2024年8月5日掲載
ワンポイント:ピン・ドンは、カナダのトロント大学で研究博士号(PhD)を取得し、米国のノースウェスタン大学・助教授になった。「2018年7月のPsychol Sci.」論文は、出版してすぐに、データの異常が指摘された。2023年12月(35歳?)、トロント大学はピン・ドン(Ping Dong)に授与した博士号を剥奪した。ネカトハンターのウリ・サイモンソン(Uri Simonsohn)の分析が秀逸。撤回論文は3論文。「パブピア(PubPeer)」で10論文にコメントあり。国民の損害額(推定)は2億円(大雑把)。この事件は、白楽指定の重要ネカト事件である:論文中のデータは元データと一致していたが、元データそのものがねつ造だった珍しい事件。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
4.日本語の解説
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
10.コメント
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●1.【概略】
ピン・ドン(Ping Dong、ORCID iD:?、写真出典)は、香港で生まれ育ち、2017年(29歳?)、カナダのトロント大学で研究博士号(PhD)を取得した。その後、米国のノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院(Kellogg School of Management at Northwestern University)・助教授になった。医師免許は持っていない。専門は心理学だった。
2018年5月(30歳?)、ピン・ドンの「2018年7月のPsychol Sci.」論文が、出版してすぐに、データに異常があると複数の人に指摘された。
この「2018年7月のPsychol Sci.」論文は2018年12月5日に撤回された。
その後、ピン・ドンの「2014年6月のJournal of Consumer Research」論文が2019年11月11日に、「2017年4月のJournal of Consumer Research」論文が2020年10月8日に、撤回された。
2023年12月8日(35歳?)、トロント大学は調査の結果、ピン・ドン(Ping Dong)に授与した博士号を剥奪した。
ネカトハンターのウリ・サイモンソン(Uri Simonsohn)は、2019年1月(31歳?)に、ピン・ドンの論文は元データそのものをねつ造していたと分析していた。
その分析を掲載予定日の前日、ウリ・サイモンソンは、殺害予告の脅迫メールを受け取った。それで、地元警察、FBI、家族と話し合い、掲載を無期限に延期した。なお、現在も脅迫者は特定できていない。
2024年6月12日(36歳?)、5年前と同じ内容かどうか不明だが、ウリ・サイモンソンは、元データがねつ造されていた証拠をブログに掲載した。
つまり、ピン・ドン事件の特徴は、論文で発表したデータは保存記録されていた元データと一致していたが、その元データそのものがねつ造データだった、という珍しいネカト事件である。
この場合、データねつ造を証明するのはなかなか困難である。
また、ねつ造を解析したウリ・サイモンソン(Uri Simonsohn)に殺害予告という脅迫がなされた。ネカト事件での脅迫は珍しくないが、殺害予告は珍しい。
なお、トロント大学は、「Times Higher Education」の大学ランキングでカナダ第1位の大学である(World University Rankings 2022 | Times Higher Education (THE))。
トロント大学(University of Toronto)。Photo by Jonathan Qu and Kevin Li。写真出典
- 国:カナダ
- 成長国:香港
- 医師免許(MD)取得:なし
- 研究博士号(PhD)取得:カナダのトロント大学
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1988年1月1日、香港生まれとする。2010年9月に修士・院生として大学院に入学した時を22歳とした
- 現在の年齢:36 歳?
- 分野:心理学
- 不正論文発表:2013~2021年(25~33歳?)の9年間の10論文
- ネカト行為時の地位:トロント大学・院生、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院・助教授
- 発覚年:2018年(30歳?)
