2015年5月11日掲載、2025年9月25日更新
ワンポイント:ワイスはヘブライ大学・社会学部・教授で、2004年(54歳?)、論文に研究不正があると告発された。ヘブライ大学は調査を開始したが、2005年(55歳?)、ワイスは調査中止の代わりに大学を辞職するという示談に応じた。それで、研究不正の中身は不明である。国民の損害額(推定)は1億円(大雑把)。
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目次(クリックすると内部リンク先に飛びます)
1.概略
2.経歴と経過
5.不正発覚の経緯と内容
6.論文数と撤回論文とパブピア
7.白楽の感想
9.主要情報源
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●1.【概略】
メイラ・ワイス(Meira Weiss、写真出典)は、イスラエルのヘブライ大学(Hebrew University of Jerusalem)・社会学部の著名な教授だった。専門は人類学である。
日本語に翻訳されていないが、『条件付きの愛:障害児と親の関係(Conditional Love Parental Relations Towards Handicapped Children)』(1991年)、『選ばれた身体:イスラエル社会における身体の政治(The Chosen Body: The Politics of the Body in Israeli Society)』(2002年)(本の表紙出典はアマゾン)など3冊の著者がある。
2004年(54歳?)(?)、匿名者が、ワイスの論文に研究不正があるとワイスとヘブライ大学に通報した。
ヘブライ大学は、調査委員会を設け調査を開始した。
ヘブライ大学・調査委員会は、フィールド研究日誌、インタビュー記録、研究対象人物の名前と情報の提供をワイスに要求した。
しかし、ワイスは、生データの提出を拒否した。
2005年(55歳?)、ワイスは調査中止の代わりに大学を辞職するという示談に応じた。
ということで、研究不正の中身は不明である。
ヘブライ大学(Hebrew University of Jerusalem)。写真by MARC ISRAEL SELLEM出典
- 国:イスラエル
- 成長国:イスラエル
- 研究博士号(PhD)取得:イスラエルのテルアビブ大学(Tel Aviv University)
- 男女:女性
- 生年月日:不明。仮に1950年1月1日生まれとする。1972年の学士号を取得した時を22歳とした
- 現在の年齢:75歳?
- 分野:人類学
- 不正論文発表:推定だが、1997年(47 歳?)、2001年(51歳?)
- 不正論文発表時地位:ヘブライ大学・社会学部・教授
- 発覚年:推定だが、 2004年(54歳?)
- 発覚時地位:ヘブライ大学・社会学部・教授
- ステップ1(発覚):第一次追及者は不明
- ステップ2(メディア):
- ステップ3(調査・処分、当局:オーソリティ):①ヘブライ大学はネカト調査を途中で止めた
- 大学・調査報告書のウェブ上での公表:なし。調査を途中で止めた
- 大学の透明性:調査を途中で止めた(ー)
- 不正:データ捏造・改ざん(?)
- 不正論文数:不明。撤回論文なし
- 時期:研究キャリアの中期(?)
- 職:事件後に研究職(または発覚時の地位)を続けられなかった(Ⅹ)
- 処分:調査中止の代償に大学を辞職
- 対処問題:大学調査不正
- 特徴:調査中止の代償に大学を辞職
- 日本人の弟子・友人:不明
【国民の損害額】
国民の損害額:総額(推定)は1億円(大雑把)。
●2.【経歴と経過】
主な出典:Professor Meira Weiss | (Auto)biography of body: Home
- 生年月日:不明。仮に、1950年1月1日生まれとする。1972年の学士号を取得した時を22歳とした
- 1972年(22歳?):イスラエルのヘブライ大学(Hebrew University of Jerusalem)を卒業。学士号取得(社会学/教育学)。
- 1978年(28歳?):イスラエルのテルアビブ大学(Tel Aviv University)で修士号取得(社会学/人類学)。
論文名“The Bereaved Parent’s Position: Aspects of Life Review, Rebellion and Self Fulfillment”。指導教員:Shokeid M. と Deshen S. - 1986年(36歳?):テルアビブ大学(Tel Aviv University)で博士号取得(社会学/人類学)。
論文名“Infirmity and Identity: Handicapped Children as Perceived by their Parents”。指導教員:Shokeid M. と Deshen S. - xxxx年(xx歳):ヘブライ大学・社会学部・教授
- 1997~2001年(47 ~51 歳?):後に発覚する不正論文を出版(推定)
- 2004年(54歳?)(?):不正発覚
- 2005年(55歳?):ヘブライ大学を辞職
- 2005年(55歳?):ヘブライ大学・「医学/科学/身体の人類学(Anthropology of Medicine, Science and the Body)」名誉教授
- 2005~2006年(55 ~56歳?):カリフォルニア大学バークレー校(UC Berkeley)・客員教授
- 2025年7月24日(75歳?)現在:?
●5.【不正発覚の経緯と内容】
★発覚の経緯と調査の経緯
不明点多し。
メイラ・ワイス(Meira Weiss、写真出典)は、イスラエルのヘブライ大学(Hebrew University of Jerusalem)・社会学部の著名な教授だった。
2004年(54歳?)(?)、匿名者がワイスとヘブライ大学に、ワイスの論文に研究不正があると通報した。
ヘブライ大学は、調査委員会を設け調査を開始した。
ヘブライ大学は、「ワイス教授の学術論文の信頼性に重要な疑惑が生じている。調査委員会を設置し、ワイス教授に問題点を伝え、通報内容および調査委員会の中間報告に書面で反論する機会をワイス教授に与えた。その後、ワイス教授の反論を慎重に検討した結果、委員会は、研究不正を否定するに足る根拠はなく、調査を受け入れ生データを提出するようワイス教授に勧告した」。
ヘブライ大学・調査委員会は、フィールド研究日誌、インタビュー記録、研究対象人物の名前と情報の提供をワイスに要求した。
ワイスは、生データの提出を拒否した。
理由は、調査対象人物の情報を明かすのはアメリカ人類学会(American Anthropological Association)の倫理コードに違反するからだと述べている。
また、イスラエル人類学会(Israel Anthropology Association)の当時の会長は、「いかなる状況であれ、フィールド研究日誌の閲覧要求は違法である」と述べている。なお、ワイスは、イスラエル人類学会の前・会長だった。
ヘブライ大学は、生データの提出を拒否するなら、早期退職の申し出を受け入れるよう勧告した。
2005年(55歳?)、ワイスは、不正研究の申立てに反論するには10万ドル(約1千万円)の費用がかかると査定されたことと、反論したところで、既に研究不正の噂が広まっていて、メンツを失っている。調査中止の代償に大学を辞職するという示談に応じた。
★獲得研究費
メイラ・ワイス(Meira Weiss)は米国のNIHから研究費を得ていた、というデータはない。 → RePORT ⟩ Meira Weiss
●【研究不正の具体例】
ヘブライ大学は、ワイスの研究不正の具体的な内容を明かしていない。
以下は白楽の推量である。
パブメドで検索すると、ワイスの論文が4報ヒットした。
一例を挙げると、1997年に以下の論文がある。
- Signifying the pandemics: metaphors of AIDS, cancer, and heart disease.
Weiss M.
Med Anthropol Q. 1997 Dec;11(4):456-76.
この論文で、ワイス(1997)は、20世紀後半の3つの「大流行病」のエイズ、癌、心臓病の文化構築を分析している。研究は、1993~1994年にイスラエルの75人の看護師と40人の医師、1993~1995年にイスラエルの60人の大学生にインタビューしたデータを基にして、文化構築を次のように特徴づけた。
心臓病は、単に身体的欠陥で、資本主義の大量生産・大量消費の結果とみなされている。一方、エイズと癌は後期資本主義のポストモダンの病理の結果とみなされている。エイズは伝染性なので、不道徳と汚名のイメージが形成された。
以下の2001年の論文でもインタビューしている。
- The children of Yemen: bodies, medicalization, and nation-building.
Weiss M.
Med Anthropol Q. 2001 Jun;15(2):206-21.
これら2論文から言えることは、ワイスはインタビュー・データを基に知見をまとめるという手法で研究成果をまとめている。
そして、論文には、当然ながら、インタビュー相手(調査対象者)の人数など、具体的な数値が記載されている。
白楽が思うに、この数値が架空の人物を含めた数値、つまり、データねつ造だったのではないだろうか?
だから、調査対象人物の情報を明かせばデータねつ造がバレてしまう。
ワイスは調査対象人物の情報を明かすのは倫理コード違反だからという、もっともらしい理由をつけて、生データの提出を拒んだのではないだろうか?
●6.【論文数と撤回論文とパブピア】
★パブメド(PubMed)
2025年9月24日現在、パブメド(PubMed)で、メイラ・ワイス(Meira Weiss)の論文を「Meira Weiss[Author]」で検索すると、2003年~2016年の5論文がヒットした。論文タイトルから、本記事のメイラ・ワイス(Meira Weiss)とは別人である。
「(Weiss M[Author]) AND Hebrew University of Jerusalem[Affiliation] 」で検索すると、1993年~2024年の21論文がヒットした。
しかし、論文タイトルから判断すると、本記事のメイラ・ワイス(Meira Weiss)の論文は、1993年~2001年の4論文だけが該当すると思われる。
2025年9月24日現在、パブメドでの撤回論文はない。
★撤回監視データベース
2025年9月24日現在、「撤回監視(Retraction Watch)」の撤回監視データベースでメイラ・ワイス(Meira Weiss)を「Meira Weiss」で検索すると0論文が撤回されていた。
★パブピア(PubPeer)
2025年9月24日現在、「パブピア(PubPeer)」では、メイラ・ワイス(Meira Weiss)の論文のコメントを「”Meira Weiss”」で検索すると、0論文にコメントがあった。
●7.【白楽の感想】
《1》不明点多し
白楽は、メイラ・ワイス(Meira Weiss、写真出典不明)の研究不正を、1997年(47 歳?)と2001年(51歳?)の論文のデータ捏造・改ざんだと推察した。
しかし、当局は発表していないので、世間的には、どの論文の何が不正研究だったのか不明である。不正発覚の経緯も不明である。
米国・研究公正局ニュースレターにワイスのネカト事件が掲載されていたので、白楽ブログの記事にした。
ところが、ワイスは、米国・NIHの研究費を受給していない。 → RePORT ⟩ Meira Weiss
となると、米国の事件ではないのに、米国・研究公正局ニュースレターがなぜ記事にしたのか?
単純に考えると、研究公正局が興味を示すほどワイスは有名な学者だったということだろう。
ワイス事件は不明点が多く、地元メディアが報道し、記事をウェブ上に残してくれないと、20年も前の事件の状況はつかみにくいと、研究不正を研究している白楽は思いました。
《2》情報源の非開示
ある種の業務(報道など)では、ワイスの主張するように情報源の秘匿は重要である。しかし、学術研究ではどうだろう?
そして、情報源の秘匿条件下で研究した成果にデータねつ造の疑念が指摘された場合、調査委員会に生データの提供をすべきなのか、すべきではないのか?
ワイスのような研究では、情報源がわかっても、情報提供者に大きな犠牲(逮捕、失職、信用喪失など)がないと想定される。この場合、研究不正の調査を優先すべきである。もちろん、研究不正の調査以外に情報を外部に漏えいしませんという取り決めは必要だろう。
●9.【主要情報源】
① 2005年3月号の米国・研究公正局ニュースレターの7ページ:https://ori.hhs.gov/images/ddblock/vol13_no2.pdf
② 本人のウェブサイト:Professor Meira Weiss | (Auto)biography of body: Home
③ 2005年1月28日のハイム・ワッツマン( )記者の「Chronicle of Higher Education」記事:Furor at Hebrew U. Leaves Noted Anthropologist in Limbo