ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez)(米)

2015年6月4日掲載、2026年1月27日(火)更新

デンメズはトルコ出身で、米国のタフツ大学医科大学院の助教授になり、30代前半の若さでスーパースター科学者になった。しかし、2012年秋(34歳)、ポール・ブルックスによって3論文に不正画像が見つかり、論文は撤回された。タフツ大学・調査委員会はシロと結論した。しかし、2014年(36歳)、デンメズはタフツ大学を辞職(解雇?)し、トルコに帰国し、アドナン・メンデレス大学(Aydın Adnan Menderes University)・助教授に就任した。2026年(48歳)現在、その大学の正教授である。事件の特徴としては、①法的に訴えるとブルックスを脅迫。②不正発覚後に姓名を変え(結婚のためでもあるが)、不正の過去を消す。③研究不正者をトルコの大学が許容、などである。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】

ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez、Gizem Donmez、ギゼム・ヤルチュン、Gizem D Yalçın、https://orcid.org/0000-0002-5121-8232、写真出典)は、トルコ出身で、ドイツのゲッチンゲン大学で博士号を取得し、米国のタフツ大学医科大学院(Tufts University School of Medicine)・神経科学科の助教授になった。専門はアルツハイマー病の分子生物学である。医師ではない。

米国の超一流大学(マサチューセッツ工科大学)の有名教授の研究室(レオナルド・ガレンテ教授、1991年長寿遺伝子を発見)でポスドクを過ごし、30代前半でいくつもの賞を受賞し、メディアでもてはやされたスーパースター研究者が起こしたネカト事件である。

2012年秋(34歳)、有名なネカトハンターのポール・ブルックス(Paul Brookes)がデンメズの3論文の不正画像に気付いた。

結局、2013年8月(35歳)、タフツ大学・助教授の時に出版した「2012年9月のJ Biol Chem.」論文が、データの不正加工で撤回された。この論文撤回が最初の撤回である。

2013~2014年(35 ~36歳)、タフツ大学・調査委員会はシロと結論した。

2013~2014年(35 ~36歳)、しかし、デンメズは、米国のタフツ大学医科大学院・助教授を辞職した(解雇?)。

デンメズはNIH研究費を得ていないので、デンメズのネカトは研究公正局の事件にならなかった。

なお、デンメズは、研究不正事件で以下のような行動をした。

  • 26歳の大学院生の時、2報目の論文でデータねつ造をしていた。
  • 不正と指摘したブルックスに、弁護士を通して法的な「脅迫」をした。
  • 撤回した「2012年9月のJ. Biol. Chem.」論文を翌年別の学術誌に再掲した。

そして、2014年(36歳)、トルコに帰国し、アドナン・メンデレス大学(A ydın Adnan Menderes University)・助教授に就任し、その後、準教授、正教授と昇進し、2026年(48歳)現在、正教授職を維持している。

なお、トルコ帰国後、論文の著者名の「ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez)」を「ギゼム・ヤルチュン(Gizem D Yalçın)」と変えた。ヤルチュンは夫の姓であるが、「過去の不正を消す」意図があったと思われる。