- 発覚時地位:ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院・助教授
- ステップ1(発覚):複数の人が社交メディアに掲載したが、白楽ブログでは第一次追及者をネカトハンターのウリ・サイモンソン(Uri Simonsohn)とした
- ステップ2(メディア):「パブピア(PubPeer)」、「撤回監視(Retraction Watch)」、「Data Colada」
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①トロント大学・調査委員会
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:あり。https://governingcouncil.utoronto.ca/system/files/university-tribunal-decisions/Case%201490.pdf
- 大学の透明性:実名ではないが、ほぼ実名の調査報告書(委員名付き)がウェブ閲覧可(〇)
- 不正:ねつ造
- 不正論文数:撤回論文は3論文。「パブピア(PubPeer)」で10論文にコメント
- 時期:研究キャリアの初期から
- 職:解雇(?)。事件後に研究職(または発覚時の地位)をやめた・続けられなかった(Ⅹ)。
- 処分:博士号剥奪
- 対処問題:疑惑論文なのに撤回されていない論文があり、学術誌怠慢
- 特徴: 元データをねつ造した。「論文データが元データと一致」したネカト事件
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は2億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Ping DONG | Bachelor of Arts | Research profile
- 生年月日:不明。仮に1988年1月1日、香港生まれとする。2010年9月に修士・院生として大学院に入学した時を22歳とした
- xxxx年(xx歳):xxのxx大学(xx)で学士号取得
- 2010年9月~2012年7月(22~24歳?):香港の香港中文大学(The Chinese University of Hong Kong)で修士号取得
- 2012年9月~2017年(24~29歳?):カナダのトロント大学(University of Toronto)で研究博士号(PhD)を取得
- 2013~2021年(25~33歳?):この9年間の10論文に「パブピア(PubPeer)」でコメントがある
- 2017年(29歳?):米国のノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院(Kellogg School of Management at Northwestern University)・助教授
- 2018年(30歳?):すぐに疑問視される「2018年7月のPsychol Sci.」論文を出版
- 2019年(31歳?):「2018年7月のPsychol Sci.」論文が撤回された
- 2000年(32歳?):ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院を離職(解雇?)
- 2023年12月8日(35歳?):トロント大学から授与された博士号を剥奪された
●4.【日本語の解説】
★2024年6月8日:消費者行動研究部会
Ping Dong論文のretractionとかexpression of concernは、2024年でまだ続いていたのか…
/ Expression of Concern: “Ray of Hope: Hopelessness Increases Preferences for Brighter Lighting”https://t.co/W1IgmQsNkP— 消費者行動研究部会 (@cogpsy_consumer) June 8, 2024
★2023年x月xx日:石井裕明(編集委員/青山学院大学 経営学部 准教授):センサリー・マーケティング
出典 → Japan Marketing Journal Vol. 42 No. 3 (2023), 3-5 、ココ、(保存版)
Norswestan University の Assistant Professor であった Ping Dong 氏は,研究不正によりいくつかの論文が Journal of Consumer Research 誌などから撤回され,大学を退職することとなった。
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★研究人生
ピン・ドン(Ping Dong)は、顔と姓名と修士時代の大学から、白楽記事では香港生まれ育ちとした。
大学学部はどの国のどの大学なのか不明である。
ピン・ドンは、香港の香港中文大学(The Chinese University of Hong Kong)で修士号を取得後、2012~2017年の5年間、カナダのトロント大学の院生になり、2017年6月に博士号を取得した。
2017年(29歳?)、博士号を取得してすぐに、米国のノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院(Kellogg School of Management at Northwestern University)・助教授に就任した。 → Kellogg welcomes seven tenure-line faculty
研究不正がバレて、2000年(32歳?)、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院を離職した(解雇された?)。その後、行方不明だが、2024年現在、夫(以下)が香港在住なので、多分、香港に在住している。
ピン・ドンの夫であるジングイ・チィェン(Jinghui Qian、写真出典)は、ピン・ドンの研究不正に関与しているので、経歴を少し示す。
夫チィェンはピン・ドンとほぼ同じ時期の2012年8月~2018年3月、カナダのトロント大学(University of Toronto)で研究博士号(PhD)を取得した。その後、香港中文大学で2018年7月~2019年9月の1年3か月助教授をし、2024年現在は物流会社のララムーブ社(Lalamove)に勤務している。香港在住。
★獲得研究費
ピン・ドン(Ping Dong)は、NIHから研究費を受給していなかった。 → RePORT ⟩ Ping Dong
★発覚の経緯
ピン・ドンは、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院(Kellogg School of Management at Northwestern University)・助教授の時、以下の「2018年7月のPsychol Sci.」論文を出版した。
- Visual Darkness Reduces Perceived Risk of Contagious-Disease Transmission From Interpersonal Interaction.
Dong P, Zhong CB.
Psychol Sci. 2018 Jul;29(7):1049-1061. doi: 10.1177/0956797617749637. Epub 2018 May 11.
Retraction in: Psychol Sci. 2019 Jan;30(1):154. doi: 10.1177/0956797618818467.
