ワンポイント:スーパースター美女のデータねつ造事件だが脅迫もあり
●【概略】
ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez、写真出典)は、トルコ出身で、ドイツのゲッチンゲン大学で博士号を取得し、米国のタフツ大学・医学大学院(Tufts University School of Medicine)・神経科学科の助教授だった。専門はアルツハイマー病の分子生物学である。医師ではない。
スター大学(マサチューセッツ工科大学/タフツ大学)のスター研究室(レオナルド・ガレンテ教授、1991年長寿遺伝子を発見)出身で、30代前半でいくつもの賞を受賞しメディアでもてはやされたスーパースター美女研究者が起こした事件。
2013年8月(35歳)、匿名の公益通報により、2012年論文のデータ不正が指摘され、最初の論文撤回をした。
データ不正を指摘したサイトの運営者を弁護士を通して法的に脅迫した。
- 国:米国
- 成長国:トルコ
- 研究博士号(PhD)取得:ドイツのゲッチンゲン大学
- 男女:女性
- 生年月日:1978年頃。仮に、1978年1月1日とする
- 現在の年齢:46 歳?
- 分野:神経科学
- 最初の不正論文発表:2004年(26歳)
- 発覚年:2013年8月(35歳)
- 発覚時地位:タフツ大学・医学大学院(Tufts University School of Medicine)・神経科学科の助教授
- 発覚:「サイエンス・フラウド(Science-Fraud)」の指摘
- 調査:①「サイエンス・フラウド(Science-Fraud)」とポール・ブルックス。②タフツ大学・調査委員会? ③研究公正局?
- 不正:ねつ造・改ざん
- 不正論文数:4報。2報撤回。
- 時期:研究キャリアの初期から
- 結末:辞職
ボストンのトルコ系生物学者コロキウムで講演(33歳)。写真出典
●【経歴と経過】
主な出典(Gizem Donmez – Address, Phone, Public Records – Radaris)。
- 生年月日:1978年頃。仮に、1978年1月1日とする。トルコで生まれる。
- 1996 – 2000年(18 – 22歳):トルコ・アンカラの中東工科大学(Middle East Technical University)を卒業。分子生物学/遺伝学
- 2000 – 2007年(22 – 29歳):ドイツのゲッチンゲン大学(Georg-August-Universität Göttingen)で、研究博士号(PhD)取得。実際はマックスプランク生物物理化学研究所(Max Planck Institute of Biophysical Chemistry)のラインハルト・リーマン(Reinhard Lührmann、写真出典)研究室で研究。分子生物学/生化学
- 2007 – 2011年(29 – 33歳):マサチューセッツ工科大学・レオナルド・ガレンテ教授(Leonard Guarente)研究室・ポスドク
- 2011年10月(33歳):タフツ大学・医学大学院(Tufts University School of Medicine)・神経科学科の助教授
- 2013年(35歳):不正研究が発覚する
- 2014年10月16日(36歳)以前:タフツ大学を辞職
デンメズがポスドクで4年間過ごしたマサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ教授(Leonard Guarente)。受賞歴::Miami Winter Symposium, Feodor Lynen Award 2012、University of Toronto, Charles H. Best Lectureship and Award 2011、Dart/NYU Biotechnology, Achievement Award 2009、French Academie des Sciences, Elected 2009、American Academy of Arts and Sciences, Fellow 2004。 写真出典
★ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez)の受賞・称賛
- Charlton Research Grant
- 2012年(34歳) New Scholar Award in aging | The Ellison Medical Foundation
- 「アメリカの技術革新と移民」の4人の1人。右まわり、アインシュタイン、著名な投資家のFaysal Sohail、グーグル共同設立者のセルゲイ・ブリン(Sergey Brin)、そして科学者のギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez)。アインシュタインと並ぶ人物とはえらく称賛されたもんだ。
写真Credits: NYWT&S; Max Austin; James Duncan Davidson/O’Reilly Media; Gizem Donmez
The Potential of Science Diasporas | Science & Diplomacy - 30代前半の若さで「Journal of Molecular and Genetic Medicine」の編集員:Editors & Editorial Board | Journal of Molecular and Genetic Medicine | Open Access | OMICS Group
- トルコのテレビ番組(?)で紹介されている GTU IEEE Öğrenci Kolları
ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez)。同姓同名の別人?
