カルロ・スピルリ(Carlo Spirli)(米)

2023年5月20日掲載 

ワンポイント:2023年4月10日(50歳?)、発覚から5年後(遅いですね)、研究公正局は、イェール大学・医科大学院(Yale School of Medicine)・助教授だったスピルリが、3件の研究費申請書、4報の発表論文、2件の研究発表、でデータねつ造・改ざんしていたと発表した。2023年3月28日から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。なお、スピルリはイタリアに育ち、イタリアのパルマ大学(University of Parma)で研究博士号(PhD)を取得後、米国のイェール大学・医科大学院(Yale School of Medicine)・研究員、その後、助教授、準教授になった。2018年秋(45歳?)にネカトが発覚したと思われる。2019年(46歳?)、イェール大学・医科大学院を辞職した(させられた)。記事執筆時点では、撤回論文は1論文。国民の損害額(推定)は3億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

カルロ・スピルリ(カルロ・シュピリー、Carlo Spirli、ORCID iD:、写真出典)は、イタリアに育ち、イタリアのパルマ大学(University of Paで研究博士号(PhD)を取得した。2010年(37歳?)、イェール大学・医科大学院(Yale School of Medicine)・助教授、その後、準教授になった。専門は肝臓病態生理学である。

ネカト発覚の経緯は不明であるが、時期は、2018年秋(45歳?)と推定される。

というのは、2019年3月25日(46歳?)、スピルリは、イェール大学・医科大学院からコネティカット州のAIセラピューティクス社に移籍している。

移籍前にネカトが発覚し、イェール大学・医科大学院がネカト調査を終え、クロと判定したので、イェール大学・医科大学院を辞職した(させられた)と思われる。

2023年4月10日(50歳?)、発覚から5年後(遅いですね)、研究公正局(ORIロゴ出典)は、イェール大学・医科大学院(Yale School of Medicine)・助教授だったスピルリの3件の研究費申請書、4報の発表論文、2件の研究発表、でデータねつ造・改ざんしていたと発表した。

2023年3月28日(50歳?)から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。

イェール大学・医科大学院(Yale School of Medicine)の動画:https://www.youtube.com/watch?v=aXW16EeCPKA

  • 国:米国
  • 成長国:イタリア
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:イタリアのパルマ大学(University of Parma)
  • 男女:男性
  • 年月日:不明。仮に1973年1月1日生まれとする。1995年に学士号を取得した時を22歳とした
  • 現在の年齢:51 歳?
  • 分野:肝臓病態生理学
  • ネカト行為:2010年~2018年(37~45歳?)の9年間
  • ネカト行為時の地位:イェール大学・医科大学院・助教授、同・準教授
  • 発覚年:2018年秋(45歳?)?
  • 発覚時地位:イェール大学・医科大学院・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は上司のマリオ・ストラザボスコ(Mario Strazzabosco)(推定)
  • ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①イェール大学・調査委員会。②研究公正局
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
  • 大学の透明性:研究公正局でクロ判定(〇)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正数:3件の研究費申請書、4報の発表論文(内1報撤回)、2件の研究発表。パブピアでは2012~2016年の5論文にコメントあり
  • 時期:研究キャリアの中期
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
  • 処分:NIHから 4年間の締め出し処分
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は3億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典: Carlo Spirli, Ph.D.

  • 生年月日:不明。仮に1973年1月1日生まれとする。1995年に学士号を取得した時を22歳とした
  • 1995年(22歳?):イタリアのパドバ大学(University of Padova)で学士号を取得:生物科学
  • 1998~2004年(25~31歳?):米国のイェール大学肝臓センター(Stanford University)・客員研究員
  • 2000年(27歳?):イタリアのパルマ大学(University of Parma)で研究博士号(PhD)を取得:肝臓病態生理学
  • 2000~2004年(27~31歳?):イタリアのパドバ大学(University of Padova)・研究員
  • 2006~2010年(33~37歳?):米国のイェール大学・医科大学院(Yale School of Medicine)・研究員
  • 2010~2016年(37~43歳?):同・助教授
  • 2010年~2018年(37~45歳?):ネカト行為
  • 2016年(43歳?):同・準教授
  • 2018年秋(45歳?)?:不正が発覚(推定)
  • 2019年3月(46歳?)?:イェール大学・医科大学院を解雇(辞職?)
  • 2019年3月25日~2022年8月12日(46~49歳?):コネティカット州のAIセラピューティクス社(AI Therapeutics )・研究員(Carlo Spirli保存版
  • 2023年4月10日(50歳?):研究公正局がネカトと発表
  • 2023年5月19日(50歳?)現在:所属・行方・状況は不明

