賞」といわれているらしい。
学部長としての経営手腕も素晴らしい。
学部長として、数百人の医学生、何千人もの教授と医師の面倒を見てきたし、総額2億ドル(約200億円)以上の研究助成金を受領してきた。また、南カリフォルニア大学のために10億ドル(約1000億円)以上の寄付金を集めた優秀な募金獲得者だった。
2010年の南カリフォルニア大学病院の開所式。左から、カーメン・プリアフィート学部長(Carmen A. Puliafito)、カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツェネッガー(Arnold Schwarzenegger)。写真出典
★人生と家族
カーメン・プリアフィート学部長は、一言でいえば「華麗な人生、華麗な家族」である。
ニューヨーク州バッファローで電気技師の父親の子供として生まれ育ち、子供のころから科学に興味を持っていた。高校では生徒会長だった。
ハーバード大学の学生だった時、偶然の部屋割りで、彼のルームメイトはポール・パラバノ(Paul Parravano)だった。ポール・パラバノは両眼とも網膜芽腫の盲人だった。パラバノとはハイキングに出かけ、ヒッチハイクをしたり、生涯の友となった。プリアフィート
人生の選択は、ポール・パラバノが盲人だったことで、プリアフィートは視力の問題に興味を持ち、眼科医になるのである。
ハーバード大学医科大学院で眼科のダニエル・アルバート教授(Daniel Albert, MD)に師事した。
そして、ハーバード大学医科大学院の同級生だったとジャネット・パイン(Janet Pine、写真出典、(保存版))と結婚し、3人の子供(長女、長男、次男)をもうけた。
子供は同居していない。
長女(エーミー Amy 33歳、情報会社・社員)と次男(サム Sam 24歳、本屋のオーナー)は医師でも学術研究者でもないので、今回の事件によるキャリア上の影響は少ないだろう。
しかし、長男(ベンBen 27歳)は、アルベルト・アインシュタイン医科大学(Albert Einstein College of Medicine)の院生で、2018年に医師免許取得予定である。今回の事件によるキャリア上の影響は大きいだろう。
妻・ジャネット・パイン(Janet Pine)は2017年8月20日現在、南カリフォルニア大学ケック医科大学院の精神行動科学の臨床準教授(パートタイム)である。自分の診療所も開設している。
はたから見れば、理想的な家族である。
カーメン・プリアフィートはマラソンもしていた。
1999年(46歳)、カーメン・プリアフィートは、ボストンマラソンに参加し、5時間半で完走した(写真の右の人、出典、(保存版))。
プリアフィートは、南カリフォルニア大学ケック医科大学院・学部長として給与は110万ドル(約1億1000万円)も得ていた。
給与以外に大学からの利益供与もあっただろうし、大学外からの収入もあっただろう。もちろん、夫人は、医師として別の収入を得ていた。
プリアフィート夫妻は、パサデナのテューダー復古調(Tudor Revival)の邸宅に住んでいる(邸宅の写真出典、(保存版))。
値段は5百万ドル(約5億円)である。
つまり家族、金銭、趣味で華麗な生活を楽しんでいたように、外からは思える状況だった。
●【裏の顔】
カーメン・プリアフィート学部長は、職場では「超優秀な研究者、パワフルな学部長」、家庭では「華麗な人生、華麗な家族」である。カーメン・プリアフィート学部長に犯罪歴はない。
しかし、「買春と薬物」事件を起こした66歳の時に、気の迷いで、一時的に「買春と薬物」を行なったとは思えない。
サラ・ウォーレンとは1年半の付き合いとあるが、若いころから、買春していただろうか?
薬物も、若いころから、常習的に使用していたのだろうか?