写真出典
●【不正の内容】
以下は、ロチェスター大学教授・ポール・ブルックス(Paul Brookes 写真出典)の鋭くかつ精力的な分析と活動結果(「サイエンス・フラウド(Science-Fraud)」)を転用した(Our broken academic journal corrections system | PSBLAB)。
2012年秋、タフツ大学は、デンメズの以下の3論文のデータに疑念を抱いた。
- Neurosci. 2012;32;124-32; PMID22219275
- J. Biol. Chem. 2012;287;32307-32311; PMID22898818
- Cell 2010;142;320-332; PMID20655472
以下は、2つ目の「J. Biol. Chem. 2012年論文」でのデータねつ造点を述べる。
他の2論文もほとんど同じデータねつ造をしている。なお、ブルックスの「サイエンス・フラウド(Science-Fraud)」サイトでは、ブルックスの論文不正の指摘に対して、出版編集員の無能な対応ぶりが浮き彫りにされている。
★J. Biol. Chem. 2012年論文
2013年5月、ブルックスの「サイエンス・フラウド(Science-Fraud)」サイトでデータ不備を指摘されたデンメズは図2Dの訂正をした。しかし、訂正した図2Dのバンドは、依然として同じバンドを2つの別の試料のデータに使用していて、明らかにねつ造である。
同様に、訂正した図3Aのバンドは、依然として同じバンドを2つの別の試料のデータに使用していて、明らかにねつ造である。
さらに同様に、訂正した図3Eのバンドも依然として同じバンドを2つの別の試料のデータに使用していて、明らかにねつ造である。
2013年7月24日、デンメズは、訂正した図にもねつ造が指摘され、「J. Biol. Chem. 2012年論文」を撤回した。
そして、指摘した人に脅迫のメールを送った。
●【脅迫】
2013年7月24日、「J. Biol. Chem. 2012年論文」を撤回した日に、デンメズは、弁護士を通じて、「サイエンス・フラウド(Science-Fraud)」の匿名運営者・ポール・ブルックス(Paul Brookes)を脅迫したとされている。
脅迫文は以下であるが、文章には「脅迫」という強いオドシ感はない。ただ、法律事務所を通して「裁判に訴えます」という文章を送付する事自体は、学者仲間の学術的議論の枠を越えるので、ブルックスにとって法的「脅迫」と感じたのだろう。
―――
わが法律事務所は、タフツ大学の若い教授・ギゼム・デンメズ博士(Gizem Dönmez)の代理人である。あなたは、ポール・ブルックス(Paul Brookes)の法律事務所と私たちは理解しております。
ブルックス氏は、ここ数か月ギゼム・デンメズ博士にハラスメントをしております。初期の頃のハラスメントはウェブサイト「サイエンス・フラウド(Science-Fraud)」で匿名で行なっていました。最近は、デンメズ博士の所属学科長、ジャーナル、研究助成機関、デンメズ博士の旧教授に匿名の電子メールを送付しておりました。これらの電子メールで非難した件を当該大学が詳細に検討した結果、不正研究はなかったと結論しております。
(中略)
ブルックス氏は才能ある将来を嘱望された科学者(ギゼム・デンメズ博士)のキャリアを意図的に破壊しており、残念ながらその攻撃が現在も続いております。
ブルックス氏の非難により、ギゼム・デンメズ博士は最新の論文を撤回せざるを得ませんでした。この論文撤回を「パブピア」や「リトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)」のサイト、あるいはブルックス氏のサイトに記事として取り上げ、研究ネカトとされた場合、デンメズ博士はさらにダメージをこうむります。
―――――――――
★動画。トルコ出身科学者がキャリアと科学を語る。ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez)は3人目登場。動画の24分20秒頃から。「TASSA’12 — Young Scientists — Biomedical and Bioengineering」、(英語)48分45秒、TASSAUSA が2012/04/21 に公開。以下の画面をクリックし、動画がでてきたら 24分20秒頃に移動する。
●【論文数と撤回論文】
パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez)の論文を「Gizem Dönmez[Author]」で検索すると、2004年~2015年の12年間の20論文がヒットした。
2015年5月11日現在、2論文が撤回されている。ブルックスが指摘した3論文の内の2論文である。
- Sirtuin 2 (SIRT2) enhances 1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP)-induced nigrostriatal damage via deacetylating forkhead box O3a (Foxo3a) and activating Bim protein.