共著者のチェンボ・チョン(Chen-Bo Zhong、写真出典)はトロント大学・準教授で、ピン・ドンが院生の時の指導教員だった。
この論文の電子版は2018年5月11日(30歳?)に公表されたが、すぐ(1か月以内)に、データの異常が指摘された。
論文は、研究参加者に自由に回答してもらう形で質問し、その回答を集計した論文だった。
しかし、その回答に「あり得ないレベルの重複」があったのだ。
2018年5月(30歳?)、仮名の読者(アレックス)が、ピン・ドンの「2018年7月のPsychol Sci.」論文のデータに異常なパターンがあると、学術誌・「Psychol Sci.」のスティーブ・リンゼイ編集長(Steve Lindsay)に通報した。
また、2018年6月5日(30歳?)、ダニエル・レイケンス(Daniël Lakens)はXで指摘した(現在、レイケンスのXは表示が制限されている)。 → Daniël Lakens (@lakens) June 5, 2018
さらに、Neuroskeptic も指摘した。 → 2018年7月3日:What Is Preregistration For? – Neuroskeptic
これらの批判を受けて、リンゼイ編集長は、統計アドバイザーに調査を依頼した。
すると、統計アドバイザーはデータに問題があるとリンゼイ編集長に回答した。
リンゼイ編集長は、ピン・ドン、そして、共著者のチェンボ・チョン(Chen-Bo Zhong)に連絡した。
ピン・ドンの院生1年生の時の指導教官だったトロント大学のアパルナ・ラブルー教授(Aparna Labroo、写真出典)は、2019年初頭、論文で夫が参加者になりすましたデータを使ったとピン・ドンに告白されていた。
ラブルー教授は、ピン・ドンの告白メールをチェンボ・チョンに転送した。
★論文撤回と博士号剥奪
以下のように、ピン・ドン(Ping Dong)の3論文が撤回された。
①はノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院(Kellogg School of Management at Northwestern University)・助教授の時の論文。②は香港中文大学の修士院生の時の論文なのかトロント大学の時のかは不明(閲覧有料で白楽は閲覧していないから)。③はトロント大学・院生の時の論文。
①「2018年7月のPsychol Sci.」論文が2018年12月5日に、②「2014年6月のJournal of Consumer Research」論文が2019年11月11日に、③「2017年4月のJournal of Consumer Research」論文が2020年10月8日に、撤回された。
2019年(31歳?)、上記論文①の撤回を受け、ピン・ドンのトロント大学の指導教員だったチェンボ・チョン準教授は、ピン・ドンの博士論文「Strength in Numbers: The Moral Antecedent and Consequence of Consumer Conformity(数の力:消費者の同調の道徳的前提と結果)」のネカト疑惑を、この分野の専門家であるオランダのティルブルフ大学(Tilburg University)のマルセル・ファン・アッセン準教授(Marcel van Assen)に意見を求めた。
すると、マルセル・ファン・アッセン準教授は「疑惑を越えている」と返事してきた。
それで、チェンボ・チョン準教授は、トロント大学にネカト疑惑を通報した。
2019年11月(31歳?)、トロント大学はネカト調査委員会を立ち上げ、ピン・ドンの博士論文の調査を始めた。
調査委員会は、ピン・ドンに何度も連絡を試みた。
記載されているすべての電子メールアドレスにメールした。ほとんどのメールは戻ってきた。戻ってこない場合でも、返事は帰ってこなかった。
ピン・ドンの緊急時の連絡先は夫だったが、そこも不通だった。
調査はなかなか進まなかった。
2022年7月22日(34歳?)、中国在住の父親に電話をしたが、言葉の問題もあって要領を得なかった。
2023年11月(35歳?)、ピン・ドンと夫のフェイスブックを見つけたので、そこにメールしたが、返事は得られなかった。
2023年12月6日(35歳?)、中国語の出来る人に依頼して、中国在住の父親に電話をした。父親はピン・ドンに状況を伝えると述べた。
このように、約4年間、トロント大学はピン・ドンにコンタクト取れないまま、博士論文のネカト調査を進めていた。
2023年12月8日(35歳?)、そして、トロント大学は、結局、ピン・ドン(Ping Dong)に授与した博士号を剥奪する決定を下した。
以下はトロント大学の調査報告書の冒頭部分(出典:同)。全文(21ページ)は → https://governingcouncil.utoronto.ca/system/files/university-tribunal-decisions/Case%201490.pdf
