文化学:レイチェル・ドレザル(Rachel Dolezal)(米)

ワンポイント:白人なのに黒人と詐称したが研究内容での研究ネカトはない

【概略】
1294118526025711275レイチェル・ドレザル(Rachel Dolezal、写真出典)は、米国・イースタン・ワシントン大学(Eastern Washington University)・アフリカ研究プログラムの非常勤講師で、専門は文化学(アフリカ文化)だった。また、全米黒人地位向上協会(NAACP)のワシントン州スポケーン市の支部長だった。

2015年(37歳)、黒人と称していたが家族により白人であることが暴露された。

本ブログは研究ネカト中心なので、人種詐称を研究者の経歴詐称(ねつ造・改ざん)の立場で扱った。事件は研究のねつ造・改ざん・盗用とは無関係だった。

3a64e89米国・イースタン・ワシントン大学(Eastern Washington University)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:米国
  • 研究博士号(PhD)取得:なし
  • 男女:女性
  • 生年月日:1977年11月12日
  • 現在の年齢:47 歳
  • 分野:文化学
  • 最初の不正論文発表:不正論文を発表していない
  • 発覚年:2015年(37歳)
  • 発覚時地位:米国・イースタン・ワシントン大学の非常勤講師
  • 発覚:家族の暴露
  • 調査:①マスメディア
  • 問題:人種詐称
  • 不正論文数:0報
  • 時期:キャリアの初期から
  • 結末:辞職

【経歴と経過】

  • 1977年11月12日:モンタナ州で生まれる
  • 2000年(22歳):ミシシッピー州のベルヘブン大学(Belhaven University)を卒業。学士号
  • 2002年(24歳):ワシントンDCのハワード大学大学院で美術の修士号取得
  • 2005-2013年(27-35歳):ノース・アイダホ大学(North Idaho College)・講師
  • 2010年(32歳):イースタン・ワシントン大学(Eastern Washington University)・アフリカ研究プログラムの非常勤講師
  • 20xx年(xx歳):全米黒人地位向上協会(NAACP)のワシントン州スポケーン市の支部長
  • 2015年(37歳):人種詐称が発覚する.。全米黒人地位向上協会の支部長辞職。イースタン・ワシントン大学・非常勤講師辞職

【不正発覚の経緯と内容】

★ 盗用?

2015年6月、ドレザルの絵「The Shape of Our Kind」はターナーの1840年の作品「The Slave Ship」の盗用だと訴えられた。(Rachel Dolezal faces claims that her ARTWORK is plagiarized | Daily Mail Online

以下の左図がドレザルの作品で、右図がターナーの作品である(出典)。
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両者は良く似ている。つまり、ドレザルの絵はターナーの「盗作」である。ただ、絵画の場合、「他者の作品を忠実に再現し、あるいはその作風を写し取ることでその作者の意図を体感・理解する」(模写 – Wikipedia)のは、「いけないこと」とはされていない。むしろ絵画を学ぶために模写を積極的に勧めている。だから、ドレザルの絵を「盗作」だと非難するのはあたらないだろう。

★経歴詐称

白人の女性が黒人と受け取られるような行為をしたが、ウソをついてはいない(ように思える)。周囲が、ダマされたと感じ非難した。それで、地位と名声を失った。

人種詐称(もどき)なので経歴詐称と分類したが、就職の際に提出する履歴書に人種を記載しないので経歴詐称というのも若干ヘンである。そもそも、人種をどう証明するのか?

ドレザル本人は黒人と称し(気持ちの上で)、周囲もドレザルを「黒人と勝手に思って」扱った。

ハワード大学大学院(黒人向けの大学)に入学し、美術の修士号を取得した。2年後、ノース・アイダホ大学(North Idaho College)の講師に就任し、8年間勤めた。

2010年(32歳)、イースタン・ワシントン大学のアフリカ研究プログラムの非常勤講師になって、「黒人女性闘争(The Black Woman’s Struggle)」、「アフリカ美術史とアフリカ系アメリカ美術史(African and African American Art History)」、「アフリカ史(African History)」、「アフリカ系アメリカ文化(African American Culture)」、「アフリカ研究序論(Intro to Africana Studies)」を教えた。また、全米黒人地位向上協会(NAACP)のワシントン州スポケーン市の支部長になった。

大学院入学とその後の活動では、周囲から「黒人と思われて」の活動であり、本人も黒人のように振る舞った。

それが、2015年のある日、家族関係のゴタゴタから、母親が、白人の両親から生まれた白人だとマスメディアに暴露した。

マスメディアがスキャンダルとして大騒ぎをしたのである。

★【動画】
「黒人になりすました白人女性!レイチェル・ドレザル氏 – YouTube」(日本語)29秒。
susumu tanakaが2015/06/17 に公開

