2017年2月5日掲載。
ワンポイント:2013年(32歳)に研究費の横領で逮捕され、大学を辞職(解雇?)した若い女性テクニシャンに、同年、データねつ造・改ざんが発覚した。2015年、大学がそのねつ造・改ざんを秘匿していたとして、受領した研究費総額・2億ドル以上(約200億円以上)で、その3倍を政府へ返還せよとの裁判が、大学を被告に起こされ、係争中。2017年2月4日現在、撤回論文数が16報で、世界「撤回論文数」ランキングの第29位である。また、「2016年ランキング」の「The Scientist」誌の2016年「論文撤回」上位10論文:2016年12月21日にリストされた(8番目)。
【追記】
・2017年4月28日記事:$200M research misconduct case against Duke moving forward, as judge denies motion to dismiss – Retraction Watch at Retraction Watch
・2018年11月19日記事:Duke University to settle case alleging researchers used fraudulent data to win millions in grants | Science | AAAS
・2019年3月25日記事:Duke settles case alleging data doctoring for $112.5 million – Retraction Watch
・2019年3月26日記事:Joseph Thomas just earned $33.8 million in a $112.5 million settlement with Duke. Here’s his story. – Retraction Watch
・2019年9月11日記事:“Highly unusual and unfortunate error” delays retraction two years in high-profile Duke case – Retraction Watch
・2019年10月31日記事:研究公正局がクロ判定し生涯締め出し処分を科した:Case Summary: Potts Kant, Erin N. | ORI – The Office of Research Integrity
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
3.動画
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文
7.白楽の感想
8.主要情報源
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●1.【概略】
エリン・ポッツ=カント(Erin Nicole Potts-Kant)は、若い女性で、米国・デューク大学(Duke University in Durham, North Carolina)・肺疾患研究グループのテクニシャンで、専門は肺疾患生物学だった。医師ではない。マイケル・フォスター教授(William Michael Foster)の下で研究していた。
2013年(32歳)、研究費で私物を約146万円(または、約250万円以上)購入した横領罪で逮捕された。
2013年(32歳)、同じ研究グループの教員・ジョセフ・トーマスがねつ造・改ざんを見つけ、大学に通報したが、取り合わなかったので、2015年、大学を被告に裁判を起こした。
2015年に事件がメディアに取り上げられた時、白楽は、デューク大学と研究公正局が調査を開始したに違いないと予測し、調査結果が公表されてから記事にしようと思っていた。
しかし、なかなか公表されない。2017年2月4日現在、調査結果は公表されていない。2016年のランキングにランクされたので、記事にした。
ポッツ=カント事件は、「2016年ランキング」の「The Scientist」誌の2016年「論文撤回」上位10論文:2016年12月21日にリストされた(8番目)。2017年2月4日現在、世界「撤回論文数」ランキングの第29位。
デューク大学は、「Times Higher Education」の大学ランキングで世界第20位の大学である(World University Rankings 2015-2016 | Times Higher Education)。
デューク大学(Duke University in Durham, North Carolina)。写真出典
- 国:米国
- 成長国:
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:なし
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1981年1月1日生まれとする。2013年3月31日の新聞に32歳とあったから
- 現在の年齢:43 歳?
- 分野:肺疾患生物学
- 最初の不正論文発表:2008年(27歳?)。撤回論文の最古が「2008年のAm J Physiol Lung Cell Mol Physiol.」 なので
- 発覚年:2013年(32歳)
- 発覚時地位:デューク大学・テクニシャン
- ステップ1(発覚):第一次追及者(ジョセフ・トーマス?)の各学術誌・デューク大学への公益通報。ジョセフ・トーマス(Joseph Thomas)は虚偽請求取締法違反の「私人による代理訴訟(qui tam action)」で裁判を起こした
- ステップ2(メディア): 「撤回監視(Retraction Watch)」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①各学術誌。②裁判所。③デューク大学・調査委員会(推定)。④研究公正局(推定)
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし
- 不正:ねつ造・改ざん、研究費横領
- 不正論文数:少なくとも16報の論文撤回
- 時期:研究キャリアの初期から
- 研究費:総額は2億ドル以上(約200億円以上)。NIHやEPAなどの60件の研究助成金。→ ポッツ=カントに支給した助成金ではなく、ポッツ=カントのネカト論文で、①デューク大学に支給した助成金が8千万ドル(約80億円)、②他大学に支給した助成金が1億2千万ドル(約120億円)
- 結末:辞職。16報の論文撤回
●2.【経歴と経過】
- 生年月日:不明。仮に1981年1月1日生まれとする。2013年3月31日の新聞に32歳とあったから
- 20xx年(xx歳):xx大学を卒業
- 2005年(25歳?):デューク大学に雇用された。正式には「臨床研究コーディネーターⅡ(Clinical Research CoordinatorⅡ)」という職名だが、ここではテクニシャンと書く。ボスはマイケル・フォスター教授(William Michael Foster)
- 2013年3月初旬(32歳):デューク大学を辞職(解雇?)