この調査報告書はトロント大学・事件簿データベースに保存されていて、そのサイトで閲覧・取得できる。 → Academic Discipline | The Office of the Governing Council の「Search」に「case 1490」と入れるとヒットする。
●【ねつ造・改ざんの具体例】
以下の内容は、2024年6月12日のウリ・サイモンソン(Uri Simonsohn)の「Data Colada」記事に準拠している → [117] The Impersonator: The Fake Data Were Coming From Inside the Lab – Data Colada
ウリ・サイモンソンは、2019年1月に記事を掲載する予定だったが、掲載予定日の前日、「殺害予告」の脅迫メールを受け取った。
それで、地元警察、FBI、家族と話し合った結果、掲載を無期限に延期することにした。
なお、現在も脅迫者は特定できていない。
それで、5年後の2024年6月12日、内容を改訂後、記事を公表した。
★「2018年7月のPsychol Sci.」論文
ピン・ドンの「2018年7月のPsychol Sci.」論文の書誌情報を以下に示す。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院(Kellogg School of Management at Northwestern University)・助教授の時の論文で、2018年12月5日(印刷版は2019年1月)に撤回された。
- Visual Darkness Reduces Perceived Risk of Contagious-Disease Transmission From Interpersonal Interaction.
Dong P, Zhong CB.
Psychol Sci. 2018 Jul;29(7):1049-1061. doi: 10.1177/0956797617749637. Epub 2018 May 11.
Retraction in: Psychol Sci. 2019 Jan;30(1):154. doi: 10.1177/0956797618818467.
共著者のチェンボ・チョン(Chen-Bo Zhong)はデータ収集と分析に関与していない。
アレックスはこの論文のデータに異常なパターンがあると、編集長に通報したが、ウリ・サイモンソンはもっと深刻な問題を見つけた。
この論文は、インフルエンザに感染する心理的な恐怖感を、明るい環境と暗い環境でどのように異なるのか調べた研究である。
薄暗い部屋にいる参加者(研究1および3〜5)とサングラスをかけた参加者(研究2)は、明るい部屋にいる参加者や透明な眼鏡をかけた参加者よりも、他人から伝染病に感染するリスクが低い思う傾向があることがわかった。つまり、暗闇が他者からの脅威を少なく感じると結論した。
ウリ・サイモンソンとアレックスは著者らに、生データを確認したいので、データが保存されている「クアルトリクス(Qualtrics)」にアクセスできるように依頼した。著者らはすぐにアクセスを許可してくれた。
ウリ・サイモンソンとアレックスは「クアルトリクス(Qualtrics)」の生データが論文のデータと一致しないと思っていたが、生データと論文のデータは完全に一致した。
それでも、論文のデータに異常なパターンがあるのは事実だった。
ウリ・サイモンソンは、その時まで、データ詐欺で、疑惑データが元データと完全に一致したケースに遭遇したことがなかった。
この時点でよくよく考えると、可能性は以下の3つになる。
- データは本物である。つまり、ウリ・サイモンソンとアレックスは間違っていた
- 「クアルトリクス(Qualtrics)」の生データがサーバー上で改ざんされていた
- 「クアルトリクス(Qualtrics)」の生データはデータ収集中(サーバーにアップする前)にねつ造・改ざんされていた。
「1」は、「2」「3」が否定されたら受け入れるしかない。
まず、「2」の可能性を探った。
「クアルトリクス(Qualtrics)」のデータは変更すると、変更のしるしが必ず残る。
調べてみると、しかし、ピン・ドンのデータにはそのしるしがなかった。つまり、データはサーバー上で改ざんされていない。
それで、「1」か「3」のどちらかだが、結論を先に述べると、「3」だった。
この解析過程を知りたい人は、ウリ・サイモンソンの記事を読むことを勧めるが、白楽記事でも少し、説明する。
薄暗い部屋にパソコンが3台あって、参加者3人にパソコン上で質問し、答えてもらう実験である(図の出典:ウリ・サイモンソンの記事)。
異なる参加者が割り当てられたパソコン机の前の椅子に座り、指示されたときに調査を開始する。
参加者は「送信」 をクリックして開始画面を立ち上げ、実験同意書に署名し、アンケートの URL を読み込み、URLリンクをクリックし、アンケートを開始するというプロセスである。
