2016年9月21日掲載。
ワンポイント:2016年に研究公正局から3年間の締め出し処分を受けたNIHポスドクのねつ造・改ざん事件。
【追記:2017年2月18日】
2017年2月18日現在、ハワード大学(Howard University)・基礎科学・解剖学科の助教授になっている(Unusual: Neurology removes author dinged for misconduct from 2016 paper – Retraction Watch at Retraction Watch)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】
アンドリュー・カリネイン(Andrew R Cullinane、写真出典)は、英国のバーミンガム大学で研究博士号(PhD)を取得し、米国・NIHのポスドクになった。専門はヒトゲノム学である。医師ではない。
2016年8月30日(31歳?)、発覚の経緯は不明だが、研究公正局が調査の結果、ねつ造・改ざんと発表した。
DNA二重らせんとデータ。Credit: Jonathan Bailey, NHGRI。写真出典
- 国:米国
- 成長国:英国
- 研究博士号(PhD)取得:英国のバーミンガム大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。2003年の大学入学時を18歳と仮定した
- 分野:ヒトゲノム学
- 最初の不正論文発表:2011年(26歳?)
- 発覚年:2016年(31歳?)
- 発覚時地位:米国・NIH・ポスドク、ハワード大学・助教授
- ステップ1(発覚):投稿原稿での不正も指摘されているので、第一次追及者は研究主宰者かまたは同じ研究室員だと思われる。所属がNIHなので、研究公正局に公益通報した
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①研究公正局
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:2出版論文、1投稿原稿
- 時期:研究キャリアの初期から
- 結末:解雇
●2.【経歴と経過】
主な出典:Andrew R Cullinane | LinkedIn
- 生年月日:不明。仮に1985年1月1日生まれとする。2003年の大学入学時を18歳と仮定した
- 2003年 – 2006年(18 – 21歳?):英国のバーミンガム大学(University of Birmingham)を卒業。専攻:医科学。
- 2006年 – 2009年(21 – 24歳?):英国のバーミンガム大学(University of Birmingham)で研究博士号(PhD)を取得した。専攻:医学分子遺伝学。
- 2010年?(25歳?):米国・NIH・National Human Genome Research Institute (NHGRI)・ポスドク
- 2015年(30歳?):米国のハワード大学(Howard University)・助教授
- 2016年8月30日(31歳?):研究公正局が調査の結果、ねつ造・改ざんと発表した
●5.【不正発覚の経緯と内容】
2010年? (25歳?)、アンドリュー・カリネインは英国のバーミンガム大学(University of Birmingham)で研究博士号(PhD)を取得し米国・NIH・National Human Genome Research Institute (NHGRI)・医学遺伝部(Medical Genetics Branch)のポスドクに来た。ボスは、医学遺伝部長でかつNHGRI臨床担当所長であるウィリアム・ガール(William A. Gahl、写真出典)である。
2016年8月30日、研究公正局は、カリネインの2出版論文、1投稿原稿にデータねつ造・改ざんがあったと発表した(【主要情報源】①)。
- Am. J. Hum. Genet. 88(6):778-787, 2011 (出版論文 1)
- Neurology 86(14):1320-1328, 2016 (出版論文2)
- “RAB11FIP1, Mutated in HPS-10, Interacts with BLOC-1 to Mitigate Recycling of Melanogenic Proteins.” Submitted for publication to The Journal of Clinical Investigations, Cell, Nature Biology, Molecular Cell, and Nature Genetics (投稿原稿1)
研究公正局は以下の点を不正とした。
- 出版論文 1:図3Cで、繊維芽細胞とメラノサイトのPLDN発現(PLDN in fibroblasts and melanocytes)に同じ画像を使用した。
- 出版論文 2:図2Aにねつ造。改ざん。元データにはLYST/CHD-4バンドがあったのに、バンドを消した。
- 投稿原稿1:図2B, 2D, 2E, 3A-C, 4C, 4E, 4G, 5B, 6A-C, 7A, 7D, 7G, 7J と補助図3のウェスタン・ブロット画像を別の実験データとして再利用、再ラベル、重複、加工をした。また、図1D, 7C, 7F, 7I, 7Lと補助図2の遠心管の画像を別の実験データとして再利用、再ラベルした。
★「2011年のAm J Hum Genet.」論文
研究ネカトと指摘された2出版論文のうちの1つ「2011年のAm J Hum Genet.」論文を閲覧してみよう。
- A BLOC-1 mutation screen reveals that PLDN is mutated in Hermansky-Pudlak Syndrome type 9.
Cullinane AR, Curry JA, Carmona-Rivera C, Summers CG, Ciccone C, Cardillo ND, Dorward H, Hess RA, White JG, Adams D, Huizing M, Gahl WA.
Am J Hum Genet. 2011 Jun 10;88(6):778-87. doi: 10.1016/j.ajhg.2011.05.009. PMID:21665000
研究公正局は以下の点を不正とした。
図3Cで、繊維芽細胞とメラノサイトのPLDN発現(PLDN in fibroblasts and melanocytes)に同じ画像を使用した。
図3C(図3全体の左下)の繊維芽細胞とメラノサイトのPLDN発現(PLDN in fibroblasts and melanocytes)は、最上段(PLDN1)のバンドが指摘されれば、確かに、酷似している。安易な重複利用をしたもんだ。画像の不正利用の検出は比較的容易だったろう。
●6.【論文数と撤回論文】
2016年9月20日現在、パブメド(PubMed)で、アンドリュー・カリネイン(Andrew R Cullinane)の論文を「Andrew R Cullinane [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2007~2016年の10年間の21論文がヒットした。
2016年9月20日現在、撤回論文はない。ただ、研究公正局の報告書では問題の2出版論文は撤回されることになっている。いずれ、撤回されるだろう。
●7.【白楽の感想】
《1》国際ネカト調査
NIHポスドクの研究ネカトが発覚した。しかし、研究公正局が調査した論文は、NIHから発表した論文だけだ。カリネインは英国のバーミンガム大学で24歳で博士号を取得し、その後そこで研究し、29歳になってNIHポスドクに来た。
NIHポスドクになる前の英国のバーミンガム大学での論文は、研究公正局は調査しない。
しかし、状況から判断して、ネカト癖はバーミンガム大学で身につけたと思われる。バーミンガム大学でも調査が必要だ。所属機関や所属国だけでの研究ネカト調査では、ネカトの原因や有効な改善策が見いだせにくい。所属機関や所属国を越えた国際ネカト調査システムが必要だ。
●8.【主要情報源】
① 2016年8月30日、研究公正局の報告:Federal Register :: Findings of Research Misconduct、またはNOT-OD-16-145: Findings of Research Misconduct
② 2016年8月30日、ダルミート・チャウラ(Dalmeet Singh Chawla)の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former NIH postdoc doctored data – Retraction Watch at Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。