キャロライン・バーウッド(Caroline Barwood)、ブルース・マードック(Bruce Murdoch)(豪)


ワンポイント:若い女性研究者と男性教授の事件

【概略】
s200_caroline_barwoodキャロライン・バーウッド(Caroline Barwood、写真上出典)、ブルース・マードック(Bruce Murdoc、写真下出典)、)は、オーストラリアのクイーンズランド大学(University of Queensland)の研究者・医師(?)だった。専門は神経科学でパーキンソン病(Parkinson’s disease)の治療法を開発していた。

Murdoch_Bruce_Drクイーンズランド大学は、「Times Higher Education」の大学ランキングでオーストラリア第4位の大学である(World University Rankings 2014-15: Oceania – Times Higher Education)。

マードックは著名な教授で、13冊の著書があり、380報の査読論文を出版していた。クイーンズランド大学・健康リハビリ科学部長(School of Health and Rehabilitation Sciences)を1999年1月~ 2009年12月の10年間務め、クイーンズランド大学・神経性コミュニケーション障害研究センター(Centre for Neurogenic Communication Disorders Research)の創設者でもあった。

一方、バーウッドはマードック研究室で、2011年3月に博士号を取得したばかりだった。

2013年、匿名の公益通報により2011年出版の論文にねつ造が発覚した。

クイーンズランド州の犯罪不正委員会が捜査にはいり、刑事事件となり、裁判になった。

【追記】
2016年3月31日、裁判で有罪。執行猶予2年(Ex-professor found guilty of fraud)

★キャロライン・バーウッド(Caroline Barwood)

  • 国:オーストラリア
  • 成長国:オーストラリア
  • 研究博士号(PhD)取得:クイーンズランド大学(Modulation of language performance via neuronavigationally guided transcranial magnetic stimulation: Application to Aphasia Rehabilitation – UQ eSpace
  • 男女:女性
  • 生年月日:1985年。仮に、1985年1月1日とした
  • 現在の年齢:32 (+1)歳
  • 分野:神経科学
  • 最初の不正論文発表:2011年(26歳)
  • 発覚年:2013年(28歳)
  • 発覚時地位:クイーンズランド大学・研究員
  • 発覚:内部公益通報
  • 調査:①クイーンズランド大学・調査委員会。2013年7月11日~2014年1月20日。②クイーンズランド州犯罪不正委員会。③裁判所
  • 不正:ねつ造
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの初期から
  • 結末:辞職

★ブルース・マードック(Bruce Murdoc)

  • 国:オーストラリア
  • 成長国:
  • 研究博士号(PhD)取得:
  • 男女:男性
  • 生年月日:1950年。仮に1950年1月1日とする
  • 現在の年齢:67 (+1)歳
  • 分野:神経科学
  • 最初の不正論文発表:2011年(61歳)
  • 発覚年:2013年(63歳)
  • 発覚時地位:クイーンズランド大学・教授
  • 発覚:内部公益通報
  • 調査:①クイーンズランド大学・調査委員会。2013年7月11日~2014年1月20日。②クイーンズランド州犯罪不正委員会。③裁判所
  • 不正:ねつ造
  • 不正論文数:1報
  • 時期:研究キャリアの後期
  • 結末:辞職

UQ1クイーンズランド大学、写真出典

【経歴と経過】

★キャロライン・バーウッド(Caroline Barwood)

  • 1985年x月x日:生まれる.。仮に、1985年1月1日生まれとした
  • 2011年(26歳):クイーンズランド大学で研究博士号(PhD)取得:マードック教授
  • 3deec519af7b785fa9_l_3b54c2011年(26歳):クイーンズランド大学・研究員
  • 2013年(28歳):不正研究が発覚する
  • 2013年7月(28歳):クイーンズランド大学を辞職
  • 2014年(29歳):ブリスベン治安判事裁判所(Brisbane Magistrates Court)で有罪

★ブルース・マードック(Bruce Murdoc)

  • 1950年x月x日:生まれる.。仮に、1950年1月1日生まれとした
  • xxxx年(xx歳):研究博士号(PhD)取得
  • xxxx年(xx歳):クイーンズランド大学・健康リハビリ科学部(School of Health and Rehabilitation Sciences)・教授
  • 1999‐2009年(xx歳):クイーンズランド大学・健康リハビリ科学部長
  • 2013年(63歳):不正研究が発覚する
  • 2013年6月(63歳):クイーンズランド大学を辞職
  • 2014年(64歳):ブリスベン治安判事裁判所(Brisbane Magistrates Court)で有罪