説明を省くが、以下の図の第3波(5月、赤色で示したデータ)は、第1波と第2波(3月)と大きく異なった。これは、なりすまし詐欺師が常に同じ順序で 1 台のコンピューターから別のコンピューターに移動したことを示している (例えば、左端から右端へ)
また、白楽は状況を理解できていないが、ウリ・サイモンソンは、セッション84から85への移行では、最も早い人でも245 秒(4分)かかるのに、参加者番号3はたったの4秒だった(下表の左側黄色)ことに着目した。
つまり、参加者の中になりすまし詐欺師(上表の参加者番号3)がいて、普通は数分かかるところ、状況を把握しているので、4秒で回答している。
その参加者番号3が、論文に都合の良い回答をした。
ウリ・サイモンソンは、そのなりすまし詐欺師の姓名を示していない。
しかし、別の人の資料では、ピン・ドンの夫であるジングイ・チィェン(Jinghui Qian、既出)が、そのなりすまし詐欺師だと指摘している。
白楽が思うに、「殺害予告」の脅迫メールを送ったのはチィェンだろう。それで、ウリ・サイモンソンは、詐欺師の姓名を示さなかった。
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
データベースに直接リンクしているので、記事閲覧時、リンク先の数値は、記事執筆時の以下の数値より増えている(ことがある)。
★パブメド(PubMed)
2024年8月4日現在、パブメド(PubMed)で、ピン・ドン(Ping Dong)の論文を「Ping Dong [Author]」で検索した。この検索方法だと、2002年以降の論文がヒットするが、2002~2024年の23年間の351論文がヒットした。本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。
2024年8月4日現在、「Retracted Publication」のフィルターでパブメドの論文撤回リストを検索すると、4論文が撤回されていた。
ただし、4論文のうちの「2018年7月のPsychol Sci.」論文だけが本記事で問題にしている研究者ピン・ドン(Ping Dong)の撤回論文だと思われる。
★撤回監視データベース
2024年8月4日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでピン・ドン(Ping Dong)を「Ping Dong」で検索すると、 1論文が訂正、9論文が撤回されていた。
本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。
1つ1つ調べると、①「2018年7月のPsychol Sci.」論文が2018年12月5日に、②「2014年6月のJournal of Consumer Research」論文が2019年11月11日に、③「2017年4月のJournal of Consumer Research」論文が2020年10月8日に、撤回された。
つまり、本記事で問題にしている研究者ピン・ドン(Ping Dong)の撤回論文は3報だった。
★パブピア(PubPeer)
2024年8月4日現在、「パブピア(PubPeer)」では、ピン・ドン(Ping Dong)の論文のコメントを「Ping Dong」で検索すると、319論文にコメントがあった。
あまりに多い気がしたので、「authors:”Ping Dong”」で検索した。すると、36論文にコメントがあった。
それでも、本記事で問題にしている研究者以外の論文が多数含まれていると思われる。
心理学関係の論文は2013~2021年の10論文があった。白楽記事では、この10論文を本記事で問題にしている研究者ピン・ドン(Ping Dong)の論文とした。
●7.【白楽の感想】
《1》スルメ調査
ピン・ドン事件の特徴は、論文データは元データと一致していた。しかし、その元データそのものがねつ造データだった。
100年以上前の20世紀初頭、サルの頭蓋骨とヒトの頭蓋骨を組み合わせて新人類(ピルトダウン人)の化石とした事件が英国であったが、現代ではこの手の証拠品ねつ造事件はほとんどない。あっても、比較的すぐに、証拠品のねつ造はバレる。 → 特殊事件「誤認」:ミツクリザメ事件(ギリシャ) | 白楽の研究者倫理
しかし、現代のネカト調査(スルメ調査法)では、「論文データが元データと一致」した段階で、不正なしと判定されている。
それで、「論文データが元データと一致」したのにネカトだったという事件は、とても珍しい。
事件の分類方法によるが、ある意味、ピン・ドン事件は「論文データが元データと一致」したネカト事件の最初の報告だと思う。ウリ・サイモンソンも初めて遭遇したと述べている。
ただ、「元データそのものがねつ造データ」というケースは発覚しないだけで、実は、たくさんある、と白楽は思っている。
ChatGTP製のデタラメ論文も、「論文データは元データと一致」する。
現在のスルメ調査法では、元データをねつ造したネカト行為を摘発できない。調査方法を変えるべきなのだ。 → 白楽の卓見・浅見16.ネカト調査の現状は大掃除後のゴミさがし:根本的改善を