- 2013年3月29日(32歳):約146万円(約250万円以上という記事もある)の横領罪で逮捕された
- 2013年6月(32歳?):最初の論文撤回
●4.【日本語の解説】
★2016年9月4日の「日本の科学と技術」記事
出典 → データ捏造で不正に獲得した公的研究費総額2億ドル(200億円):国に与えた損害額の3倍の支払いを大学と研究者に対して求める訴訟が起こされる – 日本の科学と技術
2016年9月1日のサイエンス誌のニュース記事によると、アメリカのデューク大学らの研究者は不正な研究データに基づいて総額2億ドルの研究費助成金を国から得ていたとして、研究者および大学は国に与えた損害額の3倍を支払うよう訴えられていることが明らかになりました。
デューク大学のWilliam Foster教授の研究室で働いていたErin Potts-Kant博士が研究データの捏造などの不正を行い、Potts-Kant博士とFoster教授の共著で論文を出していましたが、結果的に、彼女が関与した15報の論文が現在までに撤回されていす。Potts-Kant博士およびFoster教授は不正論文に基づいて研究費を獲得しさらに不正論文を生産することを長期わたって繰り返した結果、不正に得た研究資金の総額が2億ドル(助成件数60件以上)にも上っていました。データ捏造に直接関与したPotts-Kant博士、不正を隠蔽したFoster教授およびデューク大学は、国に与えた損害を弁済すべしというのが、今回の訴えの内容です。
訴状によると、デューク大学、Foster教授、Potts-Kant博士らの被告側に対して、国に与えた損害金額の3倍の金額の支払いなどが求められています。
告発者は、当時デューク大学に所属していた研究者で、訴えが認められた場合、インセンティブとして数百万ドル(数億円)を手にする可能性があるとのことです。今回のこの訴訟は、国のお金を横領した個人や会社などに対して、その返還を求めて、個人が国を代表して訴訟を起こす制度False Claims Actに基づくものです。
ちなみに、Potts-Kant博士は今回問題にされている研究そのものに関する不正とは別に、25000ドル以上の研究費を着服し、アマゾンやウォルマート、ターゲットなどでの買い物に使っていたかどで2013年に逮捕されています。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
●【横領罪で逮捕】
2013年3月29日(32歳)、ポッツ=カントは、デューク大学の彼女名義のカードで私物を購入したとして横領罪で逮捕された。
→ 2013年3月31日の「Herald-Sun」記事:Police log | Local News | heraldsun.com
2008年12月12日から 2012年11月6日までの4年間、アマゾン(Amazon.com)、ターゲット(Target)、ウォルマート(Walmart)、タイガーディレクト(TigerDirect)で、私物を$14,616.34(約146万円)購入したという横領罪である。流用額は、$14,616.34ではなく、$25,000(約250万円)以上という記載もある。
保釈金を$10,000(約100万円)払って、保釈された。
州判事は、課徴金を科し、さらに社会奉仕と保護観察を申し付けた。
●【ねつ造・改ざんの経過】
2013年6月(電子版では5月)、ポッツ=カントが著者の1人である「2013 年のJ Appl Physiol」論文(同年の4月に出版)が撤回された。
図2のデータに信頼性がないという理由である。つまり、ねつ造・改ざんである(ARTICLES | Journal of Applied Physiology)。
しかし、デューク大学はポッツ=カントのネカトを調査していると発表しなかった。
★虚偽請求取締法(False Claims Act)
2015年11月、デューク大学・細胞生物学科に2008年8月-2012年2月に勤務した生物学者・ジョセフ・トーマス(Joseph Thomas)は、デューク大学がポッツ=カントのネカトを秘匿していたと、デューク大学、ポッツ=カント、マイケル・フォスター教授の3者を被告に、虚偽請求取締法(False Claims Act:31 U.S. Code § 3730) に基づく「私人による代理訴訟(qui tam action)」を起こした。
なお、虚偽請求取締法(False Claims Act:31 U.S. Code § 3730)は、連邦政府に対する不正請求等を知った者が、当該情報を元に連邦政府のために、不正請求等を行っている者に対して、民事訴訟(キイタム訴訟)を提起し、これにより政府が得た収益の最大 30%を報償金として得ることができるとするものである(31 U.S.C§3730(d)(2))。また、訴訟を提起された被用者等が労働者等に対し不利益取扱いをすることを禁止し、不利益取扱いを受けた者は、同等の地位での復職や遡及賃金の倍額の請求等が可能である(31 U.S.C§3730(h))(出典:立法後の米国及び欧州における公益通報者保護制度の状況)。
