2020年3月10日掲載
ワンポイント:ロングリッチは米国で育ち、英国のバース大学(University of Bath)の上級講師になった。2010年に新しい恐竜の化石を見つけ命名し、2015年に「4つ足の蛇」の化石を見つけた。2回の大発見でスター科学者になった。2018年5月(42歳?)、研究室の院生がロングリッチのアカハラ行為(具体的行為不明)を大学に告発した。大学は調査の結果、クロと判定し、口頭注意処分を科した。リーヴァーヒューム・トラスト財団(Leverhulme Trust)は、2016年にロングリッチに交付した100万ポンド(約1億4千万円)の研究助成金を取り消した。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
8.主要情報源
9.コメント
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●1.【概略】
ニコラス・ロングリッチ(Nicholas Longrich、Nick Longrich、Nicholas R. Longrich、https://orcid.org/0000-0002-9586-8907、写真出典)は、米国で育ち、英国のバース大学(University of Bath)・生物生化学科(Department of Biology and Biochemistry)・上級講師になった。専門は古生物学で、この分野では著名な学者である。
2010年(34歳?)、ロングリッチは新しい恐竜の化石を見つけ、モジョケラトプス・ペリファニア Mojoceratops perifaniaと命名した。その「2010年のJ. Paleontol」論文で超有名になった。
2015年(39歳?)、5年後、今度は、「4つ足の蛇」化石の大発見を、「2015年のScience」論文として発表した。
2018年5月(42歳?)、バース大学はロングリッチ研究室の院生から、ロングリッチのアカハラを訴える正式な告発を受けた。
2018年6月初旬(42歳?)、バース大学は正式調査を開始し、7月に結論を出した。処分は口頭による注意だけだったが、リーヴァーヒューム・トラスト財団(Leverhulme Trust)は、2016年にロングリッチに交付した100万ポンド(約1億4千万円)の研究助成金を取り消した。
ロングリッチ事件は刑事事件になっていない。
バース大学(University of Bath)・生物生化学科棟(Department of Biology and Biochemistry)。写真出典
- 国:英国
- 成長国:米国
- 研究博士号(PhD)取得:カナダのカルガリー大学
- 男女:男性
- 生年月日:仮に1976年1月1日生まれとする。1998年の学部卒の時、22歳とした
- 現在の年齢:48 歳?
- 分野:古生物学
- アカハラ行為:2012?-2018 年(36-42歳?)の6年間?
- 最初に訴えられた:2018年(42歳?)
- 社会に公表年:2018年(42歳?)
- 社会に公表時地位:バース大学・上級講師
- ステップ1(発覚):第一次追及者は被害者の院生1人(性別不明)で大学に公益通報
- ステップ2(メディア):「Nature」などのメディア
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①バース大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 大学・処分のウェブ上での公表:なし
- 大学の透明性:実名発表したが、調査報告書のウェブ公表なし(含・調査時点で削除されている)(△)
- 不正:アカハラ
- 被害者数:被害者数は不明だが、院生1人(性別不明)と思われる
- 時期:研究キャリアの中期
- 職:事件後に発覚時の地位を続けた(〇)
- 処分:口頭による注意
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:①:Nick Longrich – The Conversation、②:Nick Longrich – CV – Nick Longrich – Vertebrate Paleontology Research
- 生年月日:仮に1976年1月1日生まれとする。1998年の学部卒の時、22歳とした
- 1998年(22歳?):米国のプリンストン大学(Princeton University)で学士号取得
- 2000年(24歳?):米国のシカゴ大学(University of Chicago)で修士号取得
- 2008年(32歳?):カナダのカルガリー大学(University of Calgary)で研究博士号(PhD)を取得
- 2009–2012年(33-36歳?):米国のイェール大学(Yale University)・ポスドク
- 2012年(36歳?):英国のバース大学(University of Bath)・上級講師
- 2018年5月(42歳?):アカハラの告発
- 2018年7月(42歳?):バース大学は調査を終了し、アカハラでクロ。口頭注意処分
●3.【動画】
【動画1】
アカハラ事件の動画ではない。研究内容の説明動画:「バース大学の研究が巨大な空飛ぶ生き物の化石を発見(University of Bath study finds fossils of giant flying creatures)- YouTube」(英語)1分17秒。
University of Bathが2018/03/13に公開
●4.【日本語の解説】
アカハラ事件の解説ではない。
★2012年7月30日:AFP:ヘビは水中ではなく陸上で進化、米論文
出典 → ココ
米国の生物学者らからなる研究チームは、「Coniophis」という生物の顎や歯、脊椎のかけらを詳しく分析した。結果、この生物は最も原始的なヘビであり、トカゲからヘビへの進化の過程のカギを握る「ミッシング・リンク」であるとの結論に至ったという。
英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された論文の共同執筆者、米エール大学(Yale University)のニコラス・ロングリッチ(Nicholas Longrich)氏によれば、Coniophisの体には恐らく小さな脚が付いていたが、見た目はトカゲよりヘビに近かっただろうという。
★2019年03月25日:日経ナショナル ジオグラフィック社、デビッド・ブラウン:ナショナル ジオグラフィック にわかには信じがたい本当にあったこと
出典 → ココ
●5.【アカハラ発覚の経緯と内容】
★2つの大発見
2010年(34歳?)、米国のイェール大学(Yale University)のポスドクだったニコラス・ロングリッチ(Nicholas Longrich、写真出典)は、新しい恐竜の化石を見つけ、モジョケラトプス・ペリファニア Mojoceratops perifaniaと命名し、「2010年のJ. Paleontol」論文を発表した。この発見で、ロングリッチは超有名になった。 → 2010年7月10日の「New York Times」記事:From Museum Basement, a ‘New’ Dinosaur – The New York Times
- Mojoceratops perifania, a new chasmosaurine ceratopsid from the late Campanian of Western Canada
