ジョナサン・プルイット(Jonathan Pruitt)(カナダ)

2020年8月4日掲載 

ワンポイント:プルイットは若いスーパースター研究者である。プルイットとの共著論文の第一著者だったケイト・ラスコウスキー(Kate Laskowski)は、英国のエクセター大学(University of Exeter)のトム・トレジェンザ教授(Tom Tregenza)から疑念を指摘された。ラスコウスキーは、生データの異常を確かめ、そのデータを提供したプルイットに説明を求めたが、満足する説明が得られず、2020年1月29日(36歳?)、論文を撤回するとツイッターで公表した。2020年8月3日現在、米国のカリフォルニア大学サンタバーバラ校とピッツバーグ大学、カナダのマックマスター大学は、ネカト調査中と思われ、結果を発表していない。従って、プルイットは処分されていない。しかし、2013-2016年の5論文が撤回された。プルイットには院生・ポスドク・共同研究者が多く、ネカト被災者は多いだろう。この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「1B」の「4」に挙げられた。また、2021年ネカト世界ランキングの「1」の「3」に挙げられた。国民の損害額(推定)は10億円(大雑把)。

【追記】
・2024年10月30日記事:A Rock-Star Researcher Spun a Web of Lies—and Nearly Got Away with It | The Walrus
・2023年6月24日記事:Pruitt accuser on calling out research partner | Times Higher Education (THE)
・2023年5月10日記事:大学がプルイットのネカトを認めた: Spider researcher Jonathan Pruitt faked data in multiple papers, university finds – Retraction Watch
・2022年7月13日記事:プルイット、大学を辞職:Former Canada 150 Spider researcher Jonathan Pruitt faked data in multiple papers, university finds – Retraction Watchresearch chair resigns from McMaster University after alleged research misconduct | CBC News
・2021年12月1日記事:プルイットを「カナダ150研究職(Canada 150 Research Chairs)」サイトから除去:McMaster professor removed from Canada 150 Chairs website, funding halted after investigation | CBC News
・2021年11月17日記事:プルイットを有給休職:McMaster puts professor on paid leave after investigation into ‘serious matter’ | TheSpec.com
・2021年11月11日記事:プルイットの博士号剥奪:Behavioral ecologist Jonathan Pruitt’s PhD dissertation withdrawn – Retraction Watch

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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】

ジョナサン・プルイット(Jonathan Pruitt、Jonathan N Pruitt、ORCID iD:?、写真出典)は、米国に育ち、米国のピッツバーグ大学・助教授、カリフォルニア大学サンタバーバラ校・助教授を経て、「カナダ150研究職(Canada 150 Research Chairs)」に選ばれ、2018年にカナダのマックマスター大学(McMaster University)・準教授になった。医師ではない。専門は行動生態学(クモの生態)である。

プルイットは若いスーパースターである。大活躍中の研究者なので研究室員も多い(研究室員:2020年8月3日保存 )。

2019年(35歳?)、英国のエクセター大学(University of Exeter)の行動生態学者であるトム・トレジェンザ教授(Tom Tregenza)らが、プルイットの「2016年6月のAm Nat」論文の生データの異常に気がついた。

2020年1月(36歳?)、トレジェンザ教授からデータ疑念の連絡を受けた「2016年6月のAm Nat」論文の第一著者のケイト・ラスコウスキー(Kate Laskowski)が、生データの異常を確かめ、そのデータを提供したプルイットに説明を求めた。しかし、満足する説明が得られず、論文を撤回するとツイッターで公表した。

このツイッターに行動生態学の研究者たちは大騒動になった。

2020年1月29日(36歳?)、ラスコウスキーは論文データの詳細な問題点をウェブにアップした。

論文出版時にプルイットが所属していた米国のピッツバーグ大学とカリフォルニア大学サンタバーバラ校はネカト調査を始めた。

2020年8月3日現在、カリフォルニア大学サンタバーバラ校とピッツバーグ大学は、調査結果を発表していない。調査中と思われる。

プルイットは2014年以降、科学庁(NSF)から合計60万ドル(約6千万円)の助成金を3回獲得した。NIHからも助成金を得ていたが、プルイット事件は科学庁(NSF)管轄のネカト案件になると思われる。