2026年1月26日(48歳)現在、トルコ帰国後12年が経過した。その間、10論文を出版したが、研究不正は指摘されていない。

ネカトの法則:「強い衝撃がなければ、研究者はネカトを止めない」。

強い処罰が科され、更生したと思われる。

タフツ大学医科大学院(Tufts University School of Medicine)。写真出典

  • 国:米国
  • 成長国:トルコ
  • 研究博士号(PhD)取得:ドイツのゲッチンゲン大学
  • 男女:女性
  • 生年月日:1978年。仮に、1978年1月1日とする
  • 現在の年齢:48歳
  • 分野:神経科学
  • 不正論文発表:2004年~2012年(26~34歳)の8年間
  • 不正論文発表時地位:ドイツのゲッチンゲン大学・院生、米国のマサチューセッツ工科大学・ポスドク、米国のタフツ大学医科大学院・助教授
  • 発覚年:2012年(34歳)
  • 発覚時地位:タフツ大学医科大学院・助教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は有名なネカトハンターのポール・ブルックス(Paul Brookes)
  • ステップ2(メディア):「サイエンス・フラウド(Science-Fraud)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①タフツ大学・調査委員会はシロと結論 
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし(✖
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:パブピアで8論文にコメントあり。3論文撤回。
  • 時期:研究キャリアの初期・中期
  • 職:事件後に移籍し研究職を続けた(◒)
  • 処分:辞職または解雇
  • 対処問題:タフツ大学の不正調査、トルコの大学の不正許容、学術誌怠慢
  • 特徴:①法的に訴えると脅迫。②不正発覚後に論文著者名を変え、不正の過去を消した。③米国でネカト発覚後、母国トルコに帰国し大学教員に採用され、現在は教授
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。

2011-07-gizem-donmezボストンのトルコ系生物学者コロキウムで講演(33歳)。写真出典

●2.【経歴と経過】

主な出典(①Gizem Dönmez Yalçın、②Gizem Donmez – Address, Phone, Public Records – Radaris)。

  • 生年月日:1978年。仮に、1978年1月1日とする。トルコで生まれた。
  • 1996~2000年(18~22歳):トルコ・アンカラの中東工科大学(Middle East Technical University)を卒業。分子生物学/遺伝学
  • Prof. Reinhard Luhrmann2000~2007年(22~29歳):ドイツのゲッチンゲン大学(Georg-August-Universitat Gottingen)で、研究博士号(PhD)取得。 → Dönmez, Gizem – Georg-August-Universität Göttingen
    実際はマックスプランク生物物理化学研究所(Max Planck Institute of Biophysical Chemistry)のラインハルト・リーマン研究室(Reinhard Luhrmann、写真出典)で研究。分子生物学/生化学
  • 2004年~2012年(26~34歳):この8年間にネカト論文を出版
  • 2007年~2011年(29~33歳):トルコのアドナン・メンデレス大学(英語:Aydın Adnan Menderes University、トルコ語: Aydın Adnan Menderes Üniversitesi)・講師
  • 2007年~2011年(29~33歳):トルコの大学の在籍したまま、米国のマサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ教授(Leonard Guarente)研究室・ポスドク
  • 2011年10月(33歳):米国のタフツ大学医科大学院(Tufts University School of Medicine)・神経科学科の助教授
  • 2013年(35歳):研究不正が発覚
  • 2014年10月16日(36歳)以前:米国のタフツ大学を辞職
  • 2014年~2015年(36~37歳): トルコのアドナン・メンデレス大学・医学生物学科・助教授
  • 2015年~2021年(37~43歳): 同大学・準教授
  • 2021年~現(43~歳): 同大学・正教授

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
トルコ出身科学者がキャリアと科学を語る。ギゼム・デンメズ(Gizem Donmez)は3人目登場。動画の24分20秒頃から。「TASSA’12 — Young Scientists — Biomedical and Bioengineering」、(英語)48分45秒
TASSAUSA が2012/04/21 に公開
以下の画面をクリックし、動画がでてきたら 24分20秒頃に移動する。動画

【動画2】
研究紹介動画。動画は7分30秒頃から始まる。「Prof. Dr. Gizem Dönmez Yalçın ile Bilim Sohbetleri – YouTube」、(トルコ語〈推定〉)1時間1分37秒
BiruniMbgen Topluluğu(チャンネル登録者数 923人)が2022/11/17に公開

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

821891617443ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez、写真出典)はトルコの中東工科大学(Middle East Technical University)を卒業後、ドイツのゲッチンゲン大学で博士号を取得した。

米国のマサチューセッツ工科大学でポスドクをした後、2011年10月(33歳)、米国のタフツ大学医科大学院(Tufts University School of Medicine)・神経科学科の助教授になった。