もし原告者のジョセフ・トーマスが勝訴すれば、デューク大学は政府から不正に受給した研究費の3倍を政府に返還しなければならなくなる。そして、原告者のジョセフ・トーマスは返還額の最大30%、多分、数百万ドル(数億円)を報奨としてもらえる。
虚偽請求取締法(False Claims Act)で大学を被告にネカト裁判を起こすケースは少ない。
【主要情報源】③の記事では4件が表になっている。4件の内、原告側は2件で勝訴、2件で敗訴している。ポッツ=カント事件の裁判は米国のネカト史では大事件である。
英語のママでスミマセンが、以下に4件を貼り付ける(出典:【主要情報源】③)。
★事件の状況
【主要情報源】⑤の記事に年次的経過が図示されている。以下に貼り付け、その下に日本語で概略した。
出典。Photo by Shreya Shankar | The Chronicle
- 2005年、デューク大学がポッツ=カントを雇用した。
- 2011年、健康福祉省がデータ改ざんをデューク大学に伝えた。
- 2013年3月、ポッツ=カントは横領罪でデューク大学を辞職(解雇?)。
- 2013年4月、デューク大学は共著者がネカトを告発しないようにする指針を研究者に配布した。
- 2013年6月、デューク大学はNIHに研究報告書(含・ポッツ=カント)を送付。
- 2013年秋、デューク大学はNIHに研究助成金更新書(除・ポッツ=カント)を送付。
- 2015年11月、デューク大学はポッツ=カントのネカトを秘匿していたと、ジョセフ・トーマスが提訴した。
2013年の時点で、デューク大学はポッツ=カントのネカトを知っていたのに、それに適切に対処しなかったと、ジョセフ・トーマスは訴えたのだ。
原告者のジョセフ・トーマスは、2008年8月からデューク大学・細胞生物学科に勤務していたが、2012年に肺疾患研究グループに加わった(2012年2月に退職)。その時、肺疾患研究グループに、ポッツ=カントとマイケル・フォスター教授がいた。
ジョセフ・トーマスの主張によると、ポッツ=カントはデータをねつ造・改ざんしていたが、マイケル・フォスター教授は、それを承知で、NIHやEPAの研究費申請書に記載していた。
ねつ造・改ざんデータは、8千万ドル(約80億円)以上の研究費をデューク大学にもたらした。さらに、デューク大学に所属していない研究者の研究費申請にもそのねつ造・改ざんデータが使用され、約1億2千万ドル(約120億円)もの研究費が配分された。
デューク大学の広報・政府担当副学長のマイケル・シェーンフェルド(Michael Schoenfeld)は、「デューク大学はネカトを無視していません。適切に調査を開始し、当局に報告しました」と反論している。
2016年8月8日、ジョセフ・トーマスが前年(2015年)の11月に提訴した訴状は封印されていて、公開されなかったが、この日(2016年8月8日)に封印か解除された。インターネットで入手できたので、以下に冒頭部分を貼り付けた。元は → ココ(撤回監視サイトの71頁のPDF)
2017年2月4日現在、ジョセフ・トーマスが訴えた裁判は決着していない。また、デューク大学と研究公正局の調査結果は公表されていない。マイケル・フォスター教授(William Michael Foster)はデューク大学を退職し、口を閉ざしている。ポッツ=カントも取材に応じず、連絡先も不明で、どこかに隠遁している。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
★「2012年のm J Respir Cell Mol Biol.」論文
以下の「2012年のm J Respir Cell Mol Biol.」論文が2015年4月に撤回された。
- Maternal diesel inhalation increases airway hyperreactivity in ozone-exposed offspring.
Auten RL, Gilmour MI, Krantz QT, Potts EN, Mason SN, Foster WM.
Am J Respir Cell Mol Biol. 2012 Apr;46(4):454-60. doi: 10.1165/rcmb.2011-0256OC.
Retraction in: Am J Respir Cell Mol Biol. 2015 Apr;52(4):523.