2020年8月3日(36歳?)現在、マックマスター大学・準教授職を維持しているが、調査結果がクロとなれば、辞任するだろう:Jonathan Pruitt – Department of Psychology, Neuroscience & Behaviour | McMaster University:2020年8月3日保存

この事件は、2020年ネカト世界ランキングの「1B」の「4」に挙げられた。

マックマスター大学(McMaster University)の動画。

https://www.youtube.com/watch?v=c5CaIOgNjnU

  • 国:カナダ
  • 成長国:米国
  • 医師免許(MD)取得:なし
  • 研究博士号(PhD)取得:米国のテネシー大学
  • 男女:男性
  • 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2006年8月に学士号取得した時を22歳とした
  • 現在の年齢:40 歳?
  • 分野:行動生態学
  • 最初の不正論文発表:2014年(30歳?)
  • 不正論文発表:2014-2016年(30-32歳?)
  • 発覚年:2020年(36歳?)
  • 発覚時地位:マックマスター大学・準教授
  • ステップ1(発覚):第一次追及者は論文共著者のケイト・ラスコウスキー(Kate Laskowski)で、ツイッターとウェブで公表。ラスコウスキーはカリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis)・助教授
  • ステップ2(メディア):「Science」、「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」
  • ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①学術誌・編集部。②カリフォルニア大学サンタバーバラ校とピッツバーグ大学・調査委員会。③科学庁・監査総監室(NSF、OIG)(推定)
  • 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査中
  • 大学の透明性:調査中。大学以外が詳細をウェブ公表(⦿)
  • 不正:ねつ造・改ざん
  • 不正論文数:5報撤回。6報懸念表明。30報コメント
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けた(〇)
  • 処分:クロとなれば、マックマスター大学及び科学庁(NSF)から処分されるだろう
  • 日本人の弟子・友人:不明

【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は10億円(大雑把)。

●2.【経歴と経過】

主な出典:Jonathan PRUITT | PhD | McMaster University, Hamilton | McMaster | Department of Psychology, Neuroscience & Behaviour

  • 生年月日:不明。仮に1984年1月1日生まれとする。2006年8月に学士号取得した時を22歳とした
  • 2006年8月(22歳?):米国のサウスフロリダ大学(University of South Florida)で学士号取得:統合生物学
  • 2006年8月-2010年7月(22-26歳?):米国のテネシー大学(University of Tennessee)で研究博士号(PhD)を取得。指導教員:スーザン・リーチャート教授(Susan Riechert)
  • 2010年8月-2011年7月(26-27歳?):米国のカリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis)・ポスドク。ボス:Andy SihとJay Stachowicz
  • 2011年8月(27歳?):米国のピッツバーグ大学(University of Pittsburgh)・助教授
  • 2015年12月(31歳?):米国のカリフォルニア大学サンタバーバラ校(University of California, Santa Barbara)・助教授
  • 2018年10月(34歳?):カナダのマックマスター大学(McMaster University)・準教授
  • 2020年1月(36歳?):不正研究が発覚
  • 2020年8月3日(36歳?)現在:マックマスター大学・準教授職を維持:Jonathan Pruitt – Department of Psychology, Neuroscience & Behaviour | McMaster University:2020年8月3日保存

●3.【動画】

以下は事件の動画ではない。

【動画1】
「Jonathan Pruitt」を「ジョナサン・プルイット」と紹介。(英語)6分19秒。
KirstyDuncanが2018/03/29 に公開
動画は → Facebook

●4.【日本語の解説】

★2020年2月3日:中田兼介(京都女子大学 現代社会学部 教授):不正なデータは世界を駆ける – 海の底には何がある

出典 → ココ、(保存版) 

いろいろ調べてみると、撤回された論文の第一著者が、おかしなデータを発見して撤回の判断をするに至った経緯を綴った記事を発見する。

What to do when you don’t trust your data anymore – Laskowski Lab at UC Davis

これによると、どうやらPruitt氏から提供されたデータセットの中に、秒数で測った計測値(最大値が600)で小数点以下2桁までがピッタリ一致するものが多数見つかり、他にも100の位の数値だけが違っていて、その下の桁がすべて同じというものまで見つかるのだそうだ。あげく、連続したデータの数字の並び方まで同一であるブロックまで存在することが分かり、第一著者がPruitt氏から得た説明ではそのような現象が起ることがまったく説明できないということらしい。