その頃、以下に示すように、複数の賞を受賞し、若き天才と称賛された。

デンメズの受賞と称賛は、デンメズが素晴らしい研究成果をあげたというより、デンメズがポスドクで4年間過ごしたマサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ教授(Leonard Guarente、写真出典)の支援と政治力が大きいと思う。

dr-leonard-guaranteマサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ教授(Leonard Guarente、写真出典)。
受賞歴:Miami Winter Symposium, Feodor Lynen Award 2012、University of Toronto, Charles H. Best Lectureship and Award 2011、Dart/NYU Biotechnology, Achievement Award 2009、French Academie des Sciences, Elected 2009、American Academy of Arts and Sciences, Fellow 2004。

そして、2012年秋(34歳)、複数の論文でのデータの不正加工が発覚した。

2013~2014年のどこかで、デンメズは、米国のタフツ大学医科大学院・助教授を辞職した(解雇された?)。

ところが、研究者を廃業せず、母国トルコに帰国し、トルコのアドナン・メンデレス大学(A ydın Adnan Menderes University)・助教授に就任した。

ここで、「不正の過去を消す」カラクリをしている。

不正発覚まで、論文の著者として「ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez)」を名乗っていたが、トルコに帰国してからは「ギゼム・ヤルチュン(Gizem D Yalçın)」と変えた。

といっても、デンメズは結婚し、ヤルチュンは彼の夫の姓だ(出典)。

AIに聞くと、「トルコでは、2001年の法改正と2014年の最高裁判断により、完全な選択的夫婦別姓制度が実現しており、女性が婚前の姓を名乗ることや、複合姓(旧姓と夫の姓を組み合わせる)も認められる」とのことだ。

なお、論文著者名は戸籍に縛られない。旧姓のまま使用することも可能だ。自分の好きな仮名を使用することも可能だ。

しかし、デンメズは旧姓も複合性も選ばす、夫の姓を単独で使うことを選んだ。

これで、論文を名姓で検索をすると、「ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez)」と「ギゼム・ヤルチュン(Gizem D Yalçın)」は別人になる。

2021年(43歳)、デンメズ、いやいや、ヤルチュンですね。ヤルチュンは、正教授に昇格し、2026年(48歳)現在、正教授職を維持している(写真出典)。

[白楽ブログでは、ヤルチュンはここだけにし、他はおおむねデンメズで統一した。なお、「Yalçın」を「ヤルチュン」としたのは、サッカー選手「ロビン・ヤルチュン – Wikipedia」からです]。

★獲得研究費

ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez)の米国・NIHからの獲得研究費をしらべたが、研究代表者としてはNIH研究費を獲得していない。 → RePORT ⟩ Gizem Dönmez

★発覚

7404

以下は、ロチェスター大学教授・ポール・ブルックス(Paul Brookes、写真出典)の鋭くかつ精力的な分析と活動結果(「サイエンス・フラウド(Science-Fraud)」)を転用した(Our broken academic journal corrections system | PSBLAB)。

2012年秋、ブルックスは、デンメズの以下の3論文のデータに疑念を抱いた。

  1. Neurosci. 2012;32;124-32; PMID22219275
  2. J. Biol. Chem. 2012;287;32307-32311; PMID22898818
  3. Cell 2010;142;320-332; PMID20655472

次項で、2つ目の「2012年9月のJ. Biol. Chem.」論文のデータねつ造について述べる。

他の2論文もほとんど同じようなねつ造をしている。

なお、ブルックスの「サイエンス・フラウド(Science-Fraud)」サイトでは、ブルックスの不正論文の指摘に対して、学術誌・編集委員の無能な対応ぶりが浮き彫りにされている。