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★研究人生

カルロ・スピルリ(Carlo Spirli)は、2000年(27歳?)、イタリアのパルマ大学(University of Parma)で研究博士号(PhD)を取得し、その後、米国のイェール大学・医科大学院(Yale School of Medicine)・研究員、助教授、準教授になった。

「6.【論文数と撤回論文とパブピア】」で触れるが、スピルリは、1994 ~2019年の26年間に54論文を出版している。

54論文の内、46論文はマリオ・ストラザボスコ(Mario Strazzabosco、写真出典)が共著である。そして、そのほとんどはストラザボスコが最後著者である。スピルリが人生の最初に出版した1994年の論文から、ストラザボスコは共著である。

ストラザボスコ(1958年頃生まれ。スピルリの約15歳上)は、現在は米国のイェール大学・医科大学院(Yale School of Medicine)教授で、スピルリの上司だった。

つまり、スピルリは、イタリアのパルマ大学・学部生の時から、ネカトでイェール大学・医科大学院を辞職する(させられる)まで、約30年間、ストラザボスコが師で、スピルリは弟子だった。

ネカト発覚の経緯は不明であるが、2011年(36歳?)の2件の研究発表もネカトと認定されていることから、内部事情に詳しい人が告発したと思われる。本記事では、師のストラザボスコがネカトを見つけ通報したとした。

★獲得研究費

カルロ・スピルリ(Carlo Spirli)の獲得したNIH研究費を検索すると、2015~2017年の3件がヒットした。 → RePORT ⟩ Carlo Spirli

★研究公正局

2023年4月10日(50歳?)、発覚から5年後(遅いですね)、研究公正局はスピルリが3件の研究費申請書、4報の発表論文、2件の研究発表、でデータねつ造・改ざんしていたと発表した。

研究公正局は、スピルリに、2023年3月28日から4年間の締め出し処分を科した。4年間の締め出し処分は少し重い処分である。

3件の研究費申請書は以下の通り。2010年(35歳?)が2件、2018年(43歳?)が1件の計3件である。

  1. R01 DK079005-11A1, “Epithelial Angiogenic Signaling in Biliary Pathophysiology and in Polycystic Disease,” submitted to NIDDK, NIH, on December 13, 2018. Administratively withdrawn by the funding agency on March 1, 2021.
  2. R01 DK090021-01 “Mechanisms of fibrosis in fibrocystin-deficiency associated cholangiopathies’ submitted to NIDDK, NIH, on February 2, 2010. Administratively withdrawn by the funding agency on July 1, 2012.
  3. R01 DK090021-01A1 “Mechanisms of fibrosis in fibrocystin-deficiency associated cholangiopathies’ submitted to NIDDK, NIH, on November 11, 2010. Administratively withdrawn by the funding agency on July 1, 2015.

この3件は、スピルリ自身が代表者として獲得したグラント(前章で示した)とは別である。

1件目の「R01 DK079005-11」は「-10」まで、上司のマリオ・ストラザボスコ教授(Mario Strazzabosco、写真出典)が獲得したグラントだった。

2件目と3件目は、申請が行政的取り下げ(administratively withdrawn)になったので、グラント採択データベースに記録が残っていない。それで、誰が研究代表者なのか、白楽はわからなかった。