Liu L, Arun A, Ellis L, Peritore C, Donmez G.
J Biol Chem. 2012 Sep 21;287(39):32307-11. Epub 2012 Aug 16. Erratum in: J Biol Chem. 2013 May 17;288(20):14672.
Retraction in: J Biol Chem. 2013 Aug 16;288(33):24163. - SIRT1 suppresses beta-amyloid production by activating the alpha-secretase gene ADAM10.
Donmez G, Wang D, Cohen DE, Guarente L.
Cell. 2010 Jul 23;142(2):320-32. doi: 10.1016/j.cell.2010.06.020. Erratum in: Cell. 2010 Aug 6;142(3):494-5.
Retraction in: Cell. 2014 Aug 14;158(4):959.
ブルックスが指摘した「J. Neurosci. 2012」論文は撤回されていない。ブルックスが指摘しているように、ここの編集員は無能なようだ。
写真出典
★撤回論文の再掲
驚いたことに、2013年7月24日に撤回した「J. Biol. Chem. 2012年論文」を、デンメズは、2014年8月11日に別のジャーナル「Front Aging Neurosci. 」誌に再掲した。
- SIRT2 enhances 1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine (MPTP)-induced nigrostriatal damage via apoptotic pathway.
Liu L, Arun A, Ellis L, Peritore C, Donmez G.
Front Aging Neurosci. 2014 Aug 11;6:184. doi: 10.3389/fnagi.2014.00184. eCollection 2014.
タイトルはほとんど同じ、著者は同じ、文章の大部分は同じ、図表の大半は同じである。つまり、実質、「J. Biol. Chem. 2012年論文」と同じ論文である。
ブルックスは「Front Aging Neurosci. 」誌編集部に、撤回論文だったのを知っていたのかと問わせると、知りませんでしたと回答があった。しかし、それっきりである(Retraction? No problem just send it to Frontiers! | PSBLAB)。
2015年6月3日現在、論文は撤回されてない。
●【事件の深堀】
★大学院生の時にデータねつ造していた
ゲッチンゲン大学の大学院生の時の2004年(26歳)の論文にデータねつ造が指摘されている(PubPeer – Modified nucleotides at the 5′ end of human U2 snRNA are required for spliceosomal E-complex formation)。
根っからの研究不正者ということだろう。こういう人を矯正することは不可能である。
●【白楽の感想】
《1》中東出身の美女
デンメズ(写真出典)は中東(トルコ)出身の美女で、北米でチヤホヤされ、教員になってから不正がバレた典型である。
スター大学(マサチューセッツ工科大学/タフツ大学)のスター研究室(レオナルド・ガレンテ教授(Leonard Guarente))出身のスーパースター研究者の事件である。
30代前半でジャーナルの編集委員、アインシュタインと並んで扱われるたスーパースター研究者だった。
米国の小保方事件である。デンマークのペンコーワ事件でもある。レバノン出身でカナダで事件を起こしたマヤ・サレハ事件でもある。
- デンメズは26歳の大学院生の時、2報目の論文でデータねつ造をしている。
- 不正と指摘したブルックスに、弁護士を通して法的な「脅迫」をしている。
- 撤回した論文を翌年別のジャーナルに再掲している。
まるで、反省のカケラがない。芯が腐っている。こういう人は改善の見込みはない。学術界から追放すべきだろう。
《3》脅迫
デンメズからの「脅迫」があったと記載があったために「脅迫」に関心を持って調べたが、科学的真実を曲げさせるほどの脅迫ではなかった。この程度の「脅迫」は研究犯罪には該当しないだろう。
●【主要情報源】
① 2014年8月13日のリトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事:Cell retraction of Alzheimer’s study is second for Tufts neuroscientist – Retraction Watch at Retraction Watch
② ◎2014年1月14日、ポール・ブルックス(Paul Brookes)の記事:(Our broken academic journal corrections system | PSBLAB)