★日本語解説

日本語の解説記事が十分にある。それらを修正引用する。

① 2015年6月15日のCavan Sieczkowskiの「Huffington Post」記事:
全米黒人地位向上協会の女性支部長、実は白人だった 2006年頃から黒人を騙る
② 2015年6月16日のLilly Worknehの「Huffington Post」記事:
自らを黒人と偽っていた白人のドレザル氏「今後も人権を守るために戦い続ける」
③ 2015年6月17日のLilly Worknehの「Huffington Post」記事:黒人と名乗った白人のドレザル氏、ニュース番組で語った心境とは
④ 2015年6月16日の「産経ニュース」記事:黒人装い続けた白人女性が団体支部長を辞任「何のため?」 白人警官追及の急先鋒 – 産経ニュース
⑤ 2015年6月16日の「ライブドアニュース」記事:ドレザル氏が全米黒人地位向上協会の支部長辞任 白人疑惑で物議 – ライブドアニュース

以下は、上記の記事から修正引用した。

全米黒人地位向上協会(NAACP)ワシントン州スポケーン市の女性支部長レイチェル・ドレザル氏(37)が、白人にもかかわらず長年黒人女性と偽っていたと、彼女の家族がメディアに暴露し、騒然となっている。

レイチェル氏は、イースタン・ワシントン大学アフリカ研究プログラムの非常勤講師として勤務している。また彼女は、「アメリカ内陸北西部の最も著名な人権活動家の一人」と言われている。

地元紙「スポークスマン・レビュー」によると、彼女はスポケーン市警察のオンブズマン委員会の委員長で、彼女の履歴書には、白人、黒人、インド系として記載されていた。また、彼女は、アメリカに住む黒人であることについて、地元紙「インランダー」のサイト上でブログを数多く投稿している。

しかし、彼女の家族は、彼女は実はヨーロッパ系の白人女性だと明かした。彼女の子供の頃の写真には、明らかにブロンド、白人の子供が写っている。

主に黒人が通うハワード大学を受験した。その際に、「黒人の肖像画ばかり」提出していた。ハワード大学は「黒人女性と思い込んで」入学を認め、彼女は全額支給奨学金を受給していた。

全米黒人地位向上協会(NAACP)のワシントン州スポケーン支部の支部長を務めてきた白人のレイチェル・ドレザル氏が、2015年6月15日の朝にスポケーン支部のフェイスブックで辞任を発表した。

しかし、今でもドレザル氏は「自分は黒人だ」と答えており、今後もマイノリティーために活動していくと述べている。

NAACPはドレザル氏の辞任の数時間後に声明を出し「NAACPはドレザル氏の人種について憂慮しておらず、彼女のNAACPへの貢献に目を向けたい」と発表した。

ドレザル氏は、自分が人を騙しているかのように思われているのは心外であり、「よく日光を浴びるが、パフォーマンスとして顔を黒くしているわけでは断じてない」と話す。

なぜ彼女は自分の人種を偽って黒人だと名乗ったのだろうか? 彼女は黒人として人種平等を訴える活動をし、成功をおさめてきた。そのため、彼女が黒人になったのは自分自身の活動を成功させ、黒人社会との繋がりを強めるためではないかと言われている。

もし白人女性として活動していても同じように成功できただろうかと尋ねられると、ドレザル氏は「そういう経験をする機会がなかったので、分かりません」と答えたが、もし全てをやり直すことができたらどうするかという質問に対しては「全く同じ選択をすると思う」と答えた。

★写真で判断

出典:https://inlandnw.wordpress.com/2015/06/14/rachel-dolezals-chameleon-appearance-over-time-in-photos/

中・高校生(?)の頃はれっきとした白人である。
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2000年(22歳)、それが、上記で引用したように「ハワード大学は「黒人女性と思い込んで」入学を認め、彼女は全額支給奨学金を受給していた」。つまり、ハワード大学大学院に入学するときは黒人とみなされる状況で入学した。

2000年(22歳)、結婚式の写真(以下)では両親もいるし、白人として写っている。新郎は黒人。
rachel-dolezal-white2000年、ドレザルとアフリカ系アメリカ人のケヴィン・ムーア(Kevin Moore)との結婚式。新郎の左が母親、ドレザルの右が父親。前列の黒人の3人の子供はドレザルの両親が養子にした子供たち。ケヴィン・ムーアとは2004年に離婚している。写真出典Photo: Splashnews

2015年(37歳)、人種詐称と非難された時、外観は黒人のように「幾分」見える。
12941185260257112752015年初期ーSpokane NAACP “About” page

【論文数と撤回論文】

2015年6月17日、パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、レイチェル・ドレザル(Rachel Dolezal)の論文を「Rachel Dolezal [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、1論文もヒットしなかった

グーグル・スカラー(http://scholar.google.co.jp/schhp?hl=ja)で、レイチェル・ドレザル(Rachel Dolezal)の論文を「author ”Rachel Dolezal”」で検索すると、25論文がヒットした。しかし、これらは、ドレザルが著者ではなく、ドレザルを対象にした論文だった。

【白楽の感想】

《1》大騒ぎするほど悪いか?