《2》事件のデータベース
トロント大学は学術不正の事件簿をデータベースにし、公開している。 → Academic Discipline | The Office of the Governing Council
世界的にも珍しいが、とても良いことだ。
事例を具体的に示しているので、在校生および教職員に対しても研究倫理の教育・研修になる。
調査委員もシッカリ、かつ、公正に調査しなければと思うだろう。
透明性を維持し、大学がネカトにまともに対処する姿勢を示せている。
《3》ネカト研究スタイル
ピン・ドン(Ping Dong)は、2013~2021年の9年間(25~33歳?)の10論文に「パブピア(PubPeer)」でコメントされている。
ピン・ドンは、論文を多数出版しているので、優秀な院生とみなされた。
それで、博士号取得後、すぐに、米国のノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院・助教授に採用された。
ただ、多数の論文を出版したのは、データをねつ造していたからだ。
データねつ造は、トロント大学・院生の初期からしていたようだが、院生になってからなのか、学部時代なのか、その前なのか、どの段階で、どのようにこの研究スタイルを身につけてしまったのか?
このタイプのネカト者は、早い時期に摘発し、学術界から排除しないと、膨大な数の不正論文を出版し続けてしまう。
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日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。国・社会を動かす人間も7~8割減る。現状の日本は、科学技術が衰退し、かつ人間の質が劣化している。スポーツ、観光、娯楽を過度に追及する日本の現状は衰退を早め、ギリシャ化を促進する。今、科学技術と教育を基幹にし、人口減少に見合う堅実・健全で成熟した良質の人間社会を再構築するよう転換すべきだ。公正・誠実(integrity)・透明・説明責任も徹底する。そういう人物を昇進させ、社会のリーダーに据える。また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
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●9.【主要情報源】
① 2019年10月28日のアイヴァン・オランスキー(Ivan Oransky)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Former Northwestern psychology prof has paper subjected to an expression of concern – Retraction Watch
② 2021年7月26日のアーロン・チャールトン(Aaron Charlton)記者の「Open MKT」記事:The salvaging of a Ping Dong paper at Journal of Marketing – Open MKT
③ ◎2024年4月26日のロリ・ユームシャジェキアン(Lori Youmshajekian)記者の「撤回監視(Retraction Watch)」記事:Exclusive: Psychology researcher loses PhD after allegedly using husband in study and making up data – Retraction Watch
④ 2024年4月26日のアーロン・チャールトン(Aaron Charlton)記者の「Open MKT」記事:He Said, She Said: Research Edition w/Special Guest Ping Dong – Open MKT
⑤ 2017年11月16日のレベッカ・チャン(Rebecca Cheung)記者の「Rotman School of Management」記事:The PhD class of 2017: meet the emerging scholars in management research | Student and Alumni Stories | Rotman School of Management – Rotman School of Management
⑥ ◎2024年6月12日のウリ・サイモンソン(Uri Simonsohn)記者の「Data Colada」記事:[117] The Impersonator: The Fake Data Were Coming From Inside the Lab – Data Colada
★記事中の画像は、出典を記載していない場合も白楽の作品ではありません。
●コメント
注意:お名前は記載されたまま表示されます。誹謗中傷的なコメントは削除します