【研究内容】

パーキンソン病は、

安静時の手足のふるえ、筋強剛(手足の曲げ伸ばしが固くなる)、無動・動作緩慢などの運動症状だが、様々な全身症状・精神症状も合併する。進行性の病気だが症状の進み具合は通常遅いため、いつ始まったのか本人も気づかないことが多く、また経過も長い。

根本的な治療法は2012年現在まだ確立していないが、対症的療法(症状を緩和するための治療法)は数十年にわたって研究・発展しており、予後の延長やQOLの向上につながっている。(パーキンソン病 – Wikipedia

対症的療法はいくつか報告されているが、その1つに経頭蓋磁気刺激法(けいとうがいじきしげきほう、TMS: Transcranial magnetic stimulation)がある。

Transcranial_magnetic_stimulation経頭蓋磁気刺激法は、頭の周囲に装置を取り付け、磁場を急に変えることで脳に弱い電流を流し、脳内の神経細胞を刺激する。非侵襲的な方法で、1980年代に開発された。

この方法を何度も繰り返す反復経頭蓋磁気刺激法(はんぷくけいとうがいじきしげきほう、rTMS:Repetitive transcranial magnetic stimulation)は、多くの神経症状 (例えば、頭痛、脳梗塞、パーキンソン症候群、ジストニア、耳鳴り) や精神医学的な症状 (例えば うつ病、幻聴) に有効な治療法であることが示されている(出典:経頭蓋磁気刺激法 – Wikipedia)。

ブルース・マードック(Bruce Murdoc)は、パーキンソン病患者に経頭蓋磁気刺激法を施し、コミュニケーション(話す、文章理解)の改善に成功したパイオニアであり、権威だった(Magnetic Pulse Brain Stimulation Helps Stroke Patients Regain Speech)。

NeuroStar-TMS-Therapy-System経頭蓋磁気刺激装置。写真出典

マードックは、「5年以上パーキンソン病を患っていた患者に経頭蓋磁気刺激法を4年間施した結果、コミュニケーション(話す)の顕著な改善が見られた」と、2012年に述べている。

【不正発覚・調査の経緯】

2011年10月、後に問題視される以下の論文を「European Journal of Neurology」誌(電子版)に出版した。この論文で、反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS)が、パーキンソン病のコミュニケーション(話す、文章理解)の改善に有効だと報告している。

2012年9月、クイーンズランド大学に、マードックらの論文はねつ造だと公益通報された。

2013年6月、クイーンズランド大学・評議会にマードックらの研究ネカト疑念が報告された。それで、マードックはクイーンズランド大学を辞職した。

2013年7月11日、クイーンズランド大学は調査委員会を設置し、調査を開始した。

2013年7月、バーウッドもクイーンズランド大学を辞職した。

exec-hoj2013年8月8日、調査委員会はピーター・ホッジ(Peter Hoj)学長(写真出典)に調査の中間報告をした。

2013年8月9日、クイーンズランド大学は、「European Journal of Neurology」誌に論文撤回を依頼した。というのは、論文では15人の対照実験が記載されているが、研究記録には7人の記録しかない。数人の対照実験は重複していて人数を水増ししていたと判定された。

2013年9月4日、クイーンズランド大学は、マードックとバーウッドの2011年10月の「European Journal of Neurology」誌(電子版)論文は、ねつ造論文だったと発表した。論文に記載されている実験は、実際はされていなかったと結論した。

マードックは、「脳に磁気パルスを与える刺激コイルを患者の頭に実際にセットした」と反論した。

ホバートで開催された「オーストラリア言語病理学(Speech Pathologists Australia)」会議で、「患者は文章理解度、コミュニケーション効率、話すときの舌の動きに大きな改善が見られた。失語症患者の治療に用いると、映画のタイトルや俳優の名前をあげるようになり、言語能力に改善が見られた」、と講演したと反論した。

しかし、それらの根拠となるデータをねつ造していたのだ。

クイーンズランド大学は、研究助成されていた2万豪ドル(約200万円)を助成機関に返却した。

クイーンズランド州の犯罪不正委員会(Queensland’s Crime and Misconduct Commission、2014年にCrime and Corruption Commissionと改名された)が調査に入った。通常の犯罪は警察が扱うが、犯罪不正委員会は大犯罪や特殊な犯罪を扱う。

犯罪不正委員会は大学教授の研究ネカトを調査するのは初めてであった。通常は大学内の調査委員会が調査し、決着をつけていた。

2014年1月20日、クイーンズランド大学は、マードックとバーウッドが関与した2007年以降の100報以上の論文を検討した結果、既に発表した1報以外に、データねつ造・改ざん論文は見つからなかった、と発表した(UQ continues second phase of research misconduct investigation – UQ News – The University of Queensland, Australia)。

★裁判

犯罪不正委員会が調査に入ったので、この件は裁判になった。

5077648-1x1-700x7002014年10月31日、ブリスベン治安判事裁判所(Brisbane Magistrates Court)はバーウッドに対して以下の6件の罪状を公告した(英語のままでゴメン)(University researcher to appear in court on fraud offences — 31.10.2014 — Crime and Corruption Commission Queensland)。

  • 2 x fraud contrary to Section 408C of the Queensland Criminal Code
  • 2 x attempted fraud contrary to Section 408C of the Queensland Criminal Code
  • 2 x general dishonesty contrary to Section 135.1 of the Criminal Code Act 1995 (Commonwealth).