PMID:22052876
撤回理由は、図3–5が信頼できないためと報告された。
→ Retraction: Maternal Diesel Inhalation Increases Airway Hyperreactivity in Ozone-Exposed Offspring
図のどこがマズイのかてっとり早くパブピアで探ると、・・・ナニ、パブピアに指摘がなかった。
→ PubPeer – Results for 22052876
仕方ない。以下に原著論文から図3–5をコピペして順番に示す。読者の皆さん、どこがねつ造・改ざんなのか、見つけてください。
読者の皆さん、どこがねつ造・改ざんなのか、わかりました?
白楽はわかりません。
ねつ造・改ざんデータの図3–5は、全部、棒グラフや折れ線グラフだった。
棒グラフや折れ線グラフでは、眺めていても、どの部分がどのように不正だったのか、わかりません。
パブピアで指摘がないのは、棒グラフや折れ線グラフだったからだ。
棒グラフや折れ線グラフなど、測定値のねつ造・改ざんは、第三者がデータを見ても、ねつ造・改ざんを指摘できない。実験をそばで見ていた内部者しか見つけることができない。
●6.【論文数と撤回論文】
2017年2月4日現在、パブメド(PubMed)で、エリン・ポッツ=カント(Erin Nicole Potts-Kant)の論文を「Erin Nicole Potts-Kant [Author]」で検索すると、2011年~2016年の7年間の10論文がヒットした。
10論文の内、8論文はマイケル・フォスター教授(William Michael Foster)と共著だった。ポッツ=カントが第一著者の論文は1報もなかった。
2017年2月4日現在、2論文が撤回されている。
- Hyaluronan activation of the Nlrp3 inflammasome contributes to the development of airway hyperresponsiveness.
Feng F, Li Z, Potts-Kant EN, Wu Y, Foster WM, Williams KL, Hollingsworth JW.
Environ Health Perspect. 2012 Dec;120(12):1692-8. doi: 10.1289/ehp.1205188.
Retraction in: Environ Health Perspect. 2015 Jul;123(7):A172.
PMID:23010656 - Alveolar macrophages from overweight/obese subjects with asthma demonstrate a proinflammatory phenotype.
Lugogo NL, Hollingsworth JW, Howell DL, Que LG, Francisco D, Church TD, Potts-Kant EN, Ingram JL, Wang Y, Jung SH, Kraft M.
Am J Respir Crit Care Med. 2012 Sep 1;186(5):404-11. doi: 10.1164/rccm.201109-1671OC.
Retraction in: Am J Respir Crit Care Med. 2015 Jul 15;192(2):264.
PMID:22773729
撤回監視によると、2016 年11月4日時点で16論文が撤回された(2016 年11月4日のアリソン・マクック(Alison McCook)記者の記事:Former Duke researcher at center of lawsuit lodges 16th retraction – Retraction Watch at Retraction Watch)。
では、他の14撤回論文はどうなっているのか?
撤回監視は論文撤回毎に記事をアップしていて、16撤回論文の全リストを示していない。白楽は、面倒だから(ゴメン)、1つ1つ調べないけど、気になる人は、【主要情報源】①の記事を1つ1つあたってください。
しかし、パブメドでエリン・ポッツ=カントの論文が10報しかヒットしないのはヘンだ。どうしてだろう?
【主要情報源】⑤は、ポッツ=カントとマイケル・フォスター教授の共著論文は38論文ある、と報道している。
結婚して姓が変わったかもしれない。姓の「Potts-Kant」の「-Kant」を除いて、「Potts EN[Author]」で検索した。すると、2007年~2016年の10年間の34論文がヒットした。ピンポーン。なるほど、そういうことか。
34論文の内、31論文はマイケル・フォスター教授(William Michael Foster)と共著である。エリン・ポッツ=カントの研究生活は、マイケル・フォスター教授と一心同体だったということだ。そして、34論文にも、ポッツ=カントが第一著者の論文は1報もなかった。
パブメド34論文の内、今度は、9論文が撤回されていた。
著者名「Potts EN」と著者名「Erin Nicole Potts-Kant」の論文は重複していないから、両者を合わせると、44論文となり、撤回論文は11論文となった。それでも撤回論文が5報少ないが、まあいいや。
最古の撤回論文は以下の「2008年のAm J Physiol Lung Cell Mol Physiol.」論文である。2015年4月に撤回された。
- Airway smooth muscle relaxation is impaired in mice lacking the p47phox subunit of NAD(P)H oxidase.
