経営学:デイヴィッド・デギースト(David DeGeest)(香港)

2020年9月6日掲載 

ワンポイント:デギーストは、米国で育ち、香港の香港理工大学(Hong Kong Polytechnic University)・助教授になった。2018年1月(34歳?)、「2015年のJournal of Management」論文に改ざんが見つかった。結局、2014-2018年に出版したデギーストの4論文が2018-2019年に撤回され、香港理工大学から解雇(辞職)。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

デイヴィッド・デギースト(David DeGeest、ORCID iD:https://orcid.org/0000-0001-7842-1110、写真出典)は、米国で育ち、香港の香港理工大学(Hong Kong Polytechnic University)・助教授になった。専門は経営学である。

2018年1月(34歳?)、学術誌・編集長はデギーストの「2015年のJournal of Management」論文のネカト疑惑の通報を受けた。翌月、編集長がデギーストに問わせると、デギーストは2つの論文で「改ざん」しましたと、告白した。

結局、2014-2018年に出版したデギーストの4論文が2018-2019年に撤回された。

香港理工大学(Hong Kong Polytechnic University)はデギーストを解雇(辞職)した。

2020年9月5日(36歳?)現在、ウェブで検索してもヒットしないので、研究者を廃業したと思われる。

香港理工大学(Hong Kong Polytechnic University)。写真出典

  • 国:香港
  • 成長国:米国
  • 研究博士号(PhD)取得:米国のアイオワ大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2006年に学士号を取得した時を22歳とした
  • 現在の年齢:40 歳?
  • 分野:経営学
  • 最初の不正論文発表:2014年(30歳?)
  • 不正論文発表:2014-2018年(30-34歳?)
  • 発覚年:2018年(34歳?)
  • 発覚時地位:香港理工大学・助教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者(詳細不明)が学術誌へ公益通報
  • ステップ2(メディア):「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②香港理工大学・調査委員会
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:実名報道だが機関のウェブ公表なし(△)
  • 不正:改ざん
  • 不正論文数:4報撤回
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:解雇(辞職)
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

  • 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2006年に学士号を取得した時を22歳とした
  • 2006年5月(22歳?):米国のグリンネル大学(Grinnell College)で学士号取得
  • 2010年5月(26歳?):米国のアイオワ大学(University of Iowa)で修士号取得:経営学
  • 2014年5月(30歳?):同大学で研究博士号(PhD)を取得:経営学
  • 2014年8月(30歳?):オランダのフローニンゲン大学(Rijksuniversiteit Groningen)・助教授
  • 2016年9月(32歳?):香港の香港理工大学(Hong Kong Polytechnic University)・助教授
  • 2018年1月(34歳?):改ざんが発覚
  • 2018年2月(34歳?):改ざんを告白
  • 2018年2月(34歳?):香港の香港理工大学・助教授を解雇(辞職)
  • 2020年9月5日(36歳?)現在:研究者廃業している(推定)

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★優秀な若手研究者

デイヴィッド・デギースト(David DeGeest、写真出典)は、2015年に以下の「2015年のJournal of Management」論文を出版した。所属は、オランダのフローニンゲン大学(Rijksuniversiteit Groningen)である。共著者の3人は全員、米国のアイオワ大学(University of Iowa)である。

この論文は世間の注目を浴び、ウォール・ストリート・ジャーナル紙などが取り上げた。
 → 2016年1月24日のウォール・ストリート・ジャーナル紙記事(閲覧有料、白楽未読):Don’t Offer Big Benefits Until Your Company Turns Three – WSJ
 → 2016年1月頃の「Inc.com」記事:Why Your Startup Shouldn’t Offer Benefits (Yet) | Inc.com

★ネカト

2018年1月(34歳?)、「Journal of Management」誌は読者から「2015年のJournal of Management」論文がネカトではないかとの指摘を受けた。

米国のラトガーズ大学(Rutgers University)・教授のデイヴィッド・アレン編集長(David Allen、写真出典)は調査を始めた。

2018年2月7日(34歳?)、アレン編集長がデギーストに電子メールで問い合わせると、デギーストは2つの論文で「改ざん」しましたと、あっさり告白した。

アレン編集長は香港理工大学(Hong Kong Polytechnic University)に連絡した。

香港理工大学は独自の調査をし、デギーストが複数の学術誌の論文でも結果を改ざんしていたことを突き止めた。

「結果の見栄えを良くし、仮説を裏付けるために」、デギーストはデータを改ざんした。

2018年2月(34歳?)、デギーストは、香港の香港理工大学・助教授を解雇(辞職)された。

デギーストの共同研究者で共著論文があるインディアナ大学(Indiana University)のアーネスト・オボイル準教授(Ernest H. O’Boyle)やマサチューセッツ大学アマースト校(University of Massachusetts Amherst)のエリザベス・フォルマー助教授(Elizabeth H. Follmer)はショックを受け、怒ったが、自分たちが受けた損害(事件への対処、論文撤回)をあきらめるしかなかった。

★博士論文

2014年5月(30歳?)、デギースト(写真出典)は米国のアイオワ大学(University of Iowa)で研究博士号(PhD)を取得した。

博士号を取得する前、院生の時の2013年11月、デギーストは、ニューオリンズの学会で「2015年のJournal of Management」論文とよく似ている研究を発表した(41ページ目、出典:SMA2013Program )。

  • THE BENEFIT OF BENEFITS: A DYNAMIC APPROACH TO HR PRACTICES AND ENTREPRENEURIAL CONTINUANCE
     David S. DeGeest, University of Iowa
     Ernest H. O’Boyle Jr., Virginia Commonwealth University
     Elizabeth H. Follmer, University of Iowa
     Sheryl Walter, University of Iowa

ということは、2013年の学会発表もネカトで、その後の博士論文にもネカトではないか、と思える。

アイオワ大学は博士論文のネカト調査していないので、話はここまでだが・・・。

【ねつ造・改ざんの具体例】

改ざんは、「結果の見栄えを良くし、仮説を裏付けるため」のデータを改ざんだが、具体的に示すのが難しい。

省略。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★論文数

2016年9月3日作成のデイヴィッド・デギースト(David DeGeest)の履歴書(現在:ウェブ削除)には、2010-2016年の7年間に査読論文を11報出版したとリストしている。その後も出版しているだろうから、論文数は11報以上あった、となる。

★撤回監視データベース

2020年9月5日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでデイヴィッド・デギースト(David DeGeest)を「DeGeest, David S」で検索すると、本記事で問題にした「2015年のJournal of Management」論文を含め4論文がヒットし、4論文が撤回されていた。

2014-2018年に出版した4論文が2018-2019年に撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2020年9月5日現在、「パブピア(PubPeer)」では、デイヴィッド・デギースト(David DeGeest)の論文のコメントを「David DeGeest」で検索すると、0論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》雉も鳴かずば撃たれまい 

デギースト事件では、デイヴィッド・デギースト(David DeGeest)が第一著者で出版した「2015年のJournal of Management」論文がメディアの脚光を浴びた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙などが取り上げたのだ。

ネカトを通報した人は不明だが、注目を集めた論文だから、「2015年のJournal of Management」論文を詳細にチェックし、データ改ざんを見つけたのだろう。

1報の論文でデータ改ざんが見つかれば、他の論文もチェックされる。それで、デギーストが2014-2018年に出版した4論文にデータ改ざんが見つかり、その結果、2018-2019年に撤回された。

香港理工大学(Hong Kong Polytechnic University)はデギーストを解雇(辞職)した。

2020年9月5日(36歳?)現在、ウェブで検索してもヒットしないので、デギーストは研究者を廃業したと思われる。

注目を集めるような論文を発表しなければ、今も、研究者として活躍していただろう。「雉も鳴かずば撃たれまい」

香港理工大学(Hong Kong Polytechnic University)でのデイヴィッド・デギースト(David DeGeest)。httpd://sites.google.com/site/davidsdegeest/

《2》早期発見 

デイヴィッド・デギースト(David DeGeest)は、博士号を取得し、助教授になった。そういう人が、ネカトで学者廃業とは社会としてもったいない。

デギーストはどうやら院生時代に既にネカト習慣を身につけていた。

このネカト習慣は大学時代からなのか、イヤ、高校時代などもっと低学年からなのか? 家庭環境なのか? どのようにして身につけてしまったのだろう? こういう研究が必要だが誰も研究していない。

2020年9月5日現在、4報の論文が撤回され、学者を廃業している。この点、米国はネカト対処に優れている。ネカトを初期に見つけ、研究界から排除した。もし、見つけていなければ、多量論文撤回者になっていただろう。

ネカトの法則:「ネカトでは早期発見・適切処分が重要である」。

《3》国際調査機関 

デイヴィッド・デギースト(David DeGeest)の「2015年のJournal of Management」論文は、オランダのフローニンゲン大学(Rijksuniversiteit Groningen)・助教授として出版している。

しかし、フローニンゲン大学はデギーストのネカト事件を調査していない。

デギーストのネカトが発覚した時、デギーストは香港理工大学(Hong Kong Polytechnic University)・助教授に移籍していた。

香港理工大学はデギーストのネカトを調査し、デギーストを解雇(辞職)した。また、2018年出版の1報のネカトを見つけ、2018年に論文を撤回させた。

これらの過程で、デギーストがアイオワ大学・院生時代の2013年の学会発表もネカト、2014年の博士論文もネカト、ではないかと疑われている。しかし、アイオワ大学はネカト調査をしていない。

研究者が大学を移籍する、それも国を超えて移籍する。また、国際共同研究の成果を論文発表する。これらは、現在、ごく当たり前である。

現在のネカト調査は大学・研究機関にさせている。どう見ても、この方式はマズい。各国は、大学ではなく大学外の独立機関がネカトを調査すべきである。

白楽は警察の中にネカト捜査組織を作るべきだと主張しているが、ネカトは国際的である。ネカト調査の国際機関も必要だ。インターポール(INTERPOL)のようなイメージであるが、国際共同調査ができる仕組みが必要だ。

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●9.【主要情報源】

① 2018年3月21日のビクトリア・スターン(Victoria Stern)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Management researcher admits to falsification, resigns – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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