次いで、2014年12月12日、ブリスベン治安判事裁判所(Brisbane Magistrates Court)はマードックに対して以下の16件の罪状を公告した(英語のままでゴメン)(Former researcher to face court over alleged fraud — 12.12.2014 — Crime and Corruption Commission Queensland)。

  • 3 x Fraud, contrary to section 408C of the Queensland Criminal Code
  • 1 x Forge and utter, contrary to section 488 of the Queensland Criminal Code
  • 7 x Fraudulent falsification of records, contrary to section 430 of the Queensland Criminal Code
  • 5 x General dishonesty, contrary to section 135.1 of the Commonwealth Criminal Code

白楽は、これらの裁判の結果を把握できていない。

【追記】
2016年3月31日、裁判で有罪。執行猶予2年(Ex-professor found guilty of fraud)。

1418957800890ブリスベン治安判事裁判所(Brisbane Magistrates Court)を出るマードック(右)。左はバーウッド(?)または弁護士? Photo: Kim Stephens

【論文数と撤回論文】

★キャロライン・バーウッド(Caroline Barwood)

パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、キャロライン・バーウッド(Caroline Barwood)の論文を「Caroline Barwood[Author]」で検索すると、2011年~2014年の4年間の9論文がヒットした。全部、マードックと共著である。

2015年4月30日現在、撤回論文はゼロである。なお、本記事で問題視している2011年論文はヒットしていない。

「Barwood CH[Author]」で検索すると、2011年~2014年の4年間の12論文がヒットした。全部、マードックと共著である。

本記事で問題視している2011年論文はヒットしたが、撤回されていない。

★ブルース・マードック(Bruce Murdoch)

パブメドhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmedで、ブルース・マードック(Bruce Murdoch)の論文を「Murdoch BE[Author]」で検索すると、1973年~2014年の42年間の166論文がヒットした。12論文が、バーウッドと共著である。

2015年4月30日現在、撤回論文はゼロである。

【白楽の感想】

《1》60代の著名学者がなぜ?

ブルース・マードック(Bruce Murdoch)のように、既に確立した著名な学者が60代になって、なぜデータねつ造論文を出版したのだろう? 普通に考えると、その意図はわからない。

20代後半の美女・キャロライン・バーウッド(Caroline Barwood)の色香に迷ったのだろうか? 色香に迷って応援したかったとしても、他の方法はいくらでもある。研究ネカトはバッドチョイスで致命的なことぐらいわかりそうなものだ。

別の理由があるのだろうか?

データねつ造が患者数のデッチあげだとすると、クイーンズランド大学は他に不正はないと結論しているが、従来の論文でも同じ不正をしていた可能性は高い。

B1uTebLCAAA2KRxキャロライン・バーウッド(Caroline Barwood)。妊娠しているの?

《2》データねつ造と論文結論

論文中の患者数がデッチあげのデータねつ造論文でも、パーキンソン病患者に治療を試みたこと自体はねつ造ではないようだ。

その仮定に立つと、「経頭蓋磁気刺激法がパーキンソン病患者のコミュニケーション(話す)の改善に有効」だという論文の結論は、どう扱えば良いのだろう? 結論は間違っているのか、いないのか?

他の研究者が治療法の有効性を決めていくことになるだろうが、それは問題が幾分異なる。

患者数を正しく記載しても多めに改ざんして記載しても、論文の結論は、多くの場合、変わらない。こういう場合、どうするのが適切なのだろう。

【主要情報源】
① リトラクチョン・ウオッチ(Retraction Watch)の記事:You searched for Bruce Murdoch – Retraction Watch at Retraction Watch
②  2013年11月8日、エリス・ウォージントン(Elise Worthington)の「ABC News」記事:University of Queensland investigates fresh claims of research misconduct by former academics – ABC News (Australian Broadcasting Corporation)
③ 2013年9月6日、Marissa Calligerosの「Brisbane Times」記事:University of Queensland professor ‘let everyone down’
④ 2013117日、クイーンズランド大学の研究ネカト調査説明:University of Queensland statement on research integrity investigation