4報の発表論文は以下の通り。2012~2015年(37~40歳?)の4年間の4論文である。

  1. Cyclic AMP/PKA-dependent Paradoxical Activation of Raf/MEK/ERK Signaling in Polycystin-2 Defective Mice Treated with Sorafenib. Hepatology. 2012 Dec;56(6):2363-74. doi: 10.1002/hep.25872 (hereafter referred to as “Hepatology 2012a”).
  2. Altered Store Operated Calcium Entry Increases Cyclic 3′,5′-Adenosine Monophosphate Production and Extracellular Signal-Regulated Kinases 1 and 2 Phosphorylation in Polycystin-2-Defective Cholangiocytes. Hepatology. 2012 Mar;55(3):856-68. doi: 10.1002/hep.24723 (hereafter referred to as “Hepatology 2012b”).
  3. Protein Kinase A-Dependent pSer(675)-?-catenin, a Novel Signaling Defect in a Mouse Model of Congenital Hepatic Fibrosis. Hepatology. 2013 Nov;58(5):1713-23. doi:10.1002/hep.26554 (hereafter referred to as “Hepatology 2013”).
  4. Posttranslational Regulation of Polycystin-2 Protein Expression as a Novel Mechanism of Cholangiocyte Reaction and Repair from Biliary Damage. Hepatology. 2015 Dec; 62(6):1828-39. doi: 10.1002/hep.28138 (hereafter referred to as “Hepatology 2015”). Retraction in: Hepatology. 2022 Dec;76(6):1904. doi: 10.1002/hep.32595.

2件の研究発表は以下の通り。2件とも2011年(36歳?)の研究発表である。

  1. PKA-Dependent p-SER675-b-Catenin Phosphorylation Increases Cholangiocyte Motility in Pkhd1del4/del4 Mouse, a Model of Fibropolycystic Liver Diseases Caused by Defective Fibrocystin Function. Presented at the European Association for the Study of the Liver (EASL) (hereafter referred to as “EASL Presentation 2011”).
  2. Cyclic-AMP-Dependent, Rac1-Mediated Nuclear Translocation Of P-Ser-675?-Catenin, A Novel Signaling Defect in Congenital Hepatic Fibrosis (CHF) and Caroli’s Disease (CD). Presented at the American Association for the Study of Liver Diseases (AASLD) Annual Meeting, Boston, MA, in November 2012 (hereafter referred to as “AASLD Presentation 2011”).

【ねつ造・改ざんの具体例】

2023年4月10日(50歳?)の研究公正局の発表に、各研究費申請書・論文のネカト部分を指摘している。

しかし、文章で説明されてもわかりにく。仕方がないので、2論文を適当に選んで研究公正局の指摘箇所を以下に詳しく見てみよう。

★「2012年3月のHepatology」論文

研究公正局が問題視した2番目の論文である。

「2012年3月のHepatology」論文の書誌情報を以下に示す。2023年5月19日現在、撤回されていない。

研究公正局は「図6Aのレーン1〜3とレーン4〜6が同じ」だと指摘した。指摘箇所をパブピアの図で示す(以下の図の出典:https://pubpeer.com/publications/FE52805457A846526C059F851C2989)。

なお、研究公正局は指摘していないが、以下の図2C、図3Cにもデータねつ造があると、Indigofera tanganyikensis がパブピアで指摘した。

★「2015年12月のHepatology」論文

研究公正局が問題視した4番目の論文である。

「2015年12月のHepatology」の書誌情報を以下に示す。2022年6月17日に撤回された。

研究公正局は「図2A、図4A、図4C、図5、図6D、図7B、図8B」がネカトだと指摘した。

量が多いので、以下一部だけ示す。

2019年5月xx日、パブピアでPenicillium digitatumが指摘した図。(以下の図の出典:https://pubpeer.com/publications/9393A884782AB6F0804B0BD8456DB3)

―――図7B―――

―――図xx―――

―――図xx―――

★イェール大学と研究公正局の調査はズサン?

