記事の改訂は、2021年頃まで待ちたい。(2020年6月5日追記)
2018年4月1日発足の英国の「UK Research and Innovation(UKRI)」が、2020年夏までに英国全体の研究公正委員会(Research Integrity Committee)を設立する。この研究公正委員会が英国の中心的な研究公正機関になると思われる。英国研究公正室(UK Research Integrity Office:UKRIO)とどのような関係になるのかわからない。動向を確かめたい。
- 2019年8月1日の記事:UK to set up research integrity committee to oversee misconduct investigations | Editage Insights
- 2020年2月19日の記事:UKRI to create Research Integrity Committee by Summer 2020 – UK Research and Innovation
ーーーーーーーー以下2014年7月10日掲載
米国・研究公正局は政府機関だが、英国のUKRIO(UK Research Integrity Office)は民間機関である。英国研究公正「局」すると、米国・研究公正局の英国版(つまり、政府機関)と勘違いするので、「室」とした。
●【英国研究公正室(UKRIO)の要点】
- 機関名:英国研究公正室(UK Research Integrity Office:UKRIO)
- 言語:英語
- 運営者:民間。慈善団体。理事長:マイケル・ファージング(Michael Farthing)。サセックス大学・学長
- 予算:£129,925≒2,209万円(2013年)
- スタッフ数:不明
- 本部:UKRIO, Sussex Innovation Centre, University of Sussex, Science Park Square, Falmer BN1 9SB, UK
- 連絡先:RIO@universitiesuk.ac.uk。
個人、機関代表が相談するサイト: http://www.ukrio.org/get-advice-from-ukrio/ - サイト:http://www.ukrio.org/
- ブログ:http://www.ukrio.org/category/research-integrity-blog/
- ツイッタ―:
- 設立:2006年
- 活動:研究規範に関して研究者個人及び研究機関を助力・支援する。研究行動規範の作成と普及。研究者個人及び研究機関からの相談にのる。
- 特徴:民間慈善団体で、政府機関ではない。行政的な規制や罰を課すことはできない。英国で同様な機能を果たす組織としては唯一
- 助力件数:2013年は80件以上
- 作業期間:2006年~現(2014年7月4日)。活動は9年、継続中
- ウィキペディア英語版:UK Research Integrity Office – Wikipedia
●【日本語サイトでの解説】
★ 松澤孝明の解説
科学技術振興機構の研究倫理・監査室の松澤孝明によると、以下のようだ(文献1、2014年2月)。
「英国研究公正局(UK Research Integrity Office: UKRIO)」は,もともと2006年に「英国大学協会」の主導のもとで,1つのプロジェクトとして設立された独立助言組織(Independent Advisory Body)であり,法的・行政的な権限をもたない。
UKRIOは,元来,健康・バイオメディカル分野を対象としているが,その勧告やガイドラインは他分野においても広く受け入れられている。
具体的なサービスとしては,
(1)「研究公正ヘルプライン(Research Integrity Helpline)」を開設し,研究機関等への助言や問い合わせに応じるほか,
(2)研究機関の研究不正調査委員会に外部有識者として参加できる専門家の登録(Register of Advisor),
(3)研究公正の教育・訓練,
などを行っている。
英国の特徴は,「分散化された(decentralized)国家研究公正システム」を採用していることである。すなわち,特定の組織に研究公正機能が集中しているのではなく,UKRIOのほか,研究評議会(Research Council UK: RCUK)25)や出版倫理委員会(Committee on Publication Ethics: COPE)など,複数の組織が研究公正の役割を担うことで,国家研究公正システムが成り立っている。
例えば,医学研究評議会(Medical Research Council)は研究公正に関する政策を最初に出版した研究評議会であり,1994年に発生したピアース事件を契機に,1995年に発表倫理のガイドライン,1997年に「不正行為の告発に関する処置方法と方針」(MRC Policy and Procedure for Inquiring into Allegations of Scientific Misconduct)をまとめている。また,1997年にはCOPEが設立され,不正事案の公表などが行われている。
このような研究公正を取り巻く多元的な環境の中で,UKRIOは国内的には各大学への専門的な支援,国際的には欧州レベルでの研究公正当局のネットワーク組織である欧州研究公正局ネットワーク(European Network for Research Integrity Offices: ENRIO)の設立(2008年)にイニシアティブを発揮するなど,存在感を高めつつある。
英国のもう1つの特徴は,研究資金の配分において,政府だけでなく,民間団体であるウエルカムトラストの役割が大きいことである。このため,デンマークとは対照的に,国家イノベーションシステム(NIS)の特徴が,規制的アプローチになじまない面があるといわれている。(文献1、2014年2月)
★ カレントアウェアネス・ポータル
「英国研究公正局、研究機関・研究助成機関向けの「研究における不正行為の調査手順」書を作成 | カレントアウェアネス・ポータル」によると以下のようだ。
英国研究公正局、研究機関・研究助成機関向けの「研究における不正行為の調査手順」書を作成
Posted 2008年9月17日
英国の独立機関、研究公正局(UKRIO)が2008年8月、
- 研究における不正行為が告発された際の完全・公平な調査を保証する
- 合意が形成されている標準プロセスを用いて調査することにより調査ミスを減らすことができることを例示する
- 大学・研究機関によって全国的に採用されている標準的な手順に従って調査が行われていることを被調査者に改めて保証する