★プリアフィート学部長の「買春と薬物」
プリアフィート学部長は事件を起こす1年半前の2015年に、20歳の売春婦・サラ・ウォーレンを初めて買春した。
その後、1年半の間、「買春と薬物」で2人は定期的に会っていた(会った目的は白楽の推定)。
プリアフィート学部長は、サラ・ウォーレンの仲介で、39歳のドン・ストークス(Don Stokes、写真出典)と知り合った。
ドン・ストークスは、ロサンゼルスのカラオケ店のDJで、過去に薬物保有で複数の有罪判決を受けていた。
ロサンゼルス・タイムズ紙のインタビューに、ストークスは、「プリアフィート学部長やサラ・ウォーレンと中毒者や売春婦の仲間とともに、バーやホテルの部屋で薬物を使用していた」と答えている。
ストークスは、「ハンティントン・ビーチにある中毒者救済ハウス「新生活スピリット(New Life Spirit)」の麻薬更生コースを受けている時も、プリアフィフートから麻薬・メタンフェタミンをもらっていた。サラ・ウォーレンはそれを見ていた」と答えている。
「プリアフィート学部長は、「カネは問題ではない」と言っていたが、カネを使い、贈物をたくさんすることで若者の仲間に入れると思っているようだった。プリアフィート学部長が周りにいない日はほとんどなかった」と、ストークスは述べている。
37歳の男性,・カイル・ボイト(Kyle Voigt、写真出典)も仲間の1人だった。
カイル・ボイトは、イラク戦争の帰還兵で、2009年に犯罪の前科があり、売るためのヘロイン所持の有罪判決もあった。
2015年9月の写真では、南カリフォルニア大学のプリアフィート学部長室でボイトとサラ・ウォーレンが写っていた。タイムスタンプは、午前3時頃に写真が撮影されたことを示していた。誰が写したんでしょう。写せる人、というか、午前3時頃にこの部屋に入れる人は1人しかいませんね。
南カリフォルニア大学のシャツを着て、プリアフィート学部長の机の隣に立っているサラ・ウォーレンの写真もあった。背景にプリアフィート学部長と彼の妻の肖像画が見えていた。
別の日時だが、ボイトとサラ・ウォーレンの2人は、真ん中に黒いパッチが付いたアルミホイルの断片を持っている姿が写真に写っていた。そして、サラ・ウォーレンの手にはライターが写っていた。この写真も誰が写したんでしょうねえ。
ロサンゼルス・タイムズ紙が、警察当局に画像を示すと、警察官は、真ん中の黒いパッチはヘロインの喫煙によって残された証拠と一致していると述べた。
2015年にパサデナのガソリンスタンドで撮影された他の写真では、プリアフィート学部長のメルセデスのヴィンテージ車にボイトが写っていた。後部座席にはプリアフィート学部長が座っていた。 ボイトの膝にはフォイルが見え、薬物を吸引していると思えた。
★プリアフィート学部長の大学教員からの悪評
南カリフォルニア大学の教職員は、実は、「プリアフィート学部長は、些細なことで激怒する、教職員を大勢の面前で侮辱する、飲酒運転する」行為を何度も大学当局に訴えていた。ロサンゼルス・タイムズ紙は、そのような訴えの手紙を4通も入手していた。
つまり、プリアフィート学部長の人格異常・行動異常は、一部の教職員の間では周知されていたようだった。
プリアフィート学部長は、しかし、南カリフォルニア大学の教職員だけでなく、それ以前の大学の教職員とも問題を起こしていた。
プリアフィート学部長は、南カリフォルニア大学に移籍する前、マイアミ大学・教授だった。
2006年、マイアミ大学の検眼専門医であるマーク・ブロックマン(Marc Brockman)は、「プリアフィートが医療機器の故障に腹を立て、私の手術着の襟をつかんで首を絞めた」と、プリアフィートを暴行罪で裁判所に訴えていた。
ブロックマンは、そのような人物を採用したマイアミ大学の過失も非難した。
この訴訟の間、マイアミ大学は「プリアフィートにセクハラされたという申し立て」の調査もしている。調査結果は明らかにされておらず、大学の広報担当者は、この調査に関する質問に対して、「私たちは何も提供する情報はありません」と述べている。
2007年6月、プリアフィートおよびマイアミ大学は、マーク・ブロックマンは秘密の和解に達した。
その2か月後、プリアフィートはマイアミ大学を去り、南カリフォルニア大学に移籍している。
つまり、マイアミ大学からひそかに追放されたのだろう。追放は和解の条件だったに違いない(白楽の推定)。
なお、プリアフィートの長年の友人は、プリアフィートが2001年(50歳)にタフツ大学医科大学院を去るまでは、薬物を使用していた形跡は全くなかったと述べてる。
友人の言葉を信じると、薬物、買春、激怒はマイアミ大学に移籍した2001年(50歳)以降なのかもしれない。
●6.【論文数と撤回論文】
2017年8月20日現在、パブメド(PubMed)で、カーメン・プリアフィート(Carmen A. Puliafito)の論文を「Carmen A. Puliafito [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2017年の16年間の96論文がヒットした。
「Puliafito CA[Author]」で検索すると、1977~2017年の16年間の228論文がヒットした。
2017年8月20日現在、「Puliafito CA[Author] AND retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
●7.【白楽の感想】
《1》どうすべきか?
カーメン・プリアフィート(Carmen A. Puliafito、写真出典)の「買春と薬物」事件を、ネカト・ブログに取り上げたが、ネカト事件ではない。
ネカト事件ではないが、ネカト行為とその防止を考える上で参考になることが多い。
カーメン・プリアフィート学部長は、職場では「超優秀な研究者、パワフルな学部長」、家庭では「華麗な人生、華麗な家族」だった。カーメン・プリアフィート学部長に犯罪歴はない。
このように一見非の打ちどころのない、しかも学術的にも社会的にも偉い人が、「買春と薬物」事件を起こしたのである。
「買春と薬物」行為は、この事件の日に初めて行なった破廉恥行為とは思えない。ロサンゼルス・タイムズ紙によれば、サラ・ウォーレンとの付き合いは1年半に及んでいる。
30代・40代から「買春と薬物」行為をしていたのか、50代あるいは60代で始めたのかは定かではない。
プリアフィートの長年の友人の話を信じると、少なくとも「薬物」使用は、プリアフィートが2001年に50歳でマイアミ大学・教授に移籍してからである。
「買春と薬物」行為をネカト行為に当てはめてみよう。
著名な学者が、しなくてもいいと思えるネカトを50代(あるいは60代)で始めたとする。
一般的には、ネカトの動機はトク(学術的成功、昇進、研究費、メンツ)を得るためだ。
だから、「必見」と「必厳罰」でネカトを大きく防止できると白楽は考えている。
→ 1‐5‐4.研究ネカト飲酒運転説 | 研究倫理(ネカト)
しかし、プリアフィート学部長の「買春と薬物」の場合、トクと言っても刹那的な快楽という「トク」であって、地位や金銭のトクではない。
冷静に考えれば、「買春と薬物」は、地位・名声・財産・家族を失うとても危険な行為である。それなのに、どうして「買春と薬物」をするのだろう?