★「2012年9月のJ. Biol. Chem.」論文

「2012年9月のJ. Biol. Chem.」論文の書誌情報を以下に示す。2013年8月16日電子版で撤回が公表された。

2013年x月(35歳)、ブルックスは「サイエンス・フラウド(Science-Fraud)」サイトで「2012年9月のJ. Biol. Chem.」論文の図の不正加工を指摘した。[白楽注:指摘箇所を省略して。以下、訂正の図にも不正加工があったのを説明するが、説明がくどくなるので]

2013年5月(35歳)、不正加工を指摘されたデンメズは、図2Dを訂正した。

しかし、訂正した図2Dのバンドは、依然として同じバンドを2つの別の試料のデータに使用していて、明らかにねつ造だった。

ーー図2Dーー

JBC-Corr-for-web-1

ーー図3Aーー

図2Dと同じ様に、訂正した図3Aのバンドも、明らかにねつ造だった。JBC-Corr-for-web-3

ーー図3Eーー

さらに同様に、訂正した図3Eのバンドも明らかにねつ造だった。
JBC-Corr-for-web-4

2013年7月24日(35歳)、デンメズは、「2012年9月のJ. Biol. Chem.」論文の撤回を学術誌に要請し、2013年8月16日の「J. Biol. Chem.」電子版で撤回が公表された。

そして、デンメズは、研究不正を指摘したポール・ブルックスに脅迫メールを送った(後述する)。

★不正論文が撤回されない

2015年5月11日(37歳)当時、ギゼム・デンメズ(Gizem Donmez)の2論文が撤回されていた。ブルックスが指摘した3論文の内の2論文で、1つは上記「2012年9月のJ. Biol. Chem.」論文、もう1つは以下の「2010年7月のCell」論文である。

ブルックスが指摘した「2012年1月のJ. Neurosci. 」論文は、2026年1月26日現在も撤回されていない。ブルックスが指摘したように、ここの編集委員の研究不正に対する見識に問題があったようだ。

★撤回論文の再掲

前々項で、デンメズは、2013年7月24日に「2012年9月のJ. Biol. Chem.」論文の撤回を要請したと書いた。

しかし、驚いたことに、この撤回論文を、デンメズは、2014年8月11日、別の学術誌である「Front Aging Neurosci.」誌に再掲した。

タイトルはほとんど同じ、著者は同じ、文章の大部分は同じ、図表の大半は同じである。つまり、実質、「2012年9月のJ. Biol. Chem.」論文と同じ論文である。

ブルックスは「Front Aging Neurosci.」誌・編集部に、撤回論文だったことを知っていたのかと問いあわせた。

返事は、「知りませんでした」だった。しかし、それっきりである(Retraction? No problem just send it to Frontiers! | PSBLAB)。

2026年1月26日現在、再掲した「Front Aging Neurosci.」論文は撤回されてない。

コマッタことに、学術誌・編集委員に研究公正観が欠如しているのだ。

【脅迫】

2013年7月24日(35歳)、デンメズは「2012年9月のJ. Biol. Chem.」論文の撤回を要請した。

その日に、デンメズは、弁護士を通じて、「サイエンス・フラウド(Science-Fraud)」の運営者・ポール・ブルックス(Paul Brookes)を脅迫したとされている。

脅迫文を以下に示す。

「脅迫」と書いたが、ブルックスが脅迫されたと感じたからそう書いた。文章に脅す言葉はない。

ただ、法律事務所を通して「裁判に訴えます」という文章を送付する事自体が、ブルックスにとっては「脅迫」と感じたのだ。「裁判に訴えます」は研究者間の学術的議論の枠を越えている。

―――
わが法律事務所は、タフツ大学の若い教授・ギゼム・デンメズ博士(Gizem Donmez)の代理人である。貴事務所(法律事務所)は、ポール・ブルックス博士(Paul Brookes)の代理人と私たちは理解しております。