●5.【不正発覚の経緯と内容】

★ジョナサン・プルイット(Jonathan Pruitt)

https://www.sciencemag.org/news/2020/03/embattled-spider-biologist-seeks-delay-additional-retractions-problematic-papers

ジョナサン・プルイット(Jonathan Pruitt)は、2011年8月(27歳?)に米国のピッツバーグ大学・助教授、2015年12月(31歳?)にカリフォルニア大学サンタバーバラ校・助教授を経て、2018年(34歳?)にカナダのマックマスター大学(McMaster University)・準教授になった。

プルイットは若いながらも大活躍中の研究者で、研究室員も多い:Members

カナダ政府は2018年3月29日、建国150周年を記念し、優秀な海外研究者をカナダ大学に招聘して学術職を7年間提供する「カナダ150研究職(Canada 150 Research Chairs)」プログラムの下で選出した、24人の研究者を発表した。(出典:SPS海外学術動向ポータルサイト

プルイットはその「カナダ150研究職(Canada 150 Research Chairs)」24人のうちの1人に選ばれた(Chairholders)。毎年35万カナダドル(約3,000万円)の研究費を7年間ももらえる。

★ケイト・ラスコウスキー(Kate Laskowski)

ジョナサン・プルイット(Jonathan Pruitt)とケイト・ラスコウスキー(Kate Laskowski)は師弟関係がない共同研究者である。

2020年、ラスコウスキーがプルイットのデータねつ造・改ざんを告発した。

ケイト・ラスコウスキー(Kate Laskowski、写真出典)は、2006年に米国のメリーランド大学ボルティモア校(University of Maryland Baltimore County (UMBC))で学士号を取得し、2013年に米国のイリノイ大学(University of Illinois)で研究博士号(PhD)を取得した。

2013~2019年にドイツのライプニッツ淡水生態学・内水漁業研究所(Leibniz Institute of Freshwater Ecology & Inland Fisheries)・ポスドク、その後研究員を経て、2019年にカリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis)・助教授になった。 → Kate Laskowski – Laskowski Lab at UC Davis

プルイットの撤回論文は2014~2016年の以下の3論文だが(2020年7月28日以前)、3報ともラスコウスキーとの共著で、内2報はラスコウスキーが第一著者である。なお、2020年7月28日、ラスコウスキーとの共著論文ではない2報がさらに撤回された。

  1. Individual and Group Performance Suffers from Social Niche Disruption.
    Laskowski KL, Montiglio PO, Pruitt JN.
    Am Nat. 2016 Jun;187(6):776-85. doi: 10.1086/686220. Epub 2016 Mar 31.
  2. Persistent social interactions beget more pronounced personalities in a desert-dwelling social spider.
    Modlmeier AP, Laskowski KL, DeMarco AE, Coleman A, Zhao K, Brittingham HA, McDermott DR, Pruitt JN.
    Biol Lett. 2014 Aug;10(8):20140419. doi: 10.1098/rsbl.2014.0419.
  3. Evidence of social niche construction: persistent and repeated social interactions generate stronger personalities in a social spider.
    Laskowski KL, Pruitt JN.
    Proc Biol Sci. 2014 Mar 26;281(1783):20133166. doi: 10.1098/rspb.2013.3166. Print 2014 May 22.

上記3報は、全部、ラスコウスキーがドイツのライプニッツ淡水生態学・内水漁業研究所の所属の時に発表した論文である。

プルイットは「2016年6月のAm Nat」論文ではカリフォルニア大学サンタバーバラ校の所属だが、「2014年8月のBiol Lett」論文と「2014年3月のProc Biol Sci.」論文ではピッツバーグ大学の所属である。

論文のネカトが発覚した時、プルイットはカナダのマックマスター大学(McMaster University)・準教授に就任していたので、カナダの事件としたが、ネカトは米国で実行された。