研究公正局が問題視した2番目の論文である「2012年3月のHepatology」論文では、研究公正局が指摘してない不正をIndigofera tanganyikensisがパブピアで指摘した。

研究公正局が指摘してないということは、イェール大学・ネカト調査委員会も指摘してないということだ。つまり、イェール大学・ネカト調査委員会が見落としていたのだ。

イェール大学の調査委員も研究公正局の調査担当者も人間である。人間は間違えるし、ズサンでもある。

このようなズサンな調査はとても多いわけではないが、珍しくもない。

しかし、ネカト調査でのズサンは、かなり、コマル。信用と権威が損なわれる。記録も不正確になる。

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2023年5月19日現在、パブメド(PubMed)で、カルロ・スピルリ(Carlo Spirli)の論文を「Carlo Spirli [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2019年の18年間の47論文がヒットした。

47論文の内、39論文はマリオ・ストラザボスコ教授(Mario Strazzabosco)が共著である。ほとんどはストラザボスコ教授が最後著者である。

「Spirli C」で検索すると、1994 ~2019年の26年間の54論文がヒットした。

54論文の内、46論文はマリオ・ストラザボスコ教授(Mario Strazzabosco)が共著である。ほとんどはストラザボスコ教授が最後著者である。

スピルリの最初の論文である1994年の論文からストラザボスコ教授は共著である。つまり、イタリアのパルマ大学時代からストラザボスコが師で、スピルリが弟子だった。

2023年5月19日現在、「Retracted Publication」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、本記事で問題にした「2015年12月のHepatology」論文・1論文が2022年6月17日に撤回されていた。

★撤回監視データベース

2023年5月19日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでカルロ・スピルリ(Carlo Spirli)を「Carlo Spirli」で検索すると、本記事で問題にした「2015年12月のHepatology」論文・1論文が撤回されていた。

★パブピア(PubPeer)

2023年5月19日現在、「パブピア(PubPeer)」では、カルロ・スピルリ(Carlo Spirli)の論文のコメントを「Carlo Spirli」で検索すると、2012~2016年の5論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》倫理と人情 

カルロ・スピルリ(Carlo Spirli、写真出典保存版)、はイタリアに育ち、イタリアのパルマ大学(University of Parma)で研究博士号を取得した。

スピルリは、1994 ~2019年(21~46歳?)の26年間に54報の論文を出版している。

その内、46論文はマリオ・ストラザボスコ(Mario Strazzabosco、写真出典)が共著である。そして、そのほとんどはストラザボスコが最後著者である。

スピルリが人生の最初に出版した1994年の論文から、ストラザボスコは共著である。

つまり、現在イェール大学・医科大学院・教授のストラザボスコがスピルリの研究人生の父で、師で、庇護者、つまり、すべて、だった。

それなのに、どういう気の迷いでネカトをしたのか憶測するしかないが、スピルリは、恩師の目を盗んで悪さをした。下手すると、師の研究人生を破滅に追いやるかもしれない不義を働いた。

ネカト行為をしないようにスピルリをコントロールすべき立場だったし、コントロールできた立場だった師のストラザボスコは、自身に火の粉が降りかかるのを恐れ、仕方なく愛弟子を切った。

倫理と人情を 秤にかけりゃ 倫理が重たい 研究の世界」(唐獅子牡丹、改変でござんす。オリャー)

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。日本は、40年後に現人口の22%が減少する。科学技術は衰退し、国・社会を動かす人間の質が劣化してしまった。回帰するには、科学技術と教育を基幹にし、堅実・健全で成熟した人間社会を再構築すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させる。
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●9.【主要情報源】

① 研究公正局の報告:(1)2023年4月10日:Case Summary: Spirli, Carlo | ORI – The Office of Research Integrity。(2)2023年4月11日の連邦官報:FRN 2023-07850 – Carlo Spirli, Ph.D..pdf 。(3)2023年4月13日の連邦官報:Federal Register :: Findings of Research Misconduct。(4)2023年4月20日:NOT-OD-23-117: Findings of Research Misconduct
② 2023年4月10日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former Yale prof faked data, says Federal watchdog – Retraction Watch
③ 2023年4月11日のドロシー・ビショップ(Dorothy Bishop)記者の「BishopBlog」記事:BishopBlog: Papers affected by misconduct: Erratum, correction or retraction?
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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