「必厳罰」をネカト対策の基本の1つに設定したが、プリアフィート学部長のような「買春と薬物」事件では抑制効果は少ない。もちろん、研修はもっと効果がない。「買春と薬物」が悪いことだと知らない人はいないからだ。
拙著・『科学研究者の事件と倫理』(講談社、2011年9月)で述べたように、プリアフィート学部長の「買春と薬物」行為の動機は以下の2つに当てはまる。
- 「狂気」……「悪い」「割に合わない」ことだと知っていても不正をする人がいる。
- 「研究者特殊観」……研究者だからといって「悪い」ことをしても許されることはないが、ゴールドシュタインやホッホハウザーが指摘したように、研究者は別格で特殊だという価値観をもつ研究者はかなり多い。
(拙著・『科学研究者の事件と倫理』(講談社、2011年9月))
プリアフィート事件では、「買春」はまだしも、「薬物」使用はもっと早く見つけることができた。
プリアフィート学部長が講演している動画で、口の中に薬物が写っていて、プリアフィート学部長がそれを飲み込んでいるシーンがある。「薬物」の常習を周囲は気が付いていたのに違いない。
プリアフィート学部長の「薬物」使用をもっと早く見つけ対処すべきだった。 → 「必見」
そして、動機は「狂気」や「研究者特殊観」なので、学術界から排除すべきだった。
Carmen A. Puliafito, M.D., Dean of Keck School of Medicine at USC, speaks at the USC Norris Comprehensive Cancer Center Gala at the Beverly Wilshire Hotel on Saturday, October 10, 2015 in Beverly Hills, Calif. (Photo: Alex J. Berliner/ABImages) via AP Images
《2》倫理度
カーメン・プリアフィート学部長は、「超優秀な研究者、パワフルな学部長」だった。
現代の研究者は研究論文の質と量でしか評価されない。質の良い論文を多く出版していれば、結果として多額の研究費を獲得できる。優秀な院生・ポスドク・研究員も多数集まってくる。学術的成功、昇進、研究費、メンツが得られる。
つまり、質の良い論文を多く出版してさえいれば、人間的に問題があっても、教授になれる。学部長になれる。いろいろな賞を受賞できる。ノーベル賞ももらえる。
研究者としてのキャリア・アップに、人格や人間性は問われない。
研究者だけでなく、政治家も「このハゲ~」「違うだろ!」と部下を罵倒する人が国会議員になっていた。森友学園・加計学園で平然と嘘をつく政治家や官僚が、クビにならないどころか栄転する。
現代の日本では、偉くなるということは、カネと権力を握ることであって、品格や人徳とは無縁である。イヤ、むしろ邪魔である。ない方が出世している。
しかし、今も、これからも、日本がこういう社会でいいのだろうか? 白楽はとても許容できない。
どうするといいのか?
拙著・『科学研究者の事件と倫理』(講談社、2011年9月)で述べたように、社会で偉くなるには倫理度という尺度でも評価すべきだろう。
研究者の評価に、東洋思想の「徳」「善」を1つの指標に加えた「倫理度」を導入するのはどうだろう。論文数、研究費獲得額とは別に「倫理度」でも研究者を評価する。いかに優れた論文を多数発表していても、いかに多くの研究費を獲得していても、「倫理度」が低いと、研究者として採用されないし、昇進できない。大学運営、学会役員、政府委員などにも採用されない。では、倫理度をどう決めるか? 研究成果、学歴とは無縁にし、「徳」「善」を中心に、社会への発信度も入れる。(拙著・『科学研究者の事件と倫理』(講談社、2011年9月))
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●8.【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Carmen Puliafito – Wikipedia
② 2017年7月17日のポール・プリングル(Paul Pringle)記者たちの「ロサンゼルス・タイムズ」記事:An overdose, a young companion, drug-fueled parties: The secret life of USC med school dean、(保存版)
③ カーメン・プリアフィート(Carmen A. Puliafito)に関する「ロサンゼルス・タイムズ」記事群:Search – Los Angeles Times
④ 2017年7月17日の「Daily Mail Online」記事:Carmen Puliafito’s double life revealed | Daily Mail Online、(保存版)
⑤ 2017年7月25日のプリャンカ・マックラスキィ(Priyanka Dayal McCluskey)記者の「Boston Globe」記事:Allegations that medical school dean led drug-fueled secret life reverberate in Boston – The Boston Globe、(保存版)
⑥ 2007年8月24日の「USC News」記事:Carmen Puliafito named new dean of the Keck School of Medicine | USC News、(保存版)
⑦ 2017年7月25日のアダム・ナーニー(Adam Nagourney)記者とジェニファー・メディナ(Jennifer Medina)記者の「New York Times」記事:At a Moment of Success, U.S.C. Is Rocked by Scandal – The New York Times、(保存版)
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
南カリフォルニア大学の医学生に話すプリアフィート学部長。写真出典。Photo by Les Dunseith
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