また、ネカトを告発したラスコウスキーもネカトを告発した時はカリフォルニア大学デービス校・助教授だが、論文発表時はドイツの研究員だった。

★発覚の経緯

先走って、撤回論文などを説明したが、最初から始めよう。

2019年、英国のエクセター大学(University of Exeter)の行動生態学者であるトム・トレジェンザ教授(Tom Tregenza、写真出典)の研究室に若い研究者が来て、プルイットの「2016年6月のAm Nat」論文の生データがどうもヘンなんですと言った。現在は削除されているが、当時、生データはウェブにアップされていた。

トレジェンザ教授はドイツのミュンヘン大学のニールス・ディンゲマンス教授(Niels Dingemanse、写真出典)と他の2人の仲間を誘って、プルイットの「2016年6月のAm Nat」論文の生データを調べてみることにした。

彼らは「2016年6月のAm Nat」論文の実験をシミュレートして、同じデータが得られることを確認しようとした。ところが、同じデータを得ることができなかった。それに、ディンゲマンス教授は「データ中に同じ数値がとても多い」と指摘した。

論文結果に再現性がなかったので、ディンゲマンス教授は、「2016年6月のAm Nat」論文の第一著者であるケイト・ラスコウスキー(Kate Laskowski)と論文を掲載した学術誌「Am Nat」のダニエル・ボニック編集長(Daniel Bolnick)に疑問点を伝えた。

連絡を受けたラスコウスキーは、自分でこの論文の生データを精査したところ、データが疑わしいと確信するに至った。

2020年1月18日(36歳?)、それで、ラスコウスキーは「2016年6月のAm Nat」論文は2020年1月17日に撤回し、その事をツイッターに書いた(以下)。

「2016年6月のAm Nat」論文の読者から、公開してある生データに関して問題点を指摘された。それで、著者・ラスコウスキーたちは、論文の基礎となる生データをもう一度チェックしました。そして、プルイットが提供した部分のデータに大きな異常を見つけました。ところが、プルイットは納得できる説明をできなかったのです。つまり、論文結果は信用できません。それで論文を撤回します。

プルイットの他の論文もチェックしたのかと問われ、プルイット自身が3論文を撤回したとツイッターに書いた(以下)。

しかし、この時、プルイットは、4か月にわたる海外調査で海外に滞在していた。

そして、2020年1月31日の「Science」記事ではプルイットは、記者に、「データねつ造・改ざんはしていない。間違えただけだ」と、不正を否定した。
  → 2020年1月31日のエリザベス・ペニシ(Elizabeth Pennisi)記者の「Science」記事:Spider biologist denies suspicions of widespread data fraud in his animal personality research | Science | AAAS、(保存版

★共同研究者:ノア・ピンター・ウォルマン(Noa Pinter-Wollman)

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UC Los Angeles)の行動生態学者であるノア・ピンター・ウォルマン準教授(Noa Pinter-Wollman、写真出典)は、プルイットと5年前から共同研究をしていて、ほぼ20報の共著論文を発表していた。

2020年1月中旬(36歳?)、ピンター=ウォルマン準教授はプルイットから最初の論文撤回の話を聞いた。それ以来、新しいニュースに対処するため、生活がグチャグチャになった。

彼女は自分と自分の院生との研究に関しては、その研究公正行動に自信を持っている。プルイット研究室のプルイット以外が出したデータは、当人たちが正しいと保証している。それで、残る問題はジョナサン・プルイット本人が収集・分析し、提供してきたデータだけである。

ピンター=ウォルマン準教授は、そのデータに絞ってチェックしている。しかし、重複する情報や、特定の数列など、データの不規則性を取り除くコンピュータープログラムの作らねばならず、対処は容易ではない。 「これは、私がやらなければならないとは想像もしなかったタイプの検査です」と彼女は言いつつ、すでに、撤回したい論文を3報見つけ、さらに3報調査している。

Generated by IJG JPEG Library

2020年1月29日、プルイット研究室の元・ポスドクでカリフォルニア大学バークレー校のポスドクになったアンビカ・カマト(Ambika Kamath、写真出典)は、プルイットのデータねつ造・改ざん疑惑に関する声明を発表した。ノア・ピンター=ウォルマン準教授もその声明にサインした。

以下は声明の冒頭部分(出典:同)。全文(1ページ)は → http://web.archive.org/web/20200315165136/https://ambikamath.wordpress.com/2020/01/29/statement-regarding-recent-retractions/