ブルックス氏は、ここ数か月、ギゼム・デンメズ博士にハラスメントをしております。初期のハラスメントはウェブサイト「サイエンス・フラウド(Science-Fraud)」で匿名で行なっていました。最近は、デンメズ博士の所属学科長、学術誌、研究助成機関、デンメズ博士の旧恩師(教授)に匿名の電子メールを送付しておりました。これらの電子メールで非難した件を当該大学が詳細に調査した結果、不正研究はなかったと結論しております。

(中略)
ブルックス氏は才能ある将来を嘱望された科学者(ギゼム・デンメズ博士)のキャリアを意図的に破壊しており、遺憾なことに、その攻撃は現在も続いております。

ブルックス氏の非難により、ギゼム・デンメズ博士は最新の論文を撤回せざるを得ませんでした。この論文撤回を「パブピア」や「リトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)」のサイト、あるいはブルックス氏のサイトに記事として取り上げ、研究ネカトとされた場合、デンメズ博士はさらにダメージをこうむります。

(中略)
ーー原文ーー
Donmez-lawyer-letter

―――――――――

【研究不正の具体例】

上記したので、詳細は省略する。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。

★パブメド(PubMed)

2026年1月26日現在、パブメド(PubMed)で、ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez、Gizem Donmez、Gizem D Yalçın)の論文を「Gizem Dönmez[Author]」で検索すると、2004年~2016年の13年間の23論文と2021年の1つの訂正論文の24論文がヒットした。

「Retracted Publication」のフィルターは削除されたが、特殊な方法で、パブメドの論文撤回リストを検索すると、2010年の1論文と2012年の2論文の計3論文が撤回されていた。

別途、「Gizem D Yalcin[Author]」で検索すると、2018年~2025年の8年間の10論文がヒットした。

「Retracted Publication」のフィルターは削除されたが、特殊な方法で、パブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。

★撤回監視データベース

2026年1月26日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez、Gizem Donmez、Gizem D Yalçın)を「Gizem Dönmez」で検索すると、 2論文が訂正、3論文が撤回されていた。

「Yalcin, Gizem D」で検索すると、 0論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2026年1月26日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez、Gizem Donmez、Gizem D Yalçın)の論文のコメントを「”Gizem Dönmez”」で検索すると、2004~2014年の8論文にコメントがあった。

「Gizem D Yalcin」で検索すると、0論文にコメントがあった。 

●7.【白楽の感想】

《1》大学院生の時にデータねつ造をしていた

632923450173デンメズ(写真出典)は中東(トルコ)出身の女性で、ドイツのゲッチンゲン大学の院生だった2004年(26歳)に出版した論文にデータねつ造が指摘されている(PubPeer – Modified nucleotides at the 5′ end of human U2 snRNA are required for spliceosomal E-complex formation)。

デンメズは、研究不正絡みで以下のような人物だった。

  • 26歳の大学院生の時、2報目の論文でデータねつ造をしていた。
  • 不正と指摘したブルックスに、弁護士を通して法的な「脅迫」をした。
  • 撤回した「2012年9月のJ. Biol. Chem. 」論文を翌年別の学術誌に再掲している。

米国のマサチューセッツ工科大学のスター研究室(レオナルド・ガレンテ教授(Leonard Guarente))・ポスドクの時に出版した論文でもネカトし、タフツ大学・助教授になってからもネカトした。

まるで、反省のカケラがない。芯が腐っている。こういう人は改善の見込みはない。学術界から追放すべきだろう。

根っからの研究不正者ということだろう。こういう人を矯正するのは難しい。と2015年6月4日版の白楽記事に書いた。

アインシュタインと並んで扱われたスーパースター研究者だったタフツ大学・助教授の時、スーパースターに、研究不正が発覚し、天から地に転落した。

これでようやく目が覚めたようだ。

ネカトの法則:「強い衝撃がなければ、研究者はネカトを止めない」。

36歳でトルコに帰国し、アドナン・メンデレス大学・助教授、準教授、正教授の12年間、研究不正をしていない(発覚していない)。

強い処罰を科せば、「芯が腐っている」と思われた研究不正者も更生するということだ。

《2》名前を変えて過去を消す

36歳でトルコに帰国し、ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez)」から「ギゼム・ヤルチュン(Gizem D Yalçın)」と変え「不正の過去を消す」カラクリをした。