Xで、このピン・ドンのウェブページを見た人が、「えっ、殺害予告があったんだ」と投稿していました。文中、
>ウリ・サイモンソンは、殺害予告の脅迫メールを受け取った。
という記述があったからだと思います。
しかし、わが国でも、大学構内で教員が殺されたり、襲撃されたケースがあります。
①1991年に、筑波大学構内で、比較分類学者の五十嵐一助教が殺害された事件(悪魔の詩訳者殺人事件)
②2022年、東京都立大学構内で、社会学者のA教授が襲撃されました
②なのですが、この人物は長年、マスコミと結託して、非常に迷惑でした。大学の外に出てきて、地域社会の若者に、性的に不適切な関わり方をし、それを自著等で公言していました。「性的不品行が学問」ということに長らくなっていました。
マスコミが、それを肯定していました。もし、わいせつ教授がいたら、マスコミは追及し、解雇に追い込んでほしいのですが、マスコミがAやいまのアカデミアのあり方を肯定していました。
ちょっと話は変わるのですが、最近、フランスでガブリエラ・マツネフ(1936年生~)という作家・小児性愛者が批判されています。マツネフは、「自分はティーンと交際している」等と公言し、マスコミがそれをもてはやしていたそうです。しかし、「小児性愛は、子どもに対する人権侵害ではないか?」という批判が出て、社会の道徳観が変わったそうです。2020年に、マツネフと14歳のときに交際していた女性が告発本を書き、『同意/コンセント』という映画になり、日本でも最近、封切られたみたいです。
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_667cc4bfe4b05521a7f0a03e
この記事に、「この国(フランス)では『文学』を名乗ればあらゆる悪徳が許される」という言葉が出てきます。
私は、フランスの作家マツネフとわが国の学者のAを比べて、考えこんでしまいました。わが国では、少女への性的虐待・性的不品行を学問ということにし、あまつさえ、公立大学構内で刺された教授がいるわけです。「学問を名乗ればあらゆる悪徳が許される」という状態でした。文学は民間事業という感じですが、学問は、公的事業という感じです。国民の血税がたくさん投入されており、もっとひどいです。
長年、性的不品行をして、社会から非常に批判されてきたA教授が、なかなか首にならない。とうとう、刺される。その後、今年1月に、Aが他の大学の女子大生とホテルに入った写真が、写真週刊誌に報道されて、ようやく大学から処分されました。
これでようやく、マスコミがAを識者として扱わなくなりました。
最近、日本科学振興協会(JAAS)という科学者団体が、「科学研究費を増額してほしい」という署名運動をやったらしいのですが、「科学者はうっすら嫌われている」と思ったみたいです。おそらく、署名運動に協力してくれる人が少なかったのでしょう。
それは、大学人が大学の外、雑誌(岩波書店の『世界』等)や新聞、X(旧称:ツイッター)等に出てきて、自分の都合ばかり主張するからです。「大学に金がない」「自分たちを尊敬しろ」「俺の本を買え」等と主張し、常に、日本社会を自分たち大学人にとって都合のいい社会秩序に変革しようとします。一方で、自分たちの悪いところを反省しません。もし、JAASが、市民から、「科学者の悪いところは何ですか?」と苦情を募集し、それで本を一冊作るとか、そういう建設的な取り組みをしてくれるなら、市民の科学者への好感度も上がるでしょう。
また、科学ジャーナリズムの質が悪いです。科学不正を追及できる科学ジャーナリストが、岩波書店の『科学』が宮崎・早野論文問題を取り上げた事例、毎日新聞鳥井真平記者(福井大学の査読偽装について報道した)、朝日新聞藤波優記者(アカハラについて記事を書いた)、東京新聞木原郁子(精神科医の腐敗を追及している)ぐらいです。他の記者は、学者の手下です。学者とけんかするには学者と同じぐらい勉強しないといけないので、その力量があるジャーナリストが少ないと思います。
>日本の人口は、移民を受け入れなければ、試算では、2100年に現在の7~8割減の3000万人になるとの話だ。(中略)また、人類福祉の観点から、人口過多の発展途上国から、適度な人数の移民を受け入れる
とあります。私は40代の独身女性です。人口が減るのは、日本人女性が出産しないからです。日本社会は、子どもや母親に対する風当たりが強く、安心して出産できないし、いま子育てしているお母さんたちは大変だなと思っています。男尊女卑なので、それは変革していってほしいです。アカデミアでも、女性限定の教員の公募を増やすとか、セクシュアル・ハラスメントを減らす努力をしてほしいです。
医療・保健・心理・福祉あたりの学術分野は、8割ぐらい女性教授でもいいです。男性教授だと、①性暴力という健康課題について、本や講演会等で言及しない。それ以外の健康課題だけ言及する、②自分がセクシュアル・ハラスメントをする、③女性からセクシュアル・ハラスメントの告発があったときにもみ消す、ということをします。男教授いらないので、女教授が8割ぐらいでいいです。