2023年6月20日掲載
ワンポイント:2023年4月27日(56歳)、発覚から1年半後、研究公正局は、ロザリンドフランクリン医科学大学(Rosalind Franklin University of Medicine and Science)・教授のジョニー・ヒーが、他人の複数の論文からデータ(図)と文章を盗用し、自分の4件の研究費申請書、1件の研究記録に使用した、と発表した。2023年4月17日から3年間の締め出し処分を科した。3年間の処分は普通の処分である。記事執筆時点では、撤回論文はゼロ。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ジョニー・ヒー(Johnny He、Johnny J He、何江林、写真出典)は、ロザリンドフランクリン医科学大学(Rosalind Franklin University of Medicine and Science)・教授で同大学・「癌細胞生物学、免疫学、感染センター(Center for Cancer Cell Biology, Immunology, and Infection)」・所長である。医師免許は持っていない。専門は分子生物学(感染)である。
ネカト発覚の経緯は不明だが、研究費申請書のネカトなので、NIHの研究費審査員が見つけた、と推察した。発覚時期を2021年10月(54歳)、と推察した。
ロザリンドフランクリン医科学大学がネカト調査を終え、クロと判定し、研究公正局に報告した。
2023年4月27日(56歳)、発覚から1年半後、研究公正局(ORIロゴ出典)は、ロザリンドフランクリン医科学大学(Rosalind Franklin University of Medicine and Science)・教授だったジョニー・ヒーが、他人の複数の論文からデータ(図)と文章を盗用し、自分の4件の研究費申請書、1件の研究記録に使用した、と発表した。
2023年4月17日(56歳)から3年間の締め出し処分を科した。3年間の締め出し処分は普通の処分である。
研究公正局がアイデアの盗用でクロとした事件は珍しい。
ロザリンドフランクリン医科学大学(Rosalind Franklin University of Medicine and Science)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:米国
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:米国のニューヨーク大学
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1967年1月1日生まれとする。2017年3月17日の記事に50歳とあったので:High price of survival – Newsroom
- 現在の年齢:57 歳
- 分野:分子生物学
- ネカト行為:2021年7月~9月(54歳)の3か月
- ネカト行為時の地位:ロザリンドフランクリン医科学大学・教授
- 発覚年:2021年(54歳)(推定)
- 発覚時地位:ロザリンドフランクリン医科学大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者はNIHの研究費審査員(推定)
- ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ロザリンドフランクリン医科学大学・調査委員会。②研究公正局
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
- 不正:盗用
- 不正件数:4件の研究費申請書、1件の研究記録。2023年6月19日現在、撤回論文はない
- 時期:研究キャリアの後期
- 職:事件後に教授職は維持しているが、「癌細胞生物学、免疫学、感染センター(Center for Cancer Cell Biology, Immunology, and Infection)」・所長職を辞任した(させられた)(▽)
- 処分: NIHから3年間の締め出し処分
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典(1)Johnny J. He, PhD – Rosalind Franklin University、(2)北德克萨斯州大学教授Johnny J. He受邀访问同济医院_交流动态
- 生年月日:不明。仮に1967年1月1日生まれとする。2017年3月17日の記事に50歳とあったので:High price of survival – Newsroom
- xxxx年(xx歳):xx大学で学士号を取得
- 1994年(27歳):米国のニューヨーク大学(New York University)で研究博士号(PhD)を取得
- 1994~1999年?(27~32歳?):ニューヨーク大学、ロックフェラー大学、ハーバード大学でポスドク
- 1999年(32歳)?:インディアナ大学・医科大学院(Indiana University School of Medicine)・準教授(?)、その後、正教授。この大学所属の2000年12月の論文あり
- 2011年(44歳):ノース・テキサス健康科学センター大学(University of North Texas Health Science Center)・教授
- 2020年(53歳):ロザリンドフランクリン医科学大学(University of Nebraska Medical Center)・教授
- 2021年7月~9月(54歳):この期間に申請した研究費に、直ぐにネカトが発覚した
- 2021年(54歳)(推定):不正研究が発覚
- 2023年4月27日(56歳):研究公正局がネカトと発表
- 2023年6月19日(56歳)現在:ロザリンドフランクリン医科学大学(University of Nebraska Medical Center)・教授職を維持:2023年6月18日保存 Johnny J. He, PhD – Rosalind Franklin University
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★研究人生
ジョニー・ヒー(Johnny He、写真出典)は外見と姓から中国人系と思われる。中国の新聞に中国語名の「何江林」が使用されていた。
白楽は、ジョニー・ヒーの出生地や学部時代の出身大学を把握できなかった。印象として、中国ではなく米国で生まれ、米国で育ったと思われる。
ジョニー・ヒーは、米国のニューヨーク大学(New York University)で修士号そして研究博士号(PhD)を取得し、事件当時は米国のロザリンドフランクリン医科学大学(Rosalind Franklin University of Medicine and Science)・教授だった。