の3点を目的とした、研究機関・研究助成機関向けの「研究における不正行為の調査手順」書を作成、公開しています。
UKRIO: Procedure for the Investigation of Misconduct in Research
なおこれを報じたPLoS Blogの記事によると、このような標準的な手順を作り、大学等に遵守を求めているものの、UKRIOは米国の研究公正局(ORI)などとは異なり、調査する権限や罰を科す権限を持っていないとのことです。
UK sets out guidance on research misconduct | Public Library of Science http://www.plos.org/cms/node/399
●【出版物を作成し配布】
★「研究行動規則(Code of Practice for Research)」。25ページ。
不正研究を防止し、模範的な研究行動を促進するための手引きである25ページの「UKRIO研究行動規則(UKRIO Code of Practice for Research)」を、2009年9月に公表した。現在、50以上の大学で採用されている。
オンライン版もある。無料。サイト:UKRIO » 1.0 Introduction
★「チェックリスト(Checklist for Researchers)」。1ページ。
模範的な研究行動の項目がリストされていて、研究の開始前に14項目、実施中に5項目、終了後に5項目、チェックするようになっている。
サイト:http://www.ukrio.org/wp-content/uploads/UKRIO-Recommended-Checklist-for-Researchers.pdf
うーん、こういうチェックリストって効果あるのだろうか? 単に、全部チェック入れるだけの気がする。
★「不正研究調査の手順(Misconduct Investigation Procedure)」。56ページ。
不正研究調査の手順の手引き書である。56ページの「不正研究調査の手順(Procedure for The Investigation of Misconduct in Research)」を、2008年8月に公表した。現在、50以上の大学で採用されている。
★「論文撤回のガイドライン(Guidance on Retractions)」。6ページ。
論文を撤回する基準や手順の手引き書である。6ページの「研究者のための学術誌論文の撤回手順(Guidance for researchers on retractions in academic journals)」を、2010年に公表した。
●【組織構成と職員】 UKRIO » Structure and Governance
★理事会(The Board of Trustees):最高議決機関。
理事は6人いて、戦略とプログラムを指図し監視する。
理事長:マイケル・ファージング(Michael Farthing、写真)。
英国研究公正室(UKRIO:UK Research Integrity Office)の理事長マイケル・ファージングは、サセックス大学・学長であり医学部・教授、英国総合医療委員会(General Medical Council: GMC)の委員である。それ以前、グラスゴー大学・医学部長、ロンドン大学セント・ジョージ医学部長、英国消化器病学会・会長、欧州消化器病学・内視鏡検査・栄養学会・会長、学術出版規範委員会「COPE」の創設議長などを歴任してきた。
★顧問(The Advisory Board)
理事6人+6人
★登録相談員(Register of Advisers):Register of Advisers
ボランティアで協力してくれる次のような専門家たち。
各分野の研究者。
研究機関の管理者・運営者。
学術出版の編集者。出版規範の専門家。
統計専門家。
規制機関・助成機関・専門団体の代表者。
研究規範の専門家。
研究ガバナンス管理官。
★事務局(The Office team)。
事務局長:ジェームス・パリー(James Parry)
理事会の管理、政策、研究、技術のサポートをする。また理事会の指示に従い、英国研究公正室のプログラムを実行する。
●【ワークショップ・年会の発表資料公開】
★ワークショップ(2014年4月1日)「Authorship: Promoting good practice and resolving disputes」
★2014年の年会での発表資料(UKRIO » UKRIO 2014 annual conference – 23 May 2014)。1例を挙げると、Professor Michael Farthing and James Parry:「MATERIALS FOR CASE STUDY WORKSHOP」
●【政府機関の研究公正局が必要?】
英国研究公正室は民間機関だが、米国・研究公正局と同じような政府機関が必要だと、英国政府は考えている。
2011年7月29日のJosh Howgegoの記事には以下のようだ(Josh Howgego 2011年7月29日「UK research needs an independent integrity body」)。
英国政府「House of Commons Science and Technology Select Committee」委員会は独立した研究不正対処部門が必要だと述べている。ただし、研究者はそんな部門は必要ないという。委員会の委員長を務めたアンドリュー・ミラー(Andrew Miller 、労働党)は、「研究不正はマレだけど、研究不正事件がマレに起こるだけで対処部門が必要な正当な理由になる」と言う。「システムが腐敗しているのではなく、一部のリンゴが腐敗しているだけで、腐敗したリンゴから他のリンゴをどう守るかというシステムが必要なんです」
委員会は各大学・研究機関に研究規範の担当者を1人おくべきだとも主張している。(Josh Howgego 2011年7月29日「UK research needs an independent integrity body」)
●【文献】
- 松澤孝明(2014):「諸外国における国家研究公正システム(2)特徴的な国家研究公正システムモデルの比較分析」、情報管理、56(11), 766-781, 2014。doi: 10.1241/johokanri.56.766 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.766)、2014年7月4日閲覧