といっても、デンメズは結婚し、ヤルチュンは彼の夫の姓だ(出典)。

結婚しても、研究者は通常、論文名として旧姓を使用するか、旧姓と夫の姓を組み合わせた複合姓を使うことが多い。結婚前と後の業績を一体化するためだ。そうしないと、昇進や研究費獲得で示す研究業績が少なくなって不利になるからだ。

ただ、過去に研究不正があったので、過去を切り離したいと思ったのだろう。「不正の過去を消す」ために論文名を変える研究者は少数だが、他にもいる。

コロンビア大学のサム・ユン(Sam Yoon)である。

2024年にサム・ユンの不正論文疑惑が暴露されると、「S. Sunghyun Yoon」に変えた。しかも、コロンビア大学のサイト(https://columbiasurgery.org/sam-yoon-md)でも「Sam Yoon」と名乗っていたのを、「S. Sunghyun Yoon」に変えた。

サム・ユン(Sam Yoon)、チャンファン・ユン(Changhwan Yoon)、サンドラ・リョム(Sandra Ryeom)(米)

《3》研究不正を防ぐ方法

デンメズ事件の研究不正を防ぐには、どうすればよかったか?

また、今後、同じような研究不正を起こさせないためにはどうすべきか?

研究不正を防ぐ基本は「ネカト許さない文化」の構築で、具体策は、①家庭での道徳教育と小中高大院での(学術)規範教育の徹底、②規範意識の高い人だけを研究者に採用・昇進するシステム作り、③ネカト監視・通報の徹底(通報者保護)、④ネカトを刑事犯化へと法改正、⑤学術システムの改革、であるが、根本的解決の1つは、⑥現行の大学が調査をやめ、麻薬取締部などの捜査権を持つ格上機関がネカト調査すべきだと思う。

ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez)の研究不正を防ぐには「①(学術)規範教育の徹底」だ。

トルコは研究不正を許容する文化(ズルする文化)が社会でも学術界でも強く浸透しているのだろう。その文化を修正しないと、デンメズのようにズルして業績を増やす研究者は後を絶たないだろう。

なお、ポール・ブルックス(Paul Brookes)のネカトハンティング活動、つまり「③ネカト監視・通報の徹底」で、デンメズのネカトが大きくならないうちに摘発できたことは、学術界にとってハッピーだったと思う。

デンメズも自業自得とは言え、研究不正を指摘され、当初は非常に激怒し、困惑しただろうが、トルコ帰国後は、「健全に」研究生活を送れているので、結果として、デンメズにとってもハッピーだったと思う。

ギゼム・デンメズ(Gizem Dönmez)。https://www.sesgazetesi.com.tr/adulu-akademisyene-tubitaktan-destek-5105647

●9.【主要情報源】

①   2013年8月13日、アイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事: Authors withdraw already-corrected JBC paper questioned on PubPeer – Retraction Watch
②  ◎2014年1月14日、ポール・ブルックス(Paul Brookes)の記事:Our broken academic journal corrections system | PSBLAB
③ 2014年8月13日、アイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Cell retraction of Alzheimer’s study is second for Tufts neuroscientist – Retraction Watch at Retraction Watch
④ 2014年8月13日、ポール・ブルックス(Paul Brookes)の記事:2 years for a retraction at Cell | PSBLAB
⑤  2014年10月16日、アイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:  Neuroscientist who threatened to sue Science-Fraud.org, retracted two papers is out at Tufts – Retraction Watch
⑥ 2016年4月7日、シャノン・パラス(Shann on Palus)記者の「撤回監視(Retractio n Watch)」記事: Image splicing, duplications, inversions kill paper for well-known longevity researcher and alum of lab – Retraction Watch