ネカト発覚の経緯は不明であるが、以下のように推察した。
2021年7月~9月(54歳)に申請した4件の研究費申請書にネカトが見つかっていて、出版論文でのネカトは指摘されていない。それで、2021年9月以降にネカトが発覚したことになる。発覚時期を2021年10月(54歳)と推察した。
ネカトを見つけた経緯も不明だが、研究費申請書のネカトなので、NIHの研究費審査員が見つけと推察した。
★獲得研究費
ジョニー・ヒーは、NIH研究費を2000~2021年(33~ 54歳)の22年間に47件、総額$14,980,117(約15億円)獲得している。研究費を獲得するのに優れた人である。以下、最近の獲得グラント → 出典:RePORT ⟩ Johnny He
★研究公正局
2023年4月27日(56歳)、発覚から1年半後、研究公正局はジョニー・ヒーが他人の4報の発表論文、1報のプレプリント論文から、データ(図)と文章を盗用し、自分の4件の研究費申請書、1件の研究記録に使用した、と発表した。
盗用に伴い、データ(図)の説明を変えたので、ねつ造・改ざん、そして文章を盗用したのに伴う研究アイデアの盗用となった。
2023年4月17日(56歳)から3年間の締め出し処分を科した。3年間の処分は普通の処分である。
4件の研究費申請書は以下の通り(研究公正局の発表のママ)。2021年7月~9月(54歳)に申請した研究費である。
- NIA, NIH, grant R01 AG078019-01, “iTat mice to model HIV-impaired neurogenesis and accelerated aging,” submitted on September 7, 2021
- NIDA, NIH, grant U01 DA056010-01, “Single cell and spatial transcriptomic changes of cocaine use in the iTat HAND model,” submitted on July 20, 2021
- NIDA, NIH, grant DP1 DA056160-01, “Targeting epigenetic changes to understand and treat CUD in people living with HAND,” submitted on August 13, 2021
- NINDS, NIH, grant R35 NS127233-01, “HIV-associated neurocognitive disorder: from mechanisms to therapeutics,” submitted on July 13, 2021
被盗用の5論文は以下の通り。2017~2021年の論文である。
- Clin Transl Med. 2017 June 8;6(1):20. doi: 10.1186/s40169-017-0150-9 (hereafter referred to as “Clin Trans Med 2017”)
- Sci Adv. 2019 October 16;5(10):eaax1532. doi: 10.1126/sciadv.aax1532 (hereafter referred to as “Sci Adv 2019”)
- BioRxiv. March 5, 2020. doi:10.1101/2020.02.29.970558v2 (hereafter referred to as “BioRxiv 2020”). BioRxiv 2020 is a preprint version of Nature. 2021 October 6;598(7879):103-110. doi: 10.1038/s41586-021-03500-8
- Biosci Biotechnol Biochem. 2020 May;84(5):919-926. doi:10.1080/09168451.2020.1714420 (hereafter referred to as “BBB 2020”)
- Front Oncol. 2021 January 19;10:607349. doi: 10.3389/fonc.2020.607349 (hereafter referred to as “Front Onc 2021”)
●【ねつ造・改ざんの具体例】
2023年4月27日(56歳)の研究公正局の発表では、各研究費申請書のネカト部分を指摘している。
しかし、研究費申請書は非公開である。
それで、不正な図表や盗用文章を見ることができない。研究公正局が示したネカトの3例を具体的に示そうとした状況を以下に示す。
★具体例:その1
ジョニー・ヒーは、他人の論文「BBB 2020」の図1Aと図1B (野生型と6か月および 24か月のAPP23マウスの図)を、ジョニー・ヒーの研究費申請書(U01 DA056010-01)の図5Aと図5Bに、ジョニー・ヒー自身の研究データとして使用した。
同じ論文「BBB 2020」の図1Aと図1Bを、ジョニー・ヒーの研究費申請書(R01 AG78019-01)の図7Aと図7B にジョニー・ヒー自身の研究データとして使用した。
他人の論文の図をジョニー・ヒー自身の研究データとして使用したので、盗用である。
盗用だが、研究内容は他人の論文とは若干異なるので、図の表記を変える必要があった。それで、図の盗用に伴い、図の表記を変えたが、このことで、データねつ造・改ざんになった。同時に、アイデアも盗用したことになった。
★具体例:その2
ジョニー・ヒーは、ジョニー・ヒーの研究費申請書(U01 DA056010-01) の図 8 および研究費申請書 (R01 AG078019-01 )の図 10 に、他人の論文「Front Onc 2021 」の図 3 をジョニー・ヒー自身の研究データとして使用した。
「Front Onc 2021 」の図 3を以下に示すが(出典は原著論文)、盗用したのは図 3の一部なのか全部なのか、白楽はワカリマセン。
★具体例:その3
ジョニー・ヒーの研究費申請書(DP1 DA056160-01)の「The problem description and a new therapeutic strategy for CUD in people living with HAND」というタイトルの章で、他人の論文「Sci Adv 2019」の文章を、ジョニー・ヒー自身の文章として使用した。
研究公正局はこれを盗用だとした。
