経済学:ハーリド・ザマン(Khalid Zaman)(パキスタン)

ワンポイント:査読偽装は珍しいし、パキスタンの研究者も珍しい

【概略】
Khalid Zamanハーリド・ザマン(Khalid Zaman、写真出典)は、パキスタンのコムサット情報技術工科大学(COMSATS Institute of Information Technology)・助教授で、専門は経済学だった。

2014年(39歳?)、エルゼビア社(Elsevier)が、ザマンの査読偽装を見つけた。ザマンも認めた。

撤回論文数は16報で、撤回論文数の世界ランキング第22位である(2015年10月20日現在:研究者の事件ランキングThe Retraction Watch Leaderboard – Retraction Watch at Retraction Watch)。

isb1パキスタンのコムサット情報技術工科大学(COMSATS Institute of Information Technology)。写真出典

  • 国:パキスタン
  • 成長国:パキスタン
  • 研究博士号(PhD)取得:パキスタンのプレストン大学(Preston University
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1975年1月1日とする。
  • 現在の年齢:49歳?
  • 分野:経済学
  • 最初の不正論文発表:
  • 発覚年:2014年(39歳?)
  • 発覚時地位:コムサット情報技術工科大学・助教授
  • 発覚:エルゼビア社編集部
  • 調査:①エルゼビア社編集部。2014年8月~2014年12月
  • 不正:査読偽装
  • 不正論文数:少なくとも撤回論文16報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:辞職(解雇?)

【経歴と経過】
不明点多し

  • 生年月日:不明。仮に1975年1月1日とする。多分、パキスタンで生まれる
  • xxxx年(xx歳):xx大学を卒業
  • 2002年?(27歳?):パキスタンのプレストン大学(Preston University)で研究博士号(PhD)取得。経済学
  • xxxx年(xx歳):パキスタンのコムサット情報技術工科大学(COMSATS Institute of Information Technology)・助教授。経済学
  • 2014年秋(39歳?):論文の査読偽装が発覚した
  • 2014年12月26日(39歳?):コムサット情報技術工科大学を解雇された

【不正発覚の経緯と内容】

2012年頃、エルゼビア社(Elsevier)は、査読偽装という学術論文の不正を防ぐための方策を練りだした。そして、査読偽装をチェックする専門のスタッフを雇った。

2014年8月(39歳?)、エルゼビア社(Elsevier)は、ザマンの論文が査読偽装ではないかと疑念を抱いて調査を始めた。投稿論文の査読者としてザマンが示していた連絡先は、大学・研究機関ではないフリーアドレスだったからである(Publishing: The peer-review scam : Nature News & Comment)。

elsevier-logoエルゼビア社(Elsevier)のロゴ。”Elsevier” by „Isaac Elzevir entwarf um 1620 das heute noch genutzte Markenzeichen der Firma“ – vektorisiert von Benutzer:Gaspard. Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ –

2014年12月19日の「論文撤回監視(Retraction Watch)」の記事によると、エルゼビア社(Elsevier)は3つの学術雑誌に掲載されたハーリド・ザマン(Khalid Zaman)の16論文を査読偽装があったという理由で撤回した。ザマン自身も単独犯の不正を認めていて、論文の共著者には責任がないと述べた。

7日後の2014年12月26日(39歳?)、コムサット情報技術工科大学はザマンを解雇した。

さらに10日後の2015年1月5日(40歳?)、「論文撤回監視(Retraction Watch)」のキャット・ファーガソン記者(Cat Ferguson)は、ザマンが就職先を探している手紙を見つけ、履歴書と共に記事にした。2015年1月5日時点ではザマンの履歴書を閲覧できたが、2015年10月20日現在は閲覧できない。

就活の書類には、以下のことなどが記載されていた。

  • コムサット情報技術工科大学を含め11年の研究経験がある
  • 183論文を出版している

キャット・ファーガソンはザマンにいくつかの質問をした。ザマンはその質問に答えないで、「今は、私には他の研究者からの温かい支援が必要な時です。そして、もう私のことを記事に書かないでください」と返事が来た。

キャット・ファーガソンの2015年1月5日の記事には、賛否両論のたくさんのコメントが付いた。

研究ネカトをした人も生活し、生きなくてはならない。再就職を阻害するような記事は倫理の一線を越えているという批判的な人たちがいた。

一方、ザマンは研究ネカト違反したのに、反省もせず、再び、学術研究界に職を求めている。もし、査読偽装を知らずに彼を採用したら、その大学は不幸だし、彼が学術研究界にいること自体が学術界の信用を落とす。だから、このような行為を追跡し、公表し、関係者に知らせることは重要だ、という賛成派に別れた。