Chitano P, Wang L, Mason SN, Auten RL, Potts EN, Foster WM, Sturrock A, Kennedy TP, Hoidal JR, Murphy TM.
Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2008 Jan;294(1):L139-48.
Retraction in: Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2015 Apr 15;308(8):L854.
PMID:17993584
●7.【白楽の感想】
《1》師と弟子
ポッツ=カントの44論文の内、39論文はマイケル・フォスター教授と共著である。最初の論文は2007年出版で、ポッツ=カントは26歳(?)だった。2007年(26歳?)~2016年(35歳?)の10年間に44論文も書いている。
肺疾患研究グループのフォスター教授研究室のテクニシャンだったポッツ=カントは、2013年に32歳で横領罪に問われ、その後、データねつ造が発覚していく。
博士号もないのに20代後半から30代前半という若さで多数の論文を出版していること、第一著者は1つもないこと、ほとんどがフォスター教授が共著になっていたこと。これらを考えると、横領や杜撰な論文を許容していたフォスター教授が本当の責任者と考える方が妥当だろう。
フォスター教授が多額の研究費を得ていたことを考えると、ワルの黒幕はフォスター教授で、彼が本当の主犯ではないだろうか? ねつ造論文を隠蔽した大学上層部も協力した節がアリアリだ。
全貌がハッキリするのは、ジョセフ・トーマスの起こした裁判結果の公表、デューク大学の調査結果の発表、研究公正局の調査結果の発表、まで待たなければならない。
《2》測定値のねつ造・改ざん
一般的に、パブピアでねつ造・改ざんが指摘される。その指摘は、通常、電気泳動バンドなどの画像加工が多い。
ところが、ポッツ=カントのねつ造・改ざんデータは、棒グラフや折れ線グラフである。
棒グラフや折れ線グラフを見ても、どの部分がどのように不正だったのか、まるでわからない。つまり、測定値のねつ造・改ざんは、内部者にしかわからない。
一般的には、測定値のねつ造・改ざんでも、元データと照らし合わせれば、不正がわかる。
しかし、もし、元データに記帳する段階で数値を変える、あるいは、機器を操作して元データが不正にプリントされるように操作した場合、元データと照らし合わせても、改ざんはわからない。
元データそのものをねつ造した場合も、なかなか見つけにくい。
さらに、元データが正確だとしても、保存してなければ、データのねつ造・改ざんは証明できない。もちろん、測定値を記録していない(記録を保存していない)行為は倫理違反で、そのことでネカトと判定することもできるが、データのねつ造・改ざんそのものは証明できない。
《3》情報が少ない
デューク大学と研究公正局が調査中だからか、事件の情報はウェブ上に少ししかない。
ポッツ=カントの顔写真と経歴は見つからない。2005年にデューク大学がポッツ=カントを雇用したとあったが、この時、24歳(?)で、研究者ではなくテクニシャンである。
それなのに、2007年(26歳?)~2016年(35歳?)の10年間に44論文も書いている。どれも第一著者ではないということは、データを素早く・上手に出す人だったので共同研究の依頼が多かったのだろう。データをねつ造してるのだから、素早く・上手にデータを出せるのは当然かもしれないが。
マイケル・フォスター教授は、2017年2月4日現在すでに、デューク大学を退職し、顔写真と経歴は見つからない。
だから、ポッツ=カントが、どうして横領をしたのか? どうしてネカトをしたのか? どう防ぐのか? ネカト学として何を学べるのか? わかんないっす。
●8.【主要情報源】
① 撤回監視(Retraction Watch)の記事群:You searched for Erin N. Potts-Kant – Retraction Watch at Retraction Watch
② 2013年3月31日の「Herald-Sun」記事:Police log | Local News | heraldsun.com(保存版)
③ 2016年9月1日のアリソン・マクック(Alison McCook)の「Science」記事:Whistleblower sues Duke, claims doctored data helped win $200 million in grants | Science | AAAS 保存済
④ 2016年9月2日の「Chronicle」スタッフの「Chronicle」記事:Former researcher sues Duke, alleges Uni used improper data to receive funding | The Chronicle(保存版)
⑤ 2016年9月7日のヴィル・パテール(Vir Patel)の「Chronicle」記事:Experts address research fabrication lawsuit against Duke, note litigation could be lengthy | The Chronicle(保存版)
⑥ 「パブピア(PubPeer)」のエリン・ポッツ=カント(Erin Nicole Potts-Kant)のコメント論文群・・・該当論文はない:PubPeer – Results for Erin Nicole Potts-Kant
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。