Nicholas R. Longrich
J. Paleontol. 84, 681-694 (2010).
モジョケラトプス・ペリファニア Mojoceratops perifania はロイヤル・ティレル古生物学博物館やアメリカ自然史博物館所蔵の複数個体分の部分的な頭骨から2010年、ロングリッチによって記載され、それに基づいて他の5個体分の標本も同種と見なされた。(カスモサウルス – Wikipedia)
2012年(36歳?)、ニコラス・ロングリッチ(Nicholas Longrich、写真出典)は、イェール大学(Yale University)のポスドクから英国のバース大学(University of Bath)・上級講師に採用された。
2015年(36歳?)、新しい恐竜発見の5年後、今度は、「4つ足の蛇」を見つけるという大発見をしたのである。「2015年のScience」論文として発表した。
- EVOLUTION. A four-legged snake from the Early Cretaceous of Gondwana.
Martill DM, Tischlinger H, Longrich NR.
Science. 2015 Jul 24;349(6246):416-9. doi: 10.1126/science.aaa9208.
ロングリッチはリーヴァーヒューム・トラスト財団(Leverhulme Trust)から、2016年に100万ポンド(約1億4千万円)の研究助成金を獲得した。
★毒ラボとバース大学
ところが、ロングリッチ研究室は毒ラボだった。
2018年5月(42歳?)、バース大学はロングリッチ研究室の院生から、ロングリッチのアカハラを訴える正式な告発を受けた。
2018年6月初旬(42歳?)、バース大学は調査を開始し、7月に次の結論を出した。
調査委員会は、書面および口頭で受けたアカハラの申し立てを検討し、多数のアカハラ行為の証拠を得た。結論として、ロングリッチに悪意はなかったが、アカハラをしていた。
★バース大学の処分
バース大学のロングリッチに対する処分は、口頭注意だけだった。停職や解雇の処分をしなかった。
★リーヴァーヒューム・トラスト財団(Leverhulme Trust)の処分
リーヴァーヒューム・トラスト財団(Leverhulme Trust)はロングリッチに交付した100万ポンド(約1億4千万円)の研究助成金を取り消した。ただし、現在在籍しているロングリッチ研究室の院生に対しては引き続き支援するとした。
●【アカハラの具体例】
白楽は、アカハラの具体的行為を把握できなかった。バース大学の「尊厳尊敬規則(dignity and respect policy)」に違反したということしかわからなかった。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2020年3月9日現在、パブメド(PubMed)で、ニコラス・ロングリッチ(Nicholas Longrich)の論文を「Nicholas Longrich [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2009~2019年の11年間の19論文がヒットした。
「Longrich NR[Author]」で検索すると、2009~2019年の11年間の20論文がヒットした。
2020年3月9日現在、「Longrich NR[Author] AND Retracted」でパブメドの論文撤回リストを検索すると、0論文が撤回されていた。
★撤回論文データベース
2020年3月9日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回論文データベースでニコラス・ロングリッチ(Nicholas Longrich)を「Nicholas Longrich」で検索すると、0論文がヒットし、0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2020年3月9日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ニコラス・ロングリッチ(Nicholas Longrich)の論文のコメントを「Longrich」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》詳細は不明
ニコラス・ロングリッチ(Nicholas Longrich)のアカハラ行為は具体的にはどんな言動だったのか?
不明である。
処分が口頭注意なので、軽微なのだろうが、バース大学は不透明である。
ネカトもそうだけど、アカハラ事件も、どの程度の言動ならどの程度の処分を受けるのか、明確に示すべきだ。
また、事件の詳細が不明だと、「どの状況で? どうして?」がわからない。これでは、ルールを検討する政策者だけでなく、現場の研究者や院生がどのように振舞えばよいのかを考えるのにも役に立たない。
《2》研究助成機関
ロングリッチはスター科学者である。もともと、米国育ちである。英国のバース大学で不祥事を起こしたので、近々、バース大学を去るだろう。
問題は、次の移籍先の大学がこのアカハラ事件をどうとらえるかだ?
アカハラ体質でも研究成果が優れていれば、多くの大学は引き受けたい。その大きな要因は高額な外部研究費の獲得である。 → 「アカハラ」:アラン・クーパー(Alan Cooper)(豪)
しかし、ロングリッチ事件の様に研究助成機関が、アカハラ研究者に研究費を配分しなければ、アカハラ研究者を招聘する大学は激減する。
つまり、性不正・アカハラ防止の大きな要因として、研究助成機関のこのような動きはとても重要に思える。
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日本がスポーツ、観光、娯楽を過度に追及する現状は日本の衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今後、日本に飛躍的な経済の発展はない。科学技術と教育を基幹にした堅実・健全で成熟した人間社会をめざすべきだ。科学技術と教育の基本は信頼である。信頼の条件は公正・誠実(integrity)である。人はズルをする。人は過ちを犯す。人は間違える。その前提で、公正・誠実(integrity)を高め維持すべきだ。
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●8.【主要情報源】
① 2018年9月18日のホリー・エルス(Holly Else)記者の「Nature」記事:Prominent palaeontologist loses £1-million grant following bullying investigation
② 2018年9月21日のジョナサン・コールズ(Jonathan Coles)記者の「Somerset Live」記事:University of Bath lecturer loses £1M grant after ‘harassment, bullying and victimisation’ probe – Somerset Live
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
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