データねつ造・改ざんとは異なり、今回の人種詐称で、大学の非常勤として教育していた内容に問題が生じわけではない。研究論文を発表していない。もし類似の発表があっても、研究結果にねつ造・改ざんがあったことが非難されたわけではない。知的所有権の侵害もない。不当に研究費を得てもいない。非常勤講師のポストは、他の人の可能性を奪ったかもしれないが、履歴書に黒人と書いたわけではないし、雇用条件に黒人と人種を資格としていたわけではない。

つまり、学術界の信頼を裏切る行為は全くなかった。

ただ、世間の信頼を裏切ったということなのだろう。

日本で例えると、姿やメイクでアイヌ系に似せて、アイヌ系の血が混じった子孫だと他人に思わせ、北海道大学で非常勤講師としてアイヌ民俗学の講義をした。さらに、北海道アイヌ協会のような組織の幹部になるというレベルだろう。

それが、悪いかといわれると、いいとは思えないが、大騒ぎするほど悪いこととは思えない。

《2》事件の深堀

この事件は裏がある。

レイチェル・ドレザルは、

全米で多発している黒人に対する白人警察官らの過剰な暴力行為を批判する活動では最前線に立ち、米北西部のアフリカ系社会の中心的な存在だった。(黒人装い続けた白人女性が団体支部長を辞任「何のため?」 白人警官追及の急先鋒 – 産経ニュース

ドレザルの白人警察官の批判が強力だったので、ドレザルを排除したい巨大な官憲勢力がいたに違いない。

人種詐称に近い言動をとらえ、家族に白人だと言わせ、スキャンダルとして大騒ぎすることで、ドレザルを失脚させたのだろう。

人種詐称と騒いだ同じ2015年に絵画の盗用も騒いでいる。つまり、ドレザルの攻撃材料をさぐり、灰色(シロ?)をクロと騒いだのだ。イヤ、クロではないシロだと騒いだのだ(肌の色)。絵画は不発に終わったが、人種詐称での攻撃は成功したわけだ。

《3》人種詐称

人種詐称は経歴詐称レベルの罪なのだろうか?

人種がわかりにくいので、人種を人間の外見と置き換えよう。

美容整形で芸能界のスターになる人が多いので、これは罪ではないですね。

では、美容整形とメイクで知的な顔(あるいは、美女・イケメン)になりそれで研究職を得、学術界で昇進した。本人は周囲をだますつもりはなかった。周囲が勝手に判断した。これは「いけないこと」だろうか?

FILE - In this July 24, 2009, file photo, Rachel Dolezal, a leader of the Human Rights Education Institute, stands in front of a mural she painted at the institute's offices in Coeur d'Alene, Idaho. Dolezal, now president of the Spokane, Wash., chapter of the NAACP, is facing questions about whether she lied about her racial identity, with her family saying she is white but has portrayed herself as black. (AP Photo/Nicholas K. Geranios, File)
FILE – In this July 24, 2009, file photo, Rachel Dolezal, a leader of the Human Rights Education Institute, stands in front of a mural she painted at the institute’s offices in Coeur d’Alene, Idaho. Dolezal, now president of the Spokane, Wash., chapter of the NAACP, is facing questions about whether she lied about her racial identity, with her family saying she is white but has portrayed herself as black. (AP Photo/Nicholas K. Geranios, File)

【主要情報源】
① ウィキペディア英語版:Rachel Dolezal – Wikipedia, the free encyclopedia
② 2015年7月19日、アリソン・サミュエルス(Allison Samuels)の「サンデー・タイムズ」記事:An Interview With Rachel Dolezal: “It’s not a costume” | Vanity Fair
★ 記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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たっちゃん
たっちゃん
2020年6月8日 8:48 PM

レイチェルのやった事って交通事故で家族を殺されたの被害家族の振りをして、加害者から保険金和解金もらったりしたりする事に似てるのかも?実際の被害者ではないのに利益を得てる。

人種アイデンティティを盗用してアフリカ系のコミュニティで自分の地位を上げた人がいたら、それがアフリカ系の地位向上の為の活動だったとしても築かれた地位がアフリカ系を踏み台にしているのである意味差別を肯定して利用してるとも取れますね。

人種差別と言う価値観が社会に巣食って死んだり不当な評価を受ける人がいるアメリカで、それを考えずに実質的な損失ないんだから良いでしょにはならない結果だと思いますよ。