★大学院指導教授:スーザン・リーチャート(Susan Riechert)

プルイットの大学院時代の指導教授は、テネシー大学ノックスビル校のスーザン・リーチャート教授(Susan Riechert、写真出典)である。

リーチャート教授は、「私は非常にショックを受け、悲しい気持ちで一杯です。多くの人が悲しんでいます。彼(プルイット)が不注意だったという結論になることを願っています。しかし、もし、彼がデータをねつ造・改ざんしたのなら、彼はその代償を払わなければなりません」と明言した。

「プルイットは発信力に富み、エネルギッシュで、賢く、創造的で、協調的な人です。しかし、テネシー大学に提出したプルイットの博士論文につてもネカト疑惑が起こっています」とリーチャートは述べた。

★プルイットの反応

行動生態学は研究費を得るのに苦労することが多い研究分野である。しかし、プルイットは上手に研究費を獲得してきた若いスーパースターだった。2014年以降、科学庁(NSF)から合計60万ドル(約6千万円)の助成金を3回獲得し、NIHからも助成金を得ていた。

プルイットは、「今起こっていることに戸惑っています。多くの人は、私が実験数値をコピーして貼り付けたと思っているのですか? 私がそんなことするわけないじゃないですか」、と「Science」記者に語り、ネカトを否定している。

プルイットは、「自分のデータに対する同僚からの信頼が失われ、今後、行動生態学の研究を続けることはできないだろう」とも述べた。

★学術誌

学術誌「Am Nat」のダニエル・ボニック編集長(Daniel Bolnick)によれば、23誌の学術誌がプルイットの論文を調査しているそうだ。そして、「行動生態学のコミュニティーはトラブルを乗り越えつつある」と述べた。

「Behavioral Ecology」のリー・シモンズ編集長(Leigh W. Simmons、写真出典)は、プルイットが「Behavioral Ecology」で発表した11論文を過去3日間、データリポジトリの生データまで調べた。「このようなことは、私たちの分野ではこれまでに起こったことはありませんでした」と疲れ切った様子で述べた。

★調査と研究費

2020年8月3日現在、プルイットが問題論文を出版した時の所属であるカリフォルニア大学サンタバーバラ校とピッツバーグ大学、それに、現所属のカナダのマックマスター大学は、プルイットのネカト調査をしている。調査結果は発表されていない。

調査結果は発表されていないが、プルイットは2014年以降、科学庁(NSF)から合計60万ドル(約6千万円)の助成金を3回獲得し、NIHからも助成金を得ていた。研究費サイトで検索したら、科学庁からの2回の助成金だけが以下のようにヒットした。

NIHからも助成金を得ているとあるが、プルイット事件は科学庁(NSF)管轄のネカト案件になると思われる。となると、調査結果が発表されても、その報告書からは、事件の状況はつかみにくいだろう。

【ねつ造・改ざんの具体例】

ねつ造・改ざんではないかと共著者・ケイト・ラスコウスキー(Kate Laskowski)がウェブ上で指摘した。
 → 2020年1月29日のケイト・ラスコウスキー(Kate Laskowski)の記事:What to do when you don’t trust your data anymore – Laskowski Lab at UC Davis

以下の4つの表は、論文の生データである。上記記事から転載した。

細かいことを省くが、以下の4つの表で、着色した数値が2桁、3桁、そして、4桁まで同じである。勿論、たまたま同じ数値になることはある。いかし、こんなに多数の実験観測値が同じということはあり得ない。

数値をねつ造したと思われる。

表1

表2

表3

表4

●6.【論文数と撤回論文とパブピア】

★パブメド(PubMed)

2020年8月3日現在、パブメド( PubMed ))で、ジョナサン・プルイット(Jonathan Pruitt)の論文を「Jonathan Pruitt [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2009~2020年の12年間の78論文がヒットした。

2020年8月3日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、3論文が撤回されていた。

本記事で問題視した「2014年3月のProc Biol Sci.」論文を含めた2014年の2報と2016年の1報の計3報で、全部、ケイト・ラスコウスキー(Kate Laskowski)と共著である。