★コムサット情報技術工科大学

研究ネカトとは別件だが、パキスタン政府はこの件を含めてコムサット情報技術工科大学にご立腹で、新しいプロジェクトを拒否したと、2015年6月29日に報道された(Government rejects COMSATS’s new projects over allegations of mismanagement and misuse of funds)

★女子学生へのセクハラ

研究ネカトとは別件だが、ハーリド・ザマン(Khalid Zaman)が女子学生へセクハラしているとする動画が2012年9月に投稿された。
【動画】
Comsats teacher Khalid zaman – YouTube
2012/09/06 に公開

【論文数と撤回論文】

2014年12月19日の「論文撤回監視(Retraction Watch)」によると、エルゼビア社(Elsevier)は3つの学術雑誌に掲載されたハーリド・ザマン(Khalid Zaman)の以下の16論文を撤回した。

Economic Modelling

  1. The relationship between foreign direct investment and pro-poor growth policies in Pakistan: The new interface
  2. The relationship between financial indicators and human development in Pakistan
  3. The relationship between agricultural technologies and carbon emissions in Pakistan: Peril and promise
  4. Distributional effects of rising food prices in Pakistan: Evidence from HIES 2001–02 and 2005–06 survey
  5. Effect of oil prices on trade balance: New insights into the cointegration relationship from Pakistan
  6. Exchange rate pass-through in to inflation: New insights in to the cointegration relationship from Pakistan
  7. The consequences of revenue gap in Pakistan: Unveiling the reality
  8. The relationship between growth–inequality–poverty triangle and pro-poor growth policies in Pakistan: The twin disappointments
  9. The relationship between growth and poverty in forecasting framework: Pakistan’s future in the year 2035
  10. The relationship between audit committees, compensation incentives and corporate audit fees in Pakistan
  11. Foreign exchange risk in a managed float regime: A case study of Pakistani rupee
  12. Impact of foreign political instability on Chinese exports

Renewable Energy

  1. Modeling the causal relationship between energy and growth factors: Journey towards sustainable development
  2. Questing the three key growth determinants: Energy consumption, foreign direct investment and financial development in South Asia

Renewable and Sustainable Energy Reviews

  1. Factors affecting commercial energy consumption in Pakistan: Progress in energy
  2. Causal links between greenhouse gas emissions, economic growth and energy consumption in Pakistan: A fatal disorder of society

ハーリド・ザマン(Khalid Zaman)の就活では11年間で183論文を出版しているとあった。エルゼビア社(Elsevier)は学術論文の不正にしっかり対処していると思える。そのエルゼビア社は16論文を撤回したが、ザマンの他の183論文は大丈夫なのだろうか? 多くは査読偽装ではないのだろうか?

【白楽の感想】

《1》パキスタン

パキスタンの生命科学研究の学術レベルは世界ではほぼ無視されるほど無力である。しかし、パキスタンにも大学はあり、優秀な研究者はいるに違いない。ただ、パキスタンの経済学が世界のどの程度なのか、白楽には想像がつかない。

そして、パキスタンの研究倫理観がどの程度なのかも白楽には想像がつかない。

イスラム圏の文化は戒律が厳しい印象がある。だから、研究倫理観は、欧米先進国より高いのかもしれない。しかし、女子学生へのセクハラがユーチューブにアップされている。ハーリド・ザマン(Khalid Zaman)だけでなく、コムサット情報技術工科大学の教員の多くがセクハラしていると訴えている。真偽はわからないが、研究倫理観は、欧米先進国よりかなり低いのかもしれない。

《2》査読偽装

査読偽装という新手の不正研究では2012年に発覚した「ヒュンイン・ムン(Hyung-In Moon)(韓国)」が有名である。

この手口は新しいので、これからも、まだ発覚するかもしれない。

査読偽装をする研究者が悪いのは当然だがしかし、ある意味、査読偽装は学術雑誌編集部の手落ちだと思う。「hotmail」などのアドレスの研究者に査読を依頼するのはおかしい。少し考えればわかりそうなものだ。大学・研究機関のメールアドレスを基本とするのが当然でしょう。

そういえば、ヒラリー・クリントンも公的アドレスではなく私的アドレスを使用して問題視されたが、政治家の場合、公的・私的どちらのメールアドレスでも盗視される可能性は(かなり)あるでしょうね。

【追記】
2015年10月29日

「撤回監視(Retraction Watch)」の2015年10月28日の記事によると、生命科学の学術雑誌が、大学・研究所以外のメールアドレスを査読者には認めないとした。
Biology journal bans plagiarizers, reviewers with non-institutional email addresses – Retraction Watch at Retraction Watch

【主要情報源】
① 「撤回監視(Retraction Watch)」記事群:You searched for Khalid Zaman – Retraction Watch at Retraction Watch
★ 記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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