2018年6月6日掲載。
ワンポイント:マウントサイナイ医科大学(Icahn School of Medicine at Mount Sinai (ISMMS)・教授・獣医師で、2014年8月(45歳?)、パブピアに論文データが疑念が指摘された。2018年5月8 日(49歳?)、研究公正局は、ジョンの「2014年のDevelopment」論文に改ざんがあったと発表し、1年間の締め出し処分を科した。1年間という締め出し期間は珍しい。損害額の総額(推定)は9千万円。
ーーーーーーー
目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
ーーーーーーー
●1.【概略】
ガレス・ジョン(Gareth R. John、写真出典)は、米国のマウントサイナイ医科大学(Icahn School of Medicine at Mount Sinai (ISMMS)・教授・獣医師で、専門は神経科学(多発性硬化症 multiple sclerosis)だった。
2014年8月(45歳?)、パブピアで匿名者がジョンの「2014年のDevelopment」論文のデータに疑念を表明した。
2018年5月8日(49歳?)、研究公正局は、ジョンの「2014年のDevelopment」論文に改ざんがあったと発表した。1年間の締め出し処分を科した。
2018年5月30日現在(49歳?)、ジョンは大学を辞職していない。締め出し期間が1年間なので辞職しないだろう。
マウントサイナイ医科大学。”SinaiMed” by Homieg340 – Own work. Licensed under CC BY-SA 3.0 via Commons – 写真出典
- 国:米国
- 成長国:英国
- 獣医師免許(VetMB)取得:英国のケンブリッジ大学
- 研究博士号(PhD)取得:英国のロンドン大学キングスカレッジ
- 男女:男性
- 生年月日:不明。仮に1969年1月1日生まれとする。1987年にケンブリッジ大学に入学した時を18歳とした
- 現在の年齢:55歳?
- 分野:神経科学
- 最初の不正論文発表:2014年(45歳?)
- 発覚年:2014年(45歳?)
- 発覚時地位:マウントサイナイ医科大学・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は匿名者でパブピアで指摘した。大学と研究公正局に公益通報(推定)
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②マウントサイナイ医科大学・調査委員会。③研究公正局。
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)。
- 不正:改ざん
- 不正論文数:1報。撤回していない
- 時期:研究キャリアの中期から
- 損害額:総額(推定)は9千万円。内訳 → ①研究者になるまで5千万円だが、研究者をやめていないので損害額はゼロ円。②研究者の給与・研究費など年間2000万円だが、研究者をやめていないので損害額はゼロ円。③院生の損害が1人1000万円だが、研究者をやめていないので院生の損害額はゼロ円。④外部研究費の額は7億円以上だが、損害額は不明で、額はゼロ円とした。⑤調査経費(大学、研究公正局、学術誌出版局)が5千万円。⑥裁判経費なし。⑦論文出版・撤回作業が1報につき100万円、撤回論文の共著者の損害が1報につき100万円。撤回論文なしなので、損害額はゼロ円。⑧研究者の時間の無駄と意欲削減が4千万円
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)。
- 処分: NIHから 1年間の締め出し処分。処分が軽微なので研究職を続けると思う。
- 日本人の弟子・友人: 澤井 摂(Setsu Sawai)(千葉大学・神経内科から現在ポスドク留学中)
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1969年1月1日生まれとする。1987年にケンブリッジ大学に入学した時を18歳とした
- 1987年9月 – 1990年1月(18- 21歳?):英国のケンブリッジ大学(University of Cambridge)で学士号取得:生物学
- 1990年9月- 1993年6月(21- 24歳?):英国のケンブリッジ大学(University of Cambridge)で獣医師免許取得(あるいは学士(獣医学))
- 1994年8月- 1998年3月(25- 29歳?):英国のロンドン大学キングスカレッジ(University of London、King’s College London)で研究博士号(PhD)を取得
- 1998年3月- 2003年11月(29- 34歳?):米国のアルベルト・アインシュタイン医科大学(Albert Einstein College of Medicine)・助教授
- 2003年11月(34歳?):米国のマウントサイナイ医科大学(Icahn School of Medicine at Mount Sinai (ISMMS)・教授
- 2014年(45歳?):後で問題となる「2014年のDevelopment」論文を発表
- 2018年5月11日(49歳?):研究公正局は、ジョンの「2014年のDevelopment」論文に改ざんがあったと発表
●5.【不正発覚の経緯と内容】
ガレス・ジョン(Gareth John)は、全国多発性硬化症協会(National Multiple Sclerosis Society)からの資金援助だけでなく、NIHから700万ドル(約7億円)以上の資金援助を受けていた。
以下にNIH研究費(一部)のリストを貼り付けた。2017年を含め、毎年「R01」グラントを2件も採択されていて、とても優秀だ。表をクリックすると表は大きくなります。2段階です。
2014年8月(45歳?)、パブピアで匿名者がジョンの「2014年のDevelopment」論文のデータに疑念を表明した(内容は後述)。
この時、匿名者はマウントサイナイ医科大学と研究公正局にも通報したと思われる。
マウントサイナイ医科大学はネカト調査を始め、クロと判定し、研究公正局に報告した、と思われる。なお、マウントサイナイ医科大学の調査報告書は公表されていない。
2018年5月8日(49歳?)、研究公正局は、ジョンの「2014年のDevelopment」論文に改ざんがあったと発表した。1年間の締め出し期間を科した。
「撤回監視(Retraction Watch)」がジョンのネカト事件を全国多発性硬化症協会に伝えると、ブルース・ベボ・副会長(Bruce Bebo、写真出典)から、「教えてくださってありがとうございます。私どもは事件を知りませんでした。マウントサイナイ医科大学に詳細を問い合わせます。なお、ジョン博士は最近、理由を述べずに当協会の研究助成金を終了させました。従って、現在、研究プロジェクトは終了しております」との返事が得られた。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
問題の「2014年のDevelopment」論文の書誌情報は以下の通りである。
- Combinatorial actions of Tgfβ and Activin ligands promote oligodendrocyte development and CNS myelination.