★撤回監視データベース

2020年8月3日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでジョナサン・プルイット(Jonathan Pruitt)を「Pruitt, Jonathan N」で検索すると、本記事で問題にした「2014年3月のProc Biol Sci.」論文を含め 11論文がヒットし、5論文が撤回されていた。Retraction Watch Databaseの上右「Nature of Notice」の右にチェックを入れ、「Retraction」にすると、撤回論文(数)が表示される。

★パブピア(PubPeer)

2020年8月3日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ジョナサン・プルイット(Jonathan Pruitt)の論文のコメントを「”Jonathan N Pruitt”」で検索すると、本記事で問題にした「2014年3月のProc Biol Sci.」論文を含め 30論文にコメントがあった。

●7.【白楽の感想】

《1》社交メディア 

プルイット事件では社交メディアがかなり利用された。

ツイッターのハッシュタグで #pruittdata #pruittgate  が使われ情報・意見の交換が行われた。

昭和は遠くなりにけり(白楽は昭和生まれ)。

《2》大事件? 

プルイットのデータねつ造・改ざんをみると、たくさんの数値をねつ造したこと、ネカト論文が多いこと、その分野のスター研究者とあがめられていたことなど、スターペル事件と似ているという印象をもった。

論文撤回数は、プルイットは現在5報だが、スターペルの58報に迫るのだろうか?
 → 社会心理学:ディーデリク・スターペル(Diederik Stapel) (オランダ) | 白楽の研究者倫理

《3》ネカト被災者 

 → 以下の一部分の出典:2020年6月1日の「カタリーナ・ジマー(Katarina Zimmer)」記者の「Scientist」記事:When Your Supervisor Is Accused of Research Misconduct | The Scientist Magazine®

プルイットは若いスーパースター研究者で、研究費が潤沢だったので、院生・ポスドクが多い:Members

論文数も多く、共著者(共同研究者)も多い。

これらネカト被災者の院生・ポスドク、共著者は大きな損害を被ると思われる。

撤回論文の共著者で、プルイットのネカトを公表したケイト・ラスコウスキー(Kate Laskowski)は、2019年にカリフォルニア大学デービス校(University of California, Davis)・助教授になったばかりである。その就任1年目で、研究室のセットアップに忙しい時期に、ネカト処理で4か月も振り回された。

ネカト被災者の院生・ポスドク、共著者は、自分自身でネカトをしていないのに、指導教員や共同研究者がネカトをした状況になると、大きなダメージを受ける。

研究公正局(ORI)のワンダ・ジョーンズ(Wanda Jones)は、「研究公正局が毎年ネカト調査する件数は約30件だが、その約40%は主任研究員(PI)がネカト行為者との疑惑で調査されている。それで、毎年、数十人の若い院生・ポスドクは、自分の研究プロジェクトが危険にさらされ、新しい研究室で自分のポジションを見つけるために奮闘しなければならないことにある」と。

日本ではネカト被災者を誰が、どうケアしているのだろう? 文部科学省のガイドラインはない。

https://brighterworld.mcmaster.ca/articles/meet-mcmasters-canada-150-chair-jonathan-pruitt/

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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●9.【主要情報源】

② ウィキペディア英語版:Jonathan Pruitt – Wikipedia
③ 2020年1月20日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:‘I’m starting the year off with something I didn’t expect to ever do: I’m retracting a paper.’ – Retraction Watch
④ 2020年1月29日の論文共著者・ケイト・ラスコウスキー(Kate Laskowski)の記事:What to do when you don’t trust your data anymore – Laskowski Lab at UC Davis
⑤ 2020年1月29日のアダム・マーカス(Adam Marcus)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Authors questioning papers at nearly two dozen journals in wake of spider paper retraction – Retraction Watch
⑥ 2020年1月31日のエリザベス・ペニシ(Elizabeth Pennisi)記者の「Science」記事:Spider biologist denies suspicions of widespread data fraud in his animal personality research | Science | AAAS、(保存版
⑦ 2020年3月14日のレオニッド・シュナイダー(Leonid Schneider)のブログ記事:Spiderman’s lawyer is having you for dinner tonight – For Better Science
⑧ 2020年6月1日の「カタリーナ・ジマー(Katarina Zimmer)」記者の「Scientist」記事:When Your Supervisor Is Accused of Research Misconduct | The Scientist Magazine®
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。

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