使用した文章の長さ・性格(方法論など)は、白楽にはワカリマセン。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2023年6月19日現在、パブメド(PubMed)で、ジョニー・ヒー(Johnny He、Johnny J He)の論文を「Johnny He [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2023年の22年間の93論文がヒットした。
「He JJ」で検索すると、1984~2023年の40年間の491論文がヒットした。
2023年6月19日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回監視データベース
2023年6月19日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでジョニー・ヒー(Johnny He、Johnny J He)を「Johnny J He」で検索すると、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2023年6月19日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジョニー・ヒー(Johnny He、Johnny J He)の論文のコメントを「”Johnny He”」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》珍しい事件
ジョニー・ヒー(Johnny He、写真出典)事件は、データとアイデアの盗用だが、研究公正局がアイデアの盗用でクロと発表するのはとても珍しい。
研究公正局の発表に「falsifying, fabricating, and plagiarizing experimental data and text ・・・・represented the data and/or ideas as his own」(着色は白楽)と、盗用(plagiarizing)や「アイデア(ideas )」を明記した事件は珍しい。
研究公正局は余裕がないので、通常、論文での盗用を調査しない(白楽の推察)。
今回は、研究費申請書なので、実害があると判断し、扱ったのだろう。
なお、研究公正局と異なり、科学庁(NSF)は盗用事件をたくさん扱う。
《2》日本では不正ではない
日本はヘンなのだが、ジョニー・ヒー(Johnny He)の盗用は、日本では不正にならない。
以下は「ジャニナ・ジャン(Janina Jiang)(米) | 白楽の研究者倫理」から再掲。
日本は、研究費申請書でのネカトを研究不正とみなしていない。
文部科学省のガイドラインには修正すべき点がいくつもあるが、この異常もその1つで、発表・未発表を問わずネカトは研究不正とみなすべきです。
白楽の卓見・浅見18【ヘンですよ文部科学省:発表・未発表を問わずネカトは研究不正です】https://t.co/uByVbSE1zR
文部科学省の規則では、ねつ造・改ざん・盗用しても、「論文の掲載後」でしか、研究不正にならない。
これ、「とても」ヘンです。学術規範の基本から「大きく」外れている。 pic.twitter.com/98SOYWWN8N
? 白楽ロックビル (@haklak) November 27, 2022
《3》スルメ調査
ジョニー・ヒー(Johnny He)を調べていて、ジョニー・ヒーの経歴や写真など、大部分がウェブから削除されていると感じた。
ロザリンドフランクリン医科学大学がネカト調査し、研究公正局がさらに調査するので、実態を知らないと、ネカト調査は完璧だと思う人が多いだろう。
イヤイヤ、大学と研究公正局は調査前に被疑者に調査することを伝え、その後「たっぷり時間をかけて」調査する。それで、まず、被疑者は調査前にできる限りの証拠隠滅を図り、ウェブ情報をドンドン削除する。現実は以下のようだ。
「白楽の卓見・浅見16.ネカト調査の現状は大掃除後のゴミさがし:根本的改善を」から再掲。
捜査権のある捜査機関が、疑惑研究者に証拠隠滅・画策をする時間・機会を与えずに、ネカト捜査通知とほぼ同時に、一気に証拠を集め、不正事実の保全をすべきなのだが、ネカト事件ではそうなっていない。
疑惑研究者が証拠を徹底的に隠滅し、かつ、関係者間でしっかり画策を済ませた後、疑惑研究者に提出させた疑惑研究者に都合のいい資料と関係者の証言、を大学・研究所のネカト調査委員が調べている。これが実態である。
スルメ調査なので、生きたイカの動きはわからない。
ジョニー・ヒー(Johnny He)。https://archive.md/wip/kAFOG
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少する。科学技術は衰退し、国・社会を動かす人間の質が劣化してしまった。回帰するには、科学技術と教育を基幹にし、堅実・健全で成熟した人間社会を再構築すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させる。
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●9.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:(1)2023年4月27日:Case Summary: He, Johnny J. | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2023年5月3日の連邦官報:FRN 2023-09355 – Johnny J. He, Ph.D..pdf 。(3)2023年5月3日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2023年5月8日:NOT-OD-23-127: Findings of Research Misconduct
② 2023年4月27日のエリー・キンケイド(Ellie Kincaid)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former cancer research center director plagiarized and faked data, feds say – Retraction Watch
③ 2023年5月18日の「双一流高教」編集の「sohu」記事:知名教授,被通报学术不端!曾获资助超1亿元……_研究_大学_医科
④ 2023年6月8日の「F的法语世界」記者の「手机搜狐网」記事:知名教授1年申请4项“国自然”,被通报学术不端!曾获价值超1亿元巨额资助!_手机搜狐网
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