Dutta DJ, Zameer A, Mariani JN, Zhang J, Asp L, Huynh J, Mahase S, Laitman BM, Argaw AT, Mitiku N, Urbanski M, Melendez-Vasquez CV, Casaccia P, Hayot F, Bottinger EP, Brown CW, John GR.
Development. 2014 Jun;141(12):2414-28. doi: 10.1242/dev.106492.
PMID:24917498
研究公正局は、改ざん点を以下のように指摘した。
- 図S3Bで、p-GSK3α/β二重バンドを使用した。その際、下部のバンドを取り除き、残りのバンドを再配列し、Tgfβ1とActBを比較する実験においてアクチンの対照として使用した。
- 図S3Bで改ざんしたアクチンバンドのデンシトメトリー値を使用した。また、図S3C-Jで8個の図をねつ造した。
- 図3Cでミエリン塩基性タンパク質(Mbp)を表すバンドを改ざんした。
画像の改ざんは、文章ではわかりにくい。百聞は一見にしかず。パブピアで探っってみよう。
★パブピアで探る
どの部分がどのように不正だったのか、パブピアで見てみよう。
2014年8月30日に、図3Aと図S3の電気泳動バンドがおかしいと、Unregistered Submissionが指摘した「commented August 30th, 2014 6:40 PM and accepted August 30th, 2014 6:40 PM」。図をクリックすると図は大きくなります。2段階です。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/10E8ABBB6FB201B211049D04AEB4F6#1
2014年9月29日に、図3Bの電気泳動バンドがおかしいと、Unregistered Submissionが指摘した「commented September 29th, 2014 2:25 PM and accepted September 29th, 2014 2:25 PM」。
以下のパブピアの図の出典:https://pubpeer.com/publications/10E8ABBB6FB201B211049D04AEB4F6#2
画像は百聞は一見にしかずですね。ヤハリ。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
2018年5月30日現在、パブメド(PubMed)で、ガレス・ジョン(Gareth R John)の論文を「Gareth John [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2017年の16年間の30論文がヒットした。
「John GR[Author]」で検索すると、1979~2017年の38年間の50論文がヒットした。
2018年5月30日現在、「John GR[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2018年5月30日現在、「パブピア(PubPeer)」はガレス・ジョン(”Gareth R John”)の1論文にコメントしている:PubPeer – Search publications and join the conversation.
●7.【白楽の感想】
《1》締め出し期間が1年間
研究公正局からの締め出し期間が1年間というのは珍しい。白楽にとって初めてのケースだ。
この場合、研究職は続けるんでしょうね。
現在、千葉大学・神経内科からポスドク留学中の澤井 摂(Setsu Sawai)さんをはじめ、研究室のポスドクはどうなってしまうのでしょう。
《2》動機
ガレス・ジョン(Gareth John)はどうして画像の改ざんをしたのだろう? ウェブ上の記事を読んでも動機がわからない。
たくさんの研究費を得ていて、論文は多くはないがコンスタントに出版していた。正教授にもなっている。45歳(?)に後で問題となる「2014年のDevelopment」論文を発表した。
なんで?
ネカト論文は「2014年のDevelopment」論文だけではない? イヤイヤ、マウントサイナイ医科大学と研究公正局は他の論文も調べた、と白楽は思う。そして、「2014年のDevelopment」論文だけがクロだった。
魔が差した?
《3》なんか、おかしくないか?
ガレス・ジョン(Gareth John)が画像の改ざんをした「2014年のDevelopment」論文は17人の共著で、ジョンの研究室員はジョンを除いて9人が著者になっている。
ジョンは教授で、研究に関与した研究室員が9人もいたということだ。ところが、【ねつ造・改ざんの具体例】で示したように、改ざんは電気泳動のバンドの加工である。
なんか、おかしくないか?
研究室員が9人も関与した実験で、教授が電気泳動なんかしない。となると、研究室員(ポスドク)が電気泳動したバンドを教授が加工して論文発表したことになる。
イヤイヤ、論文原稿を作成中に、電気泳動した研究室員(ポスドク)が自分の出したデータと違うことにすぐ気が付くハズだ。
それなのに、論文として発表してしまうなんて、あるんだろうか?
100歩譲って、ポスドクが電気泳動したのではなくて、教授の指示でテクニシャンが電気泳動し、教授がバンドを加工したのだろうか?
その場合でも、教授が論文原稿を草稿段階から書き上げるだろうか? 研究室No2やNo3が草稿を書いて、教授がチェックする作業ではないのか? だとすれば、研究室No2やNo3がすぐにデータの異常に気が付くハズだ。
なんか、おかしい。
それとも、教授が実際に自分で電気泳動したのだろうか?
ーーーーーー
日本がもっと豊かに、そして研究界はもっと公正になって欲しい。正直者が得する社会に!
ーーーーーー
ブログランキング参加しています。
1日1回、押してネ。↓
ーーーーーー
●8.【主要情報源】
① 研究公正局の報告:(1) 2018年5月8日:Case Summary: John, Gareth | ORI – The Office of Research Integrity、(2) 2018年5月21日:NOT-OD-18-183: Findings of Research Misconduct
② 2018年5月14日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Mount Sinai multiple sclerosis researcher admits to misconduct – Retraction Watch
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント